1問1答 論文 虫歯

3年間、学校で毎日フロスまでさせた。それでも虫歯は有意に減らなかった

1問1答 論文 虫歯

カリオロジー|機械的プラーク除去・フッ化物なしの歯磨剤・う蝕予防の限界

プラークを取ればう蝕は減る——長くそう信じられてきました。ならば、学校で毎日、訓練された職員の監督下でブラッシングとフロッシングを3年間やらせたら、どうなるか。米国NIDRのHorowitzらが、水道水にフッ素のほとんど無い町(0.02ppm)で、フッ化物を含まない歯磨剤を使ってこれを確かめています。結果は、私たちの直感を静かに裏切ります。

論文
Effects of supervised daily dental plaque removal by children after 3 years
著者
Horowitz AM, Suomi JD, Peterson JK, Mathews BL, Voglesong RH, Lyman BA
掲載
Community Dent Oral Epidemiol. 1980;8(4):171-176
種類
学校ベースの比較試験(米国コネチカット州・481名を登録し全回受診279名を解析・32か月)
PMID
6936116

「プラークを取れば虫歯は減る」を、まっすぐ試した

プラークは歯周病とう蝕の両方に必要な条件です。ならば、プラークを頻繁に取り除けば、両方とも減るはずだ——1970年代、米国では州単位のプログラムが組まれ、そのための商品が次々に開発されていました。

ただし著者らは冒頭でこう書いています。「歯ブラシとフロスによる機械的なプラーク除去が歯肉の炎症を減らすことを示す証拠はあるが、う蝕に対する効果については相反する(equivocal)」

そこで、この研究です。学校で、訓練された職員の監督下で、毎日、ブラッシングとフロッシングを3年間やらせたら、う蝕は減るのか

先に結論: 3年後のDMFS増加量は介入群4.27・対照群4.89(ベースライン補正後)。差は12.7%統計的に有意でなかった(P=0.28)。しかも差はすべて隣接面で生じており(26%減・P=0.07)、咬合面と頬舌面では差が無かった。

条件を、これ以上ないほど整えた

この研究の説得力は、「やれるだけのことをやった」という一点にあります。

  • 場所:コネチカット州イーストハンプトン。水道水のフッ素濃度は0.02ppm=実質ゼロ。学校に他の予防プログラムは無い
  • 対象:1973年9月に481名(5〜8年生・10〜13歳)を検査し、学年と性で層別化したうえで介入群と対照群へ無作為に割り付け。32か月時点で在籍していたのは295名、そのうち全回の検査を受けた279名(介入111・対照168)を解析
  • 導入:連続する10登校日に30分の集中指導。歯科衛生士2名が担当。改良スクラビング法ワックス付きデンタルフロス(隣接面用に上下顎で別々の長さを用意)。フロス → ブラッシングの順序を決めて行う
  • 日課:以後32か月間、毎登校日に15分。12〜15名ずつのグループで、決まった時刻に決まった場所へ集合。歯ブラシ・歯科用(口腔内)ミラー・フロス・フッ化物を含まない歯磨剤・据置きの顔用ミラー・紙製品を支給。染め出し液で監督者が確認し、残った染色部分を指摘して再度磨かせ、また確認する(多くの場合は監督者が自ら取り除いた)
  • 出席:1年目は109日中平均92日、2・3年目は146日中120日/144日中110日
  • 対照群:学校での指導もプラーク除去も無し。ただし両群とも隔月(2か月ごと)に歯ブラシを配布し、家庭では自由に使わせた
  • 評価:プラーク(PHP)・歯肉炎(DHC)・う蝕(DMF歯面)。臼歯部のバイトウィング2枚を撮影(撮影時期の明記はなく、追跡時の撮影についての記述もありません)。検査者は群の割り付けを知らされておらず、毎回新しい記録用紙を使い、過去の記録を参照できないようにした

ここまで管理された学校プログラムは、現実にはまず組めません。これは「上限の性能」を測った研究だと言えます。

プラークは女子だけ、歯肉炎は男女とも改善した。ただし夏休みまで

まず、うまくいった部分から。

  • プラーク:介入群の女子は3.13→2.25と0.88(28%)減少(p<0.01)。介入群の男子は3.23→2.93で0.30(9%)にとどまり有意でない。対照群は男女ともほぼ横ばい(−0.08/−0.06)
  • 歯肉炎:介入群の女子は1.12→0.67で0.45(40%)減少、男子は1.18→0.97で0.21(17%)減少男女とも対照群より有意に大きい変化(p<0.01)。対照群はむしろ悪化(+0.05/+0.08)

ところが、ここに影があります。著者らの観察です——「各学年度のあいだに生じたプラークと歯肉炎の群間差は、夏休みのあいだにほぼ完全に消えた」

さらに、2学年目終了時(1975年6月)に見られた歯肉炎の0.58(48%)の減少は、最終検査では維持されていませんでした。著者らはその理由を「プログラムが職員にも生徒にも退屈だったことが一因かもしれない」と述べています。

