ペリオ|Phase1 初期治療
クロルヘキシジンはプラークを抑える。フッ化物はう蝕を防ぐ。ならば両方を歯磨剤に入れれば、毎日の歯みがきがそのまま最強の予防になる——理屈としては、これ以上ないほどきれいに通ります。1980年、オスロ大学のチームはその理屈を13歳の子どもたち91人に2年間試しました。残ったものは、期待とは少し違っていました。
①理屈は、これ以上ないほど通っていた
1980年当時、二つの事実は固まっていました。プラークがなければう蝕も歯肉炎も起こらない。そしてプラークのう蝕原性は、フッ化物とクロルヘキシジンによって減らせる。
面白いのは、著者らがこの二つは別の仕組みで効いていると考えていた点です。フッ化物はう蝕原性を下げる方向に働き、クロルヘキシジンにはプラーク形成そのものを抑える確立した作用がある。仕組みが違うなら、足せば足した分だけ効くはずだ——動物実験では、実際にその上乗せ効果が観察されていました。
技術的な壁もすでに越えられていました。フッ化物イオンとクロルヘキシジンは電荷が逆なので、同じ製剤に入れると互いの働きを打ち消しかねない。ところが著者ら自身が先行研究で、両方を含みながらフッ化物イオンの活性を保ち、クロルヘキシジンの口腔内滞留も期待できる歯磨剤を作っていたのです。
あとは、それを人が2年間使ったらどうなるかを見るだけでした。
②13歳の91人に、2年間使ってもらった
対象は3つの学校から集まった13歳の子ども91名。全員と保護者に説明したうえで、書面による同意を取っています。
開始前にすべてのう蝕を処置し、歯を徹底的に清掃。そのうえで性別とう蝕リスクのある歯面数が揃うように3群へ振り分けました。
歯磨剤は3種類です。A群=0.1%フッ化ナトリウムの市販歯磨剤(対照)、B群=0.1%フッ化ナトリウム+2%クロルヘキシジン、C群=2%クロルヘキシジンのみ。実験用のB・C歯磨剤には、クロルヘキシジンと反応しうるラウリル硫酸ナトリウムやリン酸塩を入れていません。
使い方は日常そのままです。朝晩2分ずつ、歯ブラシの長さ1本分の歯磨剤で、いつもの方法で磨く。歯磨剤は符号だけを書いたチューブで好きなだけ支給され、3か月ごとに新しい歯ブラシが配られました。家族が別の歯磨剤を使うと混ざってしまうので、家族にも同じものを勧めて無料で配布——ここまでやっています。評価は6か月ごと、二重盲検です。
もう一つ工夫があります。研究群だけを見ても「時代とともにう蝕が減っただけ」なのか区別できないため、同じ公立診療所で別の歯科医が診ていた50名を無作為に選び、1974年と1977年のう蝕発生を後ろ向きに調べて参照群としました。
③結果:差は、統計学的には示せなかった
2年間の新生・再発う蝕の平均は、A群(フッ化物のみ)2.37本、B群(フッ化物+CHX)1.92本、C群(CHXのみ)2.30本。標準偏差はそれぞれ2.88・2.44・2.47と大きく、群間の差は統計学的に有意ではありませんでした。
経過を見ると、当初は対照のA群のほうがう蝕が多くなる傾向がありました。ただしA群とC群(CHXのみ)の差は研究が進むにつれて縮まり、A群とB群(両方入り)の差だけが最後まで残りました。2年間まったくう蝕にならなかった人の割合で見ても、同じ傾向です。
内訳を見ると、少し違う顔が見えます。新生う蝕はA群1.87・B群1.54・C群2.13、二次う蝕(修復物まわりの再発)はA群0.50・B群0.38・C群0.17。クロルヘキシジンのみのC群は、新生う蝕では最も多いのに、二次う蝕では最も少ない。ただしこれも有意差のついた比較ではありません。
歯肉はどうだったか。評価法は簡潔で、木製の三角楊枝を歯間部にしっかり挿入して出血しない歯間乳頭の割合を見ています。健全な歯肉と分類された人の割合は、すべての群で研究期間中に増加しました。出血する乳頭の平均割合も並行して減少。ただし群間の差はわずかで、統計学的に有意ではありませんでした。
