1問1答 論文 歯周病

歯磨剤がしみるのは何のせいか——皮膚で確かめたSLSとトリクロサン

1問1答 論文 歯周病

歯周病・口腔粘膜|ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)・トリクロサン・抗炎症作用

「歯磨き粉を変えたら口の中が荒れなくなった」。そう言う患者さんがいます。犯人として名前が挙がるのが、ほとんどの歯磨剤に入っている発泡剤・ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)です。1994年、オスロ大学のBarkvollとRollaが、前腕の皮膚を使ってこの刺激を再現し、殺菌剤トリクロサンを足すと何が起きるかを確かめました。

論文
Triclosan protects the skin against dermatitis caused by sodium lauryl sulphate exposure
著者
Barkvoll P, Rolla G
掲載
J Clin Periodontol. 1994;21(10):717-719
種類
ヒト介入実験(健常成人10名・前腕のパッチテスト・6条件を同時比較)
PMID
7852618

「歯磨き粉を変えたら、口が荒れなくなった」

患者さんからこう言われることがあります。あるいは、アフタが繰り返しできる患者さんに「発泡剤の入っていない歯磨剤に変えてみましょうか」と提案したことがあるかもしれません。

名指しされるのは、ラウリル硫酸ナトリウム(sodium lauryl sulphate=SLS)です。歯磨剤に最も広く使われている合成界面活性剤で、あの泡を作っている当人です。SLSが口腔粘膜の炎症と落屑を起こしうることは1970年代から繰り返し報告され、灼熱感(burning pain)を伴うという報告は1993年(Waaler ら)に出ています。

そこへ、別の話が重なります。1990年代、歯磨剤にトリクロサンという脂溶性の広域殺菌剤が配合されるようになりました。1993年、Waalerらが「洗口液にトリクロサンを足すと、SLSによる痛みが消えるか減る」と報告します。1.5%のSLS洗口液はほぼ全員に痛みを起こしたのに、0.3%あるいは0.15%のトリクロサンを足すとそれが消えるか軽くなった——ただしそのしくみは分かっていませんでした

先に結論: 前腕の皮膚で試したところ、1%SLS単独は10名全員に紅斑を起こした。しかし同じ液に0.3%トリクロサンを混ぜておくと紅斑はゼロ曝露のあとに塗るだけでも、4時間後の紅斑は対照の1.5に対して0.6だった(p<0.05)。トリクロサンには抗炎症の働きがありそうだ。

なぜ「皮膚」で試したのか

調べたいのは口の中の話です。にもかかわらず著者らが前腕の皮膚を選んだ理由は、はっきり書かれています——皮膚のほうが、口腔粘膜より詳細な視診に適しているから

SLSが皮膚に炎症を起こすことは既知でした。そのしくみとして有力なのが、角質層にある脂質の半透膜構造をSLSが壊すという説です。この膜は本来、水溶性物質を内側に留めておく役割を持ち、その物質が浸透圧で水を引き込んで天然保湿因子として働いています。膜が壊れる → 乾燥する → それが皮膚炎の下地になる、という筋書きです。

  • 対象:健常成人10名(女性6・男性4、平均46歳)
  • 方法:前腕内側の健常皮膚に、フィンチャンバー・パッチテストで6条件を同時に貼付。貼付時間は24時間
  • 評価:パッチ除去10分後に Frosch & Kligman(1979)の基準で紅斑をグレード分け。その後、後処理を行いさらに4時間後に再評価
  • 統計:ノンパラメトリックのWilcoxon符号付順位検定(有意水準 p=0.05)

6条件はこうです。①1%SLS単独(除去後に0.9%生理食塩水で5分間拭う=対照)/②1%SLS(除去後に0.3%トリクロサンで5分間拭う=後処理)/③0.3%トリクロサンで5分間拭ってから1%SLSを貼付(=前処理)/④1%SLSと0.3%トリクロサンの混合液⑤0.3%トリクロサン単独⑥蒸留水

結果——「混ぜておく」が最も効いた

0 0.8 1.7 2.5 紅斑のグレード(Frosch & Kligman 1979) 1.9 1.5 1.9 0.6 1.5 1.2 0 0 SLS単独 SLS→後からトリクロサン トリクロサン前処理→SLS SLSとトリクロサンを混合 10名の平均グレード。SLSは全員に紅斑を起こした。後処理群の4時間後 0.6 は対照(生理食塩水で拭った 1.5)との比較で p<0.05。トリクロサン単独・蒸留水はいずれも全時点で 0
紅斑のグレード(10名の平均)。各群の左(濃い棒)がパッチ除去10分後、右(淡い棒)が4時間後
  • ①SLS単独:10分後 1.9 → 4時間後 1.510名全員に紅斑が出た
  • ④SLSとトリクロサンの混合10分後も4時間後も 0誰にも皮膚炎が起きなかった
  • ②後処理(曝露のあとに塗る):10分後は 1.9 と対照と変わらないが、4時間後は 0.6 まで下がった(対照の 1.5 と比べて p<0.05
  • ③前処理(先に塗ってからSLS):10分後 1.5・4時間後 1.2 とわずかに軽い程度で、有意差なし
  • ⑤トリクロサン単独・⑥蒸留水:どちらも反応なし(トリクロサン自体は皮膚を荒らさない)

