ペリオ|Phase1 初期治療
SRPを終え、エキスプローラーを走らせる。滑沢だ、取り切れた——そう判断します。ですがその判断は、どれくらい当たっているのか。ノースカロライナ大学のグループは、抜歯予定の101本を丁寧にSRPし、3人の歯周病専門医に評価させたあと、実際に抜いて実体顕微鏡で確かめました。数字は、決して気持ちのよいものではありません。
①エキスプローラーが「滑沢だ」と言ったとき
SRPを終えます。エキスプローラーを走らせる。引っかかりがない。取り切れた——そう記録して、次の部位へ移ります。
この判断は、歯周治療のすべての土台にあります。「終わった」と決めるのが私たちである以上、その判断が当たっていなければ、その後のすべて(再評価、外科への移行、メインテナンス間隔)が、ずれた地図の上に組み立てられることになります。
1990年、ノースカロライナ大学のグループが、この判断の精度を正面から測りました。方法は単純で、そして残酷です。抜歯予定の歯を丁寧にSRPし、3人の歯周病専門医に「きれいかどうか」を判定させ、そのあと実際に抜いて実体顕微鏡で見たのです。
②なぜこの検証が必要だったのか
歯肉縁下の器具操作の目的は、石灰化した沈着物を除去し、臨床的に滑沢な根面をつくること——当時からそう定義されてきました。そしてその達成度は、術者がエキスプローラー・プローブ・キュレットで確かめるという主観的な方法で評価されてきました。
しかしこの方法には、以前から疑問が呈されていました。Jonesら(1972)はSEMで観察した根面を「かなりの量の残存歯石」があったと報告し、Walker & Ash(1976)はさらに具体的な理由を挙げています——エキスプローラーの先端の太さが、器具でバニッシュされた残存歯石の縁の高さより大きい。段差が探針の直径以下なら、指先には何も伝わりません。
プローブを使えばなおさらです。先端径が大きくなるぶん、感度は下がります。「引っかからない」は「無い」ではない——理屈としては指摘されていましたが、その差が実際に何%なのかは、数えられていませんでした。
③抜く前に判定し、抜いてから確かめる
対象は中等度〜進行した歯周炎の患者7名(35〜74歳)。それぞれ7〜19本が歯周的・補綴的な理由で抜歯適応と判断されていました。合計101歯・476面。
SRPは局所麻酔下で、超音波スケーラー(Cavitron・P-10ユニバーサルチップ)とグレーシーキュレットを使用。時間制限は設けず、術者が納得するまで行いました。約1週間後に2回目のアポイントを設け、器具操作した面を評価して追加のSRPを実施しています。1歯あたりの総処置時間は平均9.4分(超音波3.6分+手用器具5.8分)。かなり丁寧な処置です。
判定は3人の訓練された歯周病専門医が、CP-8ペリオプローブとG-2歯肉縁下エキスプローラーで行います。「さらなる器具操作でより滑沢にできる」と判断した面を不満足(=歯石あり)としました。互いの記録は見られません。3人中2人以上が不満足と判定した面を、臨床的に陽性と定義しています。
3か月のメインテナンス期間(月1回の口腔衛生チェックと縁上清掃)を経て、最終評価の後に抜歯。歯肉縁を1/2ラウンドバーでマーキングし、10倍の実体顕微鏡で歯石の有無を確認、25倍でトレースしてコンピュータでポケット面積と歯石面積を算出しました。
④結果——実際と判定は、重ならなかった
顕微鏡で残存歯石が確認されたのは461面中266面(57.7%)。臨床的に歯石ありとされたのは18.8%にとどまりました。
誤りの内訳が重要です。実際に歯石が残っていた266面のうち、206面(77.4%)が「きれいだ」と判定されていました(偽陰性)。逆に、顕微鏡で歯石がなかった195面のうち「歯石あり」とされたのは23面(11.8%)だけです(偽陽性)。
つまり誤りは一方向に偏っていました。「あると言えばだいたい当たる(≥2名が歯石ありとしたとき、正しかったのは72.3%)。しかし無いと言ったときは、半分以上外れる」。
残存量そのものは、決して大きくありません。1面あたりの歯石面積は平均3.1%(0〜31.9%)。0.1〜5.0%が132面、5.0〜10.0%が84面(33.2%)、10%を超えたのは37面(14.7%)でした。小さいからこそ、見つからないのです。
そして最も意外なのがこれです。浅い部位(1.0〜3.0mm)で、実際と判定の隔たりが最大でした。顕微鏡では53.1%に歯石があったのに、臨床で指摘されたのは6.7%。深い部位(6.5mm以上)では65.9%対34.2%で、まだ半分は拾えています。
臨床の実感とは逆です。私たちは深いポケットを警戒し、浅い部位は「見えているから大丈夫」と考えます。ですが浅い部位でこそ、判定は甘くなっていました。
⑤そして、判定そのものが揺れていた
もうひとつの発見は、判定の再現性です。
SRPを行う前、3人の評価者の一致率は85.3〜89.3%と高いものでした。ところがSRP直後には51.4〜59.1%まで落ちます。κ値を見ると、SRP前が0.22〜0.37、SRP直後は0.047〜0.271——偶然の一致とほとんど変わらない水準です。
同じ人が1週間後にもう一度判定した場合(検者内一致)も、パーセント一致率は76.7〜89.5%でしたが、κ値は0.17〜0.50。統計学的に許容できる水準に達したのは3人中1人だけでした。
もっとも著者らは、「器具操作による粗さを歯石と誤認しているだけではないか」という懸念も検証しています。顕微鏡で歯石ゼロだった195面のうち、不満足とされたのは11.8%だけ——粗さによる誤認は主要な問題ではありませんでした。
⑥明日の臨床へ
この研究は35年前のものですが、指先の感覚が主要な評価手段であることは今も変わりません。持ち帰れるものを3つ。
1つ目。「滑沢=清潔」を終着点にしない。滑沢感は、歯石が無いことの証拠にはなりません。この研究以降、歯周治療の評価軸が「歯石の有無」からBOPの消失・ポケットの減少といった生体の反応へ移っていったのは、まさにこの限界が示されたからです。著者ら自身、最後にこう書いています——歯肉縁下歯石の除去が重要なエンドポイントなら、その検出を助ける他の臨床パラメータを探すべきだと。
2つ目。浅い部位を素通りしない。53.1%対6.7%という数字は、私たちが「見えているから大丈夫」と思っている場所こそ、実は最も雑になっていることを示しています。再SRPの計画では、深い部位だけでなく浅いのにBOPが残る部位を拾うべきでしょう。
3つ目。隣接面と大臼歯を別枠で考える。隣接面は顕微鏡で63.3%(頬舌側47.8%)、大臼歯は臨床でも不満足率が最も高い(24.0%)。器具の届きにくさは、判定の当たりにくさと重なります。
そして——1歯あたり9.4分という時間を、専門医が、麻酔下で、2回に分けてかけた結果がこの数字であることを、忘れないでおきたいところです。「もっと丁寧にやれば取り切れる」という話ではありません。
⑦ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
顕微鏡で歯石が残っていたのは461面中266面(57.7%)。ところが臨床的に「歯石あり」と判定されたのは18.8%だけでした。実際に歯石が残っていた266面のうち206面(77.4%)が「きれいだ」と判定されています。逆の見落とし(偽陽性)は11.8%と少なく、つまり誤りは一方向——見落とす側に偏っていました。さらに検者間の一致率は、SRP前の85〜89%からSRP直後には51〜59%まで落ち、κ値は偶然と変わらない水準でした。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


