ペリオ|Phase2 歯周外科
再エントリーで欠損が消えていたら、私たちは「埋まった」と言います。1975年、Froumらは骨移植の再評価をしながら、その言葉の危うさに気づきました。8.5mmの欠損が「完全に治った」ように見えた症例で、新しい骨が埋めたのは4.9mm。残りの3.6mmは、骨の壁が溶けて消えていたのです。
①失った骨を、取り戻せるのか
歯周治療のいちばんの目標は、破壊された歯周組織を取り戻すこと——1975年の時点でも、その願いは同じでした。骨縁下欠損に対して、さまざまな移植材が試されています。
当時特に良好な成績が報告されていたのが2つ。腸骨稜から採る自家の骨髄・海綿骨と、口腔内から採った骨を血液と混ぜて練った「骨ブレンド(osseous coagulum-bone blend)」です。動物とヒトの組織学的研究のどちらでも、再生と新付着が起こる可能性が示唆されていました。
そこでFroumらは、「口腔内から採った骨ブレンド」と「腸骨稜から採った骨髄・海綿骨」を、実際に移植して比べることにしました。しかも評価は、レントゲンではなく、再手術して直接測る(再エントリー)という方法です。
②再手術して、直接測る
手順は徹底しています。初期治療を終え、口腔衛生指数(OHI-S)がゼロに近づいて初めて外科を検討。術前に、術野の歯周状態と関連情報を専用のデータシートに記録します。
すべての症例で逆斜切開・全層の粘膜骨膜弁を挙上。移植材を最大限に軟組織で覆えるよう、辺縁歯肉をできるだけ保存しました。骨欠損から慢性的な炎症性組織を除去し、根面を滑沢化してから移植材を準備します。
口腔内の採取部位は、上顎結節・無歯顎堤・抜歯窩。ロンジュールで採った海綿骨・皮質骨の小片を、数滴の血液とともに滅菌カプセルに入れ、トリチュレーター(アマルガム練和器)で練って骨ブレンドにします。腸骨からの骨髄・海綿骨は、後腸骨稜からパンチ生検で採取し、-79℃の窒素フリーザーで2週間保存してから小片に切って挿入しました。
いずれの材料でも、欠損は「あふれるまで」満たします(overfill)。術後は1週間の抗菌薬投与。
再エントリーは、骨ブレンドでは25例中23例が7〜10週後(残り2例は16週と22週)、腸骨骨髄では全7例が4〜7か月後。測定はオムニバックのステントに溝を作り、50号のシルバーポイントを基準として同じ点を測るという工夫がされています。
③壁が多いほど、よく埋まる
骨ブレンドを用いた25の骨縁下欠損(14名)の内訳は、1壁性9・2壁性6・3壁性ワイド8(2壁と3壁の複合1つを含む)・根分岐部2でした。
1壁性の増加量は、−0.8mm(つまり減った症例)から+5.3mmまで、平均2.53mm。2壁性は1.2〜4.0mmで平均3.00mm。3壁性ワイドは2.0〜6.4mmで平均3.64mm。根分岐部の2例は平均1.25mm。
全体では、初期の骨内欠損の平均が4.0mm、平均の増加量が2.93mm——73%が埋まったことになります。
腸骨骨髄のほうは、より深い欠損に使われました(初期の平均7.18mm)。平均の増加量は4.36mmで、60.7%が埋まった計算です。
④2つの材料に、決着はつかなかった
深さで層別すると、興味深い形になります。
4mm未満の浅い欠損では、骨ブレンド2.3mm・腸骨骨髄2.3mm——完全に同じ。4mmを超える欠損では、骨ブレンド3.8mm・腸骨骨髄5.9mmで腸骨のほうが大きいものの、この差は統計学的に有意ではありません(t=1.62)。
著者らは「腸骨骨髄のほうが平均の増加量が大きく見えるのは、より深い欠損に使われたからかもしれない」と率直に述べています。実際、骨ブレンドの中だけで比べると、4mm超と4mm未満の差は有意(t=2.42, p<0.05)——つまり「深い欠損ほど、埋まる量そのものは大きい」という関係があるからです。
