1問1答 論文 歯周病

根分岐部病変があると、その大臼歯はどれだけ失われるか

1問1答 論文 歯周病

ペリオ|歯周病の診断・予後評価

根分岐部にプローブが入る。この所見が予後を悪くすることは誰もが知っています。では「どれだけ」悪いのか。しかも、きちんとメインテナンスに通わない一般集団では。ドイツ・ポメラニアの住民1,897人・大臼歯3,267本を11年追った研究が、その数字を出しました。

論文
The effect of furcation involvement on tooth loss in a population without regular periodontal therapy
著者
Nibali L, Krajewski A, Donos N, Völzke H, Pink C, Kocher T, Holtfreter B
掲載
J Clin Periodontol 2017;44(8):813-821.
種類
住民コホート研究(SHIP・11年追跡)
PMID
28699678

「この歯、分岐部に入ります」——その先を、数字で言えますか

下顎第一大臼歯。頬側の分岐部にネーバースプローブがすっと入る。2度。

患者さんは聞きます。「それって、どうなんですか」。私たちは答えます。「予後は厳しいですね。しっかりメインテナンスに通ってください」。

間違ってはいません。ただ、「厳しい」がどれくらい厳しいのかを数字で言えるでしょうか。しかも、この患者さんが結局メインテナンスに来なかったとしたら、どうなるのか。

これまでの根分岐部病変の予後研究は、ほとんどが大学病院や専門医院で定期的な歯周治療を受けている患者を対象にしていました。つまりいちばん条件のよい集団のデータです。現実の患者さんの多くは、そこにいません。

Nibali らはこの空白を埋めました。ドイツ・ポメラニア地方の住民健康調査(SHIP)に参加した2,333人のうち、ベースラインと11年後の両方のデータが揃った1,897人・大臼歯3,267本を解析。対象は定期的な歯周治療を受けていない一般住民です。

先に結論: 11年で失われた大臼歯は、根分岐部病変なし5.6%/1度12.7%/2度34.0%/3度55.6%。病変なしと比べた喪失の発生率比は、1度で1.73倍、2〜3度で3.88倍

なぜ根分岐部だけが特別なのか

複根歯では、破壊性歯周病に伴う歯槽骨の吸収が根分岐部に及ぶことがあります。そしてこの領域には、他の部位にはない解剖学的な事情があります。

エナメル突起、根面溝、副根管、狭い分岐部入口(多くはキュレットの刃より狭い)。器具が物理的に届かないのです。だからプラークと歯石が残り、炎症が続く。「歯周治療で最も治りにくい部位」と言われる理由がここにあります。

ただし著者らが指摘するのは、この問題を系統的に評価した研究がごく少ないという点です。根分岐部病変が歯の喪失リスクを高めることは、支持療法を受けている患者では系統的レビューで示されている。しかしそのリスクの大きさ、とりわけ治療を受けていない集団でのリスクは、ほとんど測られていませんでした。

結果——階段状に上がっていく

11年の追跡期間中、375人(19.8%)が大臼歯を失いました。根分岐部病変の程度別に見ると、こうなります。

0 20% 40% 60% 11年間で失われた大臼歯の割合(%) 5.6% 12.7% 34% 55.6% 根分岐部病変なし 1度 2度 3度 定期的な歯周治療を受けていない一般住民3,267本の大臼歯を11年追跡。病変が進むほど喪失率は階段状に上がる
図1:11年間の大臼歯喪失率。病変の程度が1段階進むごとに、喪失率がきれいに跳ね上がっていく。

根分岐部病変なし5.6%、1度12.7%、2度34.0%、3度55.6%

この数字の並びが美しい——と言うと不謹慎ですが、用量反応関係(程度が強いほど結果も強い)がこれほどきれいに出るのは、因果を考えるうえで重要な所見です。そして数字そのものが重い。3度の根分岐部病変がある大臼歯は、11年で半分以上が失われている

多水準ポアソン回帰で、年齢・喫煙などを調整した発生率比(IRR)がこちらです。

0 1.5 3 4.5 喪失の発生率比(病変なし=1.0) 1 1.7 3.9 根分岐部病変なし 1度 2〜3度 95%信頼区間:1度 1.34–2.23/2〜3度 2.94–5.11(いずれもp<0.001)。初診時のポケット深さとアタッチメントレベルも喪失と有意に関連した
図2:喪失の発生率比。病変なしを1.0としたとき、1度で1.73倍、2〜3度で3.88倍。

