ペリオ|歯周病の診断・予後評価
電子タバコ(ENDS)と加熱式タバコ(HTP)。いまや歯科医院でいちばん多く出会う「喫煙者」は、この2つを使っている人かもしれません。紙巻きより害が少ないと考えられていますが、口の中はどうなのか。ベルンとミラノのグループが、臨床研究と実験研究をまとめて数えました。結論より、その「まとまらなさ」のほうが示唆に富んでいます。
①いま、いちばん多い「喫煙者」
問診で喫煙を聞くと、返ってくる答えがこの数年で変わりました。「紙巻きはやめて、電子タバコにしています」「加熱式です」。著者らは冒頭で、歯科医院でもっとも多く見る喫煙患者は、いまやENDS(電子ニコチンデリバリーシステム)とHTP(加熱式タバコ)のユーザーだと書いています。実感と合う方は多いはずです。
どちらも「紙巻きより害が少ない」という位置づけで広まりました。では口の中はどうなのか。ベルン大学とミラノ大学のグループが、臨床研究から実験研究まで横断的に集めて、数えられるところは統合しました。
②集めたもの
PubMed、Embase、Web of Science、Scopus、Google Scholarから、ENDSとHTPが口腔健康に与える影響を扱った研究を収集。アンケート調査・横断研究・介入研究・in vitro(実験室)研究を、それぞれ別に扱っています。
統合解析(メタアナリシス)が行われたのは3つのかたまりです。
①自覚的な歯肉の症状:6研究、対象者は合計562,837人。
②BOP(プロービング時出血):3研究、合計319人。
③in vitroでのアポトーシス:ヒト口腔線維芽細胞をベイピング曝露した4研究。
観察研究のバイアスリスクは87%が中等度。理由も明記されていて、喫煙習慣の詳しい既往(種類・期間・量)が考慮されていない研究が多かったためです。これが後の話につながります。
③結果:方向は同じ、大きさはばらばら
まず方向。BOPはENDS使用と関連あり。自覚的な歯肉炎については、6研究のうち3研究がENDS使用との関連を報告していました。歯肉溝滲出液ではRANKL(NF-κB活性化受容体リガンド)とオステオプロテゲリンの発現が上昇。酸化ストレスマーカー(GSHPx、8-OHdG)も、ベイパー・喫煙者ともに不利な値を示しています。
口腔粘膜では、電子タバコユーザーは非喫煙者に比べて口腔病変を報告するオッズが1.5倍。う蝕についても、電子タバコユーザーで未処置う蝕が多いとする研究が2本あり、フレーバー付きのリキッドがう蝕リスク因子になりうると指摘されています。
では大きさは。ここが本題です。
I²が99.32%・99.13%・91.50%。統計に馴染みのない方向けに言い換えると、「同じことを測ったはずの研究どうしが、まったく違う答えを出している」という状態です。ふつう、I²が50%を超えると解釈に注意が要るとされます。90%超えとなると、統合した数値そのものよりなぜここまで割れるのかのほうが情報量を持ちます。
④なぜ、ここまでばらけるのか
理由ははっきりしています。「電子タバコを使っている」という曝露が、まったく標準化されていないからです。
デバイスの世代が違う。ニコチン濃度が違う。フレーバーが違う。1日の使用量が違う。使用期間が違う。そして何より、紙巻きとの併用者(デュアルユーザー)が混ざっている。先ほどのバイアス評価で「喫煙習慣の詳しい既往が考慮されていない」と指摘されたのは、まさにこの点です。
もうひとつ興味深い所見があります。介入研究のなかに、紙巻きから切り替えた2週間後にBOP部位が有意に増加したという報告がありました。切り替えれば良くなる、という単純な話ではないようです。
⑤明日の臨床へ:問診票を1行増やす
著者らの結論は、驚くほど実務的です。すべての喫煙患者に、包括的な喫煙カウンセリングを行うこと。そして聞くべき中身を4つ挙げています。
1.種類(紙巻き/電子タバコ/加熱式/併用)
2.期間(いつから、紙巻きは何年)
3.ニコチン濃度
4.フレーバー(う蝕リスクに関わる)
「喫煙:あり/なし」の2択では、もう足りません。「あり」の中身が人によって別物だからです。これは研究がばらける理由と、まったく同じ構造をしています。
もうひとつ。切り替えを勧めないこと。この論文の範囲では、切り替えが口腔に有益だという根拠はありません。目標はあくまで禁煙です。
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
電子タバコも加熱式タバコも、歯周・インプラント周囲の指標に不利な影響があり、実験室では発がん性・炎症性のバイオマーカーが確認されています。ただしメタ解析の異質性はI²が91〜99%と極端に高く、数字をひとつに束ねられる段階ではありません。著者らの実務的な結論は「すべての喫煙患者に、種類・期間・ニコチン濃度・フレーバーまで踏み込んだ喫煙カウンセリングを」ということです。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


