エンド|来院と来院の間のフレアアップを微生物の側から説明し、仕組みごとの予防策を表にまとめた総説(ナラティブレビュー・Siqueira 2003・International Endodontic Journal)
根管治療の翌日に「腫れて痛い」と電話が入る。そのフレアアップを、Siqueiraは微生物の側から説明しました。著者は微生物を主な原因と考え、感染した削りかすの根尖からの押し出し、根管内の菌叢・環境の変化、根管内の二次感染、酸化還元電位の上昇の4つの仕組みを挙げ、押し出しの少ない拡大法・できれば拡大と洗浄を1回で終える・感染根管での来院の間の抗菌性の貼薬・歯を開けたままにしない・無菌操作の5つの予防策を勧めています。ただし、新しい実験や患者の調査ではない1人の著者による総説で、酸化還元電位の説は著者自身が証拠の無い推測とし、予防策の効果はこの論文の中では比べていません。
①根管治療のあとの急な痛みと腫れ、なぜ起きる?
根管治療の翌日、「夜中から腫れて痛い」と電話が入る。誰でも一度は経験する場面です。ていねいに処置したつもりでも起きることがあり、原因がはっきりしないまま、鎮痛薬や抗菌薬で乗り切った経験もあるかもしれません。
ブラジルのSiqueiraは、この「来院と来院の間のフレアアップ」を微生物の側から説明する総説を書きました(International Endodontic Journal 2003)。新しい実験や患者の調査ではなく、それまでの研究と著者の考えをまとめた論文です。
・フレアアップ:根管治療の後、数時間〜数日のうちに痛み・腫れ(または両方)が出て、予定外の救急の受診が要るほどのもの。報告された頻度は研究によって1.4〜16%(著者が引用した先行研究の値)
・原因には機械的・化学的・微生物による傷害があり、著者は微生物を主な原因と考えている
・著者は、微生物が起こす仕組みを4つに整理した:①感染した削りかすの根尖からの押し出し、②根管内の菌叢・環境の変化、③根管内の二次感染、④酸化還元電位の上昇(④は著者自身が証拠の無い推測としている)
・予防策として、押し出しの少ない拡大法の選択、できれば拡大・洗浄を1回の来院で終える、感染根管での来院の間の抗菌性の貼薬、歯を開けたままにしない、無菌操作の徹底の5つを挙げた
・注意:予防策は仕組みから導いた著者の提案で、この論文の中でフレアアップが減るかを比べたものではない
②フレアアップとは何か
著者は、来院と来院の間のフレアアップを「根管治療の処置の後、数時間〜数日のうちに痛み・腫れ、またはその両方が出て、予定外の救急の受診が要るほどの重さのもの」と定義しています。標準的な処置の後でも軽い術後痛はよくあることで、患者さんにも予想しておいてもらうべきもの、と区別しています。
報告されたフレアアップの頻度は、研究によって1.4〜16%と幅があります。年齢・性別・歯の種類・歯髄の状態・術前の痛み・アレルギー・瘻孔の有無が、フレアアップの起きやすさに関わると報告されてきました(いずれも著者が引用した先行研究)。
原因は、歯髄や根尖周囲組織への機械的・化学的・微生物による傷害です。器具の突き出しや根管充填材のはみ出し(機械的)、洗浄剤や貼薬(化学的)も炎症を起こしますが、著者は、根管から根尖周囲へ出ていく微生物とその産物による傷害が、おそらく最も大きく最も多い原因だと述べています。歯髄壊死の歯(感染していると推定)では、生活歯髄の歯よりフレアアップが有意に多いという報告も引いています。
③どんな論文か
Siqueira 1人による総説(ナラティブレビュー)です。文献の探し方や選び方は書かれておらず、系統的レビューではありません。それまでの研究を引きながら、微生物がフレアアップを起こすと考えられる仕組みと、その予防策を著者の考えで整理しています。表1で仕組みと予防策の対応をまとめ、図1〜6で仕組みを模式図と走査電子顕微鏡の写真(図3)で示しています。