学校でやめれば、家では続かなかった。これがこの研究の、もう一つの結論です。

う蝕は、有意には減らなかった

0 1.9 3.7 5.6 32か月間のDMFS増加量(ベースライン補正後) 4.27 4.89 介入群 (111名) 対照群 (168名) 差は12.7%だが統計的に有意でない(P=0.28)。標準誤差は介入0.44・対照0.36
32か月間のDMF歯面の増加量(ベースラインのう蝕経験で補正)。介入群4.27に対し対照群4.89。12.7%の差だが有意ではない(P=0.28)

DMFSの増加量は介入群4.27(SE 0.44)・対照群4.89(SE 0.36)12.7%低かったものの、統計的に有意ではありませんでした(P=0.28)

0 1 2 3 32か月間のDMF歯面の増加量(面数) 0.8 0.7 1.52 1.54 1.96 2.65 頬舌面 咬合面 隣接面(近心・遠心) 濃い棒=介入群/淡い棒=対照群。差がついたのは隣接面だけ(26%減・ただしP=0.07で有意には届かない)。頬舌面はむしろ介入群が多く(+14.3%)、咬合面はほぼ同じ(−1.3%)
歯面の種類ごとの増加量。差がついたのは隣接面だけで、咬合面と頬舌面では差が無い

面の種類で分けると、話がはっきりします。

  • 頬舌面:介入0.80 対 対照0.70——むしろ介入群のほうが多い(+14.3%)
  • 咬合面:1.52 対 1.54——ほぼ同じ(−1.3%)
  • 隣接面(近心・遠心):1.96 対 2.65——26%減。差は0.69面で、P=0.07と有意性に迫った

つまり「群間のう蝕増加量の差は、すべて近心面・遠心面の所見で説明された」。著者らはこれをフロッシングによる隣接面プラークの除去・撹乱によるものだろうと推測しています。ブラッシングが届く面(咬合面・頬舌面)では、何も変わりませんでした

明日の臨床へ

  • フッ化物なしの機械的清掃だけでは、う蝕は有意には減らない。この研究がフッ化物を含まない歯磨剤を使い、フッ素のほぼ無い町で行われたことに意味があります。(これは論文の記述ではなく筆者の解釈ですが)いま私たちがブラッシング指導に効果を期待できるのは、多くの場合フッ化物を運ぶ手段としてである——そう捉え直すのが妥当だと思います
  • 差が出たのは隣接面だけだった(26%減・ただしP=0.07で有意には届きません)。著者らも「おそらくフロッシングによる隣接面プラークの除去・撹乱によるものだろう」と推測の形で書いています
  • 続かない習慣は効果を残さない。夏休みで差が消えたという観察は、リコール間隔と動機づけを考えるときにそのまま効きます
  • 著者らの結論はきびしいものです——「学校におけるブラッシングとフロッシングの取り組みに、ささやかな以上の利益を期待するのは非現実的であることを、今回の所見は示唆する」とりわけそれが口腔保健プログラムの唯一の構成要素である場合、この方式の価値には重大な疑問が生じる
ここだけ、冷静に補助線 — 注意すべき偏りが一つあります。ベースラインのDMFSが、最後まで残った参加者では介入群5.96・対照群7.88と有意に違っていました(P<0.05)——脱落によって群のバランスが崩れたのです(初回受診470名では介入7.89・対照7.53とほぼ同じでした)。残存率も介入群236→111名(47%)に対し対照群234→168名(72%)と大きく非対称です。著者らはベースラインのう蝕経験を3段階に分けたブロック法で補正していますが、脱落そのものが「厳しい日課に耐えられなかった人」に偏っていた可能性は残ります。著者ら自身、「この厳格な日課が、介入群からの参加者の脱落を大きく説明していると思われる」と書いています。また、う蝕の診断はバイトウィングと視診・触診によるものですが、撮影時期も、追跡時に撮影したかどうかも原著には書かれていません。対象は10〜13歳で、すでにう蝕経験が平均7〜8歯面ある集団です。そして最大の限界——これは「フッ化物なしの機械的清掃」の試験であって、「ブラッシングは無意味だ」という試験ではありません。この結果を「歯磨きは意味がない」と読むのは、論文の設計を無視した誤読になります。

今日のひとこと

3年後のDMFS増加量は、介入群4.27・対照群4.89(ベースライン補正後)。差は12.7%で統計的に有意でなかった(P=0.28)。差はすべて隣接面(近心・遠心)で生じていたが(26%減)、それもP=0.07で有意には届かない。咬合面と頬舌面では差が無かった。一方、プラークは女子で、歯肉炎は男女とも有意に改善したが、夏休みのたびに差は消えた。

Horowitz AM, Suomi JD, Peterson JK, Mathews BL, Voglesong RH, Lyman BA. Effects of supervised daily dental plaque removal by children after 3 years. Community Dent Oral Epidemiol. 1980;8(4):171-176. PMID: 6936116(※PubMedの書誌データは筆頭著者Horowitzが欠落しており、Suomiが筆頭として登録されている。上記は原著の表記に従った)
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。