1問1答 論文 歯周病

2〜3度の根分岐部病変、切除外科は非外科より本当に長持ちするか

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|歯周病の診断・予後評価

根分岐部にプローブが深く入る大臼歯。歯根切断や分割、トンネリングといった切除外科は、この歯を長く残すための切り札とされてきました。では、丁寧なSRPやフラップ手術と比べて、本当に歯の生存率で勝るのでしょうか。7研究・667人・2,021歯を集めたシステマティックレビューが、その答えを整理しました。

論文
Resective surgery for the treatment of furcation involvement: A systematic review
著者
Dommisch H, Walter C, Dannewitz B, Eickholz P
掲載
J Clin Periodontol 2020;47(Suppl 22):375-391.
種類
システマティックレビュー
PMID
31912534

「分岐部に深く入る」——だから切除外科、で合っていますか

下顎第一大臼歯。頬側と舌側の両方から、プローブが分岐部を貫通する。3度。

ここで頭に浮かぶのは、歯根切断(ルートリセクション)、歯根分割(ルートセパレーション)、あるいはトンネリング。複雑な解剖を外科的に単純化して、清掃できる形に作り替える——切除的歯周外科は、長くこうした重度の根分岐部病変(FI)の切り札とされてきました。

でも、立ち止まって考えてみます。その切除外科は、丁寧なSRPやフラップ手術(OFD)と比べて、本当に「歯が長持ちする」という点で勝っているのでしょうか。歯を削り、根を1本切り落とす侵襲に見合うだけの差が、生存率のデータに出ているのか。

Dommisch らは、この問いをヨーロッパ歯周病学会(EFP)のワークショップの一環として、システマティックレビューで正面から検証しました。683本の論文から絞り込んだ最終7研究・667人・2,021歯(Class II/IIIのFIを持つ歯)を解析対象にしています。

先に結論: 治療後の歯の生存率は、歯根切断/分割で38〜94.4%、トンネリングで62〜67%、OFDで63〜85%、SRPで68〜80%。切除外科と非外科の生存率は幅広く重なり、「どちらが明確に優れる」とは言えなかった。全体にClass IIのほうがClass IIIより良好。

これまで——「難しい部位だから外科で作り替える」

複根歯の根分岐部は、歯周治療でもっとも手強い部位です。エナメル突起、根面溝、副根管、そしてキュレットの刃より狭い入口。器具が物理的に届かないため、非外科だけではプラークと歯石を取り切れないと考えられてきました。

だからこそ、外科的に形を変えるという発想が生まれます。病変のある根を切り落とす歯根切断、複根を単根化する歯根分割、分岐部の下を貫通させて清掃可能にするトンネリング。いずれも「清掃できない場所を、清掃できる場所に作り替える」ための処置です。

ただし著者らが指摘するのは、こうした切除外科の有効性を非外科やフラップ手術と直接くらべた質の高い研究がごく限られているという点でした。侵襲の大きい処置ほど、その必要性はエビデンスで裏づけられていてほしい。そこにこのレビューの狙いがあります。

今回の一手——7研究をふるいにかけて生存率を並べる

このレビューが評価したのは、Class II・IIIの根分岐部病変を持つ歯周炎患者で、切除外科(歯根切断/切除・歯根分割・トンネリング)が、非外科(SRP)やフラップ手術(OFD)とくらべて有益かどうかです。

主要評価項目は歯の生存(tooth survival)。副次項目として、垂直的なプロービングアタッチメントの獲得やPPDの減少も見ています。組み入れたのは、12か月以上追跡したRCT・前向き/後ろ向きコホート・症例集積です。

683論文を66本まで絞り、最終的に7研究が残りました。合計667人・2,021歯のClass II/IIIのFI。このうち1,515歯が、治療後4〜30.8年にわたって生存を追跡されています。追跡期間が「4〜30.8年」という桁違いの幅からも想像がつくとおり、研究どうしの背景はかなりバラバラでした。

