ペリオ|ペリオ論文100選
「咬合を調整すべきか」という問いは、100年以上決着がついていません。2006年、JADAが同じ号で正反対の主張を並べました。Point側は「咬合力は歯周破壊に寄与する」、Counterpoint側は「限られた場合だけだ」。両者は同じデータを見ながら、違う結論に立っています。この2本を並べて読むと、争点がどこに残っているのかがはっきりします。
①100年決着していない問い
「咬合を調整すべきか」は、歯周治療でいちばん長く揉めている問いです。20世紀初頭、Karolyi は過剰な咬合ストレスを受けた歯に歯周破壊が多いと報告し、Stillman は「歯周治療を成功させるには咬合力をコントロールしなければならない」と説きました。以来100年、決着はついていません。
2006年、JADAが同じ号に正反対の主張を並べました。Point側(Harrel・Nunn・Hallmon)は「咬合力は歯周破壊に寄与しうる。咬合の不調和の治療は歯周治療の不可欠な一部として検討されるべきだ」。Counterpoint側(Deas・Mealey)は「咬合性外傷が本当に存在する特定の場面に限って治療すべきだ」。
②動物実験が決めたこと
1970年代、2つのグループが決定的な実験を行いました。ロチェスターのグループはリスザルに矯正力様の力を繰り返し加え、イェーテボリのグループはビーグル犬に「高い修復物」に相当する咬合力を与えました。それぞれ、口腔衛生が保たれた状態と、軟食でプラークが溜まる状態を比べています。
モデルも力の種類も違うのに、結果はよく似ていました。
- 口腔衛生が保たれ炎症が抑えられていれば、咬合性外傷は動揺の増加と骨密度の低下を招いたが、付着の喪失もポケット形成も起こさなかった
- 咬合力を取り除くと、術前の安定と骨量に戻った
- プラークを溜めて歯肉に炎症を起こすと、骨量の減少と動揺の増加はより大きくなったが、それでも付着の喪失は起きなかった
- 付着の喪失が現れたのは、ビーグル犬の骨支持を外科的に減らし、炎症を起こさせ、そのうえで咬合ストレスを加えた場合だけだった
両グループの結論は「炎症がなければ、咬合性外傷は不可逆的な骨吸収も付着の喪失も起こさない」。動物では、咬合性外傷は歯周病の原因ではない——ここまでは合意されています。
③Point側:不調和のある歯は、1mm深い
Point側の中心的な根拠は、著者ら自身(Nunn & Harrel)が私的診療の場で集めたデータです。89名・2,147歯を、歯単位で解析しました。ここでいう咬合の不調和とは、中心位と中心咬合位の間に1mm以上のスライドがあること、または非作業側接触があることを指します。
56名(62.92%)の患者と307歯(13.35%)に咬合の不調和がありました。そして不調和のある歯は、ない歯よりポケットが約1mm深く、この差は年齢・性別・喫煙などの他のリスク因子にかかわらず認められました(P≤.0001)。ポケットが深いだけでなく、動揺も多く、予後も悪いという結果です。
著者らは重要な但し書きも置いています。この研究が評価したのは「咬合の不調和」であって「咬合性外傷」の診断ではない。外傷の診断は組織学的評価でしか下せず、保存する歯で検証することはできないからです。
④9年後の追跡が示したもの
9年後、Harrel と Nunn は89名の未治療・部分治療・全治療の患者を、咬合の不調和の有無と咬合調整の実施で分けて追跡しました。少なくとも12か月後に再評価しています。
- 治療されなかった咬合の問題がある部位:ポケットは年0.066mm 増加
- 咬合の問題がない部位:年0.048mm 減少
- 咬合の問題を治療した部位:年0.122mm 減少
Point側はここに、Burgett らの無作為化試験で咬合調整群が2年後に0.4mm多く付着を獲得したことと、McGuire と Nunn の予後研究で、パラファンクションを持ちながら咬合装置による治療を受けなかった患者は歯周治療をしても予後が改善せず、喪失歯も多かったことを重ねます。
⑤Counterpoint側:多すぎて、静かすぎる
反論は、同じデータの別の面を突きます。
咬合の不調和は一般集団にありふれている。Yuodelis と Mann の54名では大臼歯の53%に非作業側接触があり、Shefter と McFall の66名では78%に中心位からの偏位、56%に非作業側接触がありましたが、後者は歯周所見との関連を見つけていません。Pihlstrom らが300名の上顎第一大臼歯を調べた研究では、咬耗ファセット60.4%・中心位接触66.4%・非作業側接触7.5%に対し、歯根膜腔の拡大と機能的動揺を伴ったのはわずか4.2%。結論は「これらの接触を持つ歯が、持たない歯より重い歯周炎ということはない」でした。
さらに強い一撃があります。Point側自身のデータで、咬合の不調和をもつ歯の68%は動揺がなかった。「咬合性外傷」とは咬合そのものではなく組織の傷害を指す語であり、傷害がなければ、力が強くても外傷ではない——ならば、その多くに調整を行う目的は何なのか、というのがCounterpoint側の問いです。
Counterpoint側は、Ramfjord と Ash の言葉で立場をまとめています。「調整の必要性は、意味を持たないかもしれない咬合干渉の位置ではなく、外傷性病変の確たる診断に基づくべきである」。
⑥明日の臨床へ
- まず炎症をコントロールする。両者とも、初期治療の中心は口腔衛生と非外科的治療だという点で争っていない
- 「干渉があるから削る」ではなく「傷害の所見があるか」を見る。動揺・フレミタス・歯根膜腔の拡大といった所見と結びついているかを確認する
- 初期治療後に再評価する。持続する動揺や患者の不快感があれば、その時点で咬合治療を検討する——これはCounterpoint側が示した手順で、Point側の主張とも両立する
- 1mm以上のスライドと非作業側接触を記録に残す。Point側の定義はこれ。所見として持っておけば、後から判断できる
- 患者には「削れば歯周病が治る」とは説明しない。咬合力だけでは歯周炎は起きない、が両者の共通見解
⑦ここだけ、冷静に補助線
⑧今日のひとこと
争点は「咬合が歯周病を起こすか」ではなく「既存の歯周炎に上乗せするか」に移っている。そして両者が合意しているのは、炎症のコントロールが先だということ。咬合を見る目は、その次に置く——このくらいの距離感が、いまのエビデンスに合っています。
今日のひとこと
両者が一致している点:過剰な咬合力だけでは歯周炎は起こらない。動物実験では、炎症がコントロールされていれば咬合性外傷は動揺と骨密度の低下を招くが、付着の喪失やポケット形成は起こさなかった。力を取り除けば、術前の安定と骨量に戻った。争点は「既存の歯周炎の進行を、咬合力が悪化させるか」と「咬合の不調和を除くことが治療として要るか」に絞られている。Point側の根拠:89名・2,147歯の解析で、咬合の不調和をもつ歯はポケットが約1mm深かった(P≤.0001)。年齢・性別・喫煙などにかかわらず同じだった。9年の追跡では、咬合の不調和を治療しなかった部位はポケットが年0.066mm増加、問題のない部位は年0.048mm減少、治療した部位は年0.122mm減少した。Counterpoint側の根拠:咬合の不調和は一般集団にありふれており、Point側のデータでも不調和をもつ歯の68%は動揺がなかった。「咬合性外傷」とは咬合そのものではなく組織の傷害を指す語であり、傷害がなければ咬合力が強くても外傷ではない。Counterpoint側の結論は「初期治療は炎症のコントロールに集中し、明らかな外傷性病変と結びついた不調和があるときに調整する」。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


