ペリオ|歯周病の診断・予後評価
歯ぐきが下がって根面が露出し、その歯頸部がくさび状にえぐれている。よくある光景です。でも「退縮(軟組織欠損)+くさび状欠損=NCCL(歯質欠損)」が重なった複合欠損は、退縮だけの症例とは計画の土台が違います。Santamaria らは文献を批判的にレビューし、CEJが見えるか・0.5mmの段差があるか、という2つの問いで方針を決める新しい意思決定プロセスを提案しました。
①退縮+くさび状欠損——「根面被覆」と決める前に、ひと呼吸
下顎の犬歯。歯ぐきが下がって根面が見え、その歯頸部がくさび状にえぐれている。よくある光景です。
ここで「じゃあ根面被覆をしましょう」と、すぐ計画に入れるでしょうか。歯肉退縮(軟組織の欠損)と、くさび状欠損=NCCL(非う蝕性歯頸部病変・歯質の欠損)が重なった状態は、退縮だけの症例とは計画の土台が違います。この論文はそれを「複合欠損(CD=軟組織欠損+歯質欠損)」と呼び、別の意思決定が要ると整理しました。
Santamaria らは、複合欠損を扱った文献を批判的にレビューし、新しい意思決定プロセスを提案しています。中心にあるのは、たった2つの問いです。
②なぜ「くさび状欠損の合併」で計画が崩れるのか
根面被覆術は、術前も術後もCEJを基準点にして成り立っています。退縮量を測るのも、どこまで覆えば目標達成かを決めるのも、術後に被覆率を判定するのも、すべて「CEJから何mm」で語ります。CEJは、根面被覆のものさしの原点です。
ところがNCCLが進み、欠損が歯冠側と根面側の両方に及ぶと、CEJそのものが削れて消えてしまいます。原点が無くなると、「どこまで覆えば成功なのか」が定義できません。基準を失った状態で軟組織だけを動かしても、ゴールが引けないのです。
従来よく使う分類(MillerやCairo)は、軟組織の退縮だけを見ています。歯質欠損の合併や、根面の形(段差があるか)は織り込まれていません。だからこの論文は、歯質側の状態を記述する新しい枠組みを足しました。
③この論文の一手——状態を「2つの問い」で言語化する
Santamaria らが提案したのは、複合欠損のNCCLを2軸で分類し、それぞれに治療選択肢を割り当てる意思決定プロセスです。
1つ目の軸は「CEJが識別できるか」。見えるものをClass A、見えない(欠損に破壊された)ものをClass Bとします。2つ目の軸は「根面に段差があるか」。段差なしをマイナス(−)、段差ありをプラス(+)で表します。
この2軸を掛け合わせると、複合欠損の歯頸部がA−/A+/B−/B+の4類型に整理されます。曖昧だった「退縮+くさび状欠損」が、次に同じ症例を見たときに言葉で記述できるようになる。ここがこの提案の肝です。
④中身——A/B分類と、0.5mmの段差
4類型を、判断ツリーで見るとこうなります。上から「CEJは見えるか」→「段差はあるか」と降りていくだけです。
段差を「あり」とみなす基準は、水平的な深さ0.5mm超。これがこの状態を定義する最小の閾値です。段差がこれより浅ければ「なし(−)」、超えれば「あり(+)」として扱います。
⑤なぜ「段差」が方針を変えるのか——明日の臨床へ
段差の深さは、治癒後の軟組織の適応に影響しうる、と著者らは述べます。根面に深いくぼみ(段差)が残ったまま軟組織弁を乗せても、弁は根面の輪郭に沿いにくく、被覆が安定しにくい。だから段差を何かで補って、根面の形を整えてから覆うという発想が必要になります。ここで移植材やコンポジットの出番です。方針の目安はこうなります。
1. CEJが見えて段差が浅い(A−)。 基準点が残り、根面もなだらか。従来どおりの根面被覆術が第一選択になりやすい状態です。無理に修復を足す理由は小さい。
2. 段差がある(A+・B+)。 深いくぼみを埋めて輪郭を作ってから、あるいは同時に被覆する。補う材料は、結合組織移植などの移植材で厚みと形を出すか、コンポジット(レジン修復)で歯質側のくぼみを物理的に埋めるか。段差の深さと位置で使い分けます。
3. CEJが消えている(B)。 ものさしの原点が無い状態。コンポジットで欠損の歯冠側を修復して「新しい縁」を作り、その下の根面側を軟組織で覆う、という修復と外科の複合アプローチが選択肢になります。深いV字(+V)ではさらに修復の比重が増します。
要は、「軟組織だけ」で計画しないということ。歯質の欠損を修復で補うのか、軟組織で覆うのか、その両方か。それをCEJと段差から先に決める——それがこの意思決定プロセスの実務的な使いどころです。
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
退縮+くさび状欠損(複合欠損)は「根面被覆だけ」では計画できません。CEJが識別できるか(Class A/B)と、根面に0.5mmを超える段差があるか(+/−)で、移植材やコンポジットを併用するかどうかの方針が変わります。基準点であるCEJが削れて消える前に、写真・模型・チャートで記録し段差を測っておくのが要です。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。


