1問1答 論文 歯周病

同じ症例、専門家でもステージ判定は一致するのか

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|歯周病の診断・予後評価

2017年の新分類は、ステージ・グレードという多次元のものさしになりました。では、訓練を受けた専門家が同じ症例を判定したら、答えは揃うのでしょうか。AAPとEFPの会員103人に重度歯周炎9症例を配って確かめた研究が、その再現性を数字で示しました。

論文
Agreement among international periodontal experts using the 2017 World Workshop classification of periodontitis
著者
Ravidà A, Travan S, Saleh MHA, et al.
掲載
Journal of Periodontology 2021;92(12):1685-1695
種類
診断一致性の研究(症例ベース)
PMID
34545953

同じ1症例。専門家に見せたら、ステージの判定は揃うでしょうか

あるレントゲンとプロービング値のセット。目の前の1症例です。

これを世界中の歯周病専門家に見せて、「2017年の新分類でステージとグレードを付けてください」と頼んだら——全員が同じ答えを出すでしょうか。ステージⅢか、それともⅣか。グレードBか、Cか。

直感的には「専門家なら揃うだろう」と思います。分類とは、そもそも誰が使っても同じ結論になるための共通のものさしだからです。ものさしなのに人によって目盛りが違ったら、それはものさしとは言えません。

Ravidà らは、この素朴な問いを正面から検証しました。米国歯周病学会(AAP)と欧州歯周病連盟(EFP)の会員である歯周病専門の訓練を受けた103人に、あらかじめ選んだ重度歯周炎9症例を配り、各自に2017年世界ワークショップ分類で判定してもらったのです。

先に結論: 訓練された専門家でも、判定の一致は中等度にとどまりました。ゴールドスタンダードとの一致率はステージ76.6%・グレード82%・範囲84.8%。評価者間の一致(κ)はステージ0.49・グレード0.50・範囲0.51——いずれも「中等度」の水準です。

なぜ「新しいものさし」の再現性が問われたのか

2017年の世界ワークショップは、歯周炎の分類を大きく変えました。それまでの「軽度・中等度・重度」という一次元の区分から、ステージ(重症度と治療の複雑さ)とグレード(進行のスピードとリスク)という多次元の枠組みへ。さらに「範囲(限局型か広汎型か)」も加わります。

この多次元化は、患者さんの状態をより立体的にとらえる大きな前進でした。一方で、判断すべき要素が増えるということは、評価者ごとに解釈が分かれる余地も増えるということです。

分類は、診断・予後の説明・治療計画・そして研究どうしの比較の土台になります。もし専門家ですら判定が揃わないなら、その土台は思ったほど頑丈ではないことになる。「新しいものさしを、訓練を受けた人が一貫して使えるか」——これを確かめないまま普及させるわけにはいきません。だからこそ、この検証が必要でした。

この論文の一手——専門家103人に、同じ9症例を配る

著者らはインターネットを使った症例研究を組みました。AAPとEFPの会員を招き、あらかじめ選んだ重度歯周炎の9症例を提示。各自が独立に、2017分類でステージ・グレード・範囲を判定します。

ここで肝になるのが「正解」の決め方です。正解(ゴールドスタンダード)は、この新分類を実際に作った5人の専門家が合議で決めました。つまり「分類の作者たちが考える模範解答」と、「現場の専門家103人の判定」がどれだけ一致するかを見たわけです。

評価者どうしがどれくらい揃うか(評価者間信頼性)は Fleiss のκ係数で、正解との一致は一致率(%)で測りました。参加した103人が9症例を判定し、集まったデータを解析しています。

結果——一致率は8割前後、しかしκは「中等度」

まず、正解とどれだけ一致したか。数字で見てみます。

0 33.3% 66.7% 100% ゴールドスタンダードとの一致率(%) 76.6% 82% 84.8% ステージ グレード 範囲(Extent) 重度歯周炎9症例を103人の専門家が判定。評価者間の一致は中等度(κ ステージ0.49・グレード0.50・範囲0.51)
図1:ゴールドスタンダード(分類の作者5人が決めた正解)との一致率。ステージが最も低く、範囲がやや高い。

