1問1答 論文 歯周病

SRPを4回に分けると、最初の象限は再感染しているのか

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|Phase1 初期治療

全顎のSRPを、1〜2週間隔で象限ごとに4回に分けて進める——ごく普通の段取りです。しかしよく考えると、最後の象限を終える頃には、最初に終えた象限は3週間以上経っています。その間に、まだ触っていない場所から菌が戻ってきているのではないか。1995年、ルーヴェンのチームはその疑いを、24時間で全部やってしまうという方法で検証しました。

論文
Full- vs. partial-mouth disinfection in the treatment of periodontal infections: short-term clinical and microbiological observations
著者
Quirynen M, Bollen CM, Vandekerckhove BN, Dekeyser C, Papaioannou W, Eyssen H
掲載
Journal of Dental Research 1995;74(8):1459-1467
種類
ランダム化並行群間比較(10名/2か月・微生物学的評価は二重盲検)
PMID
7560400

治し終える前に、再感染しているのではないか

歯周治療の段取りは、多くの医院で似ています。右上から順に、1〜2週間隔で象限ごとにSRP。無理のない時間配分で、患者さんの負担も分散できる、合理的な方法です。

ただ著者らは、そこに一つの穴を見ていました。「連続したルートプレーニングを行う標準的な治療戦略では、治療が完了する前に、消毒済みの領域が再感染してしまうかもしれない」

根拠は積み上がっていました。歯周病原菌は口の中の複数のニッチに住み着きます——扁桃、舌、その他の粘膜。しかもある部位から別の部位へ移動することが確認されていた唾液は主要な運び手であり、エキスプローラー・プローブ・シリンジの先端、さらには歯ブラシやフロスまでが病原菌を保持しうるという報告もあります。

実際、チタンアバットメントを「処女土」として口腔細菌の定着を見た研究で、菌が移動しうるという仮説は裏づけられていました。加えてSRPのあと、口腔衛生が最適でなければ、歯肉縁下細菌叢は2か月以内に質的にも量的にもベースライン値へ戻るという報告も複数ありました。

ならば——全部を24時間以内に終わらせて、同時に口の中ぜんぶを消毒してしまえばいい。それがこの研究の発想です。

先に結論: 初期7〜8mmの深いポケットで、24時間群は7.3mm→4.0mm、象限ごと群は7.4mm→4.9mm減少量の差は有意(1か月 p=0.02/2か月 p=0.03)。ただし試験群5名中3名が発熱し、2名に口唇ヘルペスが出た。

24時間で全部やり、5段階で消毒した

対象は進行した慢性歯周炎で紹介されてきた10名各患者が各象限に少なくとも複根歯2本と単根歯3本を持ち、象限ごとに7mm以上でプロービング時に出血する部位が4か所以上ある、という条件です。X線的に根長の1/2以上の重度骨吸収も確認されています。ランダムに2群へ振り分け微生物学的データについては二重盲検で行われました。

対照群(5名)は従来どおり右上象限から始めて14日間隔で象限ごとにSRP消毒薬は使いません

試験群(5名)は24時間以内・2回の来院で全顎のSRPを終えます。そこに5段階の消毒が加わりました。

①舌背を1%クロルヘキシジンゲルで60秒ブラッシング(患者さん本人が行う)②0.2%クロルヘキシジン液で1分×2回の洗口。最後の10秒はガーグルして扁桃まで届かせる③全ポケットへ、1%クロルヘキシジンゲルを10分以内に3回、鈍針のシリンジで歯肉縁下注入(6mmと8mmに印を付けた針を、抵抗を感じるまで挿入)④8日目に同じ縁下注入を反復⑤2週間にわたり1日2回、0.2%クロルヘキシジンで1分の洗口

器具操作は1名の術者が担当し、1象限あたり約1時間試験群では下顎を先に処置しました。臨床評価とプラーク採取は、アクセスしやすさから右上象限で行われています。

結果:深いポケットで、0.9mmの差がついた

0 2.7mm 5.3mm 8mm プロービングデプス(mm) 7.3mm 4mm 7.4mm 4.9mm 24時間で全顎+消毒 象限ごとに14日間隔 初期7〜8mmの深いポケット。淡い棒=2か月後。減少量の差は有意(1か月 p=0.02/2か月 p=0.03・各群5名)
初期7〜8mmの深いポケットの推移。24時間で全顎を終えた群のほうが、大きく浅くなった

初期7〜8mmの深いポケットで、試験群は7.3mm→4.0mm(SD 1.2)、対照群は7.4mm→4.9mm(SD 1.4)試験群の減少が有意に大きく(1か月 p=0.02/2か月 p=0.03)回帰分析による傾きの差は1か月で1.01mm、2か月で0.81mmでした。

著者らは「対照群のポケット減少は先行研究の範囲内に収まっており、試験群がそれを上回る改善を達成した」と書いています。従来法が悪かったのではなく、上乗せがあったという読み方です。

0 0.3 0.5 0.8 歯肉炎指数 ÷ プラーク指数 0.7 0.2 0.6 0.4 24時間で全顎+消毒 象限ごとに14日間隔 同じ量のプラークがどれだけ炎症を起こすか=プラークの病原性の目安。淡い棒=2か月後
歯肉炎指数をプラーク指数で割った比。同じ量のプラークが起こす炎症の大きさの目安

もう一つ面白い指標が出てきます。歯肉炎指数÷プラーク指数です。試験群は0.69→0.16、対照群は0.59→0.43試験群では、同じだけプラークがあっても炎症が起きにくくなった——プラークの「量」ではなく「病原性」が下がったことを示唆します。

