1問1答 論文 歯周病

退縮とくさび状欠損が重なった歯——根面被覆をどう計画する

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|歯周病の診断・予後評価

歯ぐきが下がって根面が露出し、その歯頸部がくさび状にえぐれている。よくある光景です。でも「退縮(軟組織欠損)+くさび状欠損=NCCL(歯質欠損)」が重なった複合欠損は、退縮だけの症例とは計画の土台が違います。Santamaria らは文献を批判的にレビューし、CEJが見えるか・0.5mmの段差があるか、という2つの問いで方針を決める新しい意思決定プロセスを提案しました。

論文
Rethinking the decision-making process to treat gingival recession associated with non-carious cervical lesions
著者
Santamaria MP, Mathias-Santamaria IF, Ferraz LFF, et al.
掲載
Brazilian Oral Research 2021;35(Suppl 2):e096
種類
文献レビュー+意思決定プロセスの提案
PMID
34586210

退縮+くさび状欠損——「根面被覆」と決める前に、ひと呼吸

下顎の犬歯。歯ぐきが下がって根面が見え、その歯頸部がくさび状にえぐれている。よくある光景です。

ここで「じゃあ根面被覆をしましょう」と、すぐ計画に入れるでしょうか。歯肉退縮(軟組織の欠損)と、くさび状欠損=NCCL(非う蝕性歯頸部病変・歯質の欠損)が重なった状態は、退縮だけの症例とは計画の土台が違います。この論文はそれを「複合欠損(CD=軟組織欠損+歯質欠損)」と呼び、別の意思決定が要ると整理しました。

Santamaria らは、複合欠損を扱った文献を批判的にレビューし、新しい意思決定プロセスを提案しています。中心にあるのは、たった2つの問いです。

先に結論: 複合欠損の計画は、「CEJ(セメント-エナメル境)は識別できるか」「根面に0.5mmを超える段差があるか」の2つで決める。この2軸で、根面被覆に移植材やコンポジットを足すかという方針が変わる。

なぜ「くさび状欠損の合併」で計画が崩れるのか

根面被覆術は、術前も術後もCEJを基準点にして成り立っています。退縮量を測るのも、どこまで覆えば目標達成かを決めるのも、術後に被覆率を判定するのも、すべて「CEJから何mm」で語ります。CEJは、根面被覆のものさしの原点です。

ところがNCCLが進み、欠損が歯冠側と根面側の両方に及ぶと、CEJそのものが削れて消えてしまいます。原点が無くなると、「どこまで覆えば成功なのか」が定義できません。基準を失った状態で軟組織だけを動かしても、ゴールが引けないのです。

従来よく使う分類(MillerやCairo)は、軟組織の退縮だけを見ています。歯質欠損の合併や、根面の形(段差があるか)は織り込まれていません。だからこの論文は、歯質側の状態を記述する新しい枠組みを足しました。

この論文の一手——状態を「2つの問い」で言語化する

Santamaria らが提案したのは、複合欠損のNCCLを2軸で分類し、それぞれに治療選択肢を割り当てる意思決定プロセスです。

1つ目の軸は「CEJが識別できるか」。見えるものをClass A、見えない(欠損に破壊された)ものをClass Bとします。2つ目の軸は「根面に段差があるか」。段差なしをマイナス(−)、段差ありをプラス(+)で表します。

この2軸を掛け合わせると、複合欠損の歯頸部がA−/A+/B−/B+の4類型に整理されます。曖昧だった「退縮+くさび状欠損」が、次に同じ症例を見たときに言葉で記述できるようになる。ここがこの提案の肝です。

中身——A/B分類と、0.5mmの段差

4類型を、判断ツリーで見るとこうなります。上から「CEJは見えるか」→「段差はあるか」と降りていくだけです。

複合欠損 = 歯肉退縮 + NCCL

CEJ は識別できるか

見える 見えない

Class A 基準(CEJ)が残る

Class B 基準(CEJ)を失う

0.5mm超の段差は? 0.5mm超の段差は?