前提として、著者は症状のある根管の感染について次のように説明しています。症状のある根尖病変には、一部のグラム陰性の嫌気性菌が強く関わるという報告が多い一方、同じ菌が症状のない例からもよく見つかります。その説明として、同じ菌種でも株によって毒性が違う、複数の菌が一緒にいると毒性が強まる、菌の数が多い、環境によって毒性を出したり止めたりする、患者さんの抵抗力に差がある、といった仮説を挙げています(原典の図1)。
④著者が挙げた4つの仕組み
① 感染した削りかすの押し出し:著者は、術後痛の主な原因の1つと考えられる、としています。症状のない慢性の根尖病変では、根管の菌と体の防御がつり合っています。拡大・洗浄のときに菌が根尖の外へ押し出されると、体はそれまでより多くの刺激にさらされ、つり合いを取り戻すために急性の炎症を起こす、という説明です(原典の図2)。炎症の強さは、押し出された菌の数と毒性で決まるとしています。著者は、どの拡大法でも削りかすは押し出され、その量に差があること、手用でもエンジンでもクラウンダウン法は押し出しが少ないとされることを、先行研究を引いて述べています。菌の数は術者がある程度コントロールできるが、毒性の強い菌がいるかどうかはコントロールしにくい、とも書いています。
② 根管内の菌叢・環境の変化:根管の菌は、何種類もの菌がつり合って暮らす集団になっていることが多いと、著者は説明しています。拡大・洗浄が途中で終わると、ほかの菌を抑えていた菌の一部が除かれ、それまで抑えられていた菌が残って増えることがあります。増えた菌に毒性があり、数が十分になれば、病変の急性化につながりうる、という考えです(原典の図4)。また、環境の変化で菌の毒性に関わる遺伝子が働き出すこともありうるとし、それを臨床で予測するのは無理なので、できるかぎり拡大・洗浄を1回で終えるべきだと述べています。
③ 根管内の二次感染:治療中・来院の間・治療の後に、最初の感染には無かった菌が根管に入ることです。治療中は、歯冠に残ったプラーク・歯石・う蝕、漏れのあるラバーダム、指で触れた器具、汚染された洗浄液などが入り口になります。来院の間は、仮封の漏れ・破損・脱落、歯の破折、排膿のために歯を開けたままにすることが挙げられています(原典の図5)。入った菌に毒性があり、数が十分になれば、フレアアップの原因になりうるとしています。
④ 酸化還元電位の上昇:歯を開けると根管に酸素が入り、通性嫌気性菌(レンサ球菌など)が増えて急性炎症を起こす、という説です(原典の図6)。ただし著者は、この説を唱えた研究には採取法などに重大な欠陥があり、真実だという科学的な証拠は無く、推測の域を出ないと書いています。もし本当でも、フレアアップの一部にしか当てはまらないだろうとしています。
⑤著者が勧める5つの予防策
著者はまず、術前の痛みや腫れの既往(とくに歯髄壊死・感染の歯)は、フレアアップを予測する最もよい手がかりの1つだと、先行研究を引いて述べています。一方で、フレアアップはまったく予測できないことも多く、感染根管はどれも理屈のうえでは危険が高いと考えて、ふだんから予防策をとるべきだとしています。挙げたのは次の5つです。
(1) 押し出しの少ない拡大法:どの拡大法でも削りかすは押し出されますが、直線的にやすりがけする方法は回転運動を含む方法より多く押し出す、クラウンダウン法は押し出しが少ない、という先行研究を引いています。十分で頻繁な洗浄は削りかすや菌を除き、詰まりや押し出しの危険を下げるとしています。回転運動を含む器具でのクラウンダウン法と十分な洗浄の組み合わせは、少なくとも理屈のうえではフレアアップを減らしうる、という書き方です。
(2) できれば拡大・洗浄を1回の来院で終える:刺激物をできるだけ取り除けば、残った菌が増えたり毒性を強めたりして起きる症状を減らせる、という考えです。
