ペリオ|Phase1 初期治療
4mmのポケットにスケーラーを入れる。3mmには入れない。——その線引きを、私たちは何を根拠に決めているでしょうか。「浅いところを触ると、かえってアタッチメントを失う」という感覚は多くの臨床家が持っています。1982年、Lindheらはその感覚に「クリティカル・プロービング・デプス」という名前と、具体的な数字を与えました。
①「浅いところは触らないほうがいい」の正体
歯周治療の長期研究を並べると、繰り返し同じ形が現れます。初期に深かった部位はアタッチメントを獲得し、初期に浅かった部位はアタッチメントを失う。Ramfjord、Knowles、Pihlstrom——1970年代から複数のチームが、同じ傾向を報告してきました。
ここでLindheらは、鋭い問いを立てます。「得るか失うかが入れ替わる境目の深さが、実際に存在するのではないか。そしてその値は、歯の種類や、選んだ治療法によって違うのではないか」。
感覚としては誰もが持っている線引きに、数字を与えにいった——それがこの研究です。方法は明快で、治療前のポケット深さを横軸、6か月後のアタッチメントの増減を縦軸にとって回帰直線を引く。その直線がゼロと交わる点が、失うと得るの境目。これをクリティカル・プロービング・デプス(CPD)と名づけました。
②同じ口の中で、二つの術式を比べた
対象は中等度から進行した歯周炎で紹介されてきた15名(32〜57歳)。スプリットマウス設計で、片側の顎(左右はランダムに選択)にはSRP+モディファイド・ウィドマン・フラップ、対側にはSRPのみを行いました。同じ患者さんの中で比べるので、体質・生活習慣・プラークコントロールの差が結果に混じりません。
期間の設計も丁寧です。治療開始から6か月を「治癒期」、6〜24か月を「維持期」と区切りました。治癒期のあいだは2週ごとにプロフェッショナルケア、維持期は3か月ごと。再評価は6・12・24か月に行われ、すべて同じ部位・同じ計測点で記録されています。
この研究には狙いが3つありました。①外科と非外科それぞれのCPDを算出する ②術後18か月のあいだ、4mmを超える部位が炎症とアタッチメントの変化にどう関わるかを見る ③維持期における口腔衛生状態の影響を評価する。
③結果:2.9mmと4.2mm
全歯・全部位のCPDは、SRPのみで2.9±0.3mm、フラップ併用で4.2±0.2mm。この差は統計学的に有意(p<0.01)でした。
読み方はこうです。SRPのみを行った場合、初期のポケットが2.9mmより浅い部位では、器具を入れたことによってアタッチメントを失う可能性が高い。逆に2.9mmより深い部位ではアタッチメントの獲得が期待できる。フラップ手術を併用する場合、その境目は4.2mmまで深くなる——4.2mmまでの部位は、外科を加えると失うということです。
回帰直線の傾きも示唆的でした。SRPのみが0.20±0.04に対し、フラップ併用は0.42±0.04。傾きが大きい=深さによる結果の振れ幅が大きい。外科は、深い部位ではより多く得るが、浅い部位ではより多く失う。効果が大きいぶん、当てる場所を間違えたときの代償も大きい、という構図です。
歯種別・部位別に見ても、順序は一貫していました。切歯 2.7/4.1mm、小臼歯 2.5/4.7mm、大臼歯 3.5/4.1mm(SRP/フラップ)。頬側 2.8/4.1mm、隣接面 2.5/4.2mm、舌側 3.1/4.2mm。どの歯種・どの面でも、非外科のほうが低いCPD=より浅い部位から得を出せるのです。
④境目は、プラークで動く
この論文でいちばん実務的なのが、ここだと思います。CPDは固定された定数ではなく、プラークコントロールの状態で動きました。
6か月時点でプラーク指数が0だった部位のCPDは、SRP 2.7±0.3mm/フラップ 4.2±0.2mm。ところがプラーク指数が1以上の部位では4.3±0.6mm/4.9±0.4mm、プラーク指数2〜3の部位では5.1±1.3mm/7.3±2.6mmまで上がります。
つまりプラークが残っている口では、5mmのポケットを触っても得をしない。著者らの表現では「ある部位で得られるCPDの値は、初期のポケット深さだけでなく、治癒期におけるプラークの有無にも依存する」。
維持期(6〜24か月)のデータは、さらに直截です。アタッチメントの変化量は、術式ではなくプラークの有無で決まりました。プラークのない部位の喪失は0.16mm(フラップ)と0.18mm(SRP)にとどまったのに対し、プラークのある部位では0.72mmと0.55mmを失っています(p<0.05)。術式間の差は有意ではありませんでした。
いっぽうで、6か月時点で6mmを超えて残っていた部位は、維持期のあいだにむしろアタッチメントを獲得しています(+1.6mm(フラップ)/+1.2mm(SRP))。深く残った部位も、きちんと管理されれば改善しうる。
⑤明日の臨床へ
1つ目。浅い部位への器具操作は、意識してやめる。 SRPで2.9mm、外科で4.2mmという数字は、「3mm以下は基本的に触らない」という現在の常識の出所です。定期管理のたびに全顎を一律にスケーリングする習慣があるなら、そこに失っているものがあると考える根拠になります。
2つ目。「浅い口には非外科、深い口には外科」を、部位ではなく口単位でも考える。 著者らは明確に書いています。「浅いポケットを多く持つ患者では非外科的アプローチが好ましく、深いポケットを多く持つ患者では外科的治療のほうがアタッチメント獲得は大きい」。
3つ目。1本の歯の中で足し引きして考えられる。 論文には具体例が挙がっています。頬側1mm・近心6mm・舌側2mm・遠心5mmの小臼歯で、外科を加えると 頬側−1.4/近心+0.7/舌側−1.2/遠心+0.2=合計1.7mmの喪失、SRPのみなら合計+0.1mmの獲得が期待される、と。深い面が1〜2面しかない歯に外科を当てると、全体では損をしうるという計算です。
4つ目。プラークコントロールが整うまで、外科の判断を急がない。 プラークが残る状態でのCPDは7.3mmまで上がりました。磨けていない口で深いポケットを開けても、期待した獲得は得られない——順番の話として、この数字は強い説得力を持ちます。
今日のひとこと
中等度〜進行した歯周炎の15名(32〜57歳)を対象に、同じ口の中で片側にはSRPのみ、対側にはSRP+モディファイド・ウィドマン・フラップを行い、24か月追いかけた研究。治療前のポケット深さを横軸、6か月後のアタッチメントの増減を縦軸にとって回帰直線を引き、それがゼロと交わる点=「これより浅いと失い、これより深いと得る」境目を計算しました。その値がクリティカル・プロービング・デプス(CPD)です。結果、SRPのみでは2.9±0.3mm、フラップ併用では4.2±0.2mm(有意差あり)。つまりSRPは2.9mmより浅い部位で、フラップは4.2mmより浅い部位で、平均するとアタッチメントを失うということ。浅い部位では外科のほうが失う量が大きく、深い部位では外科のほうが得る量が大きいという、きれいな逆転も示されました。さらにCPDはプラークの量で動きます。6か月時点でプラークがゼロの部位ではSRP 2.7mm/フラップ4.2mmだったCPDが、プラーク指数2〜3の部位では5.1mm/7.3mmまで跳ね上がりました。維持期(6〜24か月)のアタッチメント変化は、術式ではなくプラークの有無で決まっています——プラークのない部位は0.16〜0.18mmの喪失にとどまり、プラークのある部位は0.55〜0.72mmを失いました。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


