1問1答 論文 歯周病

脱灰した骨は、本当に骨をつくるのか

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|Phase2 歯周外科

DFDBA(脱灰凍結乾燥骨)は、脱灰することでBMPが露出し骨誘導能を持つ——そう習いました。ではFDBA(非脱灰)より多くの骨をつくるはずです。1974年に行われ2005年にJ Periodontolへ報告されたこの実験は、サルの顎に「骨移植材だけを入れた小部屋」を埋め込み、3か月かけて中身を数えました。結果は、教科書の理屈とは逆を向いています。

論文
Comparative Evaluation of Decalcified and Non-Decalcified Freeze-Dried Bone Allografts in Rhesus Monkeys. I. Histologic Findings
著者
Yukna RA, Vastardis S
掲載
Journal of Periodontology 2005;76(1):57-65
種類
動物実験(アカゲザル6頭・チャンバーモデル・組織計測)
PMID
15830638

「脱灰すればBMPが出る」——理屈は美しかった

骨移植材を選ぶとき、DFDBA(脱灰凍結乾燥骨)とFDBA(非脱灰凍結乾燥骨)のどちらを使うかで迷った経験はありませんか。

教科書的な説明はこうです。骨のミネラルを酸で溶かして取り除くと、その中に埋まっていた骨形成タンパク(BMP)が露出し、宿主の細胞を骨芽細胞へ分化させる——つまりDFDBAには骨誘導能(osteoinduction)がある。一方FDBAはミネラルが残っているため、足場として振る舞う骨伝導(osteoconduction)が主体とされます。Uristらの一連の研究が土台にあり、ヒトの歯周組織欠損でもDFDBAは良好な成績が報告されてきました。

ところが両者を直接比べた報告は一致していませんDFDBAが優れるという報告もあれば、逆の報告も、ほとんど差がないという報告もあります。理屈が正しくても、実際に移植された粒のまわりで何が起きるかは別の問題だからです。

先に結論: サルの顎に埋めた閉鎖チャンバーでは、FDBAのほうが早く多く骨をつくったDFDBAは、空のチャンバーと統計学的な差がなかった

顎骨に「小部屋」を埋めて、中身だけを数える

この実験の巧みさはチャンバーモデルにあります。

ナイロンメッシュ(孔径250μm)を筒状にして長さ10mmに切り、片端を封じて小部屋をつくります中にFDBAかDFDBAを詰めるか、何も入れずに空のまま(陰性対照)にします。アカゲザル6頭の臼歯部、頬側の歯根間に4mm幅・4mm深さの縦溝を形成し、この筒を埋めて全層弁で完全に覆いました

各象限に「同じ種類の移植材3本+空1本」を配置し、反対側には別の移植材という設計です。筒の中で起きたことだけを、周囲の骨と切り分けて評価できるのが利点です。

移植材はどちらも同じドナー骨から作られていますアカゲザルの長管骨から皮質骨を採取し、骨髄と海綿骨を洗い流して凍結乾燥・粉砕し、320〜400μmに整粒その半分をそのまま再凍結乾燥したものがFDBA残りを100%エタノール・0.6N塩酸で24時間脱灰してから再凍結乾燥したものがDFDBAです。粒径も由来も揃えたうえで、脱灰の有無だけを変えている——ここが公平な比較の要です。

1・2・3か月後にサル2頭ずつから筒を回収し、H-E染色標本を8倍で撮影して、グリッド上の点を数える組織計測(点計数法・最大704点)で、新生骨残存する移植材(旧骨)の量を測りました。

新生骨の量は、3か月で2倍の開き

0 166.7 333.3 500 新生骨の量(計測点数・最大704) 163.3 7.7 92 213.7 26.8 55.7 443.5 217.3 142.7 1か月 2か月 3か月 FDBAはDFDBAより全時点で有意に多い(P<0.05)。DFDBAは空のチャンバーとどの時点でも有意差なし
チャンバー内に形成された新生骨の量(計測点数・最大704)。3時点とも同じ傾向を示した

FDBAは1か月163.3、2か月213.7、3か月443.5DFDBAは7.7、26.8、217.3でした。FDBAは全時点でDFDBAより有意に多く(P<0.05)2か月・3か月では空のチャンバーよりも有意に多いという結果です。

そしてもう一つ。DFDBAは、どの時点でも空のチャンバーと統計学的な差がありませんでした「何も入れない」場合と区別がつかなかったということです。

組織像も一致しています。FDBAでは1か月の時点ですでに、粒のまわりに骨芽細胞と新生骨が豊富に並び2か月には粒と粒を橋渡しする新生骨が筒をほぼ満たしていましたDFDBAでは1か月時点で骨形成はほとんど見られず、線維性結合組織が粒に接触し、2か月では粒の断片化・吸収が主体3か月になってようやく新生骨梁が現れます