1度:IRR 1.73(95%CI 1.34–2.23、p<0.001)2〜3度:IRR 3.88(95%CI 2.94–5.11、p<0.001)。頬側中央の分岐部だけで見ても、ほぼ同じ数字(1度1.74、2〜3度も同程度)が出ています。

もちろん、初診時のポケット深さ(PPD)とアタッチメントレベル(CAL)も喪失と有意に関連していました(いずれもp<0.001)。根分岐部病変はそれらとは独立した情報を持つ、という構図です。

「歯周治療を受けた」群のほうが、むしろ多く失っていた

この論文でいちばん考えさせられるのが、この所見です。

対象者の一部は、追跡期間中に何らかの「歯ぐきの治療」を受けたと自己申告していました。ところが解析すると、「歯ぐきの治療を受けた」と答えた人のほうが、大臼歯の喪失率がむしろ高かったのです。

これをどう読むか。著者らは慎重です。まず自己申告の「歯ぐきの治療」は、標準的な歯周治療とは限らない。患者さんの理解と実際の処置内容がずれることは、先行研究でも指摘されています。そして何より、重症な人ほど治療を受けるという交絡(適応による交絡)が効いている可能性が高い。治療が悪いのではなく、治療を受けた集団がもともと悪かった、という読み方が自然です。

著者らはそのうえで、「歯ぐきの治療を受けていない」サブグループだけで解析しても、根分岐部病変に起因する喪失リスクは全体と一貫していたと述べています。つまり結論は治療歴の有無で揺らがなかった

それでも、この所見は現場に一つの現実を突きつけます。「治療を受けた」ことと「治療が続いた」ことは別だということです。一度スケーリングを受けただけの患者さんが、11年後に大臼歯を残せているとは限らない。

明日の臨床へ——数字で伝える、期間で伝える

1. 「厳しい」を数字に置き換える。 「予後不良です」より、「同じような状態の歯は、10年で3本に1本くらい失われるというデータがあります」のほうが伝わります。2度なら34%、3度なら55.6%。ただしこれは定期管理を受けていない集団の数字である、という但し書きを必ずつける。ここが説明の要です。

2. だからこそ「通う意味」を具体的に言える。 この研究の対象は、まさに通わなかった人たちです。専門的なメインテナンスを受けた集団の研究では、根分岐部病変のある歯でももっと良い成績が報告されています。「この数字は、通わなかった場合の数字です」と伝えられることは、動機づけとして強い。脅すのではなく、選択肢を示す形にできます。

3. 1度を軽く見ない。 1度の根分岐部病変は、つい「まだ入口だから」と流しがちです。しかし喪失率は病変なしの2倍以上(5.6%→12.7%、IRR 1.73)。1度が見つかった時点で、その歯は別枠のリスク群に入ったと考えて記録し、リコール間隔の判断材料にする。

今日から使える一言: 「厳しいです」ではなく「通わなかった場合、10年でこれくらいの割合で失われます」。数字と条件をセットで渡す。

ここだけ、冷静に補助線

この研究はハーフマウス(半顎)検査で、しかも上下1本ずつの大臼歯でしか根分岐部病変を測っていません。全顎を診た場合の実態とはずれる可能性があります。また観察研究なので、根分岐部病変が「原因で」歯が失われたことを直接示したわけではありません(重度の歯周炎という共通の背景が両方を生んでいる可能性は残ります)。そして最大の注意点は、この数字をそのまま自院の患者さんに当てはめないことです。対象は定期管理を受けていないドイツの一般住民であり、日本の、しかもメインテナンスに通っている患者さんの予後はこれより良いはずです。ではこの論文の価値は何か。ぼくは「治療しなかったときの自然経過」を知れることだと思っています。私たちが日々見ているのは治療した歯ばかりで、放っておいた場合の11年後を見る機会はほとんどありません。その対照群を、この論文は提供してくれます。

今日のひとこと

11年で失われた大臼歯は、根分岐部病変なしで5.6%、1度で12.7%、2度で34.0%、3度で55.6%。定期的な歯周治療を受けない集団では、2〜3度の根分岐部病変があると喪失リスクは約3.9倍になります。

出典:Nibali L, Krajewski A, Donos N, Völzke H, Pink C, Kocher T, Holtfreter B. The effect of furcation involvement on tooth loss in a population without regular periodontal therapy. J Clin Periodontol 2017;44(8):813-821. PMID: 28699678(doi: 10.1111/jcpe.12756)
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。