1問1答 論文 歯周病

根分岐部病変の臼歯は、もう抜くしかない?──歯周治療で10年以上もたせられる長期データ(Dannewitz 2015)

ペリオ(歯周病)

根分岐部病変の臼歯、もう抜くしかない?

歯周治療を受けた臼歯1,015本を平均13年あまり追ったら、最も重い根分岐部III度でも平均11.8年もちこたえていた。抜歯を急ぐ前に読み返したい一本。

論文
歯周治療を受けた臼歯1,015本の臼歯喪失リスク解析(平均13.2年)
著者
Dannewitz B, Zeidler A, Hüsing J, Saure D, Pfefferle T, Eickholz P, Pretzl B
掲載
J Clin Periodontol. 2016;43(1):53–62
種類
後ろ向き研究(136人・臼歯1,015本・多変量Cox回帰)
PMID
27173702

「分岐部病変はもたない」は、どこまで本当か

レントゲンを見て、奥歯の根の股(根分岐部)に黒い影。プローブを入れると、根と根の間がスッと通ってしまう。こうなると、つい「ここはもう難しいかな」と頭が切り替わりませんか。根分岐部病変のある臼歯は清掃が届きにくく予後が読みにくい——だから「迷ったら抜歯」という空気が、現場には根強くあります。

ただ、その「予後が悪い」が、具体的に何年もつのかは、意外とはっきり語られてきませんでした。「III度はもう厳しい」という感覚はあっても、それが3年なのか10年なのか、人によって温度差がある。

そして抜歯を急ぐと、その後はインプラントやブリッジへ進みます。それ自体は選択肢ですが、「天然歯をもう少しもたせる」という時間を手放すことでもあります。では、歯周治療をきちんと受けた臼歯は、分岐部病変があっても実際どこまでもつのか。

今回の一手:臼歯1,015本を、最長10年以上追いかける

この研究が頼もしいのは、実際の患者さんの臼歯を、長期にわたって追った後ろ向き研究だという点です。

対象:歯周治療を受けた136人、ベースラインの臼歯1,015本
評価軸:治療開始時に根分岐部病変の程度(Hampの分類で0〜III度)を記録し、どの歯が抜歯に至るかを追跡
追跡:能動的な歯周治療のあと、平均13.2年のメインテナンス(SPT)期間
解析:多変量Cox回帰で「どんな要因が抜歯につながるか」を統計的に洗い出す

ただ「もった・もたなかった」を数えるのではなく、何が予後を左右するのかまで踏み込んでいるのが値打ちです。さて——分岐部病変のある臼歯は、どこまで生き残っていたのか。

結果①:最も重い病変でも、平均10年以上もちこたえた

まず、いちばん伝えたい数字から。能動的治療の段階で抜けたのは50本、その後の平均13.2年のメインテナンス期間で抜けたのは154本。全体としては、歯周治療を受けた臼歯の多くが、長期にわたって口の中に残っていたのです。驚くのは、重い病変のグループの「もち」です。

0 5.3年 10.7年 16年 平均生存年数(年) 11.8年 14.4年 13.2年 根分岐部 病変III度 骨吸収 60%超 (参考)平均SPT期間 重い条件でも平均10年以上もつ。根分岐部III度でも平均11.8年、骨吸収60%超でも14.4年(N=1,015本)
重い条件でも平均10年以上もつ。根分岐部III度でも平均11.8年、骨吸収60%超でも平均14.4年(N=1,015本)

根分岐部III度(根の股が完全貫通)の臼歯でも平均11.8年骨吸収60%超でも平均14.4年。「III度はもう抜くしかない」という感覚からすると、平均11.8年というのはかなり長い猶予です。もちろん平均値ですが、それでも重い病変=即抜歯ではないことを、この数字は示しています。

結果②:では、何が「抜けやすさ」を押し上げるのか

とはいえ、すべての歯が同じようにもつわけではありません。この研究は、抜歯リスクを高める要因を統計的に洗い出しました。

0 2倍 4倍 6倍 抜歯リスク(ハザード比) 5.2倍 4.7倍 3.7倍 3倍 2倍 2倍 1.6倍 糖尿病 根分岐部III度 骨吸収60%超 根管治療歴 女性 喫煙 年齢 「抜けやすさ」を押し上げる要因(多変量Cox回帰)。値が大きいほど抜歯リスクが高い。すべて統計的に有意
「抜けやすさ」を上げる要因(多変量Cox回帰のハザード比)。最大は糖尿病。局所だけでなく全身の状態も効く

歯そのもの(局所)では、根分岐部III度が4.68倍・骨吸収60%超が3.74倍・根管治療歴が2.98倍。そして見逃せないのが患者さん側で、糖尿病が5.25倍と今回いちばん大きい。喫煙1.97倍・女性1.99倍・高齢1.57倍も有意でした。歯の局所だけでなく、全身の状態が臼歯の運命を大きく左右する——歯周病が全身と地続きであることを、改めて突きつける結果です。

明日の臨床へ──「抜く前に、もたせる選択肢を」

ヒントは大きく二つ。ひとつは、分岐部病変があっても、まず歯周治療とメインテナンスを試す価値があること。「III度だから抜歯」と反射的に判断する前に、「平均11.8年もつ可能性がある歯」としてもう一度向き合う。自分の歯で10年過ごせることの意味は、患者さんにとって小さくありません。

もうひとつは、リスク要因を患者さんと共有すること。糖尿病・喫煙・根管治療歴は抜歯リスクを大きく押し上げ、とくに糖尿病は最大の要因でした。血糖コントロールや禁煙が、巡り巡って「奥歯を守る」ことにつながる。「抜く・抜かない」の二択ではなく、「どうすれば、この歯をもう少しもたせられるか」へ問いを立て直すだけで、できることはぐっと増えます。

ここだけ、冷静に補助線
この研究は後ろ向きで、歯周病専門施設に通い、メインテナンスを続けた集団の記録です。だから一般の臨床より良い成績が出やすい面はあり、「平均11.8年」は平均値で、すべてのIII度がそうもつ保証ではありません。だから「分岐部病変があっても抜かなくていい」と一足飛びに読むのは行きすぎ——この数字は"適切な歯周治療とメインテナンスを前提にすれば、ここまでもたせうる"という到達点です。それでも「重い病変の臼歯も、歯周治療とメインテナンスで長期に機能しうる」という結論は揺らぎません。抜歯を急ぐ前に、この"もたせられる年数"を頭の片隅に。

今日のひとこと

「根分岐部病変があるから抜歯」——その判断は、データではなく経験則の慣れが言わせているのかもしれません。重い病変の臼歯でも、まず歯周治療とメインテナンスで「もたせる」選択肢を。抜くのは、いつでもできます。

出典:Dannewitz B, Zeidler A, Hüsing J, Saure D, Pfefferle T, Eickholz P, Pretzl B. Loss of molars in periodontally treated patients: results 10 years and more after active periodontal therapy. J Clin Periodontol. 2016;43(1):53–62. PMID: 27173702.
※本記事は論文の要点を歯科医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
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