ペリオ|ペリオ論文100選
フラップを開けて骨縁下欠損を目にしたとき、どこまで根面を器具で追うべきか迷います。「病的セメント質はすべて除去する」と習った世代も多いはずです。1990年、メリーランド大学とノーフォーク海軍歯科クリニックのグループが、39名・260の骨縁下欠損を実際に開け、歯石がどこまで達しているのかを測りました。答えは、思っているより浅いところにありました。
①どこまで、根面を追うのか
フラップを開けて骨縁下欠損を目にしたとき、器具をどこまで入れるべきか迷います。多くの著者が「根面からすべての歯石を除去し、治癒を助けるために健全なセメント質はできるだけ残す」ことを推奨してきました。しかし、実際に歯石はどこまで達しているのか——それを正面から測った研究は多くありません。
ポケットが深いほど歯石除去が難しくなることは、複数の研究が示してきました。ですが「骨縁下欠損の中で、歯石が臨床的にどこにあるか」を検討した報告は、ほとんどなかったのです。
②歯石の位置に、印を刻む
この研究の要は測り方にあります。全層弁を頬側・口蓋/舌側に翻転し、根面には器具を入れずに肉芽組織だけを除去。そのうえで拡大ルーペとファイバー光を使い、歯石の最根尖レベルにNo.1/4ラウンドバーで溝を刻みました。この溝が、臨床的にも組織学的にも共通の基準点になります。
キャリブレーション済みのWilliamsプローブで測った項目は2つ。骨頂から歯石基部まで(AC-GR)と、歯石基部から欠損底まで(GR-BD)です。
そのうえでルートプレーニングは基準溝より歯冠側にのみ実施。溝より根尖側には、浮遊した破片を取る目的の手早い超音波デブライドメントだけを行いました。6か月後、第二次手術で根と隣接組織をブロックで採取し、脱灰・薄切して組織像を評価しています。
③歯石は、半分までしか来ていなかった
260欠損の平均値はこうです。欠損の総深さ6.21±2.02mm(範囲2〜14mm)、骨頂から歯石基部まで3.12±1.37mm、歯石基部から欠損底まで3.06±1.27mm。
つまり歯石の最根尖端は、およそ欠損の半分の深さで止まっていました。そして組織切片において、基準溝より根尖側に歯石は認められませんでした。
ここで重要なのは、この関係が「一定の距離」ではなかったことです。欠損が深いほど、歯石の根尖端から欠損底までの距離は大きくなりました(相関係数 r=0.83)。深さ4mmの欠損では約2mm、14mmの欠損では約7.5mm——深い欠損ほど「歯石のない根面」が長く続いているという構図です。
④3壁性の欠損で、さらに離れる
欠損の形態別に見ると、根尖側に3壁成分をもつ欠損群は、1壁群・2壁群と有意に異なりました(P<0.02)。歯石の根尖端から欠損底までの距離は、2壁性2.80mm、1壁性3.10mm、3壁性3.33mm、2-3壁性4.11mmです。
歯石のない部分がより長い=3壁性の欠損は「最近になって露出した根面」を多く含んでいる可能性がある。著者らはそう読んでいます。歯種や残存骨壁の数によって、歯石基部と欠損底の関係が変わることはありませんでした。
⑤なぜ、そこで止まるのか
著者らは複数の説明を並べています。断定はしていません。
- 歯肉縁下歯石の形成には時間がかかる。石灰化の開始時期は患者間・歯間で大きく異なり、歯石が大きさと付着の程度において「成熟」するまでには未知の期間が必要。欠損の根尖部分は、最も新しく歯周ポケットに露出した部位である
- 歯石より根尖側の根面は、結合組織性付着とシャーピー線維に覆われた健全なセメント質の領域かもしれない。この部位を温存することが、外科後の再付着(fiber retention procedure)の生物学的根拠になっている。Wirthlin は「このゾーンへの不用意な器具操作は、結合組織性付着のさらなる喪失につながりうる」と結論している
- 咬合性外傷が、欠損の一部を作っている可能性。過度の動揺はこの集団で共通の所見だった。動揺による骨吸収と骨頂高径の変化は、外科的な露出時に骨欠損を実際より大きく見せうる
ただし著者らは慎重です。「これらの結果は、器具操作前に基準溝より下に歯石が存在しなかったことを証明するものではない」。溝より根尖側の組織切片に歯石が見えなかったことから言えるのは、その領域の歯石があったとしても、超音波デブライドメントで容易に除去される程度に緩く付着していたということです。
⑥明日の臨床へ
- フラップを開けたら、歯石の根尖端がどこにあるかをまず見る。この研究の中核は、それを直接見て印をつけたこと。拡大とライトがあれば臨床でも同じことができる
- 骨縁下欠損の底まで、全例で徹底したルートプレーニングを行う必要性は疑わしい。歯石は半分の深さで止まっており、その下では付着装置の修復が組織学的に確認された
- ただしこれは外科的処置の話。著者らは「非外科的治療の根拠として解釈すべきではない」と明記している。3〜4mmを超えるポケットでは、SRPによる歯石除去そのものが不十分になるという研究が複数ある
- 歯冠側では話が別。歯石は吸収窩・セメント質の裂隙・根面の削れ・う蝕に「ロックイン」されうる。臼歯の根分岐部では増生セメント質に埋め込まれた歯石も見つかっている。歯石の根尖端より上をきちんとルートプレーニングする理由は、明確にある
- やりすぎの害も具体的。軟組織に覆われないCEJ付近では、過度なルートプレーニングが術後知覚過敏やう蝕を悪化させうる
⑦ここだけ、冷静に補助線
⑧今日のひとこと
歯石は、欠損の半分までしか来ていなかった。しかも深い欠損ほど、その下の「歯石のない根面」は長くなる。削るべき場所と、残すべき場所を分けて考える——外科の場で器具を持つ手が、少し変わる数字です。
今日のひとこと
260の骨縁下欠損で、欠損の総深さ(骨頂〜欠損底)は平均6.21±2.02mm(範囲2〜14mm)だった。骨頂から歯石の最根尖端までは3.12±1.37mm、歯石の最根尖端から欠損底までは3.06±1.27mm。つまり歯石の根尖端は、欠損のおよそ半分の深さにとどまっていた。組織切片において、基準溝より根尖側に歯石は認められなかった。欠損が深いほど、歯石の根尖端から欠損底までの距離は大きくなった(r=0.83)。歯石の位置は、欠損の総深さの一定の割合にあるのではなく、深い欠損ほど「歯石のない部分」が長くなる関係だった。根尖側に3壁成分をもつ欠損は、1壁・2壁の欠損よりこの距離が有意に大きかった(P<0.02)。歯種や残存骨壁の数によって、歯石基部と欠損底の関係が変わることはなかった。組織形態計測により、多くの欠損で歯石基準溝のレベルまで付着装置が修復される可能性が示された。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


