ペリオ|Phase1 初期治療
HbA1c 8.5%以上が5年以上続いている——コントロール不良の2型糖尿病。この患者の歯周治療で、SRPに歯肉縁下ミノサイクリンを上乗せしたら、何が変わるのか。台湾の研究チームが28名で確かめました。結果は、上乗せ群の勝ちではありませんでした。そして予想外の場所に、数字が動いていました。
①「この人の血糖、ずっと8%台後半なんです」
内科からの情報提供に、HbA1c 9.9%。5年以上この水準が続いている。口の中は、深いポケットが5歯以上。
こういう患者を前にすると、手数を増やしたくなります。治りが悪いはずだから、SRPだけでは足りないだろう。ポケットにミノサイクリン軟膏を入れよう——判断としては自然です。
2011年、台湾の研究チームがこの「自然な判断」を、コントロール不良の2型糖尿病患者28名で検証しました。SRP単独群14名と、SRP+歯肉縁下ミノサイクリン群14名。6か月の追跡です。
②なぜ「足したくなる」のか
糖尿病と歯周病が双方向に関係することは、よく知られています。高血糖はタンパク質を糖化し、終末糖化産物(AGEs)を蓄積させる。AGEsは細胞表面のRAGE発現を上げ、そこから可溶性のsRAGEが生じる——sRAGEは2型糖尿病の血管炎症のマーカーになりうると考えられてきました。歯周組織の炎症で上がったIL-6が血中に入れば、糖・脂質代謝にも悪影響を及ぼしうる。
だからこそ、コントロール不良の患者では歯周治療の反応も鈍いのではないか、という懸念が生まれます。実際、コントロール不良の糖尿病患者では、長期のメインテナンス期に深いポケットの再発が早いという報告があります。
この研究チーム自身の以前の18週の試験でも、ミノサイクリン軟膏の上乗せがSRP単独よりポケットとアタッチメントの改善で優れていたという結果が出ていました。今回はその再検証でもあります。
③HbA1c 8.5%以上が5年以上
組み入れは厳しめです。糖尿病専門医が判定したコントロール不良の2型糖尿病=HbA1c 8.5%以上が5年以上。残存歯20本以上、PD 5mm以上の歯が5本以上。過去6か月以内に抗菌薬の服用も歯周治療も受けていないこと。テトラサイクリン系にアレルギーのある人、妊娠中・妊娠予定の人、喫煙者は除外。
ベースラインのHbA1cは、SRP単独群9.9±2.2%、併用群9.3±0.8%。
全例が口腔衛生指導と、1顎ずつ・週1回・4回に分けた全顎SRPを受けます。併用群はその1か月後から、2%ミノサイクリン軟膏(ペリオクリン)を週1回×4週、ポケット底部に注入。注入後30分は飲食禁止。対照側は歯肉縁上のプラークコントロールのみ。
評価は、ベースライン・3か月・6か月の3時点で、PD・BOP・プラークスコア(O’Leary)・CAL、そして血漿のIL-6・CRP・HbA1c・sRAGE。3時点の反復測定を潜在成長曲線モデル(LGCM)で解析しています。
④結果——歯周は良くなった。ただし両方とも
ポケットはSRP単独 5.15→3.13mm、併用 5.13→3.11mm。減少幅は3か月・6か月時点で1.74〜2.02mmの範囲でした。
BOPは36.4%→15.9%(SRP単独)、45.0%→12.7%(併用)。アタッチメントレベルも5.84→3.98mm、5.80→3.76mmと、どちらも有意に改善しています。
ただし——部位レベルのLGCMで解析しても、ポケットにもIL-6にも群間差はありませんでした。BOPも、CALも同じです。プラークスコアは両群とも20%前後まで落ちており、著者らは「理想(15%)には届かなかったが、中〜高いコンプライアンスだった」と評価しています。
つまりミノサイクリンの上乗せ分は、6か月の歯周パラメータのどこにも現れませんでした。
⑤数字が動いたのは、血糖のほうだった
意外だったのはHbA1cです。log HbA1cの全体的な低下が有意だったのはSRP単独群(−0.082、p=0.033)で、併用群の変化はより小さいものでした。群間差そのものは有意ではありません(0.031、p=0.473)。変化の大半は3か月から6か月の間に生じています。
Janketらのメタアナリシスが示した0.66%という基準で数えると、6か月でこの幅を超えて下がった患者はSRP単独で14名中9名(64%)、併用で8名(57%)でした。
一方で、炎症マーカーは沈黙していました。IL-6は血漿中でSRP群では上昇、併用群ではわずかに低下しましたが、差は有意ではありません(0.469 pg/ml、p=0.172)。sRAGEはSRP群でわずかに低下する傾向(−0.147、p=0.162)、群間差なし(p=0.420)。CRPはどちらの群でもほとんど変化しませんでした。
軟組織の状態は明らかに改善したのに、血中の炎症指標は動かない。著者らはこの点を、他のRCTの報告と食い違う結果として率直に記載しています。
⑥明日の臨床へ
まず、順番の話。コントロール不良の糖尿病患者だからといって、最初から薬を足す設計にする根拠は、この試験からは出てきません。SRP単独でもポケットは2mm前後減り、BOPは3分の1になった。手数を増やす前に、その2mmを取りきることのほうが先です。
次に、内科への伝え方。「歯周治療をすると血糖にも良い影響が出ることがあります」と言えるだけの数字が、この試験にはあります。ただし控えめに。0.66%以上下がったのは6割程度で、全員ではありません。断定ではなく「そういう報告があります」の温度で伝えるのが誠実でしょう。
そして、期待値の設定。血中のIL-6やCRPが下がることを期待して歯周治療を勧めるのは、この試験の結果からは支持されません。改善したのはあくまで口の中と、(一部の患者の)HbA1cでした。
局所ミノサイクリンの出番がないという話ではありません。ただ「コントロール不良の糖尿病患者だから足す」という理由づけは、この試験では支持されなかった——そう限定して受け取るのが妥当です。
⑦ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
6か月で、ポケットはSRP単独が5.15→3.13mm、ミノサイクリン併用が5.13→3.11mm。BOPもプラークスコアもアタッチメントも、両群とも有意に改善しましたが、群間差はどこにもありませんでした。一方でHbA1cは、SRP単独群でのみ有意に低下(log HbA1c −0.082、p=0.033)。0.66%以上下がった人はSRP単独で14名中9名(64%)、併用群で8名(57%)。ただし炎症マーカー(IL-6・CRP・sRAGE)はどちらの群でも動きませんでした。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


