ペリオ|Phase2 歯周外科
根面被覆でCTGを足すべきか——多くの場面で答えは「足す」でしょう。ではくさび状欠損(NCCL)をCEJまで修復した退縮ではどうか。2020年、Cairoらが30名を12か月追跡したところ、被覆では差がつかず、代わりに「術前の歯肉の厚み0.84mm」という分岐点が現れました。
①CTGは、いつも足したほうがいいのか
根面被覆で結合組織移植(CTG)を足すべきか——多くの場面で、答えは「足す」でしょう。ベイジアンネットワークメタ解析でも、CTGは根面被覆のゴールドスタンダードとされてきました。
ただ、この研究が扱うのは少し特殊な症例です。くさび状欠損(NCCL)を伴う歯肉退縮。353名から集めた1,010の歯肉退縮を調べた疫学研究では、39%がCEJレベルの歯質欠損を伴っていたと報告されています。決して珍しくありません。
こうした症例では、まずコンポジットレジンでエナメル質とCEJを再建してから、根面被覆に進むという流れが提案されてきました。ではCEJを修復済みの退縮で、CAFにCTGを足す追加の利益はあるのか——これを直接調べたRCTは、これまでありませんでした。
②CEJを直してから、30名を振り分ける
ローマ・ラ・サピエンツァ大学の単施設・並行群間RCT。38名を評価し、参加を辞退した8名を除く30名を、CAF+CTG群14名とCAF単独群16名にランダム割り付けしました(脱落ゼロ)。
組み入れ条件が細かく設定されています。18歳以上、全身疾患・妊娠なし、喫煙は1日10本以下、全顎のプラークスコアと出血スコアが10%以下、上顎前方部(中切歯・側切歯・犬歯・第一/第二小臼歯・第一大臼歯)の深さ2mm以上のRT1単独退縮、NCCLを伴い、審美的な訴えまたは知覚過敏があること。除外は補綴冠のある歯、退縮の根尖側の角化組織が1mm未満、根面に2mmを超える大きな水平段差がある症例です。
手術に先立ち、全例でNCCLをコンポジットレジン充填してエナメル質とCEJを再建。CEJの位置は隣在歯・対側同名歯の解剖学的指標で同定し、修復物の広がりは理想的なCEJレベルの1mm根尖側までに留めています。
術者は歯周形成外科15年以上の経験を持つ1名。盲検化された1名の検者が全アウトカムを評価し、14名を対象とした較正セッションで級内相関係数は退縮深さ0.87・歯肉の厚み0.62でした。割り付けは統計担当者が生成した乱数表に基づき、不透明な封筒でフラップ挙上後に開封されています。
術式は両群とも、歯肉歯槽粘膜境を越える2本の斜切開でsplit-full-splitの弁を挙上し、鋭匙で骨頂から1mmまで根面デブライドメント。CTG群では厚さ1mmの移植片を口蓋または臼歯部からトラップドアあるいは脱上皮法で採取し、裂開部に骨膜縫合で固定します。弁は両群とも、修復したCEJより1〜2mm歯冠側へ移動しました。
③被覆では差がつかず、組織の質で差がついた
主要評価項目である退縮の減少量は、CAF+CTG 3.1±0.7mm、CAF単独 2.7±0.6mm。有意差はありません(p=.1838)。完全根面被覆はCAF+CTG 10/14(71%)、CAF単独 8/16(50%)で、こちらも有意差なし(相対リスク1.43、95%CI 0.79–2.58、p=.2839)。1年後、全ての修復物は保持され、プロービング深さもわずかでした。
一方、組織の量と質では明確に差がつきました。角化組織の幅はCAF+CTG 4.6±0.5mm、CAF単独 3.3±0.7mm(差1.4mm、95%CI 1.0–1.8、p<.0001)。歯肉の厚みは1.38±0.09mmと0.86±0.16mm(差0.52mm、95%CI 0.41–0.63、p<.0001)。
著者らはこの点を、「軟組織移植は歯肉のフェノタイプを変える予測性の高い方法であり、長期の歯肉縁の安定につながる」という文脈で評価しています。そして「CAF単独では、ベースラインと比べて角化組織を有意に変化させられないことを確認した」とも。
代償もはっきりしています。手術時間はCAF+CTG 55.4±5.3分に対しCAF単独 38.4±3.3分(約17分の差、p<.0001)。術後10日間の鎮痛薬服用は4.0±0.8錠と2.6±0.9錠(差1.4錠、p=.0001)。不快感の続いた日数も2.6±0.5日と1.4±0.6日(差1.2日、p<.0001)。