移植材そのものの「その後」も違った

0 66.7 133.3 200 3か月後に残っていた移植材(計測点数) 57 170.3 FDBA(非脱灰) DFDBA(脱灰) 残りが少ないほど、移植材が吸収され新しい骨に置き換わったことを示す(3か月時点で有意差あり P<0.05)
3か月後に残っていた移植材の量。FDBAは大きく減り、新しい骨に置き換わっていた

1か月・2か月の時点では、残っている移植材の量に両者で大きな差はありませんFDBA 219.5・240.7、DFDBA 297.5・237.6)。ところが3か月で差が開きますFDBAは57.0まで減り、DFDBAは170.3残っていました(P<0.05)

新生骨と移植材を合わせた「総骨量」で見ると、FDBAは3時点とも最も多く(382.8→454.3→500.5)移植材を入れた筒は、空の筒よりどの時点でも有意に多くの骨を含んでいましたつまりDFDBAも「足場」としては働いているものの、新しい骨を増やす力においてはFDBAに及ばなかったという読み方になります。

ここが要点: FDBAは早く置き換わりながら骨を増やし、DFDBAは粒が残りつつ骨形成が遅れた脱灰=骨誘導能アップ、という単純な図式はこのモデルでは成立しなかった

明日の臨床へ

1つ目。「脱灰しているから優れている」とは言い切れない。 DFDBAの骨誘導能はBMP量に依存しますが、市販のDFDBAに含まれるBMPは、未処理の新鮮骨に比べて少ないという報告があります。製品ごと・ロットごとに骨誘導能がばらつくことは、以前から指摘されてきた論点です。

2つ目。ただし、この結果をそのままヒトの歯周欠損へ持ち込まない。 ここは健全な顎骨に人工的に作った溝であり、歯周病で失われた骨の欠損ではありません閉鎖されたメッシュの筒の中という、血流も細胞供給も限られた特殊な環境です。著者ら自身が、モルモット頭蓋モデルでの先行研究とは結果が食い違うと書いています

3つ目。読み替えるべきは「移植材は万能ではない」という点。 移植材を入れた筒は、空の筒より総骨量が多かった——ここは一貫しています。足場としての価値は否定されていません問題は、材料の種類による差を過大に期待しないことです。

4つ目。この実験は1974年に行われたもの。 当時の脱灰プロトコルで作られたDFDBAであり、その後の処理法の改良は反映されていません現在の製品にそのまま当てはめるのは慎重であるべきです。

ここだけ、冷静に補助線。 サル6頭・各時点2頭ずつという小さな規模で、組織計測に用いたチャンバーは各時点1〜2本ばらつき(標準偏差)が平均値と同じくらい大きい項目もあります(例:1か月の空チャンバーは92.0±130.1)。統計学的な差の有無は、この規模では慎重に読む必要があります。加えて歯周病に罹患した部位ではないこと、閉鎖チャンバーという人工的な環境であることも押さえておきたい点です。それでも「脱灰すれば骨ができる」という理屈を、同一ドナー・同一粒径で正面から検証したという設計の明快さは、今読んでも学ぶところがあります。材料の選択は、理屈だけでなく比較試験で確かめる——その姿勢を思い出させてくれる一本です。

今日のひとこと

アカゲザル6頭の臼歯部にナイロンメッシュ製の小部屋(チャンバー)を埋め込み、FDBA(非脱灰凍結乾燥骨)・DFDBA(脱灰凍結乾燥骨)・空(陰性対照)の3条件で、1・2・3か月後の新生骨量を組織計測した研究。新生骨の量(計測点数・最大704)は、FDBAが1か月163.3・2か月213.7・3か月443.5だったのに対し、DFDBAは7.7・26.8・217.3FDBAはDFDBAより全時点で有意に多く(P<0.05)、さらに2・3か月では空のチャンバーよりも有意に多いという結果でした。一方DFDBAは、どの時点でも空のチャンバーと統計学的な差がありません3か月時点で残っていた移植材はFDBA 57.0に対しDFDBA 170.3——FDBAは早く置き換わり、DFDBAは粒が残っていました。著者らの結論は「FDBAはDFDBAより早く・多く新生骨形成を促す可能性がある」。ただしサルの健全骨に作った人工欠損+閉鎖チャンバーという条件であり、ヒトの歯周組織欠損にそのまま当てはめられる話ではありません

出典:Yukna RA, Vastardis S. Comparative evaluation of decalcified and non-decalcified freeze-dried bone allografts in rhesus monkeys. I. Histologic findings. J Periodontol 2005;76(1):57-65. PMID: 15830638
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。