ペリオ|Phase1 初期治療
全顎のSRPを、1〜2週間隔で象限ごとに4回に分けて進める——ごく普通の段取りです。しかしよく考えると、最後の象限を終える頃には、最初に終えた象限は3週間以上経っています。その間に、まだ触っていない場所から菌が戻ってきているのではないか。1995年、ルーヴェンのチームはその疑いを、24時間で全部やってしまうという方法で検証しました。
①治し終える前に、再感染しているのではないか
歯周治療の段取りは、多くの医院で似ています。右上から順に、1〜2週間隔で象限ごとにSRP。無理のない時間配分で、患者さんの負担も分散できる、合理的な方法です。
ただ著者らは、そこに一つの穴を見ていました。「連続したルートプレーニングを行う標準的な治療戦略では、治療が完了する前に、消毒済みの領域が再感染してしまうかもしれない」。
根拠は積み上がっていました。歯周病原菌は口の中の複数のニッチに住み着きます——扁桃、舌、その他の粘膜。しかもある部位から別の部位へ移動することが確認されていた。唾液は主要な運び手であり、エキスプローラー・プローブ・シリンジの先端、さらには歯ブラシやフロスまでが病原菌を保持しうるという報告もあります。
実際、チタンアバットメントを「処女土」として口腔細菌の定着を見た研究で、菌が移動しうるという仮説は裏づけられていました。加えてSRPのあと、口腔衛生が最適でなければ、歯肉縁下細菌叢は2か月以内に質的にも量的にもベースライン値へ戻るという報告も複数ありました。
ならば——全部を24時間以内に終わらせて、同時に口の中ぜんぶを消毒してしまえばいい。それがこの研究の発想です。
②24時間で全部やり、5段階で消毒した
対象は進行した慢性歯周炎で紹介されてきた10名。各患者が各象限に少なくとも複根歯2本と単根歯3本を持ち、象限ごとに7mm以上でプロービング時に出血する部位が4か所以上ある、という条件です。X線的に根長の1/2以上の重度骨吸収も確認されています。ランダムに2群へ振り分け、微生物学的データについては二重盲検で行われました。
対照群(5名)は従来どおり。右上象限から始めて14日間隔で象限ごとにSRP、消毒薬は使いません。
試験群(5名)は24時間以内・2回の来院で全顎のSRPを終えます。そこに5段階の消毒が加わりました。
①舌背を1%クロルヘキシジンゲルで60秒ブラッシング(患者さん本人が行う)。②0.2%クロルヘキシジン液で1分×2回の洗口。最後の10秒はガーグルして扁桃まで届かせる。③全ポケットへ、1%クロルヘキシジンゲルを10分以内に3回、鈍針のシリンジで歯肉縁下注入(6mmと8mmに印を付けた針を、抵抗を感じるまで挿入)。④8日目に同じ縁下注入を反復。⑤2週間にわたり1日2回、0.2%クロルヘキシジンで1分の洗口。
器具操作は1名の術者が担当し、1象限あたり約1時間。試験群では下顎を先に処置しました。臨床評価とプラーク採取は、アクセスしやすさから右上象限で行われています。
③結果:深いポケットで、0.9mmの差がついた
初期7〜8mmの深いポケットで、試験群は7.3mm→4.0mm(SD 1.2)、対照群は7.4mm→4.9mm(SD 1.4)。試験群の減少が有意に大きく(1か月 p=0.02/2か月 p=0.03)、回帰分析による傾きの差は1か月で1.01mm、2か月で0.81mmでした。
著者らは「対照群のポケット減少は先行研究の範囲内に収まっており、試験群がそれを上回る改善を達成した」と書いています。従来法が悪かったのではなく、上乗せがあったという読み方です。
もう一つ面白い指標が出てきます。歯肉炎指数÷プラーク指数です。試験群は0.69→0.16、対照群は0.59→0.43。試験群では、同じだけプラークがあっても炎症が起きにくくなった——プラークの「量」ではなく「病原性」が下がったことを示唆します。
