1問1答 論文 エンド

根管治療の成績は、術前の状態でどれくらい違う?——学生の治療を8〜10年後に見直した356人849根の観察研究で、術前に根尖病変がない根は96%以上が成功、歯髄壊死+根尖病変は86%、病変のある根の再治療は62%だった(Sjögren 1990)

1問1答 論文 エンド

エンド|ウメオ大学で1977〜1979年に学生が行った根管治療を8〜10年後に見直し、術前の歯髄と根尖部の状態、根管充填の先端の位置などと、X線で判定した成績との関係を調べた観察研究(Sjögren 1990・Journal of Endodontics)

同じ根管治療でも、抜髄・感染根管・再治療で見通しは違うはずです。Sjögrenらは、学生が指導医のもとで行った根管治療を8〜10年後に見直し、356人・849根の成績を術前の状態別に示しました。術前に根尖病変がない根は96%以上が成功した一方、歯髄壊死+根尖病変は86%、以前の根管充填に病変があって再治療した根は62%でした。歯髄壊死+病変の根では、根管充填の先端が根尖から2mm以内なら94%が治りました。ただし、後から見直した観察研究で、再診できたのは呼び戻した人の約46%(356÷770、筆者の計算)です。

論文
Factors Affecting the Long-term Results of Endodontic Treatment(根管治療の長期成績に影響する要因)
著者
Ulf Sjögren, Björn Hägglund, Göran Sundqvist, Kenneth Wing(ウメオ大学 歯内療法学・口腔放射線学, スウェーデン)
掲載
Journal of Endodontics 1990; 16(10): 498–504
種類
観察研究(治療後の見直し)。1977〜1979年に学生が指導医のもとで治療した患者を8〜10年後に呼び戻し、770人中356人(635歯・849根)を再診。成功・失敗はStrindbergの基準によるX線判定(歯根単位)
資金・利益相反
原典に記載は無い
DOI
10.1016/S0099-2399(07)80180-4
PMID
2084204

①同じ根管治療でも、術前の状態で成績はどれくらい違う?

「この歯、根管治療でどのくらい治りますか?」。患者さんにそう聞かれて、答えに迷った経験はないでしょうか。抜髄なのか、根の先に透過像がある感染根管なのか、以前の根管充填のやり直しなのか。同じ根管治療でも、術前の状態によって見通しは違うはずです。

スウェーデン・ウメオ大学のSjögrenらは、学生が指導医のもとで1977〜1979年に行った根管治療を8〜10年後に呼び戻して調べ、術前の歯髄と根尖部の状態で成績がどれだけ違うかを示しました(Journal of Endodontics 1990)。

結論を先に書きます。
・8〜10年後の見直し:呼び戻した770人のうち356人(635歯・849根)を再診し、X線で成功か失敗かを判定した。全体の成功は91%(771/849根)
・術前に根尖病変がない根は96%以上が成功:生活歯髄96%、歯髄壊死で病変なし100%、以前の根管充填の不備でやり直した根98%
・病変がある根は低かった:歯髄壊死+根尖病変は86%、以前の根管充填に病変があって再治療した根は62%。病変の有無による差は有意(p<0.0001)と報告されている
・歯髄壊死+根尖病変の根では、根管充填の先端が根尖から2mm以内なら94%が治り、押し出した根76%・2mmを超えて短い根68%より有意に高かった
・注意:学生の治療を後から見直した観察研究で、再診できたのは呼び戻した人の約46%(356÷770、筆者の計算)。成績は歯根ごとのX線判定で、どの要因が成績を「決めた」かを確かめた試験ではない

②なぜ調べる必要があったのか

根管治療の成功率は、それまでの報告で40〜93%と大きくばらついていました。著者らは、研究の組み方、成功の判定基準、観察期間の長さの違いがばらつきの理由になりうると考え、なかでも一番大きいのは術前の歯の状態だろうと述べています。術前に根尖の透過像がある歯は、ない歯より成功率が最大20%低いという報告もありました。

一方で、著者らの以前の研究では、病変が完全に治るのを見届けるには5年の観察が必要でした。観察が短いと、病変の大きさや根管充填材の押し出しの影響を正しく測れないおそれがありました。また、根管の細菌を嫌気的な培養で調べる方法は、それまでの成績研究ではほとんど使われていませんでした。そこで著者らは、細菌培養で確かめながら行った治療を長く追い、成績に関わる要因を調べることにしました。

