ペリオ|Phase1 初期治療
「この形の歯ブラシなら、歯と歯のあいだも磨けます」。そう説明したくなる商品は昔からあります。では、ブラシの形と磨き方をとことん変えたら、歯間はどこまできれいになるのか。1984年、24名を対象に2種類の形×4つの磨き方を総当たりで比べた研究が、その答えを出しています。
①「理想の形」も「理想の磨き方」も、決まっていなかった
歯ブラシは歯肉の健康維持に欠かせない道具です。そして非常に多くの形が設計されてきました。ところが著者らはこう書きます。「歯ブラシの理想的なデザインやブラッシング法について、決定的なデータはいまだに得られていない」。
先行研究は錯綜していました。同じ磨き方で違うブラシを比べた研究、同じブラシで違う磨き方を比べた研究——どちらからも、どのブラシ・どの方法が優れているかについて有意な結論は導けなかった。個別の所見はあります。横磨き法が最も効果が低く、チャーターズ法が最も時間がかかるという報告。ローリング法が最も効果の低い方法だとする報告。O’Learyは下顎大臼歯・小臼歯の舌側にはバス法が選択されるべきだと主張。模型を使ったin vitro研究では「縦磨きの方が横磨きより歯間へのアクセスがよい」「V字型の方がストレートより歯間へのアクセスがよい」「歯間のアクセスにはやわらかい毛が中〜かたい毛より優れる」という結果も出ていました。
そこで本研究は、同じ人の口の中で(個体内比較で)、同じかたさ(ソフト)のストレート多毛ブラシとV字型ブラシを、自分で磨く場合と、術者が4つの方法で磨く場合の両方で比べました。さらに歯間乳頭が空隙を埋めている人と、失われて開いている人を半々に入れて、歯間部の清掃能力を確かめています。
②形2種類 × 磨き方4種類を、総当たりで
対象は20〜49歳の24名。歯周治療を受けた患者・歯学生・歯周病学の臨床指導者から選ばれ、全員が口腔清掃の訓練を受けています。ここが設計の要で、半数の12名は歯間部の歯周組織が失われて鼓形空隙が開いており、残り12名は歯周組織の破壊がない——同じ条件で「開いた歯間」と「詰まった歯間」を比べられるようにしてあります。
開始前に2〜4週間、1日1回機械的に歯を清掃して歯肉の健康を確立。プラークは1歯につき10面(Silness & LöeのPlIが4面なのに対し、より細かい変法)で採点し、各分画4歯を記録。すべての記録は、どの処置が行われたかを知らない同一の歯科医師が行いました。
第1部(自分で磨く):被験者は自分のやり方・自分の時間で1日2回。歯間清掃具は一切禁止。2週間ずつ、無作為にどちらかのブラシを使い、期間の前後でプラークを記録します。2期目は歯肉の健康を再確立してから開始しました。
第2部(術者が磨く):訓練された歯科助手2名が、1日1回3分・5日間ずつ、被験者を磨きます。この期間、被験者はいっさい自分で清掃しません。磨き方はローリング法・バス法・円を描くスクラブ法・横磨きスクラブ法の4つで、4つの分画に無作為に割り当て——つまり1人の口の中で4つの方法が同時に試されます。
③自分で磨くと、形の差は消える
第1部の結果は明快でした。被験者自身が行った清掃では、ストレートでもV字型でも差はありませんでした。
ただし個人差はきわめて大きい。ある人はストレートの方がよく落とし、別の人はV字型の方がよく落とす。内訳はストレートが良かった13名、差がなかった1名、V字型が良かった10名。ブラシの形の優劣は、集団としては相殺されてしまいます。
④術者が磨くとV字が優る。それでも歯間は残る
第2部では差が出ます。V字型は、すべての歯間部および軸面で、磨き方によらずストレートより高い除去能力を示しました。有意差が出たのは近心頬側(5.4対6.2、p=0.02)、遠心頬側(5.6対6.2、p=0.02)、近心舌側(5.7対6.4、p=0.03)。