④脱落の理由が、いちばん雄弁だった
13名が研究期間中に脱落しました。そして著者らが挙げるその最も多い理由は「歯の着色」と「実験用歯磨剤の不快な味」です。
年あたり約7.5%という脱落率について、著者らは「中程度」と書いています。ただ、2年間毎日使う製品で、7人に1人が着色と味を理由に離脱したという事実は、効果の数字と同じくらい実務的な意味を持ちます。
もう一つ、著者らの歯肉に対する解釈が誠実です。「歯間乳頭のプラークコントロールの改善は、全群で同様だった。おそらくこれは化学的なコントロールよりも、機械的なプラーク除去が改善したことによる」。理由も添えられています。「歯間乳頭からの出血を調べる行為そのものが動機づけとなり、自発的な歯間清掃を促した可能性がある」。
そして「研究前も研究中も、歯肉縁下のプラークを除去する試みは行われていない。そうした沈着物はクロルヘキシジンによっても機械的な家庭清掃によっても影響を受けないはずで、研究終了時に残っていた出血する乳頭の一因かもしれない」——歯磨剤に何を入れても、縁下には届かないという、当たり前だが重要な補助線です。
⑤明日の臨床へ
1つ目。「フッ化物+クロルヘキシジン」の歯磨剤を、う蝕予防の主役として勧める根拠はここにはない。 2年使って、フッ化物単独に対する上乗せは統計学的に示せませんでした。著者らは「う蝕活性の高い者では、フッ化物とクロルヘキシジンの同時適用が有利かもしれないというLuomaらの示唆を支持する」と控えめに書いていますが、これは有意差ではなく傾向です。
2つ目。逆に「クロルヘキシジンのみ」もフッ化物入りに劣ってはいなかった。 著者らは「クロルヘキシジンのみを含む歯磨剤は、フッ化物含有のものに劣ってはいなかった」と明記しています。この研究の対象は高いう蝕発生が予想される13歳の集団でした。ただしフッ化物を外す選択を支持する材料としては弱いことも同時に言えます(差が示せなかった=同等が証明された、ではありません)。
3つ目。着色と味を、事前に説明する。 7人に1人が脱落した最大の理由です。クロルヘキシジン製剤を長期に勧める場面では、「着色は起きます。ただし取れます」と先に伝えておくだけで、続けられる人は変わります。
4つ目。歯肉が良くなったのは、たぶん薬のおかげではない。 全群で歯肉が改善し、群間差はありませんでした。著者らの解釈どおり機械的清掃の改善だとすれば、定期的に来てもらい、出血を一緒に確認すること自体が介入になっているということでもあります。
今日のひとこと
13歳の学童91名を3群に分け、2年間にわたって家庭で歯磨剤を使い続けてもらった研究。A群=0.1%フッ化ナトリウム(市販品・対照)、B群=0.1%フッ化ナトリウム+2%クロルヘキシジン、C群=2%クロルヘキシジンのみ。二重盲検で行われ、6か月ごとにう蝕と歯肉炎を記録しています。2年間の新生・再発う蝕の平均はA群2.37、B群1.92、C群2.30。数値としてはフッ化物とクロルヘキシジンを併せたB群が最も少なかったものの、群間の差は統計学的に有意ではありませんでした。歯肉の健康はすべての群で改善しましたが、こちらも群間に有意差なし。著者らはその改善を「化学的なコントロールよりも、機械的なプラーク除去が改善したことによる可能性が高い」と解釈しています。そして13名が脱落し、その最も多い理由が「歯の着色」と「不快な味」でした。クロルヘキシジンのみのC群も、フッ化物入りに劣ってはいなかったという点は押さえておく価値があります。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