③どんな研究か

対象は、ウメオ大学の歯内療法科で1977〜1979年に学生が治療した患者です。8〜10年後に770人を呼び戻し、356人(平均54歳・28〜82歳、男性54%)が再診に来ました。対象は635歯・849根で、成績は歯根ごとに数えています。

治療はすべてラバーダムと無菌的な手技で行われ、経験のある歯内療法医が指導しました。0.5%次亜塩素酸ナトリウムで洗浄し、貼薬には多くの例で水酸化カルシウムを使い、ガッタパーチャの側方加圧で根管充填しています。歯髄壊死と歯髄炎の例では、根管内から採った試料を7日以上培養し、細菌が育たないことを確かめてから根管充填しました。

再診では、1本の歯に2方向からデンタルX線を撮りました。Strindbergの基準で、歯根膜腔の形・幅・構造が正常(または押し出した充填材のまわりだけが広い)なら成功、それ以外は失敗と判定しています。2人の観察者がそれぞれ2回ずつ判定し、観察者間の一致は97%(偶然の一致を補正すると82%)でした。

④結果:病変なしは96%以上、病変ありの再治療は62%

849根全体の成功は91%(771根)でした。術前の状態別に見ると、病変のない根ではどの区分も96%以上が成功し、病変のある根では低くなっていました。

0 25% 50% 75% 100% 8〜10年後に成功と判定された歯根の割合 % 96% 96% 100% 86% 98% 62% 健全な生活歯髄 う蝕・歯髄炎 歯髄壊死病変なし 歯髄壊死病変あり 既根充病変なし 既根充病変あり 原典の表2の6区分すべて(診断不明9根は除く)。成功した根の数は左から72根中69・195根中188・102根中102・204根中176・173根中169・94根中58。ティール=根尖病変なし、オレンジ=病変あり
図1 術前の状態別の成功の割合(歯根単位・8〜10年後のX線判定)。原典の表2の6区分をすべて載せ、成功根/歯根数を添えた。「健全な生活歯髄」はポストの保持や外傷による露髄のために治療した歯髄、「う蝕・歯髄炎」はう蝕や症状のある歯髄炎のために治療した生活歯髄。「既根充」は以前に根管充填されていた根で、病変なしは充填の不備のためのやり直し、病変ありは病変のための再治療。術前の診断不明9根(9/9が成功)は図から外した。

根尖病変のある根とない根の差は、統計学的に有意(p<0.0001)と報告されています。著者らは、検討した要因の中で術前の根尖部の状態が成績にとって決定的に見える、と考察しています。

歯髄壊死で根尖病変があった204根では、さらに2つの条件で差が出ました。1つは根管を根尖の狭窄部まで器具で拡大できたかです。できた根は90%、できなかった根は69%が治り、差は有意でした(p=0.002)。もう1つは根管充填の先端の位置です。

0 25% 50% 75% 100% 病変が治った歯根の割合 % 94% 76% 68% 根尖から0〜2mm以内119/127 根尖から外へ押し出し42/55 根尖より2mm超短い15/22 原典の図2(歯髄壊死で術前に根尖病変があった204根)。0〜2mm以内との差は、押し出しp=0.003、2mmを超えて短いp=0.0004と報告
図2 歯髄壊死で術前に根尖病変があった204根の、根管充填の先端の位置別の治った割合。原典の図2の3区分をすべて載せた(治った根/歯根数)。0〜2mm以内との差は、押し出しp=0.003、2mmを超えて短いp=0.0004と報告されている。押し出しと短い根の間はp=0.3。

根尖から2mm以内に収まった根は94%が治り、著者らは「生活歯と同じくらい良い成績だった」と述べています。2mmを超えて短い根は、すべて根管を全長まで拡大できなかった根に含まれていました。一方、以前の根管充填に病変があって再治療した根では、器具の届いた位置や充填の先端の位置による成績の有意差は認められなかったと報告されています(原典の図3:0〜2mm以内67%・2mmを超えて短い65%・押し出し50%。0〜2mm以内との比較で p=0.65・0.10)。

そのほかの要因では、根管充填の質(根尖側の充填材の先にすき間がなく、根尖部に空隙がない)は、初回の治療ではすき間のない根87%・ある根82%で有意な差がなく(p=0.36)、再治療ではすき間のない根67%・ある根31%で有意な差がありました(p=0.03)。術前の病変の大きさは、初回の治療では5mm以下87%・5mm超83%(p=0.32)、再治療では65%・38%(本文ではp=0.1、表ではp=0.12)で、どちらも有意ではありませんでした。歯髄壊死+病変の根では、冠をかぶせた根とブリッジの支台になった根の成績がやや低く出ました(p=0.02、p=0.04)。年齢・性別・深い歯周ポケット・ポストの有無・治療中のフレアアップ・初診時の急性膿瘍は、成績との関係が見られなかったと報告されています。

