ペリオ|Phase1 初期治療
「1日2回磨きましょう」。これは社会の常識になっています。ですが著者らは冒頭でこう書きます——1日2回という頻度は社会規範になったが、その頻度を支えるエビデンス基盤は弱い。2016年、5,494件の文献から25研究を束ねて、歯磨きの回数とむし歯の関係が数字にされました。
①「1日2回」は規範になった。根拠はどうか
歯磨きは口腔の健康を保つための基本的なセルフケア行動で、1日2回磨くことは社会規範になっています。CDCもむし歯の予防のために1日2回を推奨しています。
ところが著者らは、この頻度の根拠が一貫せず、互いに矛盾していると指摘します。実例を挙げると、1986年、Addyは複数のワークショップの結論を踏まえて「歯磨剤からのフッ素イオンの供給を除けば、歯磨き自体にはむし歯予防の追加的な利益はない」と述べています。累積的なプラークの量とむし歯の関連を示した研究は多いものの、歯磨き頻度とむし歯増分の関係を評価した実験的試験は1本しか見つからなかった(強い逆相関を示した)。
歯磨き頻度については、歯肉退縮・頭頸部がん・歯周炎との関連を調べたシステマティックレビューは既にありました。ですが、むし歯そのものとの関連を系統的に検討したレビューは1本もなかった——著者らが「これはこのテーマで最初のシステマティックレビュー・メタ解析である」と書くのは、そういう意味です。
②5,494件から、25研究へ
PRISMAに準拠し、Medline・Embase・Cinahl・Cochraneを2016年1月に検索。1980年1月〜2015年12月、英語、ヒト、原著に限定しました。
組み入れは「歯磨き頻度が、新しいむし歯の発生(incidence)または増分(increment)に与える影響を評価した縦断研究」——症例対照・前向きコホート・後向きコホート・実験的試験。歯磨き頻度ではなく食事など他のむし歯関連因子を解析した研究は除外、歯の喪失・歯痛・自己申告のむし歯をアウトカムにした研究も除外されました。
5,494件がヒットし、重複を除いて4,305件。74本を全文精査して33本が適格、そのうちデータが抽出できた25本がメタ解析に入りました。
研究の質はEPHPPツールで評価され、strong 13件、moderate 14件、weak 6件。追跡は11か月から15年。ブラジル4件と中国1件を除いてすべて高所得国で、約半分(16件)がヨーロッパ、米国7件。8件は乳児・小児集団が対象でした。
③オッズ比1.50。乳歯ではもっと大きい
統合結果はオッズ比1.50(95%CI 1.34〜1.69)。増分では標準化平均差0.28(0.13〜0.44)。どちらもあまり磨かない人のほうがむし歯が多い方向で有意でした。
歯列で分けると差が出ます。乳歯列 1.75(1.49〜2.06、I²=0)、永久歯列 1.39(1.29〜1.49、I²=54%)。著者らはこの差を、乳歯のむし歯感受性が高いことで説明できるかもしれないとしています。
頻度の分け方による違いも検討されました。1日2回以上 vs 2回未満で1.45(1.21〜1.74)、1日1回以上 vs 1回未満で1.56(1.37〜1.78)。サブグループ間の差はなく(I²=0)、どの切り方でも「磨かない方がむし歯が多い」という関係は変わりませんでした。
そしてこの論文でいちばん考えさせられる数字がここです。1日2回を超えて磨いた群と2回以下の群を比べると、むし歯の増分に差がありませんでした(SMD -0.12、95%CI -0.38〜0.15、p=0.39)。著者らは「ただしこの推定は1研究のみから来ており、慎重に扱うべきである」と明記しています。
頑健性の確認も行われています。メタ回帰では、サンプルサイズ・追跡期間・むし歯の診断レベル・研究の方法論的な質のいずれも効果推定値に影響しませんでした。出版バイアスの証拠もなく(エッガー検定 p=0.174、ファンネルプロットに有意な非対称なし)、値を補完した2研究を除いた感度分析でも結果はほとんど変わりませんでした。
④フッ素との切り分けが、残された問い
むし歯予防で歯磨きが効く仕組みには2つの経路があります。バイオフィルムの機械的な除去と、歯磨剤に含まれるフッ素の供給。そしてむし歯予防においては後者のほうが重要だと考えられています。
著者らは正直です——「このメタ解析では、フッ素の寄与を分離できなかった。どの研究もそれを可能にするデータを提供していないからだ」。ただし、少数の研究から手がかりは得ています。3研究(Grindefjord 1995、Leroy 2005、Wong 2012)は歯磨き頻度とフッ素配合歯磨剤を別々の変数として検討し、歯磨剤の種類の影響は有意でない一方、稀な歯磨きはむし歯の発生と関連していました。2研究(Wendt 1994、Winter 2015)では頻繁な歯磨きとフッ素配合歯磨剤の両方がむし歯の減少と関連していました。著者らはここから「少数の研究に基づけば、頻繁に磨く人は歯磨剤のフッ素とは独立してむし歯のリスクが低い、と確立した」と述べています。
⑤明日の臨床へ
1つ目。「磨かない人を1日1回まで引き上げる」ことの価値は大きい。1日1回以上 vs 1回未満でオッズ比1.56の差です。この層への介入は、すでに磨けている人に3回目を勧めるより、はるかに効果が期待できます。
2つ目。小さな子ほど回数の影響が大きい。乳歯列では1.75倍。保護者への説明では、この差を根拠として使えます。
3つ目。回数を増やすより、フッ素と磨き方に目を向ける。1日2回を超える利益は示されていません(1研究のみですが)。すでに2回磨けている人には、フッ素濃度・磨く時間・歯間清掃のほうが伸びしろがあります。
今日のひとこと
あまり磨かない人(infrequent brushers)は、よく磨く人に比べて新しいむし歯ができるオッズ比が1.50(95%CI 1.34〜1.69)。増分でも標準化平均差0.28(0.13〜0.44)で有意でした。頻度の切り方を変えても結果は似ていて、1日2回以上 vs 2回未満で1.45、1日1回以上 vs 1回未満で1.56(サブグループ間の差はなし)。歯列別に見ると乳歯列1.75(1.49〜2.06)、永久歯列1.39(1.29〜1.49)で、乳歯のほうが関連が強い。一方で1日2回を超えて磨いた群では、むし歯の増分が減っていません(SMD -0.12、p=0.39)——ただしこれは1研究のみの結果です。フッ素曝露で調整したデータはどの研究にもありませんでした。
54秒の動画でおさらい
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本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


