ペリオ|Phase1 初期治療
ルートプレーニングという言葉には「根面を削る」という意味が含まれています。汚染されたセメント質を取り除くため——そう教わってきました。ですが本当に、削らなければ治らないのでしょうか。1988年、Nymanらは同じ患者の口を半分に分け、片側はセメント質ごと削り、もう片側はラバーカップで磨くだけにして、24か月追いかけました。
①「ルートプレーニング」という言葉が含んでいるもの
スケーリング・ルートプレーニング。毎日口にする言葉です。そしてルートプレーニング(root planing)=根面を平らに削る——言葉そのものに、削る動作が入っています。
なぜ削るのか。教科書的な答えは明快でした。歯周炎に侵された根面のセメント質には、細菌由来の毒素(エンドトキシン)が染み込んでいる。だから汚染された層ごと除去しなければ、隣接する組織は健康を取り戻せない——。実際、罹患セメント質が上皮細胞や線維芽細胞に対して細胞毒性を示すことは、多くの in vitro 研究が報告していました。
ですが1980年代半ば、この前提に疑いが向けられます。エンドトキシンは本当にセメント質の中まで浸透しているのか。Nakib ら(1982)や Hughes & Smales(1986)は、内毒素は根面に「乗っている」だけで、セメント質の内部にはほとんど入っていないと報告しました。そして Moore ら(1986)は、歯周炎に侵された根面のリポ多糖の99%が、緩やかに回転するブラシで洗うだけで除去できることを示しています。
ならば、確かめるしかありません。1988年、Nyman らはヒトの口の中で直接検証しました。
②同じ口の半分を、削らずに置く
対象は中等度〜進行した歯周炎をもつ11名(45〜69歳)。スプリットマウス(split-mouth)デザインで、各患者の歯列を4象限に分け、無作為に2象限を試験側、2象限を対照側としました。対象歯は切歯・犬歯・小臼歯(大臼歯は除外)。
ベースライン検査と口腔衛生指導のあと、両側とも歯肉弁を開けます。逆ベベル切開で頬舌側の粘膜骨膜弁を挙上し、すべての肉芽組織を除去。ここまでは同じです。
対照側——歯石とプラークの沈着物を除去したうえで、手用器具と炎の形をしたダイヤモンドストーンを用い、すべてのセメント質を削り取るまで徹底的にスケーリング&ルートプレーニングを行いました。
試験側——根面にはスケーリングもルートプレーニングも一切行わず、ラバーカップ・歯間ラバーチップ・研磨ペーストで磨くだけ。細菌の沈着物はこの研磨によって除去されますが、根面はもとの形態のまま残り、歯石は削り飛ばされる形で「頭を落とされた」状態になっています。セメント質は保存されました。
弁を元の位置に戻して縫合。術後7日はブラッシングを行わず0.2%クロルヘキシジン洗口を1日2回。2週後から通常のブラッシングを再開し、3か月間は2週ごとの専門的クリーニング、その後は3か月ごとのメインテナンス。評価はベースラインと6・12・24か月です。
③差は、どこにも現れなかった
ポケット深さは、ベースラインで約70%が4〜6mm、約30%が6mmを超えていました。治療後6か月の時点で4〜6mmの割合は約20%まで減少し、その後の観察期間中に大きな変化はありません。そして3回の再評価を通じて、6mmを超えるポケットはほぼ消失しました。
ここで重要なのは、この変化の程度が試験側と対照側で変わらなかったことです。削った側も、磨いただけの側も、同じように浅くなりました。
プラークは、治療前に約90%の歯面に付着していたものが、6か月後には15%未満へ。プロービング時の出血は約95%から15〜20%へ。明らかな炎症所見(歯肉炎指数2または3)を示す歯肉単位も、約95%からすべての再評価時点で20%未満に減りました。いずれの項目でも、両群のあいだに差は認められていません。
アタッチメントレベルも同様でした。ベースラインから6か月のあいだにゲインが得られ、その傾向はもともと深かったポケット(6mm超)でより顕著。そして6か月時点で得られたアタッチメントレベルは、その後18か月のメインテナンス期間を通じて本質的に変化しませんでした。これも両群で同じです。
④なぜ、削らなくてよかったのか
この結果は、著者ら自身がイヌで行った先行研究(Nyman ら 1986)と一致していました。そこでは上皮の付着と、その下の非炎症性の結合組織が、露出セメント質を除去した場合と保存した場合の両方で一貫して形成されたことが組織学的に確かめられています。
機序の説明は、前提の側にありました。エンドトキシンは、セメント質の内部に染み込んでいるのではなく、根面に弱く付着しているだけである。だから物理的に洗い落とせば足りる。Moore ら(1986)の「99%が緩やかな研磨で除去できる」という数字が、そのまま臨床結果として現れた形です。
そして著者らは、in vitro で示された「罹患セメント質の細胞毒性」についても興味深い解釈を加えています。本研究で研磨のみでも治癒が得られたということは、細胞毒性を示す物質はセメント質の内部ではなく、その表面に存在していたと考えるのが自然だろう、と。
⑤明日の臨床へ
1つ目。「セメント質を削り取る」ことを目的にしない。この論文以降、ルートプレーニングの目的は「汚染された層の除去」から「沈着物の除去」へと移りました。削る量を増やしても、得られる治癒は変わりません。
2つ目。ただし、歯石は取らなければならない。著者ら自身がこの点を明確に留保しています——歯石の除去は根面への器具操作なしには行えないため、ある程度のセメント質の除去は避けられない。この論文は「器具を当てるな」と言っているのではなく、「必要以上に削る根拠はない」と言っています。
3つ目。削りすぎのリスクを引き受けない。過度な根面の器具操作は、知覚過敏やセメント質の喪失、そして根面う蝕のリスクにつながります。得られるものが変わらないのに、失うものだけが増える処置——そう整理できるのなら、選択は明らかでしょう。
今日のひとこと
歯肉弁を開けたうえで、対照側は手用器具と炎状ダイヤモンドストーンでセメント質ごと徹底的に除去し、試験側は根面をまったく削らずラバーカップと研磨ペーストで磨くだけにしました。24か月後、ポケット深さ・アタッチメントレベル・出血・炎症のいずれにも、両者のあいだに意味のある差は認められませんでした。4〜6mmのポケットは約70%から約20%へ減り、6mmを超えるポケットは3回の再評価を通じてほぼ消失しています。歯周組織の健康を回復させるために、罹患セメント質を意図的に除去する必要はない——この一文が、その後のルートプレーニングの考え方を変えました。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


