1問1答 論文 エンド

根管洗浄の前に髄腔を接着で覆う、界面の適合は変わる?——抜去した下顎大臼歯40本の実験室研究で、次亜塩素酸ナトリウム洗浄の「前」に髄腔を接着材とレジンで覆った群は、「後」に覆った群より、SEMで見た界面のすき間の無い辺縁の割合が高かった(平均。洗浄の前に覆った群83%・82%、後に覆った群51%・46%で、いずれも低粘稠度・高粘稠度のレジンの順)。漏洩や臨床の成績は測っていない(De Rose 2015)

1問1答 論文 エンド

エンド|抜去した下顎大臼歯40本(各群10本)で、根管の形成と次亜塩素酸ナトリウム洗浄の前に髄腔を接着材とレジンで覆う方法(IES)と、後に覆う従来の方法(DES)、さらに覆うレジンの粘稠度を比べ、48時間後にSEMで界面の連続した辺縁の割合を測った実験室研究(De Rose 2015・Odontology)

根管治療後の髄腔の接着は、ふつう洗浄が全部終わってから行います。けれど、次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)に長くさらされた象牙質は接着しにくくなる、という報告があります。De Rose らは抜去歯で、洗浄の「前」に髄腔を接着材とレジンで覆う方法(IES)を、洗浄の「後」に覆う従来の方法(DES)と比べました。SEMで見た歯とレジンの界面のうち、すき間なく連続していた辺縁の割合の平均は、IES 83%・82%、DES 51%・46%(低粘稠度・高粘稠度のレジンの順)で、技法の違いは有意、レジンの粘稠度の違いは有意ではありませんでした。ただし各群10本の抜去歯を48時間保存した後の測定で、荷重や熱の負荷はかけておらず、漏洩や臨床の成績は測っていません。

論文
Immediate endodontic access cavity sealing: fundamentals of a new restorative technique
著者
Luca De Rose, I. Krejci, T. Bortolotto(スイス・ジュネーブ大学 歯学部 う蝕学・歯内療法学部門)
掲載
Odontology 2015; 103(3): 280–285(オンライン掲載 2014年9月3日)
種類
抜去歯の実験室研究(in vitro)。ヒトの下顎大臼歯40本を4群(各10本)に分け、髄腔を覆う時期(洗浄の前=IES/後=DES)とレジンの粘稠度(低・高)を比べた。評価はSEMのレプリカ観察による界面の連続した辺縁の割合(%Cm)。二元配置分散分析と Mann–Whitney 検定
資金・利益相反
著者らは利益相反は無いとしている。研究資金の記載は無い
PMID
25183493

①根管洗浄の前に髄腔を接着で覆う、界面の適合は変わる?

根管治療を終えた歯の髄腔に、コンポジットレジンで封鎖や築造をする。ふつうは根管の形成と次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)による洗浄が全部終わってから接着します。

けれど、NaOCl に長くさらされた象牙質は接着しにくくなる、という報告は少なくありません。それなら順番を逆にして、洗浄の「前」に髄腔の壁を接着材で覆ってしまえばどうか。スイス・ジュネーブ大学の De Rose らは、この発想を抜去歯で試しました。

結論を先に書きます。
・抜去歯の実験室研究:下顎大臼歯40本(各群10本)。髄腔を開けた後、根管の形成・NaOCl 洗浄の前に髄腔を接着材とレジンで覆う方法(IES)と、後に覆う従来の方法(DES)を比べた
・測ったのは、走査電子顕微鏡(SEM)で見た歯とレジンの界面のうち、すき間なく連続している辺縁の割合(内部適合)
・界面全体の平均はIES 83%・82%、DES 51%・46%(低粘稠度・高粘稠度のレジンの順)。二元配置分散分析で技法の違いは有意(p = 0.000)、レジンの粘稠度は有意でなかった(p = 0.609)
・部位別でもエナメル質・歯冠側の象牙質・歯頸側の象牙質の3か所すべてで IES が高く、差が有意だった
・注意:保存48時間の抜去歯で、繰り返しの荷重や熱の負荷はかけていない。漏洩そのもの、接着強さ、臨床の成績は測っていない

②なぜ「洗浄の後に接着」が問題になるのか

NaOCl は殺菌力と有機質を溶かす力が高く、著者らは、ほかの洗浄液で利点と欠点の釣り合いがこれほど良いものは示されていないと述べています。一方で、NaOCl が象牙質の接着に与える影響は、試験の方法や接着材、濃度、作用時間によって良くも悪くもなるものの、高い濃度で長くさらすと、象牙質のコラーゲンの層が傷んで接着の質が落ちる、という点はおおむね一致している、と著者らは整理しています(序論で引用した文献に基づく記述)。

