共同破壊理論(co-destructive theory)の原著
角状骨欠損を見たら咬合を疑え。骨縁下ポケットがあれば咬合調整を。——1960年代から70年代にかけて、世界中の歯周治療がこの前提で動きました。全顎的な咬合調整と連結固定が、歯周基本治療のルーチンになった時代です。その出発点になった論文を、いま読み直します。
①「この斜めの骨欠損、噛み合わせですかね」
デンタルを見ると、1本だけ楔のように骨が落ちている。隣は水平的なのに、そこだけ斜めだ。——この所見を見て「咬合かもしれない」と思ったことは、誰しもあるはずです。
その連想には出所があります。1965年のこの論文が、それを作りました。そしてその後14年にわたって、世界中の歯周治療の前提になりました。
②それまで:炎症と外傷は「別々の病気」とされていた
当時すでに、咬合性外傷そのものが歯肉の炎症やポケットを作るわけではないことは、複数の報告で示されていました。著者らが引くOrbanは、歯肉の炎症と咬合性外傷はおそらく全人口の9割で同時に存在するとしつつ、両者を互いに悪影響を及ぼしうる、別々の異なる病気として記述しています。
著者ら自身は1962年、サルで人為的に過大な咬合圧を加えるとトランスセプタル線維と深層の歯根膜線維の走行が変わり、歯肉の炎症が支持組織へ入っていく経路が変わることを報告していました。歯間部では、炎症が歯間中隔へではなく歯根膜腔へ直接広がったのです。
ではそれは、人でも起きているのか。この論文はその確認です。
③今回の一手:剖検で採った顎を、連続切片にする
方法は当時としても手間のかかるものでした。剖検で顎を採取し、10%中性緩衝ホルマリンで固定。20%クエン酸ナトリウムと45%ギ酸の等量混合液で脱灰し、セロイジンに包埋して連続切片を作製しています。
報告されている観察部位は3か所です。59歳男性の上顎犬歯〜大臼歯部、54歳男性の下顎犬歯〜小臼歯部、そして59歳男性の下顎大臼歯部。
④結果:同じ歯の、近心と遠心で像が違った
いちばん印象的なのが1例目です。エックス線では第二小臼歯の近心と遠心の両方で、歯根膜腔が楔状に拡大していました。歯肉乳頭はどちらも炎症を起こしています。ところが組織像は、近心と遠心でまるで違いました。
遠心側——トランスセプタル線維は骨頂を水平に横切り、歯面に対して垂直。歯根膜線維の配列も正常。そして炎症は、歯肉からトランスセプタル線維のところまでで留まっていました。
近心側——トランスセプタル線維は水平ではなく斜めに走り、第二小臼歯の深層の歯根膜線維も根尖方向へ傾いていました(著者らはこれを近心方向の圧迫力を示唆する所見と読みます)。歯根膜腔は歯冠側1/3で楔状に広がる。そして炎症は歯肉から歯根膜へ直接入っていました。
2例目では、角状の骨面にラクナ性の骨吸収が見られ、その下の歯根膜線維は引き延ばされていました。犬歯の遠心には骨縁上ポケット、小臼歯の近心には初期の骨縁下ポケットが形成されていました。
⑤そこから立てられた説
著者らの結論は、次の一文に集約されます。
そして両者は別々の病気ではなく、歯周炎という単一の疾患に参加する異なる種類の病的過程である、と位置づけられました。合わさったとき、角状骨欠損と骨縁下ポケットを作る——これが共同破壊理論です。
⑥この説が、臨床を変えた
説得力は絶大でした。歯を揺さぶれば線維が傷み、そこを炎症が伝って骨の中へ潜る——直感に合うのです。
結果として、レントゲンに角状骨欠損があること自体が「咬合性外傷が関与している診断的証拠」として扱われるようになります。複数箇所に角状欠損があれば咬合が悪すぎるということになり、全顎的な咬合調整と連結固定が、歯周治療の一環としてルーチンに行われる時代が来ました。
⑦明日の臨床へ:この論文の位置を、正確に置く
今日のひとこと
炎症が辺縁歯肉に留まるうちは、咬合性外傷は関与しない。越えた先で、両者は共同破壊因子になる——それが提唱された中身だった。