興味深いことに、抜糸時のVASによる不快感の強さ自体には群間差がありませんでした(29.4 vs 24.5、p=.2561)。著者らは、複数歯退縮のRCTで差が出ないのは移植片の採取量が多いためかもしれないと考察しています。最終的な患者満足度も、CTG群90.9±10.7、CAF単独群95.4±6.0で有意差なし(p=.1531)。全員が高い満足を示しました。
④0.84mmという分岐点
この研究のいちばんの発見は、治療法とベースラインの歯肉の厚みの「交互作用」です。
退縮の減少量について、交互作用が有意(p=.0014)。ベースラインの歯肉の厚みが0.84mm以下ならCTGを足すほうが大きな退縮減少につながり、0.84mmを超えるとCAF単独のほうが良い結果と関連していました。
審美評価(RES:Root coverage Esthetic Score)でも同様の交互作用が有意(p=.0004)。境目は0.82mmで、それ以下ならCTG併用のRESが高く、それを超えるとCAF単独のほうが盲検検者による審美評価が良かったのです。患者自身の審美VASでも、0.76mm以下ならCTG併用が高く、0.82mm超ならCAF単独が良好という同じ形の関係が見られました。
著者らはこの結果を、「もともと十分にある角化組織を過剰に厚くすることへの注意喚起」と読んでいます。軟組織の質感が損なわれ、色調が不快に変化し、歯肉縁や歯肉歯槽粘膜境の位置が変わることで、もとの軟組織の性状と最終的な審美評価を妨げうる——という理屈です。
⑤明日の臨床へ
①NCCLをCEJまで修復してからのCAFは、単独でも成立する。 著者らの結論の第一項がまさに「両術式ともCEJを修復したRT1単独退縮の根面被覆に有効だった」です。
②CTGを足すかどうかは、術前の歯肉の厚みで決める。 結論には「CAF+CTGは薄い歯肉フェノタイプ(0.8mm未満)の退縮で全体としてCAF単独より有効であり、CTGの使用はこうした症例に選択的に限定してよい」と書かれています。
③厚い歯肉に、さらに厚みを足しにいかない。 「角化組織が十分にある(0.8mm超)症例ではCAF単独のほうがRESで良い審美結果を示し、ベースラインの角化組織を過度に厚くすることには注意が必要」——これも結論の一項です。
④CTGを足すなら、負担の増加を事前に伝える。 手術時間が約17分伸び、鎮痛薬が1.4錠増え、不快感が1.2日長く続きます。
今日のひとこと
NCCLをコンポジットレジンでCEJまで再建したうえで、CAF+CTGとCAF単独をランダムに割り付けて12か月追跡した単施設RCT(30名・脱落ゼロ・上顎前方部のRT1単独退縮・術者は歯周形成外科15年以上の1名・評価者は盲検)。主要評価項目である退縮の減少量は、CAF+CTG 3.1±0.7mm、CAF単独 2.7±0.6mmで有意差なし(p=.1838)。完全根面被覆も10/14(71%)対8/16(50%)で有意差なし(相対リスク1.43、95%CI 0.79–2.58)。差が出たのは組織の量と質で、角化組織の幅がCAF+CTG 4.6mm対CAF単独 3.3mm(差1.4mm、95%CI 1.0–1.8)、歯肉の厚みが1.38mm対0.86mm(差0.52mm、95%CI 0.41–0.63)といずれも p<.0001。そして最大の発見は、治療法とベースラインの歯肉の厚みの交互作用です(退縮の減少量 p=.0014、審美スコア p=.0004)。歯肉の厚みが0.84mm以下ならCTGを足すほうが大きな退縮減少につながり、0.84mmを超えるとCAF単独のほうが良い結果と関連していました。審美評価では境目が0.82mmで、それを超えるとCAF単独のほうが盲検検者による評価が良好でした。代償として、手術時間は約17分長く(55.4分対38.4分)、鎮痛薬は1.4錠多く、不快感の続く日数も1.2日長い(いずれも p<.0001)。ただし抜糸時のVASによる不快感の強さと最終的な患者満足度には群間差がありませんでした。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


