ペリオ|ペリオ論文100選
動揺している歯を前に、削って当たりを取るべきか迷う場面があります。咬合性外傷が歯周組織に何をしているのかは長く議論されてきましたが、「歯周治療に咬合調整を足すと結果が変わるのか」を人で無作為に比べた研究は多くありません。1992年、ミシガン大学のグループが50名を2群に割り付け、2年間追った結果を報告しました。差が出たところと、出なかったところが、はっきり分かれています。
①削るべきか、様子を見るべきか
動揺している歯を前に、咬合を調整すべきか迷う場面があります。咬合性外傷が歯周炎を起こすわけではないことは動物実験で繰り返し示されてきました。一方で、付着の喪失を進行させうる、あるいは少なくとも骨の吸収を増やすという報告もあり、話は単純ではありません。
臨床側の報告も割れていました。動揺歯のほうが治りにくいとする研究がある一方、動揺の有無で治り方は変わらないとする研究もあったのです。Ericsson と Lindhe は「外傷を取り除いた歯のほうが、対側の動揺歯より結合組織性の付着獲得が大きいようだ」と書いています。
②50名を、2年間
対象は中等度から重度の歯周炎と診断された成人50名。平均年齢44.2歳(25〜69歳)、平均残存歯27.0本、初診時の平均アタッチメントロスは3.39mmでした。
設計はこうです。まず全員が歯科衛生士によるハイジニックフェーズ(SRP・修復物の研磨・歯面研磨・口腔衛生指導・フッ化物)を4〜5回受けます。そのうえで、コンピュータ生成の乱数表により、咬合調整を行う群(22名)と行わない群(28名)に割り付けられました。
咬合調整は1名の歯周専門医が担当し、Ramfjord & Ash の教科書『Occlusion』の基準に沿って行われました。目標は、中心位での均等で安定した接触、中心・偏心運動での滑らかな滑走接触、そして平衡側干渉の除去です。
その2か月後、各患者の口腔内で、修正ウィドマンフラップ手術とSRPを左右に無作為配分(スプリットマウス)。以後は3か月ごとのプロフィーで維持し、年1回スコアリングしました。計測は全期間を通じて同一の術者が担当し、歯周スコアリングのキャリブレーションを受けています。
③差が出たのは、付着だった
アタッチメントレベルの変化は、咬合調整を受けた患者のほうが良好でした。差は1年で0.39mm、2年で0.40mm。反復測定分散分析での主効果はp=0.007です。
内訳を見ると差の性質がよく分かります。咬合調整群は2年で0.42mmの付着を獲得したのに対し、非調整群は0.02mm——つまりほぼ横ばいでした。1年目でも咬合調整群は+0.32mm、非調整群は−0.07mmと、方向が逆を向いています。
この差の大きさは1年目と2年目でほとんど変わりませんでした。早い段階でついた差が、そのまま維持された形です。
④ポケットは、動かなかった
同じ研究で、ポケット深さには咬合調整の影響がまったく認められませんでした(p=0.6485)。調整群のポケット減少は非調整群より0.1mm未満少ないという程度です。
ポケットを動かしたのは、別の要因でした。修正ウィドマンフラップ側は1年で0.86mm・2年で0.73mmの減少、SRP側は0.53mm・0.56mmの減少(p=0.0003)。ポケットを浅くするのは外科という術式であって、咬合調整ではない——この切り分けが、この論文のいちばん実務的な部分です。
逆に付着では、SRP側のほうがわずかに良好でした(1年で0.16mm、2年で0.10mm差)。そして外科側・非外科側のどちらも、咬合調整に対して同じように反応しました。
⑤動揺度は、予測因子にならなかった
ここが読みどころです。著者ら自身が「surprisingly(意外なことに)」と書いています。
- 咬合調整群と非調整群のあいだで、動揺度の減少に有意差はなかった。付着は改善したのに、揺れの量では差がつかなかった
- 初診時の動揺度は、咬合調整への反応を予測しなかった。この集団では半数以上の歯に動揺の増加が見られたが、平均動揺度0.75を境に2群に分けても、変化の説明にならなかった
- 初診時のポケット深さ(1〜3mm・4〜6mm・6mm超)でも、反応は同様だった。どの重症度でも、調整群のほうが良好な付着反応を示した
むしろ差が最も大きく出たのは、動揺の少ない歯どうしを比べたときでした。「揺れている歯にこそ咬合調整」という直感とは、逆の絵柄です。
⑥なぜ付着だけが動いたのか
著者らはメカニズムを断定していません。ただ、考察に置かれた補助線が明快です。
軽い力(18〜22 ponds)でのプロービングによる付着レベルは、結合組織性付着そのものと必ずしも一致せず、ポケット軟組織壁の硬さ——コラーゲンの状態と炎症の程度——を反映している。動物実験では咬合治療で臨床的付着レベルが変わるとは期待されていないことも踏まえ、今回の良好な反応は、外傷力の除去と炎症の軽減にともなう「軟組織壁の変化」に関係しているのだろう、というのが著者らの読みです。
なぜ咬合調整後にコラーゲンの抵抗性が増すのかは、現時点では説明できないとも率直に書かれています。偶然の可能性についても、50名という規模と厳格な実験条件から考えにくいとしています。
⑦明日の臨床へ
- 咬合調整は「歯周治療の代わり」ではなく「補助」として位置づける。ポケットを浅くするのはSRPと外科であり、咬合調整ではない
- 動揺しているから調整する、という選び方は根拠が弱い。初診時の動揺度は反応を予測しなかった。むしろ動揺の少ない歯で差が出ている
- 調整するなら、目標を明確にする。中心位での均等で安定した接触、滑らかな滑走接触、平衡側干渉の除去——この研究が用いた基準はここにある
- 期待値は0.4mm前後。2年で0.40mmという差をどう見るかは、症例と手間のバランスで判断する
- 「削れば揺れが止まる」とは説明しない。この研究では動揺度の減少に群間差がなかった
⑧ここだけ、冷静に補助線
⑨今日のひとこと
咬合調整が動かしたのは付着であって、ポケットでも動揺度でもなかった。効果を期待する場所を取り違えなければ、これは補助として持っておける一手です。そして「揺れているから削る」という判断根拠は、この研究では支持されませんでした。
今日のひとこと
ハイジニックフェーズの後、50名を咬合調整あり(22名)となし(28名)に無作為に割り付けた。咬合調整は1名の歯周専門医が Ramfjord & Ash の基準に沿って実施し、中心位での均等で安定した接触・滑らかな滑走接触・平衡側干渉の除去を目標とした。その2か月後、各患者の口腔内で修正ウィドマンフラップとSRPを左右に無作為配分し、以後は3か月ごとのプロフィーで維持した。2年後、アタッチメントレベルの変化は咬合調整群が有意に良好だった(群間差 1年 0.39mm・2年 0.40mm、主効果 p=0.007)。咬合調整群は2年で0.42mmの付着獲得、非調整群は0.02mmだった。一方、ポケット深さの変化に咬合調整の影響はなかった(p=0.6485)。初診時の歯の動揺度も、歯周病の重症度も、咬合調整への反応を左右しなかった。外科側(修正ウィドマンフラップ)と非外科側(SRP)は、咬合調整に対して同じように反応した。意外なことに、動揺度の減少そのものには両群で有意差がなかった。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


