ペリオ|Phase2 歯周外科
根分岐部病変の大臼歯に根切除。歴史的には「10年で38%失敗」という厳しい報告もありました。1998年、Carnevaleらは175本を10年追い、93%という生存率を出します。そして失敗の内訳を見ると、主因は歯周病ではありませんでした。
①根分岐部の大臼歯は、なぜ失われるのか
歯周治療の目的は、まず炎症を解決することです。スケーリングとルートプレーニング単独で、あるいは軟組織・硬組織の手術と組み合わせることで、適切な術後メインテナンスがあれば歯肉炎は治り、疾患の進行は止まります。
ところが同じ治療プロトコルを、根分岐部病変のある複根歯に当てはめると、歯の喪失率が高くなる——これが長く語られてきた問題でした。
Hirschfeld & Wasserman(1978)は、平均22年のメインテナンス期間の後、根分岐部病変歯の喪失率が31.4%だったと報告しています(単根歯は4.9%)。McFall(1982)も、15〜29年メインテナンスした100名で、根分岐部病変歯57%・単根歯7%という喪失頻度を示しました。
この予後を改善しようと、さまざまな再建的処置が試みられます。ただしGTRが好ましく反応するように見えるのは上顎大臼歯のII度根分岐部欠損に限られ、下顎大臼歯のIII度や上顎大臼歯のIII度では臨床的に有意な結果が出ていませんでした。
そこで根間領域の欠損をなくし、アクセスを作るための「根切除」という別の道が提案されます。しかし報告される成績にばらつきが大きい。Langer(1981)は10年で38%、Buhler(1988)は32%の歯の喪失を報告し、一方でErpenstein(1983)は34本中3本しか失わなかったと述べています。
この振れ幅を、後ろ向き解析の限界も含めて整理するため、本研究は設計されました。
②175本の分岐部病変歯と、対側の175本
対象は、中等度から進行した歯周病で紹介され、10年の観察期間を完了した患者72名(21〜62歳、平均42.7歳)。全員が良好な全身状態で、治療を妨げる既往もありませんでした。
各患者は、根分離や根切除を要する上顎/下顎大臼歯(テスト部位)を1本以上、そして根切除を必要としない後方歯(対照部位)を1本以上もっていることが条件です。
対照群を置いた理由が明快です。「根切除により作られた”修飾された解剖学的形態”と、切除手術後の天然歯の”正常な解剖学的形態”とで、プラーク蓄積と歯周状態が長期にどう違うかを検証するため」。
初診検査と治療計画のセッションののち、全員に適切なプラークコントロールの詳細な指導と、全顎のスケーリング・ルートプレーニングを実施。1〜3か月の治癒とプラークコントロール監督期間を経て、術前検査を行います。
手術では、根分岐部病変歯に根切除と根尖側移動弁+骨形態修正を実施。対照歯には、根切除を除いてまったく同じ手術を行いました。
提供された根分岐部病変歯は182本。うち7本(4%)が手術中に抜去され、175本が残りました。内訳は上顎97本(55%)・下顎78本(45%)。110本(63%)が第一大臼歯、61本(35%)が第二大臼歯です。
根切除の理由は161本(92%)が根分岐部病変で、II度123本・III度38本。残り14本は深い角度性欠損12本とエンド病変2本でした。
上顎大臼歯では61%が1根抜去、19.5%が1根抜去+残り2根の分離、19.5%が2根抜去。下顎大臼歯では49%が1根抜去、51%が2根分離。
結果、175本のテスト歯から計234根が残り、60%が固定ブリッジの終末支台、24%が中間支台、16%が単冠支台として使われました。
6か月の治癒とプラークコントロール監督の後にベースライン検査を行い、2〜6か月ごとのプロフェッショナルクリーニングと口腔衛生の再強化を含むメインテナンスプログラムへ。再検査は術後3年・5年・10年です。
③93%と99%、そして失敗の中身
10年後の生存率は、テスト歯93%、対照歯99%。根切除歯の抜歯7%は、補綴の生存率97%に対応します(10年のメインテナンス期間中に失われたか置き換えられた補綴装置は6つだけ)。
読みどころは失敗の中身です。
テスト群で抜歯された12本の理由は、エンド合併症4本(3・5・6・7年目)、根面カリエス3本(7・8・8年目)、歯周病再発3本(7・10・10年目)、歯根破折2本(7・10年目)。
対照群では2本のみで、歯周病再発1本(6年目)とセメント脱離1本(10年目)でした。
つまり抜歯の総発生率は7%に達したものの、歯周病の再発に限れば2%にすぎない。著者らは、これは観察期間を通じてポケット深さが許容範囲内で安定していた傾向によって説明できるとしています。
ポケットの数字を見ておきます。術前、テスト歯の63%が5mm超のポケットをもっていました(対照歯は25%)。手術後のベースラインでは、テスト歯の100%が1〜3mm。3年後も98%が1〜3mm。5年後は87%が1〜3mm・12%が4〜5mm。10年後は74%が1〜3mm・23%が4〜5mm・3%が5mm超でした。