結果——どの治療も、生存率の帯が重なり合う

治療法ごとの歯の生存率を並べると、こうなります。

0 33.3% 66.7% 100% 歯の生存率(%) 38% 94.4% 62% 67% 63% 85% 68% 80% 歯根切断/分離 トンネリング OFD(フラップ) SRP(非外科) 4〜30.8年追跡。切除外科と非外科(SRP/OFD)で生存率は同程度。Class IIはClass IIIより良好
図:治療法別の歯の生存率(下限〜上限の幅)。4〜30.8年追跡。どの治療も帯が広く重なり、切除外科が非外科より明確に上、とは言えない。

歯根切断/分割で38〜94.4%、トンネリングで62〜67%、OFD(フラップ)で63〜85%、SRP(非外科)で68〜80%。数字を眺めてまず気づくのは、切除外科の帯と、非外科の帯が大きく重なっていることです。歯根切断は上限こそ94.4%と高いものの、下限は38%まで落ち込む。一方でSRPは68〜80%と、狭い範囲で堅実にまとまっています。

もう一つ大事な傾向が、Class IIはClass IIIより一貫して良好だったことです。同じ「根分岐部病変」でも、水平的な進行度で予後は大きく変わります。

副次項目のアタッチメント獲得やPPD減少についても、切除外科が非外科を明確に上回るという一貫した像は得られませんでした。「切除外科でなければ歯を残せない」ことを示すデータは、少なくともこのレビューの範囲では見当たらなかったのです。

なぜ差がはっきり出ないのか

「侵襲的な外科のほうが効きそう」という直感に反して、なぜ生存率で明確な差が出ないのか。カギは研究間の異質性(heterogeneity)の大きさにあります。

追跡期間は4年から30.8年までばらつき、対象となったFIのClass分布も研究ごとに違う。術者の技量、患者の口腔衛生、メインテナンスの頻度も揃っていません。条件がこれだけ違う研究を横に並べれば、どの治療の生存率も広い帯になり、互いに重なってしまうのは自然なことです。だからこのレビューはメタ解析(数値の統合)ではなく、記述的な統合にとどめています。

そのうえで見えてくるのは、「術式そのもの」より「症例条件」が予後を左右しているという構図です。Class IIとIIIで差が出たこと、同じ切除外科でも下限38%〜上限94.4%と極端に開いたことが、それを物語ります。丁寧に管理されたSRPやOFDなら、切除外科と同じ土俵に立てる症例は確かに存在する——このレビューはそう示唆しています。

ここだけ、冷静に補助線

このレビューの最大の注意点は、組み入れられた研究の質と均一性の低さです。RCTはごく一部で、多くは観察研究や症例集積。追跡期間もClass分布も揃わないため、数値を統合したメタ解析は行えず、生存率は「幅」でしか示せませんでした。したがって「SRPやOFDは切除外科と同等だ」と断定した論文ではありません。著者らの結論はあくまで「限界の範囲内では、SRPやOFDが歯根切断/分割・トンネリングと同程度の生存率になり得る」という、慎重な言い回しです。ではこの論文の価値は何か。ぼくは「重度の根分岐部病変=ただちに切除外科」という反射を、一度立ち止まらせてくれることだと思っています。とくにClass IIなら、まずは徹底した非外科とOFD、丁寧なメインテナンスで様子を見るという選択肢が、データ上も理にかなう。切除外科は有力な手札の一つですが、唯一の正解ではない。術式は、目の前の歯のClass・清掃性・患者の希望から個別に選ぶ——その当たり前を、数字で裏づけてくれる一本です。

今日のひとこと

Class II・IIIの根分岐部病変を持つ大臼歯で、歯根切断/分割・トンネリング・OFD・SRPの歯の生存率は、どれも幅広く重なり合いました(切除外科38〜94.4%、非外科68〜80%)。研究間の異質性が大きく、限界の範囲内では「SRPやOFDでも切除外科と同程度に歯を残せる可能性がある」というのが結論です。全体にClass IIのほうがClass IIIより良好でした。

出典:Dommisch H, Walter C, Dannewitz B, Eickholz P. Resective surgery for the treatment of furcation involvement: A systematic review. J Clin Periodontol 2020;47(Suppl 22):375-391. PMID: 31912534(doi: 10.1111/jcpe.13241)
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。