根管治療の洗浄では、髄腔の壁も高い濃度の NaOCl に長くさらされます。そこで著者らは、洗浄液を変えるのではなく、NaOCl を使いながら、その悪い影響を減らす方向を選びました。手本にしたのは、間接修復で知られる「イミディエート・デンティン・シーリング(IDS)」です。形成した直後の新鮮な象牙質を接着材で封じておく方法で、これを根管治療に当てはめたものを、著者らは IES(immediate endodontic sealing)と呼んでいます。

③今回の研究:抜去歯40本で、覆う順番とレジンの粘稠度を比べた

  • 試料:矯正や外科の理由で抜去した、ほぼ同じ大きさのヒトの下顎大臼歯40本(根尖が完成し、根管が2本以上)。抄録では「第三大臼歯」と書かれている
  • 模型:セメント-エナメル境より1 mm 下に隣接面の縁がある近心・咬合面の2級窩洞を作り、そこから髄室の天井を外して歯髄を除去。根管口を広げ、生理食塩水で洗浄
  • IES 群(2群):根管口をガッタパーチャのポイントでふさいでから、髄腔全体(象牙質とエナメル質)にセルフエッチングの接着材(クリアフィル SE ボンド)を塗って光重合し、厚さ約0.5 mm のレジンで覆う。その後に根管の形成と洗浄(3% NaOCl を器具交換ごとに5 mL・1分、17% EDTA 2 mL・1分、最後に3% NaOCl 2 mL)を行い、側方加圧で根管充填
  • DES 群(2群):根管の形成と洗浄を先に行い、その後に同じ方法で髄腔を覆う(従来の順番)
  • もう1つの比較:覆うレジンを低粘稠度(フロアブル)にするか、高粘稠度にするか。4群×10本
  • 測定:37℃の生理食塩水に48時間保存した後、歯を縦に切って近心・遠心の2切片にし、レプリカを作って SEM の200倍で観察。界面のうち連続した辺縁(すき間の無い部分)の割合(%Cm)を、エナメル質・歯冠側の象牙質・歯頸側の象牙質の3か所で測った。測定者には群を伏せた
  • 解析:界面全体の値は二元配置分散分析(技法と粘稠度)、部位別の値は技法だけを比べる Mann–Whitney 検定

測っているのは「界面にすき間が無いか」という形の上での適合です。著者らは、接着強さの試験より臨床の成績を予測しやすい指標だと考察で述べていますが、この研究自体は漏洩や臨床の成績を測っていません。

④結果:洗浄の前に覆った群で、すき間の無い辺縁が多かった

0 25% 50% 75% 100% 連続した辺縁の割合 %Cm(平均) 83% 82% 51% 46% IES 低粘稠度 IES 高粘稠度 DES 低粘稠度 DES 高粘稠度 抜去歯の実験室研究 各群10本 原典の図1の数値 IES=洗浄の前に覆う DES=洗浄の後に覆う
図1 界面全体の内部適合(連続した辺縁の割合 %Cm)の平均値。原典の図1の棒の上に書かれた数値を写した(標準偏差は原典に示されていない)。抜去した下顎大臼歯の実験室研究で、各群10本。IES=洗浄の前に髄腔を覆った群、DES=洗浄の後に覆った群。

界面全体で見ると、すき間なく連続していた辺縁の割合の平均は、IES の低粘稠度群83%・高粘稠度群82%、DES の低粘稠度群51%・高粘稠度群46%でした(原典の図1)。二元配置分散分析では、技法(IES か DES か)の違いが有意で(p = 0.000、原典の表記)、レジンの粘稠度の違いは有意ではなく(p = 0.609)、技法と粘稠度の交互作用も有意ではありませんでした(p = 0.462)。

0 25% 50% 75% 100% 連続した辺縁の割合 %Cm(平均) 94% 79% 95% 57% 68% 29% エナメル質 歯冠側の象牙質 歯頸側の象牙質 IES(洗浄の前に覆う) DES(洗浄の後に覆う) 抜去歯の実験室研究 原典の図2の数値 部位別は技法だけを比べたMann–Whitney検定
図2 部位別の内部適合(連続した辺縁の割合 %Cm)の平均値。原典の図2の棒の上に書かれた数値を写した(標準偏差は原典に示されていない)。部位別の解析は技法(IES か DES か)だけを変数にした Mann–Whitney 検定で、p はエナメル質0.00・歯冠側の象牙質0.00・歯頸側の象牙質0.003(原典の表記)。