磨き方ごとに近心頬側を見ると、バス法5.2対6.0、ローリング法5.7対6.5、円を描く法5.3対5.9、横磨き法5.6対6.5——どの方法でもV字型がわずかに優るという同じ形が繰り返されます。差は0.6〜0.9です。
磨き方そのものにも傾向がありました。頬側ではローリング法で磨いた分画にプラークが多く残り、舌側ではバス法が他よりわずかに優れる。著者らは、ローリング法が劣った理由としてこの研究の被験者が(ローリング法の1期を除いて)バス法・円を描く法・横磨き法を使っており、それが歯肉縁を丸く厚くした可能性を挙げています。
そして本題です。V字型のブラシで磨いても、すべてのケースで歯間部にプラークが残りました。さらに歯周組織が失われて開いた歯間部には、破壊のない歯間部より有意に多くのプラークが形成されています。
抄録の結論はこうです。「V字型で磨いたあとも歯間にはプラークが残った。このことは、ブラッシングが常に歯間清掃具によって補われなければならないこと、そしてブラシの形も用いる方法も重要性は小さいことを示している」。
とどめが第1部の副次所見です。「第1部では、2週間の期間それぞれのあとに、全参加者が歯間部に歯肉炎を発症した。これは歯間清掃の必要性を裏づける」。口腔清掃の訓練を受けた24名が、1日2回ブラシだけで磨いて、全員です。
⑤明日の臨床へ
1つ目。「良い歯ブラシ探し」を、歯間清掃の導入より優先しない。 この研究が示したのは、形の違いで得られる差(0.6〜0.9)は、歯間清掃の有無の前ではほとんど意味をもたないということです。患者さんの相談が「どの歯ブラシがいいですか」から始まったときこそ、話を歯間へ移す機会になります。
2つ目。ブラシの形は「その人に合うか」で選ぶ。 集団では差が消えても、個人では13対10で好みも実力も割れました。染め出して、その人の口で確かめる——それがこの研究の使い方です。
3つ目。退縮した歯間ほど、器具を足す。 開いた歯間部の方がプラークが多く溜まりました。歯周治療後に鼓形空隙が開いた患者さんは、ブラシの守備範囲がさらに狭くなっていると考えて、歯間ブラシのサイズ合わせに時間を割く価値があります。
今日のひとこと
20〜49歳の24名(うち12名は歯間部の歯周組織が失われて鼓形空隙が開いた状態、12名は破壊なし)を対象に、同じ毛のかたさ(ソフト)のストレート多毛ブラシとV字型ブラシを比べました。第1部は被験者が自分の方法で1日2回・2週間ずつ(歯間清掃具は使用禁止)、第2部は訓練された歯科助手2名が1日1回3分・5日間ずつ、バス法/ローリング法/円を描く法/横磨き法を4つの分画に無作為に割り当てて磨きます。プラークは1歯10面を、処置を知らされていない同一の歯科医師が採点しました。結果、自分で磨いた第1部では2つのブラシに差はなく(24名中ストレートが良かった13名、差なし1名、V字型が良かった10名)、術者が磨いた第2部ではV字型がすべての歯間部・軸面でわずかに優れました(近心頬側5.4対6.2、遠心頬側5.6対6.2、近心舌側5.7対6.4、いずれもp<0.05)。磨き方では頬側はローリング法で残りやすく、舌側はバス法がやや優れる傾向。そして最も大事な所見が2つ。V字型で磨いてもなお歯間にはプラークが残り、歯周組織が失われて開いた歯間部は、破壊のない歯間部より有意に多くプラークが溜まりました。著者らは「ブラッシングは常に歯間清掃具で補われなければならず、ブラシの形も用いる方法も、重要性は小さい」と結論しています。第1部では全員が歯間部に歯肉炎を発症しました。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


