エンド|作業長に届いたあと、ファイルを何回上下させるか。弯曲した楕円形の根管をもつ抜去歯45本で、シングルファイル3種類を使い、作業長でのペッキングを1・2・4・10・20回と増やして、根尖の外へ押し出された削りカスの体積をマイクロCTで測った実験(Wang 2022・Journal of Dental Sciences)
ファイルが作業長に届いたあと、何回か上下させて根尖部を整える。この作業長でのペッキングが何回なら適切か、決まった答えはありません。著者らは弯曲した楕円形の根管をもつ下顎小臼歯の抜去歯45本を、Reciproc Blue・WaveOne Gold・XP-endo Shaperの3群(各15本)に分け、同じ歯で作業長でのペッキングを1回→2回→4回→10回→20回と増やしながら、そのたびにマイクロCTで撮影しました。根尖の外へ押し出された削りカスはどのファイルでも、どの回数でも出ており、回数が増えるほど有意に増加。1回と20回の平均値を比べるとReciproc Blue 9.63→43.58、WaveOne Gold 11.41→41.34、XP-endo Shaper 9.85→28.85(×10⁶ μm³)でした。作業長での根管の短い方の径もReciproc Blue・WaveOne Goldで約250 μm→約350 μm、XP-endo Shaperで約300 μm→約360 μmと広がり、1回だけのときはファイルの先端径(25号・30号)とほぼ一致していました。著者らは「作業長でのペッキングは1回がよいかもしれない」とまとめています。ただし抜去歯の実験(in vitro)で、洗浄は生理食塩水、術後の痛みは調べていません。
①作業長に届いたあと、何回上下させていますか?
ファイルが作業長に届いた。そこから根尖部をきれいに整えたくて、つい何度か上下させる。このときの回数は、先生によってかなり違うはずです。
ペッキング(小刻みな上下の出し入れ)は、NiTiファイルの破折を防ぐ基本動作として勧められてきました。でも作業長に届いてからのペッキングを何回にすべきかには、決まった答えがありません。この研究は、その回数を1回から20回まで増やしながら、根尖の外へ押し出される削りカスと根尖部の径がどう変わるかを、マイクロCTで追いかけました。
結論を先に言います。どのファイルでも、作業長でのペッキングが増えるほど、押し出された削りカスは有意に増え、作業長での根管の短い方の径も広がりました。1回だけのときは、根尖部の径はファイルの先端径とほぼ同じでした。ただし、これは抜去歯を使った実験(in vitro)です。
②なぜ「押し出される削りカス」が気になるのか
根管形成のとき、象牙質や歯髄の削りカス、スミア層、洗浄液が根尖の外へ押し出されることがあります。著者らは緒言で、押し出された硬組織の削りカスは、汚染されていてもいなくても炎症反応のきっかけになり、急性の腫れ・術後疼痛・感染につながりうること、量が多いほど炎症が強まりうることを、過去の文献から紹介しています。
・わからないこと:作業長での回数を増やすと根尖部が広がるという報告と、あまり広がらないという報告があり、最適な回数は決まっていない
・根尖部を広げる功罪:大きく広げれば感染象牙質の除去や洗浄には有利。一方で、根尖から押し出される削りカスは増えるかもしれない
そこで著者らは「作業長でのペッキング回数は、押し出される削りカスの量にも根尖部の径にも影響しない」という仮説(帰無仮説)を立てて、確かめました。
③今回の一手:同じ歯でペッキングを増やし、そのたびにマイクロCT
・群分け:マイクロCTで事前に撮影し、根管の長さ・体積・表面積が似た組にそろえてから、Reciproc Blue R25(往復運動)、WaveOne Gold Primary(25号・テーパー0.07・往復運動)、XP-endo Shaper(800 rpm・1 Ncmの回転)の3群(各15本)に無作為に割り付け
・削りカスの受け皿:歯を37℃の1.5%アガロースゲルに埋め、根尖周囲の組織に見立てた
・手順:作業長は根尖から0.5 mm手前。#15 Kファイルでグライドパスをつくり、経験のある1人の術者が作業長まで形成。そこから作業長でのペッキング(内壁へのブラッシングを併用)を1回→2回→4回→10回→20回と増やし、そのたびに洗浄・乾燥してマイクロCTで撮影
・洗浄:37℃の生理食塩水2 mLを、作業長の1 mm手前まで入れたサイドベント針で。次亜塩素酸ナトリウムは使っていない
・測ったもの:形成前後の3D画像を重ね、根尖孔の外にある象牙質の体積の増え方を「押し出された削りカスの体積」とした。あわせて作業長での根管の長い方の径(長径)と短い方の径(短径)も測定
ファイルは1根管ごとに使い捨て、ひびや変形が見つかったものも捨てています。同じ歯で回数を段階的に増やしているので、「1回の歯」「20回の歯」が別々にあるわけではありません。
④結果①:ペッキングが増えるほど、押し出された削りカスが増えた
まず、どのファイルでも、どの回数でも、削りカスは根尖の外へ押し出されていました。押し出しゼロの形成はなかった、ということです。
そして、どのファイルでも回数が増えるほど有意に増加しました(P<0.05)。1回→2回→4回→10回→20回の平均値(×10⁶ μm³)は次のとおりです。
