ペリオ|Phase1 初期治療
歯周治療の成否は、結局その人が毎日どれだけ磨けるかで決まります。ならば、心理学の技法で「やる気」に働きかければ、結果が変わるのではないか。スウェーデン・ヨーテボリ大学のグループは、臨床心理士による動機づけ面接(MI)を治療の前に1回だけ加え、加えなかった群と比べました。44名、6か月。結果は空振りでしたが、その空振り方に学ぶところがあります。
①「やる気を上げれば、磨けるようになるはず」
歯周治療の最終的な成否は、私たちの手技ではなく、その人が毎日どれだけ磨けるかで決まります。これは誰もが知っていて、そして誰もが手を焼いている部分です。
ならば、専門家の力を借りたらどうか。動機づけ面接(Motivational Interviewing・MI)は、もともとアルコール依存の領域で開発された、クライアント中心の指示的な面接技法です。両価性(変わりたい/変わりたくないの揺れ)に働きかけ、本人が自分で答えを見つけるのを助ける。1〜2回の単発セッションでも行動変容を起こし、その変化が持続すると報告されてきました。
2012年、ヨーテボリ大学のグループが、この技法を歯周治療の前に1回だけ挟んだらどうなるかを検証しました。仮説は「MIを加えればセルフケアが改善する」。結果は、その逆を教えてくれました。
②なぜMIに期待が集まったのか
歯周炎は慢性疾患です。患者にとっては脅威であり、治療は長く、本人の努力を大量に要求します。だから歯科側は常に「動機づけ」という難題を抱えることになります。
この論文の著者らは、以前の面接調査で興味深い所見を得ていました。歯周治療に紹介されてきた患者は、診断そのものに強い感情を抱いており、専門チームの説明を吸収するのが難しい。しかし原因除去療法を受け、自分に合った情報を得たあとは、不安が減り、状況をコントロールできている感覚が増す——と。つまり患者と術者の関係性とコミュニケーションが、決定的に重要だという実感があったのです。
歯科領域でもMIの成功例は出ていました。Weinsteinら(2004・2006)は、重度の精神疾患をもつ集団の親に対するMIが、子どものう蝕予防で従来の健康教育を上回ったと報告。Jönssonら(2009)は、行動医学的アプローチに基づく個別化された口腔保健プログラムが、標準的なプログラムより優れていたと示しています。
③心理士が45分、それ以外はすべて同じ
スウェーデンの歯周病専門クリニックに紹介された、非外科的に治療できる中等度の慢性歯周炎患者44名。性別と喫煙習慣で層別化し、最小化法で試験群22名・対照群22名に割り付けています。
試験群は治療開始前に、臨床心理士による動機づけ面接を1回受けました。平均44分(20〜90分)、歯周クリニックの外の静かな部屋で。面接では、患者が自分の口腔の健康状態をどう見ているか、それが過去・現在・未来の行動とどう関係するかを扱います。動機づけの低い患者には、口腔清掃と喫煙に関する両価性を探索するよう促されました。
それ以外はすべて同一のプロトコルです。両群とも、経験10〜30年の歯科衛生士4名から、①歯周状態と治療の説明、②歯周疾患の構造化された情報(パンフレット)、③自分自身の努力の重要性の説明、④染め出しに続くブラッシング指導、を受けます。以降のセッションでは清掃状態の評価・再指導・1/4顎ずつの機械的デブライドメント・研磨。1回約1時間です。
衛生士は患者と事前に面識がなく、群の割り付けも知りません。臨床評価はさらに別の衛生士1名が盲検で行いました。評価は0・2・4・12・26週の5時点。主要評価項目は辺縁歯肉出血指数(MBI)、副次がプラークスコアです。
特筆すべきは、MIセッションが全例録音され、うち11件(50%)が独立した評価者によりMITI 3.0で採点されたこと。共感・喚起・協働・自律支援・方向づけの5次元で1〜5点(基準値3.5)、結果は2.5〜3.5でした。著者らはこれを「MI技法に改善の余地があることを示す」と正直に書いています。
④結果——動いたのは、面接のあとではなかった
