1問1答 論文 歯周病

開ける量を減らしたら、痛みの訴えがゼロだった——最小侵襲という設計思想

歯周外科

MIST(minimally invasive surgical technique)の原典

再生療法の成績を上げようとすると、つい材料の話になります。けれど「どれだけ小さく開けるか」を設計しなおしただけで、1年後の付着が4.8mm得られ、患者さんが痛みを訴えなかった——そういう報告があります。切る範囲を絞ることが、なぜ結果につながるのか。

論文
A minimally invasive surgical technique with an enamel matrix derivative in the regenerative treatment of intra-bony defects: a novel approach to limit morbidity
著者
Cortellini P, Tonetti MS
掲載
J Clin Periodontol. 2007;34(1):87-93
種類
症例集積(13名の孤立した深い骨縁下欠損・1年)
PMID
17243998

「よく見えるように開ける」は、正しかったのか

外科の基本は視野の確保です。だから弁は大きく開ける。——けれど再生療法では、開けた分だけ血管を切り、骨膜を剥がし、血餅を不安定にしています。視野を得るための代償が、治癒の条件を削っているのだとしたら。

削ったのは、材料ではなく「開ける量」だった

CortelliniとTonettiが2007年に示したMIST(低侵襲外科手術)は、材料を変えずに切開の設計だけを組み直した術式です。

切開は厳密に歯肉溝内に置き、歯肉の高さと幅をすべて保つ。近遠心方向の広がりは最小限に抑え、欠損に関わる乳頭とその隣接2歯の頬舌面だけに留めます。可能なかぎり縦切開は置きません。ただし原著の内訳を見ると、切開を欠損に関わる乳頭だけに留められたのは13例中4例(純粋な3壁性欠損)で、9例では骨壁の位置が深く弁を頬側・舌側へさらに広げており、縦切開も2例で行われています

つまり: 全層弁の挙上も最小限です。欠損を画する頬側・舌側の骨頂が見えるところまで。骨壁が残っている側は浅く、骨壁が失われている側だけ深く——非対称に開けます。
MIST(Cortellini 2007)——切る範囲を、欠損の周りだけに 前の術式との違い:乳頭は切るが、近遠心の広がりと弁の挙上量を絞る 歯槽骨の頂 垂直性骨欠損 切開はこの範囲だけ——近遠心を最小限に 乳頭は保存法の原則で切る ━━ 歯肉溝内切開  ━━ 乳頭の切開  ┈┈ 触れない乳頭 縦切開を置かず、弁を歯冠根尖方向にも最小限しか挙げない 骨壁が残る側は浅く、失われた側だけ深く——開ける量そのものを削った
〔図〕MISTの切開線。歯肉溝内に留め、近遠心の広がりを欠損の周りだけに絞る。弁の挙上も骨頂が見える最小限まで(原著の記述にもとづく模式図)

手術はすべて手術用顕微鏡(×4〜16倍)とマイクロ器具の下で行い(縫合は6-0 ePTFE)、平均の手術時間は55.4±6.5分でした。内側の改良マットレス縫合で一次閉鎖を得て、根面にはエナメルマトリックスデリバティブを置きます。

結果——1年で4.8mm、そして痛みの訴えがゼロ

孤立した深い骨縁下欠損をもつ13名(平均43.1歳・全員が非喫煙者で、口腔清掃と出血のスコアがいずれも20%以下という、選び抜かれた集団です)。ベースラインはポケット7.7±1.8mm・付着レベル8.7±2.7mmで、1年後にはそれぞれ2.9±0.8mm・3.8±2.2mmへ。付着獲得は4.8±1.9mm。骨内成分の解消率は88.7±20.7%で、7部位ではベースラインの骨内成分が100%解消しました。ただしこの解消率は骨の充填量ではなく、付着の獲得を骨内成分の深さで割って算出した値で、ばらつきも大きい(範囲50〜114.3%。100%を超えるのは定義上の行き過ぎです)。残存ポケットは2.9±0.8mm。

注目すべきは軟組織です。歯肉退縮の増加は0.1±0.9mm——統計的にも有意ではありませんでした(P=0.39)。

そして患者さんの経験。早期の創傷治癒は順調で、1部位に1週目の小さな離開があった以外は、全部位で一次閉鎖が得られ維持されました。浮腫も血腫も認められず、痛みを訴えた患者はいませんでした(3名が術後2日間の軽度な不快感を報告)。

0 3.3 6.7 10 ポケットと付着レベル (mm) 7.7 2.9 8.7 3.8 ポケット(PPD) 付着レベル(CAL) 濃い棒=ベースライン/淡い棒=1年後。減少量はいずれも4.8mm(PPD 4.8±1.8、CAL 4.8±1.9・ともにp<0.0001)。13名の症例集積で対照群はない
ベースラインと1年後のポケット・付着レベル(13名)。どちらも4.8mm改善している(PPD 4.8±1.8mm、CAL 4.8±1.9mm・ともにp<0.0001)

なぜ、小さく開けると治ると考えられているのか

再生に必要なのは、血餅が動かないことです。原著がこの考えの根拠として挙げているのはイヌを用いた実験——弁の引張強度を調べたもの(Hiatt 1968)と、ヘパリンで血餅の形成を妨げると再生が損なわれることを示したもの(Wikesjö & Nilveus 1990、Haney 1993)です。弁を大きく起こせばその弁は元の位置に戻ろうとして張力がかかり、動きを生む。開ける量を減らせば、張力も動きも減る——ただしこれは、著者らが「この仮説は〜によって支持される」という書き方をしている、あくまで仮説です。

視野の広さと、治癒の条件は、同じ方向を向いていなかった。この報告が示したのは、その一点です。

明日の臨床へ

MISTは「術式」であると同時に「設計思想」です。切る範囲を先に決めるのではなく、欠損の形から必要最小限を逆算する——骨壁が残っている側は浅く、失われた側だけ深く、という非対称の考え方は、どの術式を使うときにも応用が利きます。

ここだけ、冷静に補助線 13名の症例集積で、対照群はありません。原著には誰が執刀したかの記載がありません(臨床計測は独立した検者が行ったと明記されています)。顕微鏡とマイクロ器具を使い、EMDを併用した単施設の報告です。術式だけの寄与は、この研究からは分けられません。著者ら自身も「より大規模な研究での確認が必要」と結んでいます。それでも「痛みを訴えた患者がいなかった」という記述は、患者さんにとっての意味が大きい。

今日のひとこと

切開の近遠心の広がりと弁の挙上量を絞る。13名の1年成績で、ポケットは7.7→2.9mm、付着レベルは8.7→3.8mm(どちらも4.8mmの改善)、骨内成分の88.7%が解消し、痛みを訴えた患者はいなかった。ただし対照群のない症例集積である。

Cortellini P, Tonetti MS. A minimally invasive surgical technique with an enamel matrix derivative in the regenerative treatment of intra-bony defects: a novel approach to limit morbidity. J Clin Periodontol. 2007;34(1):87-93. PMID: 17243998
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。