最後に、術前に病変のあった2群(歯髄壊死+病変の204根と、病変のある再治療の94根)で、どの根が失敗するかを、X線や臨床所見から統計モデルで当てられるかを試しています。結果は、歯髄壊死+病変の失敗28根のうち3根(11%)、再治療の失敗36根のうち10根(28%)しか、失敗と正しく分類できませんでした。

⑤結果の読み方

術前に病変がない根は、生活歯髄でも、歯髄壊死でも、充填の不備によるやり直しでも、96%以上が成功していました。成績が下がったのは、根尖病変があった根、とくに以前の根管充填に病変があって再治療した根です。

病変のある2群で個々の根の失敗をモデルで当てられなかったことについて、著者らは、測れていない要因、たとえば培養の試料では届かない場所(側枝や象牙細管、根の外)に残った細菌が成績を左右している可能性を考察しています。また、押し出した根の成績が低かった理由として、ガッタパーチャそのものの毒性ではなく、押し出しの前に起きる過剰な拡大で感染した削りくずが根尖の外へ押し出されることを挙げています(生活歯髄で押し出した30根には、再診で炎症の所見はありませんでした)。どちらも著者らの仮説で、この研究で細菌や削りくずを調べて確かめたものではありません。

⑥明日の臨床へ

ここから筆者の読みです。術前のX線で根尖病変があるか、以前の根管充填に病変があって再治療になるかで、この研究の成績は96%以上・86%・62%と大きく違いました。治療前の説明で見通しを伝える時、「根管治療の成功率は○%」と1つの数字で済ませず、術前の状態ごとに分けて話すための目安になります。ただし、1970年代の学生の治療で、細菌培養で陰性を確かめてから充填した条件での数字です。

歯髄壊死で病変がある歯では、根尖の狭窄部まで拡大でき、充填の先端が根尖から2mm以内に収まった根の成績が高く出ました。作業長を確保し、押し出さず、短くもならない充填を目指す、という基本を改めて確かめる材料になります。ただし、これは結果を後から分けて比べた観察で、短い充填の根は拡大が全長まで届かなかった根でもあります。充填の位置を変えれば成績が変わると確かめたものではありません。

また、術前に病変のあった2群では、統計モデルで個々の根の失敗をほとんど当てられませんでした。同じ区分の中でも、どの歯が治らないかを術前に見分けるのは難しい、という前提で経過を追うことが大切そうです(ここまで筆者の読み)。

⑦ここだけ補助線

長い観察期間で、術前の状態ごとの根管治療の成績を示した古典的な1本です。読むときは次の点だけ押さえておきたいところです。
・観察研究:治療の後から成績を見直した研究で、術前の状態や充填の位置をくじで分けたものではない
・再診できたのは約46%:呼び戻した770人のうち356人(筆者の計算)。経過中に抜歯された68歯(歯根破折21・理由不明21・う蝕11・辺縁性歯周炎10・ポスト形成時の穿孔3・歯内療法の失敗2)もある
・判定の単位:成績は歯根ごとに数え、同じ人・同じ歯の根を別々に扱っている。判定は2方向のデンタルX線
・治療の条件:1977〜1979年に学生が指導医のもとで行い、細菌培養で陰性を確かめてから充填した。今の器具や手順とは違う
・資金・利益相反:原典に記載は無い
それでも、術前の状態で見通しが大きく違うことを、8〜10年という長さで数字にした点は、今も説明の土台になる研究です。

今日のひとこと

学生の治療を8〜10年後に見直した観察研究で、術前に根尖病変がない根は96%以上が成功し、歯髄壊死+根尖病変は86%、病変のある根の再治療は62%でした。歯髄壊死+病変の根では、充填の先端が根尖から2mm以内の根が94%と高く出ました。再診できたのは約46%(筆者の計算)で、因果を確かめた試験ではありません。根管治療の見通しを、術前の状態ごとに分けて伝える土台になる1本です。

Sjögren U, Hägglund B, Sundqvist G, Wing K. Factors affecting the long-term results of endodontic treatment. J Endod. 1990;16(10):498-504. doi: 10.1016/S0099-2399(07)80180-4. PMID: 2084204
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。