ベースラインのMBIは試験群36.6%・対照群33.0%。MI直後(2週)は33.9%と34.9%——試験群はわずかに下がりましたが、何も介入していない対照群はむしろ上がっており、差はありません。プラークスコアも50.2%→46.2%(試験群)、43.1%→40.2%(対照群)で同様です。
変化が起きたのは、その次でした。
衛生士による情報提供とブラッシング指導を1回受けた直後(4週)、MBIは11%・9%、プラークスコアは22%・17%(試験群・対照群)下がりました。MI直後の3〜4%とは、桁が違います。
その後は緩やかに改善し、6か月後の最終値はMBIが19%対18%、プラークが25%対19%。全顎でも隣接部位でも、どの時点でも群間差はありませんでした。
むしろ気になるのは逆の数字です。最終的にプラークスコア20%以下という望ましい水準に到達したのは、試験群41%に対し対照群73%(p<0.05)。MIを受けた群のほうが、少なかったのです。
⑤なぜ効かなかったのか——著者らの3つの説明
著者らの考察は、失敗の分析として非常に誠実です。
1つ目、患者がすでに動機づけられていた。ベースラインのVASによる動機づけ・治療参加意欲は試験群88.6%・対照群82.7%。専門クリニックに紹介されてきた患者は、すでに両価性の段階を通り過ぎ、治療に取り組む準備ができている可能性が高い。MIは動機づけの低い人に特に有効とされており(Hettema & Hendricks 2010)、Rohsenowら(2004)は動機づけの高い人にはむしろ直接的なカウンセリングのほうが向くと示唆しています。
2つ目、信頼関係の相手が違った。MIを実施したのは心理士で、実際に治療を担当したのは衛生士です。著者らは、患者が専門チームの臨床技能とコミュニケーションを高く評価していたこと、そして「歯周感染のコントロール」について詳細な情報を受け取れたことがそれまでの歯科体験と大きく違ったこと、を先行研究から引いています。この文脈では、衛生士との対話そのものが動機づけとして機能していた可能性があります。
3つ目、1回では足りなかった。MIの効果は回数と長さに依存するという指摘があります。著者ら自身、「複数回行っていたら、あるいは治療期を通じて衛生士がMIを行っていたら、結果は違ったかもしれない」と書いています。
⑥明日の臨床へ
まず、動機づけを外注しない。この試験でセルフケアを動かしたのは、心理士の45分ではなく、衛生士が行った1回の情報提供とブラッシング指導でした。染め出して、自分の口を見せて、具体的な清掃技術を教える。この地味な1時間の破壊力を、あらためて見直す価値があります。
次に、相手のやる気の段階を見る。すでに前のめりの患者に「なぜ変わりたいのですか」と両価性を掘るのは、時間の使い方として合っていないかもしれません。そういう人には具体的で直接的な指導のほうが届く——これがこの試験からの示唆です。逆に、動機づけの低い患者にこそMIの技法は生きる可能性があります。
そして、伸びしろがどこにあるかを知る。この試験の多変量解析で、6か月後にMBI 20%以下を達成する唯一の予測因子は「女性であること」でした(OR 0.1)。プラーク20%以下の予測因子はベースラインのプラークスコア(OR 0.9)。つまり最初に汚れている人ほど、最後まで汚れている。介入の技法より、初診時の状態のほうが結果を語っていたことになります。
⑦ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
MIを受けた直後(2週)の変化は、歯肉出血指数もプラークスコアも3〜4%の低下にとどまり、何もしなかった対照群と差がありませんでした。対して、衛生士による従来どおりの情報提供とブラッシング指導を1回受けた直後には、出血指数が11%・9%、プラークスコアが22%・17%(試験群・対照群)と、はっきり動いています。6か月後の最終値は出血指数19%対18%、プラークスコア25%対19%で、やはり群間差なし。しかも参加者のベースライン動機づけはVASで88.6%と82.7%——すでに十分やる気のある人たちでした。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


