ペリオ|Phase1 初期治療
審美のために、あるいは維持のために、クラウンマージンを歯肉縁下に置く。その一手が歯周組織にどう響くかは、教科書的には「縁下は不利」と書かれています。ただし短期の炎症所見と、10年20年後の骨の高さは、同じことを言うとは限りません。1967年にオスロ大学の学生が作った108本のブリッジを、15年追いかけた記録があります。
①「縁下は不利」は、どこまで本当か
補綴が歯周組織に与える影響は、古くから議論されてきました。臨床的な観察では、補綴処置を受けた歯の歯肉はしばしば炎症を起こし、ポケット形成や退縮が生じうる。
ただし議論は割れていました。犬の組織学的研究でMarcumは、マージンを歯肉縁上に置いたときに最も良好な歯肉反応が得られたと報告する一方、Karlsenは犬でもヒトでも縁下の場合に不利な反応を観察。ヒトの臨床研究では、マージンが主に縁下に置かれたときに、歯肉組織の変化とわずかなアタッチメントの喪失が見られていました。
もう一つの論点がう蝕です。う蝕はクラウン・ブリッジが失敗する主要な原因の一つとされてきました。ところが「縁下マージンにはう蝕予防効果がある」という説も存在し、Valderhaug自身がそれに疑問を呈していました。
そこで著者らは、定期的な管理を受けている集団で、マージンの位置が歯周組織とう蝕にどう関わるかを、長期に見ることにしました。
②学生が作ったブリッジを、15年追いかけた
対象は102名(女性73名・男性29名)。1967/68年度にオスロ大学歯学部の最上級生が製作した108本のブリッジが入っています。支台歯は343本で、同じ顎に残った525本が対照。平均年齢48歳(25〜69歳)でした。
製作条件は揃っています。全ブリッジがタイプ3の鋳造金にレジン前装、リン酸亜鉛セメントで合着。維持装置の77%が金/レジン、12%が部分被覆冠、11%が全部金冠。すべて同じ歯科技工室で、同じ材料と手順で作られました。マージンは、可能な限り歯肉縁上に置く方針(維持・審美・既存修復の条件が許す限り)。
そして重要な条件が管理体制です。補綴処置の前に、歯周プロフェッショナルケアと深いポケットの外科的除去を実施。最初の10年間は6か月ごとに歯科衛生士による口腔衛生予防を受けています。
記録はベースライン・5年・10年・15年。プラーク指数(Silness&Löe)、歯肉炎指数(Löe&Silness)、ポケット深さ、クラウンマージンの位置、う蝕、そしてX線での歯槽骨レベルを評価しました。臨床評価はすべて著者の1名が担当し、X線計測は別の1名が、10倍拡大下で0.5mm単位で行っています。
脱落についても正直です。5年で88名、10年で71名、15年で55名が受診。15年間に16名がブリッジの喪失や再製作のため脱落しました(他は死亡16名、転居7名など)。
③結果:炎症は増えた。骨は変わらなかった
プラークの量は、クラウン歯と対照歯で差がありませんでした。ベースラインでは両群とも21%の歯面に可視プラーク(スコア2・3)があり、15年で27%に増加——ここも同じ動きです。
違いが出たのは歯肉の炎症でした。歯肉炎指数のスコア2・3は、クラウン歯のほうが多い。そしてその差は、マージンが歯肉縁下にある場合にはっきり集中していました。
ポケット深さも、クラウン歯でわずかに増加しています。クラウン歯 2.1mm→2.4mm(5年)→2.3mm(10年)→2.4mm(15年)に対し、対照歯は2.3mm→2.2mm→2.2mm→2.2mmと横ばい。増加は主に5年時点で、マージンが縁下または歯肉縁にある症例で起きていました。
ところが——歯槽骨レベルには、クラウン歯と対照歯の統計学的な差が検出されませんでした。マージンの位置と骨吸収の関連も、見つかっていません。
数字で見ると、15年後に骨吸収2mm未満だった割合は対照歯0.86・クラウン歯0.82、1mm未満だった割合は0.48・0.38。95%信頼区間は重なっています。著者らは「骨吸収率の差は主に最初の0〜5年に集中していた」とし、「クラウンは初期のアタッチメント喪失を起こすが、その後は収まるのかもしれない」と考察しています。
④う蝕も、マージンの位置とは関係しなかった
う蝕は支台歯面の3.3%(5年)→10.0%(10年)→12.0%(15年)。15年間のう蝕発生は、ベースラインでのマージン位置とは関係しませんでした。
実際の内訳は縁下10.2%・歯肉縁15.8%・縁上14.5%で、むしろ縁下が最も低いほどです(有意差はありません)。部位別では38%が頬側、29%が舌側、23%が近心、10%が遠心でした。
そしてこの研究でいちばん示唆的なのが、マージンの位置そのものが動いていたことです。
歯肉縁下にあったマージンの割合は、ベースラインの64%から15年後には36%へ減少。頬側では68%が縁下だったものが、15年後には27%だけになりました。歯肉が退縮して、隠れていたマージンが表に出てきたということです。
⑤明日の臨床へ
1つ目。縁下マージンは、炎症の代償を払っている。 プラーク量は同じなのに、歯肉炎スコアだけが高い——これは同じ量のプラークがより強い炎症を起こしているということです。著者らは「クラウンを装着したときに歯肉ポケットへ持ち込まれた粗造面のプラーク保持性」を理由に挙げています。
2つ目。ただし、管理があれば骨は守れる。 15年の骨吸収に差はありませんでした。著者らはこれを「6か月ごとの定期的なプロフェッショナルケア」に帰しています。縁下マージンを選ぶなら、リコール体制とセットで設計する——この研究が示す条件です。
3つ目。「縁下ならう蝕になりにくい」は支持されない。 う蝕の発生はマージン位置と関係しませんでした。縁下に置く理由として、う蝕予防を挙げる根拠はここにはありません。
4つ目。退縮を前提に、境界の位置を決める。 縁下マージンの64%が36%になったという数字は、審美目的で深く潜らせるほど、後年に見える面積が増えることを意味します。金属色が出る設計なら、10年後の景色まで含めて説明しておきたいところです。
今日のひとこと
1967/68年にオスロ大学の最上級生が製作した108本のブリッジ——支台歯343本を、同じ顎に残った525本を対照として15年追跡した研究。患者は102名(平均48歳)で、最初の10年は6か月ごとに歯科衛生士による予防処置を受けています。プラーク指数は、クラウンを被せた歯と対照歯で差がありませんでした。一方歯肉炎指数のスコア2・3(プロービング時出血)は、クラウン歯のほうが多く、その差はマージンが歯肉縁下にある場合に集中していました。ポケット深さはクラウン歯で2.1mm→2.4mm、対照歯は2.3mm→2.2mmで横ばい。それでも肝心の骨吸収に、クラウン歯と対照歯の統計学的な差はありませんでした。マージンの位置による差も検出されていません。う蝕は支台歯面の3.3%(5年)→10.0%(10年)→12.0%(15年)で、マージンの位置とは関係しませんでした(15年時点で縁下10.2%・歯肉縁15.8%・縁上14.5%)。そして興味深いのが縁下マージンの割合が64%→36%へ減っていたこと——歯肉退縮で、縁下だったマージンが表に出てきたのです。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


