ペリオ|歯周病の診断・予後評価
「頬側の歯ぐきが2mm下がっています」。歯肉退縮の記録が、深さのmmだけで止まっていないでしょうか。2017年の世界ワークショップは、退縮を1999年分類から刷新しました。重症度・歯肉の厚み・根面の段差・う蝕やくさび状欠損・審美・知覚過敏。この6点をセットで診ると、経過観察でよいのか外科に進むのかの判断がぶれなくなります。
①その歯肉退縮、どう記録して、何を見ていますか
下顎の犬歯、頬側の歯ぐきが下がっている。プローブを当てると、CEJから2mm。カルテには「4番頬側 GR 2mm」と書く。それで、終わりにしていないでしょうか。
患者さんは鏡を見て言います。「これ、放っておいて大丈夫ですか」。私たちは答えます。「今すぐどうこうではないですよ。しっかり磨いていきましょう」。
間違いではありません。ただ、その歯を「経過観察でよい」と判断した根拠を、mm以外の言葉で言えるでしょうか。歯ぐきは厚いのか薄いのか。根面はツルッとしているのか、段差やくぼみができているのか。しみるのか。目立つ位置なのか。これらを見ずにmmだけで記録すると、次に見たときに「進んだのかどうか」すら比べられません。
Cortellini と Bissada は、2017年の世界ワークショップ(歯周病・インプラント周囲疾患の新分類を決めた国際会議)で、この歯肉退縮の見方そのものを整理し直しました。高齢化が進み、歯を長く残す時代になった。だからこそ退縮と根面の損傷は今後もっと増える——それが出発点です。
②なぜ「1999年の分類」では足りなくなったのか
これまで歯肉退縮を語るとき、多くは1999年の分類(歯肉歯槽粘膜の状態を歯肉の量で捉える枠組み)に沿ってきました。付着歯肉が足りているか、歯槽粘膜との関係はどうか。もちろん大切な視点です。
ただ著者らは、この枠組みだけでは現場で本当に知りたいことに答えられないと指摘します。退縮している歯で私たちが困るのは、歯ぐきの「量」だけではありません。根面がう蝕になる。くさび状にえぐれる(非う蝕性歯頸部病変=NCCL)。冷たいものがしみる。前歯だと見た目が気になる。これらは1999年の分類が正面から扱っていなかった問題です。
そして時代が変わりました。歯を保存する治療が普及し、人は長生きになった。退縮のある根面が口の中に露出している時間が、昔より圧倒的に長くなっているのです。だから著者らは、退縮に伴う根面の病変・知覚過敏・審美的な悩みの臨床的な重みとその多さを根拠に、分類を改訂する必要があると結論づけました。
③新しい分類が「加えた軸」——mmの外側にある6つの目
では、何が変わったのか。ひとことで言えば、退縮を「1本の物差し(mm)」から「複数の軸」で診るようにしたことです。退縮の重症度に加えて、歯ぐきの厚み、根面の状態、う蝕やくさび状欠損の有無、審美への関心、知覚過敏。これらを並べて評価します。
ポイントは、これらが独立した情報だということです。退縮が浅くても、歯ぐきが薄くて根面がしみて前歯なら、対応の優先度は上がる。逆に退縮がやや深くても、厚い歯ぐきで病変がなく奥歯なら、まず経過観察でよい。mm1本では、この差が見えません。
④6つを、どう診るか——現場の目線で
それぞれの軸を、実際にどう見るかに落とします。
① 退縮の重症度。 CEJからの退縮量に加えて、隣接面の付着や骨の状態も併せて評価します。頬側だけでなく、歯間部の組織がどれだけ残っているかが、後の被覆で「どこまで戻せるか」を左右します。
② 歯肉バイオタイプ(歯ぐきの厚み)。 ここが新分類の肝です。著者らは薄い歯周バイオタイプほど退縮が起きやすいとはっきり述べています。プローブを歯肉溝に入れて、プローブの色が歯ぐき越しに透けるかどうか——透ければ「薄い」。薄い歯ぐきは、同じブラッシングでも退縮に進みやすい。厚み一つでリスク階層が変わります。
③ CEJの識別可否と根面の段差。 CEJがはっきり触知できるのか、それとも摩耗やう蝕でCEJ自体が壊れて、根面と歯冠の境に段差やくぼみができているのか。これは根面被覆の術式選択にも、被覆で「どこまで覆えるか」の見積もりにも直結します。
④ う蝕・非う蝕性歯頸部病変(NCCL)。 露出した根面に、う蝕があるか、くさび状にえぐれた欠損(NCCL)があるか。露出時間が長いほどこの2つは増えます。病変があれば、それは「今、対応が必要」のサインです。
⑤ 審美的関心。 患者さんがその退縮を気にしているか。前歯部で目立つ位置なら、機能的には問題がなくても介入の適応になり得ます。ここは患者さんの主観を記録に残すことが大切です。
⑥ 象牙質知覚過敏。 露出根面がしみるか。症状として患者さんの生活の質に直結し、介入を後押しする要因になります。
⑤だから何が変わるか——「経過観察」と「外科」の分岐が言葉になる
6つを並べて診る最大の意味は、「様子を見る」と「外科に進む」の分かれ目を、言葉で説明できるようになることです。著者らの整理は、おおむねこうです。
まず、多くの患者さんは最適なホームケアで歯周の健康を保てる。 適切なプラークコントロールができていれば、退縮があっても悪化しない部位は多い。だから病変がなければ、その部位はモニタリング(定期的に記録して変化を追う)でよい。これが基本線です。
退縮を進める要因があれば、そこに手当てをする。 不十分な口腔清掃、あるいは誤ったブラッシング、矯正治療、歯頸部の修復が、退縮のリスクを上げ得ると著者らは挙げています。まずここを整える。ブラッシング指導だけで進行が止まる部位も少なくありません。
そして、外科に進む基準。 根面のう蝕やNCCLといった病変・損傷が発生・進行するリスクが高いとき、あるいは審美的な要求があるときは、外科的介入——バイオタイプの改変(薄い歯ぐきを厚くする)や根面被覆——が適応になります。薄いバイオタイプで、しみて、前歯で、根面が削れ始めている。この組み合わせは、まさに外科を検討する典型です。
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
歯肉退縮は退縮量のmmだけで記録しない。重症度・歯肉バイオタイプの厚み・CEJと根面の段差(う蝕/非う蝕性の歯頸部病変)・審美的関心・象牙質知覚過敏をセットで評価する。病変がなければ部位のモニタリング、病変や損傷の進行リスクが高い時や審美要求がある時は外科的介入(バイオタイプの改変や根面被覆)を検討する。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


