ペリオ|Phase1 初期治療
「病的セメント質は取り除く」——ルートプレーニングという言葉には、削り取るという意味が最初から入っています。歯周病に侵された根面には毒素が染み込んでいて、それを含む層ごと除去しなければならない、と教わってきました。ではその毒素は、実際どこまで染み込んでいるのでしょうか。1982年、Nakibらはそれを直接測りにいきました。
①「病的セメント質を取り除く」の根拠は、何だったのか
1970年代、歯周病に侵された根面が細胞にとって毒性を持つことは、次々と示されていました。Hatfieldらは、病的な根面から毒性因子が放出され、不可逆的な細胞変化を起こすと報告。Aleoらは、その物質がフェノール‐水抽出で取り出せ、オートクレーブにも耐え、リムルス試験に反応することを示しました——エンドトキシンの性質そのものです。
さらにAleoらの続報では、ヒト歯肉線維芽細胞が病的な根面に付着できるようになるのは、熱フェノール抽出を行ったか、ルートプレーニングでセメント質を完全に除去したときだけでした。ここから「エンドトキシンはセメント質に結合している」という理解が広がります。
Morrisの実験も傍証になりました。健全歯のセメント質と一緒に自家骨髄をラットに埋植すると骨小柱ができるのに、歯周病罹患歯のセメント質を使うと骨形成が阻害された。脱灰しても阻害は残り、健全歯の脱灰根や無機成分では阻害が起きない。「阻害因子は、進行した歯周病に関連する根の基質の中にある」という結論でした。
1978年にはJonesとO’Learyが、生体内でのルートプレーニングによって病的根面を「健全な根面とほぼ同等」までエンドトキシンフリーにできると報告します。ただし——著者らはここを突きます。「どれだけセメント質を除去すべきか、そしてエンドトキシンがどこまで浸透しているのかという問いは、答えられないままだった」。
②抜いた歯を、毒素に12週間漬けてみた
方法はシンプルですが、丁寧です。新鮮な抜去歯32本を用意しました。20本はアタッチメントロス6mmを超える歯周病罹患歯(48〜65歳)、12本は矯正のために抜いた健全歯(14〜18歳)。抜歯直後に蒸留水で洗い、U15-30スケーラーで歯石と歯根膜線維の大きな塊を除去して保管しています。
これを2群に分け、大腸菌(E. coli)のエンドトキシン溶液に2・4・8・12週間浸けました。
1群目は免疫蛍光法。150または500μg/mlのエンドトキシンに浸けた歯を75〜120μmの研磨切片にし、抗エンドトキシン抗体とローダミン標識の二次抗体で染めて蛍光顕微鏡で観察。特異性の確認として、抗体を省いた切片・一次抗体を省いた切片・別の型のエンドトキシン(0127)で染めた切片という3つの対照を置き、いずれも陰性であることを確かめています。
2群目はオートラジオグラフィー。トリチウムで標識したエンドトキシン(200または400μg/ml)に浸け、研磨切片をX線フィルムに9日間密着させて銀粒子の分布を見ました。
そしてこの研究の肝が、深さを測る工夫です。切片をピンセットで垂直に保持し、0/4のエメリーペーパーでセメント質表面を軽く研磨してファセット(削り面)を作る。研磨前後の写真からセメント質の除去量を測り、同じ切片をもう一度X線フィルムに載せて、放射活性が残っているかを比べる——半定量的に「毒素がどの深さまでいるか」を追える設計です。
③結果:蛍光も放射活性も、表面にしか無かった
免疫蛍光では、切片の外周に沿って明るい蛍光が見られました。ただし「蛍光はセメント質表面に限局しており、セメント質の内部に抗体の局在は認められなかった」。
そして重要なのは場所と時間で違いが出なかったことです。歯頸部・中央・根尖部のどの領域でも、ポケットに面した部位でもその根尖側でも、浸漬が2週でも12週でも、濃度が150でも500μg/mlでも、同じパターンと同じ強度でした。健全歯でも同様。浸けていない対照歯は暗いままです。
オートラジオグラフィーも同じ絵を描きました。銀粒子は切片の外周に沿って輪を描き、内部には及ばない。