なし あり なし あり

Class A−

CEJ CEJが見える 段差なし

Class A+ CEJ CEJが見える 段差あり(>0.5mm)

Class B− ? CEJ識別不能 段差なし

Class B+ ? CEJ識別不能 段差あり

極めて深い欠損はV字型になりやすい → A+V(V字)/ B+V(CEJ喪失を伴うV字)にさらに細分する

*「段差あり」とは、水平的な深さが0.5mmを超える状態(この論文が定義する最小閾値)

図:複合欠損の意思決定ツリー。「CEJが見えるか(A/B)」と「0.5mm超の段差があるか(+/−)」の2軸で状態を記述し、極深のV字は+Vに細分する。

段差を「あり」とみなす基準は、水平的な深さ0.5mm超。これがこの状態を定義する最小の閾値です。段差がこれより浅ければ「なし(−)」、超えれば「あり(+)」として扱います。

なぜ「段差」が方針を変えるのか——明日の臨床へ

段差の深さは、治癒後の軟組織の適応に影響しうる、と著者らは述べます。根面に深いくぼみ(段差)が残ったまま軟組織弁を乗せても、弁は根面の輪郭に沿いにくく、被覆が安定しにくい。だから段差を何かで補って、根面の形を整えてから覆うという発想が必要になります。ここで移植材やコンポジットの出番です。方針の目安はこうなります。

1. CEJが見えて段差が浅い(A−)。 基準点が残り、根面もなだらか。従来どおりの根面被覆術が第一選択になりやすい状態です。無理に修復を足す理由は小さい。

2. 段差がある(A+・B+)。 深いくぼみを埋めて輪郭を作ってから、あるいは同時に被覆する。補う材料は、結合組織移植などの移植材で厚みと形を出すか、コンポジット(レジン修復)で歯質側のくぼみを物理的に埋めるか。段差の深さと位置で使い分けます。

3. CEJが消えている(B)。 ものさしの原点が無い状態。コンポジットで欠損の歯冠側を修復して「新しい縁」を作り、その下の根面側を軟組織で覆う、という修復と外科の複合アプローチが選択肢になります。深いV字(+V)ではさらに修復の比重が増します。

要は、「軟組織だけ」で計画しないということ。歯質の欠損を修復で補うのか、軟組織で覆うのか、その両方か。それをCEJと段差から先に決める——それがこの意思決定プロセスの実務的な使いどころです。

今日から使える一手: 基準点(CEJ)がまだ残っているうちに、口腔内写真・模型・歯周チャートで記録し、段差の有無を測っておく。CEJが削れて消えてからでは、計画の土台そのものが作れない。

ここだけ、冷静に補助線

この論文は文献レビューに基づく「意思決定プロセスの提案」であって、A−からB+の各アプローチの優劣を直接比べたランダム化比較試験ではありません。0.5mmという閾値も、この状態を定義するための臨床的な線引きであり、その数値自体の予後を検証したものではない点は押さえておきたいところです。ですから「この分類に沿えば必ず被覆率が上がる」とまでは言えません。ではこの論文の価値はどこにあるのか。ぼくは、これまで曖昧に「退縮+くさび状欠損」とだけ呼んでいた複合欠損を、「CEJは見えるか」「0.5mmの段差はあるか」という2つの具体的な問いに落とし込んだことだと思っています。次に同じ症例を前にしたとき、方針の入口を言葉にできる。各アプローチを比べた続報の臨床試験が出てくるのが楽しみです。

今日のひとこと

退縮+くさび状欠損(複合欠損)は「根面被覆だけ」では計画できません。CEJが識別できるか(Class A/B)と、根面に0.5mmを超える段差があるか(+/−)で、移植材やコンポジットを併用するかどうかの方針が変わります。基準点であるCEJが削れて消える前に、写真・模型・チャートで記録し段差を測っておくのが要です。

出典:Santamaria MP, Mathias-Santamaria IF, Ferraz LFF, Casarin RCV, Romito GA, Sallum EA, Pini-Prato GP, Casati MZ. Rethinking the decision-making process to treat gingival recession associated with non-carious cervical lesions. Braz Oral Res 2021;35(Suppl 2):e096. PMID: 34586210(doi: 10.1590/1807-3107bor-2021.vol35.0096)
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。