ペリオ|ペリオ論文100選
洗口液としてのクロルヘキシジン(CHX)の効果は確立しています。ならば、患者が毎日必ず使う歯磨剤に入れてしまえばいい——そう考えるのは自然です。ところがCHXは陽イオン性で、歯磨剤の成分と相性が悪い。ジェルならどうか。2013年、アムステルダム大学(ACTA)のグループが389件の文献を絞り込み、この問いに答えました。歯磨剤とジェルで、結果がきれいに分かれています。
①毎日使うものに、混ぜられないか
クロルヘキシジン(CHX)洗口液が、プラークと歯肉炎を有意に減らすことは確立しています。ならば患者が毎日必ず使う歯磨剤に入れてしまえばいい——そう考えるのは自然な発想です。実際、著者らも「プラークコントロール剤を運ぶ理想的な媒体は歯磨剤である」と書いています。
ところが話は簡単ではありません。CHXは反応性の高い陽イオンで、歯磨剤に含まれる陰イオン性の成分——たとえばラウリル硫酸ナトリウム(SLS)のような界面活性剤——によって不活化されうるのです。CHX配合の歯磨剤は処方できるが、利用可能なCHX量を犠牲にして、というかたちになるという研究もあります。
ではジェルならどうか。研磨剤も界面活性剤も入っていないジェルなら、CHXの活性は保てそうです。この論文は、歯磨剤とジェルを分けて評価しました。
②389件から、11論文
MEDLINE・EMBASE・Cochrane CENTRALを2013年7月1日まで検索し、389件のユニークな文献を得ました。タイトルと抄録で363件を除外し、26件を全文評価。さらに15件を除いて11論文が採用されています。
そこから12実験・16比較が抽出されました。CHX配合歯磨剤が9比較(濃度0.4〜1.0%)、CHXジェルが7比較(濃度0.2〜2.0%)です。
研究デザインも対象者も結果もばらつきが大きく、メタアナリシスは実施できませんでした。そのため票数(vote counting)による記述的解析が行われています。バイアスリスクは、低が5論文、中等度が3論文、高が3論文。11論文中5論文が第三者(企業)の関与に言及しています。
③歯磨剤とジェルで、結果が分かれた
CHX配合歯磨剤——プラークスコアを評価した6比較すべてで、0.4%・0.6%・0.8%・1%のいずれの濃度でも、プラセボ歯磨剤に対して有意な正の効果がありました。6比較のうち4比較で歯肉指数が改善し、歯肉出血を評価した4比較はすべて有意に減少しています。
CHXジェル——7比較のうち、プラセボに対して有意な効果を認めたのは2比較だけ。プラークスコアを評価した5比較のうち有意だったのは2、出血スコアは3比較中1にとどまりました。
GRADEによる格付けもこの差を反映しています。CHX配合歯磨剤は「中等度」、CHXジェルはプラーク・歯肉指数で「弱い」、出血・着色では「非常に弱い」。
④ジェルが効かなかったのは、ブラッシングと組み合わせたから
ここが読みどころです。ジェルそのものが無効なのではありません。
- トレーで3週間適用した非ブラッシングモデルでは、CHXジェルはプラークと歯肉炎を有意に減らした
- 1%のCHXジェルは、0.12%CHX歯磨剤・ジェルよりプラーク形成を有意に抑制し、0.2%CHX洗口液と同等の効果があった
- 指で歯と歯肉に塗り、約5分置いてから洗口する使い方では、6〜24週の研究で有意な改善が得られている
つまり「CHXジェルはブラッシングと組み合わせると効かないが、指で歯と歯肉に塗る使い方では効く」。著者らは仮説として局所での用量/濃度が要因ではないかと述べています。ジェルは唾液中で容易に崩壊・溶解して他の歯面に吸着しないという研究もあり、ブラッシングで薄まってしまう構図が見えます。
⑤着色という、避けがたい代償
CHXの最も臨床的に厄介な副作用は着色です。この論文もそこを正面から扱っています。
着色はCHX配合歯磨剤でより顕著でした(1比較のみ増加を認めず)。ある研究では参加者の30%が許容できない量の着色と判断しています。他に報告された副作用は味(苦味や変化)のみでした。
そして、この分野には有名な警句があります。「着色しないなら、効かない(If it does not stain it does not work)」。着色しないと謳ったCHX洗口液は、後に臨床活性を欠くことが示されました。このレビューでも、着色の有意な増加がなかった2研究は、どのパラメータにおいても無効だったのです。
対策としては、CHXと酸素系の洗口液を交互に使うと、プラーク抑制を妨げずに着色を減らせるという中等度のエビデンスがあると紹介されています。
⑥明日の臨床へ
- CHXを勧めるなら、歯磨剤という形はエビデンスがある。プラーク・歯肉炎の管理に有効でありうる(GRADE中等度)
- CHXジェルを「歯ブラシにつけて磨く」使い方は勧められない。この使い方での効果は確認されていない
- ジェルを使うなら、指で歯と歯肉に塗って5分置く形。効果が示されているのはこちらの使い方
- 着色は必ず説明する。「着色しないものは効かない」——効果と着色は切り離せない。事前に伝えていないと中断につながる
- 期間を区切って使う。ADAの基準は4週間の評価期間だが、この分野の中間長期の試験(2週間〜2か月)は、患者の実際の長期使用を反映しない可能性があると指摘されている
- これは歯肉炎の患者が対象。歯周炎の患者は除外されている
⑦ここだけ、冷静に補助線
⑧今日のひとこと
効くかどうかは、成分だけでは決まらない。CHXという同じ薬剤が、歯磨剤では効き、歯ブラシにつけたジェルでは効かず、指で塗ると効く。「何を使うか」と同じくらい「どう使うか」を確認する——患者に手渡す前の一手間が、そのまま結果を分けます。
今日のひとこと
採用された16比較のうち、CHX配合歯磨剤が9比較、CHXジェルが7比較だった。CHX配合歯磨剤:プラークスコアを評価した6比較すべてで、0.4%・0.6%・0.8%・1%のいずれの濃度でもプラーク抑制に有意な正の効果があった。6比較のうち4比較で歯肉指数が有意に改善した。歯肉出血を評価した4比較すべてで、プラセボ歯磨剤に対して有意な減少が認められた。CHXジェル:7比較のうち5比較でプラークスコアが評価されたが、有意な効果を示したのは2比較にとどまった。出血スコアを評価した3比較のうち、有意な効果は1比較のみ。歯面の着色は、CHX配合歯磨剤でより顕著だった。GRADEによる格付けは、CHX配合歯磨剤が「中等度」、CHXジェルはプラーク・歯肉指数で「弱い」、出血・着色で「非常に弱い」。著者らの結論は「CHXジェルでのブラッシングは決定的な根拠を与えない。CHX配合歯磨剤でのブラッシングはプラークと歯肉炎の管理に有効でありうる。ただし副作用として着色が観察され、患者のコンプライアンスに negative な影響を与えうる」。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