予備実験で、1%のTween 80(トリクロサンを溶かすための可溶化剤)単独ではSLSの症状に影響しなかったことも確認されています。効いていたのは溶媒ではなくトリクロサンだ、という担保です。

なぜ効いたのか——著者らの仮説

著者らは断定せず、いくつかの可能性を並べています。

  • 単量体の「尾」を掴んだ説:トリクロサンはほぼ水に溶けません。混合液のなかではSLSのミセル(臨界ミセル濃度0.2%)に取り込まれて溶けていたはずです。一方、皮膚に浸透して刺激を起こすのはミセルではなく、疎水性の「尾」をむき出しにした単量体のSLSだと考えられます。トリクロサンがその「尾」に結合して、皮膚への浸透そのものを妨げた可能性
  • 膜を安定させた説:脂溶性のトリクロサンが(SLSとは無関係に)皮膚に浸透し、角質層の膜に溶け込んで細胞を安定させ、乾燥から守った可能性
  • 抗炎症説:当時報告されたばかりの、トリクロサンがプロスタグランジンと相互作用して抗炎症作用を示すという知見(Colemanら 1993)

後処理が効いたという所見は、3番目の抗炎症説と読み合わせるのが自然です。SLSの浸透はもう済んでしまった後に塗って効いているのですから、「入るのを止めた」では説明がつかないのです。

明日の臨床へ

  • 「歯磨剤で口が荒れる」の原因候補として、SLSは今も筆頭。この研究は皮膚での話ですが、SLSが濃度1%で全員に反応を起こしたという事実は、粘膜を扱う私たちにとって十分に示唆的です
  • 刺激は「成分ごと」ではなく「配合の組み合わせ」で決まりうる。同じSLS濃度でも、何が一緒に入っているかで結果が変わった——製品を選ぶときの見方が少し変わります
  • 殺菌剤の効果を、すべて「菌が減ったから」と読まない。トリクロサン配合歯磨剤の抗歯肉炎効果は、抗菌作用だけでなく抗炎症作用でも一部説明できるかもしれない、というのが著者らの主張です。プラーク量が変わらないのに歯肉炎が減る、という報告を読むときの補助線になります
  • アフタや粘膜の落屑を繰り返す患者さんには、SLS無配合の歯磨剤を試す価値がある。これは本論文の直接の結論ではありませんが、SLSの粘膜への影響を扱った一連の報告(Herlofson & Barkvoll 1993 ほか)と合わせれば、試して損のない一手です
ここだけ、冷静に補助線 — 何より、これは口の中ではなく前腕の皮膚の実験です。角化した皮膚と口腔粘膜では構造も曝露条件も違いますし、24時間の連続貼付は、歯磨きの2分間とは比べものになりません。10名という小さな集団で、評価は肉眼所見のグレード分け(組織学的な裏づけはありません)。しくみについても、著者ら自身が「推測される(it can be speculated)」という書き方をしており、確定した機序ではありません。加えて、この論文が書かれた1990年代とは、トリクロサンを取り巻く状況が変わっています——米国FDAは2016年、一般用の抗菌ハンドソープ等への配合を認めない規則を出しました(長期に毎日使う場合の安全性と、ただの石けんと水を上回る有効性を製造者が示せなかったこと、動物実験でのホルモン影響のデータが理由に挙げられています)。環境中への残留や耐性の懸念もあり、歯磨剤でも配合をやめた製品があります。「だからトリクロサン入りを選ぼう」という読み方は、もうしにくくなりました。それでもこの論文が生きているのは、「殺菌剤が炎症に効くのは、菌を殺したからとは限らない」という視点を、きれいな実験で示した点にあります。成分を評価するときの物差しとして、今も使えます。

今日のひとこと

SLSは10名全員の皮膚に紅斑を起こしたが、同じ液にトリクロサンを0.3%混ぜておくと紅斑はゼロだった。曝露のあとに塗っても、4時間後の紅斑は対照の1.5に対して0.6だった。トリクロサンには殺菌だけでなく炎症を抑える働きがありそうだ——というのが著者らの読みで、抗歯肉炎効果の一部はこれで説明できるかもしれない。

Barkvoll P, Rolla G. Triclosan protects the skin against dermatitis caused by sodium lauryl sulphate exposure. J Clin Periodontol. 1994;21(10):717-719. PMID: 7852618
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。