1問1答 論文 歯周病

咬合性外傷で減った骨は、力を抜けば戻る?——ただし歯周炎があると戻らない

1問1答 論文 歯周病

咬合性外傷と骨の可逆性

咬合性外傷で歯槽骨が減ることは前作で分かりました。では、その”力”を止めれば骨は元に戻るのか。1976年、Polsonたちはリスザルで「外傷のみ」と「外傷+歯周炎」を並べ、10週後の骨を数えて確かめました。答えは、片方だけ戻る、でした。

論文
Trauma and progression of marginal periodontitis in squirrel monkeys. IV. Reversibility of bone loss due to trauma alone and trauma superimposed upon periodontitis
著者
Polson AM, Meitner SW, Zander HA
掲載
J Periodontal Res. 1976;11(5):290-298
種類
動物実験(リスザル・組織学/骨の計測)
PMID
133236

咬合調整で”骨”は戻ってくるのか?

フレミタスや早期接触で骨が減ってきた患者さん。咬合調整やナイトガードで力の負担を減らしたら、「減った骨は元に戻りますか?」と聞かれること、ありますよね。歯を揺さぶる力が骨を減らすのなら、その力を抜けば骨は戻ってくれそうな気もします。

でも、口の中には力(咬合)だけでなくプラーク性の炎症も同居しています。力を止めたとき、骨がすんなり戻るのか、それとも炎症が居座って戻らないのか——ここを切り分けて確かめたのが、この古典実験です。前作(第III報)で「力だけで骨は約3割減る」ことを示した同じチームの続編にあたります。

従来:減ることは分かった、では”戻るか”は?

咬合性外傷で歯槽骨が減り、歯が動揺することは、繰り返しの実験で分かっていました。前作では、炎症をほぼ無くしたリスザルで揺さぶり(ジグリング)だけを10週間かけると、歯間部の骨が48.5%から31.2%へ(約35%減)まで落ちることを”数えて”示しています。

ただし、そこで話は止まっていました。外傷を止めたら、その減った骨は再生するのか。そして、炎症(歯周炎)が一緒にあると、その回復はどう変わるのか。「力を抜けば戻る」を定量的に検証した研究は、それまでありませんでした。そこを埋めに行ったのが本研究です。

今回の一手:外傷を”止めて”10週間、骨を追う

8頭のリスザルの下顎第二・第三小臼歯を、10週間ジグリングで揺さぶりました。このとき片側だけに歯周炎(辺縁性歯周炎)も同時に誘発し、「外傷のみ」と「外傷+歯周炎」を1頭の中で並べています。

肝は”止めてから”を見ること:8頭を2群に分け、半分は10週の外傷直後に、残り半分は外傷を止めて10週後に骨を計測しました。つまり「揺さぶりをやめたら、骨は戻るのか」を、外傷のみ・外傷+歯周炎のそれぞれで比べたわけです。指標は歯間部で骨が占める割合と、歯槽骨頂の高さ。

臨床の言葉に置き換えれば、「力の原因を除去したら、骨は回復するか。炎症が残っていると回復は妨げられるか」を見た実験です。では、力を抜いた骨はどうなったのか——。

結果:外傷だけなら骨は戻る。でも歯周炎があると戻らない

まず臨床所見が象徴的でした。外傷のみの歯は、揺さぶりを止めると動揺が消えて再びしっかり固定。ところが外傷+歯周炎の歯は、止めて10週たっても激しく動揺したまま、歯肉の炎症も続いていました。そして骨の量——ここが核心です。

外傷のみ(回復する)
外傷+歯周炎(回復しない)

0 16.7 33.3 50 歯冠側 歯槽骨の割合(%) 30.6 42.1 16.8 15.1 外傷のみ 外傷+歯周炎 歯冠側の歯間部で骨が占める割合。外傷のみは止めると30.6→42.1%へ回復(正常48.5%に接近・P<0.01)。だが歯周炎が併発すると16.8→15.1%で回復せず(N.S.)。炎症が骨の再生を妨げる

