ペリオ|Phase2 歯周外科
遊離歯肉移植(FGG)で、移植片はいつ受容床とつながるのか。1988年、Nobutoらは犬56頭を84日間追い、血管の鋳型を電子顕微鏡で立体的に観察しました。見えてきたのは、血管が「類洞様→層状→樹状」と3回つくり変えられていく過程です。
①移植した歯肉は、いつ「生きた組織」になるのか
遊離歯肉移植(FGG)を終えたあと、われわれは「何日もつか」を数えます。7日で抜糸、2週で色が戻り、1か月で落ち着く——経験としては、そう知っている。
ではその内側で、血のめぐりは実際にどう作られているのか。移植片は自前の血管を持ったまま置かれ、受容床にも血管がある。この2つはどこで、どうつながるのか。
1968年にOliverらが、移植片は最初の数日を血漿循環でしのぎ、その後に再血管新生が起こると報告して以来、この分野の観察は組織切片が中心でした。切片は薄い断面なので、「橋渡しの血管が移植片へ入ったのか、それとも移植片の血管が再生してつながったのか」を見分けられないという限界が残ります。
そこでNobutoらは、血管にアクリル樹脂を流し込んで固め、周りの組織を溶かして血管の「鋳型」だけを取り出し、走査電顕で立体的に見るという方法を持ち込みました。
②犬56頭を、84日間ぶんの標本にする
体重14〜18kgの雑種成犬56頭を用いた実験です。右上顎犬歯部の付着歯肉に、骨膜結合組織上の6mm四方の受容床を作製。移植片は反対側(左上顎犬歯部)の付着歯肉から採った厚さ0.7〜1.0mmの分層片で、これを受容床へ移植し、外科用パックで固定して7日目にパックを除去しました。
観察は術後5・7・14・21・28・42・56・84日。各時点で犬を屠殺し、光学顕微鏡(LM)用・走査電顕(SEM)用・透過電顕(TEM)用に標本を振り分けています。
SEM用は、総頸動脈からアクリル樹脂を注入して重合させ、4%次亜塩素酸ナトリウムと5%トリプシンで軟組織を溶かして血管鋳型を作製。凍結して水平中央で割り、乾燥のうえ金コーティングして観察しました。血管そのものの立体像を、そのまま見にいく設計です。
③類洞様 → 層状 → 樹状
術後5日。接合部にはフィブリンが散在して残るものの、その大部分は幼弱な線維芽細胞に置き換わっています。SEMでは、移植片の交通枝と受容床の骨膜叢が、接合部にできた直径20〜80μmの新生類洞様血管を介してつながっているのが見えました。移植片内部の血管構築そのものには、正常な歯肉と比べて目立った変化はありません。
術後7日。5日目まで残っていたフィブリンと赤血球が完全に消失し、線維芽細胞と新生血管が骨面と平行に並びます。新生類洞様血管は、骨面に平行に走る直径10〜30μmの層状血管へと姿を変え、移植片の交通枝と骨膜叢がこれを介して吻合しました。TEMでは、新生血管の内皮が分化を進め、機能する血管の構造の一部を示しはじめています。
術後14日。線維形成が進み、線維性の細胞層が骨面と平行に走ります。血管は約10μmまで扁平化し、各血管の径が減るのと歩調を合わせて、血管層そのものの厚みも減りました。
術後21日。新生血管は扁平化・狭窄が進み、断続的に途切れて消えていきます。その部分で、移植片の交通枝と骨膜叢は樹状の吻合を示しはじめました。
術後28日。接合部の線維形成はさらに進み、骨面と平行に走る幼若なコラーゲン線維へと変わります。SEMでは、交通枝と骨膜叢の樹状吻合が確立。残った血管の横断面はほぼ扁平で、内腔側には0.6〜0.8μmの微絨毛様の突起が見られました。
術後42・56・84日。接合部のコラーゲン線維は成熟し、骨面と平行に並びます。28日目に確立した樹状吻合には、84日目まで目立った変化はありませんでした。ただし交通枝は、骨膜叢に対してやや垂直方向に位置するようになっています。そして、これらの血管が歯肉本来の細動脈にも細静脈にも分化した証拠は、最後まで得られませんでした。
④移植片の血管は、捨てられずに使われる