細菌学的なデータも、その解釈を支えました。位相差顕微鏡で見たスピロヘータと運動性桿菌の割合は、1か月時点で試験群が有意に低い(p=0.01)。培養では、1か月で病原菌の割合が有意に少なく(p=0.005)、2か月で有益菌が有意に多い(p=0.02)。
そして最も印象的な一行です。治療前にP. gingivalis 陽性だった部位(6/10)は、フルマウス消毒のあと、すべて陰性化しました。著者らはこれを「SRPを1コース行っただけでは、2か月後に58%のポケットでP. gingivalis の歯肉縁下再定着が見られたという先行報告とは対照的だ」と対比しています。
④ただし、体は反応した
この論文が誠実なのは、有害事象を正面から表にしていることです。
試験群5名のうち3名に発熱(37.8℃・39.0℃・38.5℃)。2名に口唇ヘルペスが出ました。対照群では、いずれも報告されていません。
著者らの解釈は率直です。「試験群で報告された体温上昇は、スケーリングとルートプレーニング中の重要な菌血症を示していると考えられる。血流に入る微生物の量の増加、あるいは1日のうちに集中した長い処置時間が、宿主防御機構を過剰に刺激した可能性がある」。口唇ヘルペスについても「長時間の外傷、あるいは体温上昇が原因かもしれない」と述べています。
痛みについては両群で同程度でした(0〜10の数値評価と鎮痛薬の錠数で記録)。
⑤明日の臨床へ
1つ目。「順番に治す」ことのコストを意識する。 この研究の価値は、フルマウス消毒を全例に勧めることではなく、分割治療のあいだに何が起きているかを可視化したことにあります。治療期間が延びるほど、再感染の機会は増える——この視点を持つだけで、間隔を詰める/同日に2象限まとめるといった現実的な調整に繋がります。
2つ目。上乗せが大きいのは「深いポケット」。 有意差がついたのは初期7〜8mmの部位でした。全体に軽度の患者さんで、同じ手間をかける根拠はこの研究にはありません。
3つ目。舌と扁桃を視野に入れる。 プロトコルの半分は歯以外への介入です(舌背のブラッシング、扁桃へのガーグル)。菌は歯だけに住んでいないという前提は、フルマウス消毒を採らない場合でも、指導内容として使えます。
4つ目。1日で全部やるなら、体への負担を説明する。 5名中3名の発熱という数字は無視できません。高齢の方、感染性心内膜炎のリスクがある方、免疫が落ちている方では、この設計そのものが適さない可能性があります。
今日のひとこと
進行した慢性歯周炎の10名を2群にランダムに割り付け、対照群は従来どおり象限ごとに14日間隔でSRP、試験群は24時間以内・2回の来院で全顎のSRPを完了させました。試験群にはさらに5段階の消毒が加わります:①舌背を1%クロルヘキシジンゲルで60秒ブラッシング ②0.2%クロルヘキシジン液で1分×2回洗口(最後の10秒は扁桃へ届かせるためガーグル) ③全ポケットへ1%クロルヘキシジンゲルを10分内に3回、歯肉縁下注入 ④8日目に同じ縁下注入を反復 ⑤2週間にわたり1日2回の0.2%クロルヘキシジン洗口。結果、初期7〜8mmの深いポケットで、試験群は7.3mm→4.0mm、対照群は7.4mm→4.9mm。試験群の減少が有意に大きく(1か月 p=0.02/2か月 p=0.03)、回帰分析による傾きの差は1.01と0.81mmでした。歯肉炎指数/プラーク指数の比は試験群で0.69→0.16、対照群は0.59→0.43。細菌学的にも1か月時点でスピロヘータと運動性桿菌の割合が試験群で有意に低く(p=0.01)、病原菌の割合も有意に少ない(p=0.005)、2か月では有益菌が有意に多い(p=0.02)。そして治療前にP. gingivalis 陽性だった6部位すべてが、治療後に陰性化しました。ただし代償もあります。試験群5名中3名に37.8〜39.0℃の発熱、2名に口唇ヘルペスが生じています。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