・WaveOne Gold:11.41 → 18.78 → 25.41 → 34.73 → 41.34(約3.6倍)
・XP-endo Shaper:9.85 → 14.41 → 20.69 → 25.19 → 28.85(約2.9倍)
(倍率は原著の平均値から計算。体積は形成前との差なので、1回の値にも作業長までの形成で出た分が含まれる)
ファイルの違いでは、1回のときは3種類に有意差なし。回数が増えると差が出て、20回ではXP-endo Shaperがいちばん少ない結果でした(P<0.05。本文・表・図のどれでも有意)。2回・4回・10回については、本文とFig. 3AはXP-endo ShaperがWaveOne Goldより有意に少ないとしていますが、Table 1の記号で有意差が付いているのは10回と20回だけです(⑧で触れます)。
⑤結果②:作業長での根管の短径が広がり、長径は変わらなかった
作業長での根管の短い方の径は、どのファイルでも回数とともに有意に広がりました(P<0.05)。Reciproc Blue 255→349 μm、WaveOne Gold 253→351 μm、XP-endo Shaper 301→359 μm です。
注目したいのは1回だけのとき。Reciproc BlueとWaveOne Goldは約250 μm=25号、XP-endo Shaperは約300 μm=30号と、ファイルの先端径とほぼ同じでした。つまり1回なら「狙ったサイズ」に収まり、回数を重ねるほど狙いより大きくなっていった、ということです。
一方、楕円の長い方の径(約390〜410 μm)は、回数でもファイルでも有意に変わりませんでした。そして押し出された削りカスの体積は、短径とは有意な正の相関(相関係数0.51〜0.91)があり、長径とは有意な相関はありませんでした。
⑥なぜ増えるのか——著者らの見立て
著者らは次のように考察しています。
・その結果、形成の終点が解剖学的な根尖孔に近づき、根尖部が意図せず広がる
・根尖部が広がると押し出される削りカスも増える(短径との正の相関)。過剰形成になり、ガッタパーチャと根管壁の封鎖も弱まりうる
・XP-endo Shaperが少なめだったのは、高速で蛇行する独特の回転・細いテーパー・変形するコアで、根尖部に削りカスがたまりにくく、歯冠側へ運び出す空間があるからだろう(著者らの推測)
こうした点から、著者らは「作業長でのペッキングは1回が望ましい」、弯曲根管で何度もペッキングするときは注意を、としています。
⑦明日の臨床へ
・特に弯曲根管では、作業長での上下を重ねるほど根尖部が狙いより広がりうる。最終ファイルの号数=根尖部のサイズと考えているなら、その前提がずれるかもしれない
・ファイルごとにメーカーが示す使い方がある(この研究の回数設定も、過去の研究とXP-endo Shaperのメーカー推奨を参考にしている)。1回にするかは、使っているファイルの説明書と合わせて考える
・著者ら自身も、根管形成では消毒・洗浄液の届きやすさ・根管充填のしやすさなど考えることが多く、臨床にあてはめるのは慎重にと書いている
「作業長で何度も上下させると、根尖部は思ったより広がる」。この感覚を持っておくだけでも、根尖部の形成が少し丁寧になりそうです。
⑧ここだけ、冷静に補助線
ここからは筆者の読みです。記事で「根尖部の径」と呼んできたのは、作業長(根尖から0.5 mm手前)での楕円形の根管の短径で、著者らはこれを根尖孔の大きさの指標として扱っています。根尖孔そのものを直接測ったわけではありません。また、同じ歯で回数を積み上げているので、20回の値には1〜10回までの影響も含まれます。削りカスの体積は形成前との差なので、1回の値も作業長までの形成全体で出た分を含む累積値です。1回→20回の「約3〜4.5倍」は、ペッキング1回分の量との比ではありません。ファイルの比較では、本文とFig. 3Aは2回・4回・10回でもXP-endo ShaperがWaveOne Goldより有意に少ないとしていますが、Table 1の記号では有意差が10回と20回にしか付いていません。原著の中で食い違っており、どちらが正しいかはこの論文からは判断できません(20回の差は本文・表・図とも有意)。弯曲した楕円形の根管の下顎小臼歯だけなので、ほかの形の根管は今後の研究が必要です。それでも、同じ歯をマイクロCTで何度も撮り、ペッキングの回数と根尖部の広がり・削りカスの量の関係を数字で示した点は、作業長での手の動かし方を見直すきっかけになります。
今日のひとこと
抜去歯45本の実験では、作業長でのペッキングを1回から20回へ増やすほど、根尖の外へ押し出された削りカスが増え(平均値で約3〜4.5倍)、作業長での根管の短径も広がりました(Reciproc Blue・WaveOne Goldで約250→約350 μm)。1回だけなら、根尖部の径はファイルの先端径とほぼ同じに収まっていました。著者らの結論は「作業長でのペッキングは1回がよいかもしれない。ただし臨床にあてはめるのは慎重に」。これは生理食塩水で洗浄した抜去歯の実験で、術後の痛みや治療成績は調べていません。持ち帰るのは「作業長で何度も上下させると、根尖部は思ったより広がり、削りカスも増える」という感覚です。