「ほぼ埋まった」に到達した割合で見ると、景色が逆になります。骨ブレンドで初期4mm未満だった症例は86.7%が残存1mm未満。同じ骨ブレンドでも4mm超だと60.0%。腸骨骨髄では4mm未満で66.0%、4mm超で50.0%。
深い欠損は、埋まる「量」は大きいが、埋まり「きる」割合は低い——当たり前のようでいて、患者さんへの説明では混同しやすいところです。
⑤「完全に埋まった」の落とし穴
この論文でいちばん記憶に残るのは、材料の比較ではありません。著者らが自ら提示した、ひとつの症例です。
骨ブレンドを移植した、ある8.5mmの骨縁下欠損。再エントリーの時点で、残存する欠損はゼロ——「完全に埋まった」ように見えました。ところが内訳を測ると、新しい骨が埋めたのは4.9mm。残る3.6mmは、欠損の壁そのものが吸収して消えていたのです。
欠損は「埋まる」だけでなく「なくなる」こともある。後者は再生ではありません。著者らは「成功した『fill』を評価するときには、実際に骨が増えた量と、壁の吸収によって欠損が消えた量とを、分けて考えなければならない」と書いています。
もうひとつ、欠損の分類についての注意も述べられています。純粋な1壁性・2壁性の欠損は、根尖側から歯冠側まで一貫してその形をしていることは、ほとんどありません。1壁性とされる欠損も、最も深い部分では3壁、中央では2壁、最も歯冠側で1壁というのが実態です。だからこそ「1壁性でこれだけ埋まった」という数字も、そのまま比べにくい——50年前の指摘が、いまも生きています。
⑥明日の臨床へ
1つ目。再エントリーの所見を、そのまま「再生」と呼ばない。 欠損が浅くなった理由には、骨が増えたことと、壁が溶けたことの両方があります。術前後で骨頂の位置も見ると、読み方が変わります。
2つ目。予後の説明は、材料ではなく欠損の形で行う。 この研究で差がついたのは材料ではなく、壁の数と深さでした。「3壁性なら期待できます、根分岐部は難しいです」のほうが、データに忠実な説明になります。
3つ目。ドナーサイトは、身体への負担で選んでよい。 腸骨稜からの採取は入院や別科の関与を要する大きな処置ですが、この比較では口腔内の骨ブレンドと有意差がありませんでした。負担の小さい選択肢が同等なら、そちらを選ぶ理由になります。
4つ目。土台は、やはり口腔衛生。 この研究でも、OHI-Sがゼロに近づいて初めて外科に進んでいます。移植材の話は、その後の話です。
今日のひとこと
骨縁下欠損に対して、口腔内から採取した自家骨(骨ブレンド)と、腸骨稜から採取した骨髄・海綿骨を移植し、再手術(再エントリー)で骨の増加量を直接計測した研究。15名の男性に計32件の移植が行われました。骨ブレンドは25欠損(14名)に用いられ、初期の骨内欠損の平均は4.0mm、平均の骨増加量は2.93mm=全欠損の73%が埋まった計算になります。欠損の形態別では、1壁性2.53mm、2壁性3.00mm、3壁性ワイド3.64mm、根分岐部1.25mm——壁が多いほど、よく埋まるという素直な傾向でした。腸骨骨髄は初期の欠損が深い症例(平均7.18mm)に用いられ、平均4.36mm=60.7%が埋まりました。4mm未満の浅い欠損では両者とも2.3mmで同一、4mmを超える欠損では骨ブレンド3.8mm・腸骨骨髄5.9mmで、この差は統計学的に有意ではありません(t=1.62)。一方、骨ブレンド内での「4mm超 vs 4mm未満」の差は有意(t=2.42, p<0.05)で、深い欠損ほど埋まる量が大きい。そして最も重要な指摘は、「完全に埋まった」という報告が誤解を招きうるという点です。ある8.5mmの欠損では、新生骨が埋めたのは4.9mmで、残る3.6mmは欠損の壁自体が吸収して消えていました。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