この研究がはっきりさせたのは、血管の入れ替わりが「新生類洞様血管から始まる」という点です。Jansonらは色素注入切片で橋渡しの血管の出現を報告していましたが、それが移植片に入り込んだのか、移植片の血管が再生して吻合したのかは判定できませんでした。立体観察が、この曖昧さを解きました。
7日目までに、新生血管が移植片の既存血管と受容床の血管を水平の吻合でつなぎ、接合部の床全体に血管叢を行き渡らせる。これが移植片の「生着(take)」を担保します。
もうひとつの軸が線維です。線維芽細胞は新生血管に沿って規則正しく並びながら、移植片と受容床の線維性の付着を進めていきました。14日目から21日目にかけて線維芽細胞が増え、その後は細胞間へのコラーゲン沈着の進行とともに数もサイズも減っていく。これと同じタイミングで、内皮の多くも細胞の消失を伴って扁平化していきます。21日目の血管の断続的な途切れは、接合部の水平な血管層が減っていく過程そのものでした。
著者らはここから、血管系と結合組織が「間葉系の反応」の主役であり、血管と結合組織はひとつの装置として、炎症と創傷治癒の機構に協調して反応していると読んでいます。
そして結論は、「移植片にもともとある血管が、移植後の長期にわたって『合理的に(rationally)』使われ、受容床からの循環をしっかり確立している」。瘢痕組織は骨面と平行に密に並んだコラーゲン線維の集合で、84日目でも向きを変えず、樹状の血管構築も変わらない——他の報告で術後6か月でも瘢痕組織に変化がなかったことと合わせ、この接合部の血管系にはあとから遅れて起こる組織学的変化はないだろうと推測しています。
⑤明日の臨床へ
①「7日目」には、すでに骨面と平行な血管の層ができている。 フィブリンと赤血球が消え、層状血管が骨膜叢と吻合するのが7日目です。この時期に移植片を動かす操作(パックの粗い除去・強い機械的刺激)は、できたばかりの水平の吻合に直接触ることになります。
②生着の勝負どころは、接合部に「新生血管が入る余地」を作れるかどうか。 5日目の新生類洞様血管は、移植片の既存血管と受容床の骨膜叢のあいだに立ち上がります。受容床が骨膜結合組織であること、移植片が0.7〜1.0mmの分層であることが、この研究の前提条件でした。
③28日を過ぎたら、血管の構築はもう変わらない。 28日で樹状吻合が確立し、84日まで変化しません。色調や質感が「そのうち馴染む」と期待できる余地は、思ったより早く閉じると考えたほうが現実的です。
④接合部の血管は、歯肉本来の細動脈・細静脈にはならない。 一方で接合部より上皮側の層では、コラーゲン線維束が歯肉に固有の複雑な状態を示し、細動脈と細静脈が形成されていました。移植片は「歯肉らしさ」を上で取り戻し、下は瘢痕として安定する、という住み分けです。
今日のひとこと
雑種成犬56頭に厚さ0.7〜1.0mmの遊離歯肉移植片を移植し、術後5・7・14・21・28・42・56・84日で血管構築を追った研究(アクリル樹脂を注入した血管鋳型を走査電顕で見る立体観察に、光顕・透過電顕を併用)。移植片と受容床の接合部(graft-bed junction)の血管は、3つの型を順に通過します。①術後3〜7日=類洞様(sinusoidal)血管:直径20〜80μmの新生血管が接合部を埋め、移植片の既存血管と骨膜叢をつなぐ。②術後7〜28日=層状(lamellar)血管:直径10〜30μmに細くなり、骨面と平行に走る網目に置き換わる。7日目にはフィブリンと赤血球が完全に消え、線維芽細胞と新生血管が骨面に平行に並ぶ。③術後28〜84日=樹状(dendritic)吻合:14日目から血管径と血管層の厚みがさらに減り、21日目には扁平化・狭窄した血管が断続的に消え、28日目に樹状の吻合が確立する。28日目以降、84日目まで血管構築に目立った変化はなく、接合部の血管は細動脈にも細静脈にも分化しませんでした。著者らは、移植片にもともとある血管が長期にわたって「合理的に」使われ、受容床からの循環を確立していると結論づけています。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