各群で「外傷を止めた直後」と「止めて10週後」の骨の割合。左(外傷のみ)は薄い棒=止めた後で伸び、右(外傷+歯周炎)は伸びない。

外傷のみのグループでは、歯間部の骨の割合が止めた直後30.6%から、10週後には42.1%へ大きく回復(正常の48.5%に接近、P<0.01)。組織学的にも、島状だった骨のまわりに新しい骨が満ちて、ほぼ正常な姿に戻っていました。一方、外傷+歯周炎のグループは16.8%から15.1%と、ほとんど変わらず(統計的に有意差なし)。骨の再生は起きませんでした。力を止めても、炎症が残る場所では骨は戻らなかったのです。

なぜ?──炎症が”骨の再生スイッチ”を切ってしまう

外傷だけで減った骨は、じつは大きな再生力を秘めています。環境の力に合わせて島状に作り替えられていた骨は、力が消えると吸収が止まり、島のまわりに新しい骨が沈着してもとの緻密な形へ戻っていく。動揺していた歯が再びしっかり締まったのは、この骨の再生のあらわれです。

ところが炎症が同居すると、この回復が起きません。著者らは、歯肉溝の細菌プラークに対する炎症性の浸出液が歯冠側の骨(骨髄腔)にまで及び、骨の吸収を続けさせる=再生を妨げると考えました。上皮が根尖側に下がった位置そのものが再生を邪魔しているのではないか、という説明は、別の実験(外傷を止めても付着はそのままなのに骨は戻らなかった/掻爬後は付着なしでも骨は戻った)から否定的で、炎症そのものが再生を止めている可能性が高い、と結論づけています。力を抜くだけでは足りず、炎症を消さないと骨は帰ってこない、というわけです。

明日の臨床へ:咬合を触る前に、まず炎症を鎮める

この結果は、治療の”順番”に直結します。

咬合性外傷で骨や動揺が気になるケースでも、先に手をつけるべきはプラーク性の炎症のコントロール。炎症が残ったまま咬合調整だけしても、この実験の範囲では骨の回復は期待しにくい、ということです。逆に、炎症をきちんと抑えたうえで過剰な力を除けば、外傷で減った骨は戻る可能性がある——これは前向きなメッセージです。

実際、外傷のみの歯は力を止めるだけで動揺が消え、骨も正常近くまで回復しました。だから「咬合調整=無駄」ではありません。ただし炎症制御という土台があってこそ効く。「揺れているから、まず咬合を削る」ではなく「まず炎症を消す、そのうえで力を整える」。この順番が、骨の回復を引き出すカギになります。

ここだけ、冷静に補助線
これはリスザル8頭・計測は組織学的、という1976年の動物研究です。ヒトの数値や治療期間をそのまま当てはめられるものではなく、10週で「戻った」骨も正常値には少し届いていません(完全回復にはもっと時間が要る可能性)。それでも「外傷だけで減った骨は力を抜けば戻るが、炎症が残ると戻らない=炎症制御が骨再生の前提」という骨格は、その後の歯周治療の考え方に受け継がれています。過大にも過小にもせず、”順番”の教訓として読むのがフェアな受け取り方です。

今日のひとこと

咬合性外傷で減った骨は、力を抜けば大きな再生力で戻ってくる。でも歯周炎が残っていると、その再生スイッチは入らない。だから咬合を触る前に、まず炎症を鎮める——1976年のリスザルが教えてくれる”順番”は、今日の歯周治療にそのまま生きています。

出典:Polson AM, Meitner SW, Zander HA. Trauma and progression of marginal periodontitis in squirrel monkeys. IV. Reversibility of bone loss due to trauma alone and trauma superimposed upon periodontitis. J Periodontal Res. 1976;11(5):290-298. PMID: 133236
※本記事は論文の要点を歯科医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
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