1問1答 論文 歯周病

SRPした後、菌はどれくらいで戻る?──放置すると4〜8週で再定着(Magnusson 1984)

ペリオ(歯周病)

深いポケットのSRP、その後どうする

縁上プラークを放置すると、SRPで整えた縁下の菌叢はわずか4〜8週で再定着する。専門的清掃とCHX洗口で抑えられる――メンテナンスの土台を作った40年前の名作。

論文
深い歯周ポケットのSRP後における縁下菌叢の再定着
著者
Magnusson I, Lindhe J, Yoneyama T, Liljenberg B
掲載
J Clin Periodontol. 1984;11(3):193–207
種類
臨床試験(16人・2群比較・32週観察)
PMID
6368611

SRPは効く。でも「一度きり」では終わらない

深い歯周ポケットに丁寧なSRP(スケーリング・ルートプレーニング)を入れると、縁下の菌叢が劇的に変わることは、臨床家なら知っています。スピロヘータや可動性桿菌(動き回る悪玉菌)がガクッと減り、歯肉は引き締まる。でも、ここで多くの人が見落とすことがあります。それは「一度きりの変化」なのか、それとも「続く変化」なのか

SRPで菌を減らしても、口の中には縁上プラークが毎日たまっていく。そのプラークを放置したら、せっかく整えた縁下の菌叢は、また元に戻ってしまうのか。それとも、一度きれいにすればしばらく安泰なのか。この「再定着のスピード」を、実際に顕微鏡でのぞいて確かめたのが、今日の40年前の名作です。

今回の一手:SRP後に「放置する群」と「清掃を続ける群」を比べる

この研究のデザインが、とても明快です。深い歯周ポケットを一度きれいにした後、縁上の清掃を続けるかどうかで菌叢の運命がどう変わるかを、直接比べました。

対象:進行歯周炎の患者16人。1人4か所ずつ、深いポケット(出血あり・PD6mm以上・骨吸収40%以上)を選択
共通処置:全員に局所麻酔下で全顎の丁寧なSRP(2〜4回)
A群(9人):最初の16週間、セルフケアを管理せず縁上プラークがたまるに任せた
B群(7人):2週ごとに専門的歯面清掃+0.2%クロルヘキシジン(CHX)で1日2回洗口
評価:暗視野顕微鏡で「可動性菌の割合」と「スピロヘータ総数」を32週間追跡

さて——放置した群の菌は、どれくらいの速さで戻ってきたのか。

結果①:放置すると、わずか4〜8週でベースラインまで戻る

まず衝撃の答えから。縁上プラークを放置したA群では、SRPでいったん減った可動性菌が、4週から8週のあいだに急増し、ほぼベースライン(治療前)の値まで戻ってしまいました。治療前の可動性菌は約27%。SRP直後はぐっと下がるのに、清掃を続けなければ、たった1〜2か月でその水準に逆戻りするということです。

この「約6週間で戻る」という時間軸は、別の研究(Mousques 1980)の「菌の割合が元に戻るのに約42日」という観察ともきれいに一致しました。再現性のある現象です。一方、清掃を続けたB群は、可動性菌もスピロヘータ総数も32週を通じて低いまま安定していました。

0 10% 20% 30% 可動性菌の割合 (%) 5% 10% プラーク無し プラーク有り Group B・8週以降。縁上プラーク無しの部位は<5%、有りの部位は>5〜10%(数値は論文記載の境界値)
B群・8週以降。縁上プラーク無しの部位は可動性菌5%未満、有りの部位は5〜10%超(論文記載の境界値)

結果②:差を生んだのは「縁上プラークの有無」

B群の中で何が効いていたのか。著者はB群の部位を「ずっとプラークが無かった部位」と「2回以上プラークがあった部位」に分けて比べました。結果は明快です(8週以降)。

0 0.8 1.7 2.5 スピロヘータ数 (×10⁵) 0.1 2 プラーク無し プラーク有り Group B・8週以降。縁上プラーク無し<0.1 に対し、有りは>2.0。約20倍の差(論文記載の境界値)
縁上プラーク無し=スピロヘータ0.1×10⁵未満、有り=2×10⁵超。約20倍の差(論文記載の境界値)

スピロヘータ数で見ると、およそ20倍の差。同じ口の中の同じB群の部位でも、縁上プラークが残っているかどうかだけで縁下の菌叢はここまで変わる。縁下の菌叢を整えたいなら、縁上のプラークコントロールが効く——縁上が縁下の菌の「供給源」になっているのです。

なぜ、縁上の清掃が縁下を左右するのか

SRPで触るのは縁「下」なのに、なぜ縁「上」の清掃が効くのか。理由は菌の供給ルートにあります。

縁上プラークが菌のリザーバー:縁上のプラークが縁下へ絶えず菌を送り込む。放置すれば縁下もすぐ再定着する
だから「掃除を続けること」が効く:専門的清掃+CHX洗口で縁上を抑え込めば供給源が断たれ、縁下は低いまま保たれる
CHXは助っ人:化学的プラークコントロールが機械的清掃を後押しする

裏を返せば、SRPという「処置」だけでは効果は続かない。その後のセルフケアとメンテナンスという「習慣」とセットで、はじめて長持ちします。

明日の臨床へ──「深すぎるポケット」には別の注意も

もう一つ大事な観察があります。8mm以上の深いポケットは、清掃を徹底しても菌が戻りやすかったのです。A群の再SRP後でも、ごく一部の8mm以上のポケットは深さが十分浅くならず、縁上プラークを除去していたにもかかわらず可動性菌が高いままでした。

著者は、これらの部位ではSRPで取りきれなかった縁下の歯石やプラークが残り、それが供給源になっていると考えています。深いポケットでは器具が届きにくく取り残しが起きやすいことは、古典的研究(Waerhaug 1978)も指摘しています。臨床的にはこう整理できます。

6〜7mm程度:SRP+その後の縁上プラークコントロールで菌叢は良好に保てる
8mm以上:縁上をどれだけきれいにしても残存歯石が悪さをしうる。外科的アプローチなど別の手立ても視野に
ここだけ、冷静に補助線
この研究は1984年・40年以上前の、16人という少人数の研究です。菌叢評価は暗視野顕微鏡での「形態による分類(スピロヘータ・可動桿菌)」で、いまの分子生物学的な菌種同定とは精度が違います。特定の歯周病原菌を名指しで追う技術が一般的でなかった時代の仕事です。だから数字をそのまま現代に当てはめるのは慎重に。それでも「縁上プラークを放置すればSRPで整えた縁下の菌叢は数週間で戻る/縁上のプラークコントロールがそれを抑える」という骨格は、その後のメンテナンス研究で繰り返し裏づけられ、いまも歯周治療の土台になっています。古典が古典たるゆえんです。

今日のひとこと

SRPは、ゴールではありません。菌は、放っておけば4〜8週で戻ってくる。だからこそ患者さんへのセルフケア指導と定期メンテナンスが効く。「処置」を「習慣」につなげること――それが深いポケットを長く保つ、いちばん地味で確実な一手です。

出典:Magnusson I, Lindhe J, Yoneyama T, Liljenberg B. Recolonization of a subgingival microbiota following scaling in deep pockets. J Clin Periodontol. 1984;11(3):193–207. PMID: 6368611.
※本記事は論文の要点を歯科医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
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