ステージ76.6%、グレード82%、範囲84.8%。数字だけ見ると「8割前後、そこそこ揃っている」と読めます。とくに範囲や、複数の要素の判定はまずまずでした。

ところが、評価者どうしの一致を表すκ係数はもっと控えめでした。ステージ0.49、グレード0.50、範囲0.51、複合0.47。κは1.0が完全一致、0が偶然と同じレベルで、0.4〜0.6は一般に「中等度の一致」と解釈されます。つまり専門家どうしでも、判定は中等度しか揃っていない。とりわけステージの一致がいちばん低いのが目を引きます。

もう一つ大事な所見があります。9症例のうち6症例では、77〜99%の評価者が正解と一致していました。多くの症例は、専門家の判定がしっかり収束していたのです。ばらつきは、残りの3症例に集中していました。

なぜ割れるのか、そして明日の臨床へ

一致が下がった3症例には共通点がありました。グレーゾーンの因子——ステージの境目にあるような骨吸収の程度、グレードを左右する進行速度やリスク因子の読み方など、どちらとも取れる要素を含む症例で、判定が割れていたのです。裏を返せば、典型的でわかりやすい症例では専門家はよく揃う。割れるのは、もともと境界線上にある症例だけだということです。

ここから、現場で使える構えが3つ見えてきます。

1. 判定が割れるのは「あなたの腕」のせいではない。 境界症例でステージがⅢかⅣか迷うのは自然なことです。専門家103人でも割れているのですから。迷ったときは一人で抱え込まず、判定の根拠(どの所見でそのステージにしたか)を記録に残す。後から見返せるし、他院や次の担当者との引き継ぎでも効きます。

2. グレーゾーン症例こそ、複数の目で確認する。 典型例は一人で決めてよい。しかし境界にある症例は、この研究が示すとおり判断が分かれます。院内で一度共有する、あるいは時間を置いて自分でもう一度見る。「割れる前提」で二重に確認する価値があるのは、まさにこういう症例です。

3. 分類は「絶対の答え」ではなく「共通言語」と割り切る。 ステージやグレードは、患者さんの状態を伝え合うための言葉です。中等度しか揃わないと知っておけば、他院の診断名を鵜呑みにしすぎず、自分でも一次資料(レントゲン・チャート)に当たる習慣がつきます。

今日から使える一言: ステージⅢかⅣか迷ったら、それは腕ではなく症例が境界にあるサイン。根拠を記録し、迷う症例ほど複数で確認する

ここだけ、冷静に補助線

この研究はあらかじめ選ばれた重度歯周炎9症例だけを扱っています。症例数が限られているうえ、境界的な難症例が含まれるよう設計されている可能性があり、日常臨床のあらゆる症例にそのまま一致率を当てはめることはできません。また参加者はAAP・EFPの会員という、かなり訓練された専門家です。一般の臨床医が同じ症例を判定したら、一致はこれより下がると考えるのが自然でしょう。さらに「正解」は分類の作者5人が決めたものであり、それ自体が唯一の真実とは限りません。ではこの論文の価値は何か。ぼくは「新分類は万能のものさしではない」と冷静に教えてくれることだと思っています。多次元分類は確かな前進です。ただ、専門家でもステージの一致は中等度にとどまる。だからこそ、判定に迷うのは当然のこととして受け止め、根拠を残し、境界症例は複数で確認する。この論文は、分類を否定するのではなく、分類との賢い付き合い方を示してくれます。

今日のひとこと

訓練を受けた専門家103人でも、重度歯周炎9症例の判定はゴールドスタンダードと中等度の一致にとどまりました。一致率はステージ76.6%・グレード82%・範囲84.8%で、とくにステージが割れやすい。多くの症例では判定が収束する一方、境界にあるグレーゾーン症例で判断が分かれます。

出典:Ravidà A, Travan S, Saleh MHA, et al. Agreement among international periodontal experts using the 2017 World Workshop classification of periodontitis. J Periodontol 2021;92(12):1685-1695. PMID: 34545953(doi: 10.1002/JPER.20-0825)
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。