細菌学的なデータも、その解釈を支えました。位相差顕微鏡で見たスピロヘータと運動性桿菌の割合は、1か月時点で試験群が有意に低い(p=0.01)培養では、1か月で病原菌の割合が有意に少なく(p=0.005)、2か月で有益菌が有意に多い(p=0.02)

そして最も印象的な一行です。治療前にP. gingivalis 陽性だった部位(6/10)は、フルマウス消毒のあと、すべて陰性化しました。著者らはこれを「SRPを1コース行っただけでは、2か月後に58%のポケットでP. gingivalis の歯肉縁下再定着が見られたという先行報告とは対照的だ」と対比しています。

ただし、体は反応した

この論文が誠実なのは、有害事象を正面から表にしていることです。

試験群5名のうち3名に発熱(37.8℃・39.0℃・38.5℃)2名に口唇ヘルペスが出ました。対照群では、いずれも報告されていません

著者らの解釈は率直です。「試験群で報告された体温上昇は、スケーリングとルートプレーニング中の重要な菌血症を示していると考えられる。血流に入る微生物の量の増加、あるいは1日のうちに集中した長い処置時間が、宿主防御機構を過剰に刺激した可能性がある」口唇ヘルペスについても「長時間の外傷、あるいは体温上昇が原因かもしれない」と述べています。

痛みについては両群で同程度でした(0〜10の数値評価と鎮痛薬の錠数で記録)。

ここが要点: 効果は上乗せされたが、負担も上乗せされた。1日で全顎という設計は、患者さんの体にも術者にも重い。誰にでも勧める方法ではなく、選んで使う方法だと分かる。

明日の臨床へ

1つ目。「順番に治す」ことのコストを意識する。 この研究の価値は、フルマウス消毒を全例に勧めることではなく、分割治療のあいだに何が起きているかを可視化したことにあります。治療期間が延びるほど、再感染の機会は増える——この視点を持つだけで、間隔を詰める/同日に2象限まとめるといった現実的な調整に繋がります。

2つ目。上乗せが大きいのは「深いポケット」。 有意差がついたのは初期7〜8mmの部位でした。全体に軽度の患者さんで、同じ手間をかける根拠はこの研究にはありません

3つ目。舌と扁桃を視野に入れる。 プロトコルの半分は歯以外への介入です(舌背のブラッシング、扁桃へのガーグル)。菌は歯だけに住んでいないという前提は、フルマウス消毒を採らない場合でも、指導内容として使えます

4つ目。1日で全部やるなら、体への負担を説明する。 5名中3名の発熱という数字は無視できません。高齢の方、感染性心内膜炎のリスクがある方、免疫が落ちている方では、この設計そのものが適さない可能性があります。

ここだけ、冷静に補助線。 各群5名、合計10名の非常に小さな研究で、観察期間も2か月(本報告の範囲)です。著者ら自身「これは短期の結果であり、患者は8か月まで追跡される」と断っています。さらに重要な点として、試験群には「24時間で全顎」と「5段階のクロルヘキシジン消毒」が同時に入っており、どちらが効いたのかは分けられません。著者らも「5つのステップそれぞれの相対的な重要性については、推測しかできない」と明記しています。実際、その後の研究ではクロルヘキシジンを外したフルマウスSRPでも同様の結果が得られるという報告や、従来法との差は小さいとするシステマティックレビューも出ています。それでも、「治し終える前に再感染しているかもしれない」という問いを立て、実験で確かめたという点で、この論文は歯周治療の段取りそのものを考え直させる一本です。

今日のひとこと

進行した慢性歯周炎の10名2群にランダムに割り付け対照群は従来どおり象限ごとに14日間隔でSRP試験群は24時間以内・2回の来院で全顎のSRPを完了させました。試験群にはさらに5段階の消毒が加わります:①舌背を1%クロルヘキシジンゲルで60秒ブラッシング ②0.2%クロルヘキシジン液で1分×2回洗口(最後の10秒は扁桃へ届かせるためガーグル) ③全ポケットへ1%クロルヘキシジンゲルを10分内に3回、歯肉縁下注入 ④8日目に同じ縁下注入を反復 ⑤2週間にわたり1日2回の0.2%クロルヘキシジン洗口。結果、初期7〜8mmの深いポケットで、試験群は7.3mm→4.0mm、対照群は7.4mm→4.9mm試験群の減少が有意に大きく(1か月 p=0.02/2か月 p=0.03)、回帰分析による傾きの差は1.01と0.81mmでした。歯肉炎指数/プラーク指数の比は試験群で0.69→0.16、対照群は0.59→0.43。細菌学的にも1か月時点でスピロヘータと運動性桿菌の割合が試験群で有意に低く(p=0.01)、病原菌の割合も有意に少ない(p=0.005)2か月では有益菌が有意に多い(p=0.02)。そして治療前にP. gingivalis 陽性だった6部位すべてが、治療後に陰性化しました。ただし代償もあります。試験群5名中3名に37.8〜39.0℃の発熱、2名に口唇ヘルペスが生じています。

出典:Quirynen M, Bollen CM, Vandekerckhove BN, Dekeyser C, Papaioannou W, Eyssen H. Full- vs. partial-mouth disinfection in the treatment of periodontal infections: short-term clinical and microbiological observations. J Dent Res 1995;74(8):1459-1467. PMID: 7560400
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。