(3) 感染根管の治療では、来院の間に抗菌性の貼薬:貼薬は術後痛に影響しなかったという研究がある一方、抗菌性の貼薬と次亜塩素酸ナトリウムの洗浄で術後痛を防げたという研究もある、と両方を紹介しています。根管を満たす水酸化カルシウムなどのペーストは、来院の間に菌が増える場所をなくし、再汚染を防ぐ役にも立つとしています。そのうえで、抗菌性の貼薬は、強い細胞毒性が無く、根尖周囲へ多量に押し出されないことを条件に、根管に残った菌や後から入った菌による術後痛を防ぐ可能性がある、と書いています。ただし、拡大・洗浄の最中に押し出された菌によるフレアアップには、貼薬はまず効かないだろうと書いています。
(4) 排膿のために歯を開けたままにしない:開けたままにすると、菌・菌の産物・栄養が根管と根尖周囲に入る道を作ることになるとしています。排膿させたうえで拡大・洗浄、抗菌性の貼薬、歯冠側の封鎖を同じ日に行うほうが、開けたままにするより症状が残りにくく、来院回数も少ないという先行研究を引いています。膿の出ない腫れでも、開けたままにして排膿を待つべきではない、としています。
(5) 無菌操作の徹底:二次感染は最初の感染より治しにくいことがあり、フレアアップ・症状の持続・治療の失敗の原因になりうるとしています。
結論で著者は、フレアアップは根管治療の最終的な成績に有意な影響を与えないと示されている(Sjögren 1990を引用)ものの、患者さんにも術者にも非常に望ましくない出来事で、信頼関係を損ないうると述べ、仕組みを知って予防策をとることの大切さを強調しています。
⑥明日の臨床へ
ここから筆者の読みです。この総説の価値は、フレアアップを「運が悪かった」で済ませず、押し出し・取り残し・入り込み、という3つの見方で自分の処置を振り返る枠組みをくれる点です。図2の表は、本文の条件(できれば1回で終える・貼薬は感染根管)と合わせて読めば、処置の確認表として使えます。
たとえば、術前に痛みや腫れのある感染根管では、フレアアップが起きうることを事前に説明しておく。拡大はクラウンダウンで進め、洗浄を十分に行う。感染根管で途中で終える日は、根管を満たす貼薬と確実な仮封で閉じ、排膿のためでも歯を開けたままにしない。どれも新しい手技ではなく、基本の再確認です。
ただし、これらの予防策がフレアアップをどれだけ減らすかは、この論文では比べていません。貼薬が術後痛に影響しなかったという研究も紹介されていますし、④の酸化還元電位の説は著者自身が証拠は無いとしています。予防策は「仕組みから見て理屈の通る基本」として取り入れ、効果の大きさは別の臨床研究で確かめる、という位置づけで読むのがよさそうです(ここまで筆者の読み)。
⑦ここだけ補助線
・総説(ナラティブレビュー):著者1人による整理で、文献の探し方や選び方は書かれていない。新しい実験や患者の調査は含まない
・仕組みには仮説が含まれる:菌叢の変化や毒性の遺伝子の働きは著者の考えを含み、酸化還元電位の説は著者自身が証拠の無い推測としている
・予防策の効果は比べていない:表1の予防策は仕組みから導いた提案。貼薬が術後痛に影響しなかったという研究も紹介されている
・引用:著者自身の研究も多く引用されている。2003年の論文で、その後の研究は含まない
・資金・利益相反:原典に記載は無い
それでも、押し出し・取り残し・入り込み(筆者の言い換え)という見方で処置を振り返る枠組みとして、今も役に立つ1本です。
今日のひとこと
フレアアップを微生物の側から整理した総説で、著者は、感染した削りかすの押し出し・根管内の菌叢と環境の変化・二次感染・酸化還元電位の上昇の4つの仕組みと、押し出しの少ない拡大法・できれば拡大と洗浄を1回で終える・感染根管での来院の間の貼薬・歯を開けたままにしない・無菌操作の5つの予防策を挙げました。酸化還元電位の説は著者自身が証拠の無い推測とし、予防策の効果はこの論文では比べていません。押し出し・取り残し・入り込み(筆者の言い換え)という見方で、自分の処置を振り返る枠組みになる1本です。