10年時点で、テスト歯の60%はプラークインデックス0、プロービング時出血は12%、3mmを超えるポケットはわずか3%——著者らはこの数字を、Hampら(1975)の5年研究(生存率99%、平均PI 0.5、平均GI 0.4、87%が3mm以下)とよく一致すると評価しています。
④ただし、掃除は難しくなる
この研究の誠実なところは、都合の悪い数字も出している点です。
プラークインデックスの平均値は、術前0.2(両群)→ベースライン0.1(両群)→3年でテスト0.3・対照0.2→5年でテスト0.5・対照0.4→10年でテスト0.6・対照0.4。10年時点で、対照歯のほうが有意に低い値を示しました(p<0.03)。
ジンジバルインデックスも同様で、術前・ベースライン・3年はいずれも0.1で差なし。ところが5年でテスト0.4・対照0.2(p<0.02)、10年でテスト0.4・対照0.2(p<0.0006)。歯肉の状態は、5年・10年の時点で対照部位のほうが有意に安定していました。
著者らはこう読みます。「5年・10年時点のプラークと歯肉の指標の差は、根切除歯の”修飾された解剖学的形態”が、そうした部位でのホームケアの実行しやすさに長期的に影響したことに関係しうる」。
つまり根切除は歯周組織の問題を解決するが、そのあと患者が掃除しにくい形を残す——ここが長期の弱点になる、という読みです。
加えて両群とも指標が5年目にかけて悪化する傾向がありました(テストp<0.001、対照p<0.017)。ただし5年から10年のあいだには、さらなる有意な悪化はありませんでした。
⑤なぜ報告によって成績がこれほど違うのか
本研究の93%という成功率は、Bergenholz(1972)の93%、Erpenstein(1983)の91%、Carnevaleら(1991)の96%という報告と一致します。
一方でLangerら(1981)の10年で38%の失敗、Buhler(1988)の32%とは大きく異なる。Langerらは、失敗の多くが5年目から7年目のあいだに起きたと報告しています。
失敗の原因構成を比べると、本研究は根尖病変33%・カリエス25%・歯周病再発25%・歯根破折17%。Buhler(1988)は歯根破折47%・エンド関連19%と、破折の割合が高く、エンドの問題が低いという傾向の違いがありました。
歯周病再発による失敗の割合(本研究25%)は、Buhlerの21%、Langerらの26%と近い——つまり「歯周病で失う割合」は各研究で似ていて、違うのは総失敗率のほうです。
著者らの結論はこうです。「報告されている失敗のほとんどが、歯周病の再発以外の理由によることを考えると、適切な診断と症例選択、厳密に管理された治療プロトコル、そして治療の各段階に払われるケアが、術後合併症を最小化する決定的な因子かもしれない」。
⑥明日の臨床へ
①根切除の成否は、歯周治療の腕だけでは決まらない。 失敗の3分の1がエンド合併症、4分の1がカリエス、6分の1が歯根破折でした。根管治療の質、補綴設計、二次カリエスの管理——歯周以外の領域が予後を握っています。
②「掃除しにくい形」を残すことを、最初から織り込む。 5年目以降、プラークと歯肉の指標がテスト側で有意に悪化しました。術後の清掃指導と2〜6か月のリコールは、この形を運用するための必須条件です。
③失敗は5年以降に出る。 本研究の抜歯はすべて3年目以降、多くが7年目以降でした。3年で「うまくいっている」と結論しない。
④予後の説明に使える数字がある。 「根を切った大臼歯が10年で93%残り、そのうち歯周病で失われるのは2%」——抜歯かブリッジかインプラントかを患者と話すとき、この10年の実測値は強い材料になります。
今日のひとこと
根分岐部病変をもつ大臼歯に根切除(または分割)+骨形態修正+根尖側移動弁を行い、対側の非分岐部病変歯(根切除を除いて同一の手術)と比べて10年追った研究(患者72名・21〜62歳。テスト175本、対照175本)。根切除の理由は161本(92%)が根分岐部病変(II度123本・III度38本)。175本のテスト歯から計234根が残され、60%が固定ブリッジの終末支台、24%が中間支台、16%が単冠支台として使われました。10年後の生存率は、テスト93%、対照99%。抜歯はテスト12本(エンド合併症4・根面カリエス3・歯周病再発3・歯根破折2)、対照2本(歯周病再発1・セメント脱離1)——つまり歯周病再発による抜歯は175本中3本=2%にとどまりました。補綴の生存率は97%(10年で6装置が喪失または再製)。ポケット深さは術前に63%が5mm超だったのが、10年後には74%が3mm以下・3%のみ5mm超。ただしプラークインデックスとジンジバルインデックスは、5年目以降テスト側が対照側より有意に悪くなっています。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


