ペリオ|Phase2 歯周外科
抜歯窩保存(ARP)は広く行われていますが、「どの術式が、臨床判断に使える指標でどれだけ効くのか」を比較した情報は限られていました。2019年、Avila-Ortizらは3,003件から22件のRCTを選び出し、9つの術式を整理したうえで、上乗せ幅をメタ解析で数字にしています。
①抜いたあとの骨は、どれだけ守れるのか
抜歯をすると、歯槽堤は縮みます。咬合刺激を失った歯槽骨に、外科侵襲に伴う局所の炎症反応が重なり、廃用性萎縮という生理的な過程が始まる——最初の数週間で、骨吸収と粘膜の陥凹が進みます。
だからこそ抜歯窩保存(ARP)が広く行われてきました。骨補填材を填入する、バリアで封鎖する、あるいは両方。過去20年で多くの術式が提案され、系統的レビューも複数あります。
ただし、「どのARP術式が、臨床判断に使える指標でどれだけ効くのか」を比較した情報は限られていました。2019年、Avila-Ortizらは第15回ヨーロッパ歯周病学会ワークショップの一環として、この空白を埋めるレビューを行っています。
②3,003件から22件のRCTへ
PubMed・Scopus・Cochrane Library・Web of Scienceの4データベースに加え、灰色文献2件と手検索を行い、重複を除いた1,789件をスクリーニング。最終的に25本の論文=22件のRCTが選ばれ、うち16件が量的統合(メタ解析)に入りました。
組み入れ基準が明確です。並行群間またはスプリットマウスのRCTのみ、18歳以上、第三大臼歯を除く単根/複根歯の抜歯、追跡3〜6か月、ARP群と無処置の抜歯窩(対照)を比較していること。骨の寸法変化は最も歯冠側の3mm以内で測定されたものに限るという条件もついています。
同定されたARPの術式は9つ。①ウシ骨顆粒+ソケットシーリング ②ウシ骨90%+ブタコラーゲン10%の構造体+シーリング ③皮質海綿骨のブタ骨顆粒+シーリング ④同種骨顆粒+シーリング ⑤人工材料(シーリングの有無を問わず)⑥自家血液由来製剤 ⑦細胞治療 ⑧rhBMP-2 ⑨ソケットシーリング単独です。
③メタ解析が示した上乗せ幅
骨補填材を用いたARP(ARP-SG)をまとめて解析した結果、水平的な骨吸収の抑制は平均1.99mm(95%CI 1.54–2.44、p<0.00001)。垂直的には中央頬側で1.72mm(95%CI 0.96–2.48)、中央舌側で1.16mm(95%CI 0.81–1.52)でした。
ここで注目したいのは効果の出方の順序です。ARPの効果がもっとも大きいのは水平的な骨吸収の予防で、次いで垂直的な中央頬側、そして中央舌側の順——著者らはこう整理しています。抜歯後の吸収が頬舌方向に大きいという臨床像と、きれいに対応しています。
術式間の優劣は決められませんでした。「ARPとソケットシーリングのどちらのアプローチが優れているかは、選ばれたエビデンスからは判断できない」と明記されています。ただし傾向としては、異種骨または同種骨の顆粒を吸収性コラーゲン膜あるいは速吸収性コラーゲンスポンジで覆う方法が、水平的な歯槽堤保存でもっとも好ましい結果と関連していたとされています。
④頬側骨が厚いほうが、効果は大きく出た
興味深いのは、局所の解剖条件で層別した解析です。頬側骨壁の厚みが1.0mmを超える部位では、同種骨+ソケットシーリングと対照の差が3.2mm。頬側壁が薄い部位では、その差は1.29mmにとどまりました。
つまり厚い頬側骨をもつ部位のほうが、ARPの上乗せは大きく出たということです。本文中でも、頬側骨が厚い表現型(1.0〜1.5mm超)の部位で全群とも良好な結果が観察されたと述べられています。
ただし、この点には反対の報告もあります。Cardaropoliらは、頬側骨の初期の厚みと最終的な歯槽堤の寸法に相関を認めず、ARP-SGが薄い頬側骨の負の影響を打ち消しうると示唆しました。著者らは「他の局所因子・全身因子の影響は、今回の量的解析では評価できなかった」と断っています。
患者立脚アウトカム(PROMs)については、自家血液由来製剤を用いた2件で実験群と対照群が同等と報告されただけで、他のARP術式では報告そのものがありませんでした。
⑤明日の臨床へ
①ARPは「縮み方を和らげる」処置であって、「縮まなくする」処置ではない。 著者らの結論も「歯槽堤の寸法減少を減弱させる有効な治療」という表現です。1〜2mmの上乗せをどう評価するかは、その部位の必要量次第でしょう。
②低侵襲な抜歯と組み合わせる。 臨床的示唆として「歯槽堤の減少を最小化するため、低侵襲な抜歯と併せてARPを検討すべき」と明記されています。
③どの材料を選ぶかは、まだ決着していない。 傾向としては顆粒状の異種骨・同種骨+吸収性コラーゲン膜が好ましいものの、比較の決着はついていません。
④3〜6か月という時間軸の話であることを忘れない。 組み入れ基準が3〜6か月の追跡であり、それ以降の変化はこのレビューの外です。
今日のひとこと
第15回ヨーロッパ歯周病学会ワークショップの一環として行われた系統的レビュー。4データベースと灰色文献・手検索で3,003件を同定し、重複を除いた1,789件をスクリーニングして25本の論文=22件のRCTを選定、うち16件がメタ解析に入りました。組み入れは並行群間またはスプリットマウスのRCTのみ、18歳以上、第三大臼歯を除く抜歯、追跡3〜6か月、無処置の抜歯窩を対照とし、骨の寸法変化は最も歯冠側の3mm以内で測定されたものに限定されています。同定されたARP術式は9つ(ウシ骨顆粒+ソケットシーリング、ウシ骨90%+ブタコラーゲン10%の構造体、皮質海綿骨のブタ骨顆粒、同種骨顆粒、人工材料、自家血液由来製剤、細胞治療、rhBMP-2、ソケットシーリング単独)。ソケットグラフトによるARPは、抜歯単独と比べて水平的な骨吸収を1.99mm(95%CI 1.54–2.44)、垂直的な骨吸収を中央頬側で1.72mm(95%CI 0.96–2.48)・中央舌側で1.16mm(95%CI 0.81–1.52)抑制しました(いずれも p<0.00001)。効果がもっとも大きいのは水平的な骨吸収の予防で、次いで垂直的な中央頬側、中央舌側の順です。どのARP術式が優れているかは選ばれたエビデンスからは判断できませんでしたが、異種骨または同種骨の顆粒を吸収性コラーゲン膜あるいは速吸収性コラーゲンスポンジで覆う方法が、水平的な歯槽堤保存でもっとも好ましい結果と関連していました。頬側骨壁が1.0mmを超える部位ではARPと対照の差が3.2mm、薄い部位では1.29mmと、厚い頬側骨をもつ部位のほうが上乗せは大きく出ています。ただし選ばれた22件のうち低リスクバイアスと判定された研究は1件もなく(10件が不明確・12件が高リスク)、最大の理由はアウトカム評価者の盲検化がないことでした。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