決定打が研磨試験です。ファセットを作った領域では、放射活性が完全に消失しました。「これは、除去したセメント質の量にかかわらず、すべてのファセット領域で認められた」。ポケットに面した根面でも、歯根膜に面した根面でも、無細胞セメント質でも有細胞セメント質でも同じでした。
削られた量は10〜270μm。参考までに、この研究で測ったセメント質の厚さは、若年の健全歯で0〜250μm、罹患した高齢者の歯で100〜575μmです。
象牙質はどうか。1本の根の頬側に深さ約2mmの溝を掘り、標識エンドトキシンに4週間浸けたところ、溝の表面には濃い標識が付いたものの、象牙質の内部にはまったく標識が見られませんでした。
④そして、歯ブラシで落ちた
著者らは最後にもう一つ確かめました。エンドトキシンは、どれくらい強く根面にくっついているのか。
健全歯1本(4週浸漬)と歯周病罹患歯1本(8週浸漬)の頬側を、柔らかい歯ブラシで1分間ブラッシングして、オートラジオグラフィーを撮り直しました。
結果は「エナメル質表面ではほぼ完全に反応が失われ、セメント質表面でも大部分が(すべてではないが)失われた」。磨いていない舌側では、エナメル質から根尖まで標識が残ったままです。
著者らの結論は2文に集約されます。「エンドトキシンは、歯周病罹患歯でも健全歯でも、セメント質の内部へ浸透することなく歯面へ付着する」。そして「エンドトキシンの根面への結合は、弱いようである」。
⑤明日の臨床へ
1つ目。ルートプレーニングの目的を「削ること」から「落とすこと」へ置き換える。 毒素が表面に弱く付いているだけなら、必要なのはセメント質の除去ではなくバイオフィルムと沈着物の除去です。現在の「デブライドメント」という言い方への流れは、この観察に支えられています。
2つ目。削りすぎには、取り返しのつかない側面がある。 セメント質は若年健全歯で0〜250μm——そもそも部位によっては存在しない薄さです。ここを繰り返し削れば象牙質露出と知覚過敏に直結します。再生を考えるうえでも、セメント質は残せるなら残したい組織です。
3つ目。「in vitro でエンドトキシンが落ちた」と「臨床で治る」は別。 この実験が示したのは純粋なエンドトキシンが根面にどう付くかであって、実際のバイオフィルムや歯石が同じように落ちるという話ではありません。歯石は機械的にしっかり除去する必要があります。
4つ目。それでも、力を抜いてよい場面があると知っておく。 セメント質を執拗に削り取らないと治らないという思い込みは、術者の疲労も、患者さんの不快感も、施術時間も増やします。目的を果たす最小限で止める——その判断の後ろ盾になる一本です。
今日のひとこと
新鮮な抜去歯32本——アタッチメントロス6mm超の歯周病罹患歯20本(48〜65歳)と、矯正目的で抜いた健全歯12本(14〜18歳)——を、大腸菌のエンドトキシン溶液に2〜12週間浸けて、その行方を追った研究。16本は免疫蛍光法(抗エンドトキシン抗体+ローダミン標識)、16本はトリチウム標識エンドトキシンによるオートラジオグラフィーで調べています。結果は一貫していました。蛍光も放射活性も、セメント質の外表面にだけ現れ、セメント質の内部には入っていなかった。浸漬期間(2・4・8・12週)でも濃度でも、パターンは変わりません。決定打は研磨試験です。セメント質表面を10〜270μm削ってファセットを作ると、その部分の放射活性は完全に消えました。削った量にかかわらず、また歯周ポケットに面した部位でも、歯根膜に面した部位でも同じでした。さらに柔らかい歯ブラシで1分間ブラッシングしただけで、エナメル質表面の放射活性はほぼ完全に、セメント質表面でも大部分が失われました。著者らの結論は「エンドトキシンは、歯周病罹患歯でも健全歯でも、セメント質の内部へは浸透せずに歯面へ付着している」、そして「その結合は弱いようである」。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