部位別に見ると、エナメル質では IES 94%・DES 79%、歯冠側の象牙質では95%・57%、歯頸側の象牙質では68%・29%で、3か所すべてで差が有意でした(原典の図2)。いちばん低かったのは、根に近い歯頸側の象牙質です。

著者らは考察で、IES の効果はエナメル質より象牙質の界面で大きかったと述べています。ただし、部位どうしで効果の大きさを比べた検定の数値は、原典には示されていません。

⑤結果の読み方:差の理由は「著者らの説明」

なぜ洗浄の後に覆うと適合が落ちるのか。著者らは、NaOCl が象牙質の有機成分を傷めてハイブリッド層ができにくくなること、NaOCl が分解してできる酸素がレジンの重合を妨げうることを、引用文献をもとに挙げています。エナメル質は大部分が無機質で、NaOCl の影響を受けにくいので差が小さかった、歯頸側の象牙質は細管が太く密で NaOCl が入りやすく、DES ではさらされる量も多かったので低かったのではないか、という説明です。

これらは考察の中での説明で、この研究がコラーゲンの変化や重合の程度を測って確かめたものではありません。この研究で確かめたのは、「洗浄の前に覆った方が、48時間後の SEM で見た界面のすき間が少なかった」というところまでです。

もう1つの問いだった粘稠度は、著者らの仮説(高粘稠度のレジンの方が良いのでは)とは違い、有意な差になりませんでした。著者らは、狭く深い髄腔ではフロアブルの方が扱いやすいと述べています。ただし「差を検出しなかった」ことは、「同じである」ことの証明ではありません。

⑥明日の臨床へ

著者らの結論は、「この実験室研究では、IES は DES より有意に高い内部適合をもたらした。IES は根管治療の失敗の大きな原因である歯冠側からの漏洩を減らしうる、という仮説が立てられる」というものです。漏洩を減らす、は仮説として書かれていて、示されたわけではありません。著者らも、生体での IES の検討と、さらなる実験室研究が必要だとしています。

ここから筆者の読みです。この論文は、「髄腔の接着は、洗浄の前の象牙質に対して行う方が、少なくとも界面の形の上ではすき間が少ない」という、接着の順番についての1つの手がかりを示しています。根管口をふさいだうえで、洗浄の前に髄腔を接着材と薄いレジンで覆う、という手順は、こうした考え方を試すときの具体的な型になります。

ただし、負荷や時間をかけた後にもこの差が保たれるか、漏洩や根尖病変の治癒、歯の残り方に違いが出るかは、この研究ではわかりません。手順を変えるかどうかは、この結果だけで決めるより、続く研究と合わせて考えたいところです(ここまで筆者の読み)。

⑦ここだけ補助線

「洗浄液を変えずに、接着の順番を変える」という発想が面白い研究です。読むときは次の点だけ押さえておきたいところです。
・抜去歯の実験室研究:各群10本の小さな研究。2級窩洞から髄室を開けた模型で、ふだんの髄腔開拡そのものではない
・短い保存:48時間の保存の後に測っていて、繰り返しの荷重(疲労試験)や熱の負荷はかけていない(著者らも長期の検討が必要と記載)
・測ったのは形の上での適合:SEM で見た連続した辺縁の割合。漏洩・接着強さ・臨床の成績は測っていない
・数値の示し方:平均値だけで、標準偏差などのばらつきは示されていない
・原典の中の食い違い:試料は本文では「下顎大臼歯」、抄録では「第三大臼歯」。粘稠度の p 値は本文で0.609、抄録では「p>0.005」と書かれている
・利益相反:著者らは利益相反は無いとしている。研究資金の記載は無い
実験室の結果として、接着の順番を見直すきっかけをくれる1本です。続く研究に期待しましょう。

今日のひとこと

抜去歯の実験室研究で、次亜塩素酸ナトリウムで洗浄する前に髄腔を接着材とレジンで覆った群は、洗浄の後に覆った群より、SEMで見た界面のすき間の無い辺縁の割合が高い結果でした(平均。洗浄の前に覆った群83%・82%、後に覆った群51%・46%で、いずれも低粘稠度・高粘稠度のレジンの順)。ただし48時間後の形の上での適合で、漏洩や臨床の成績は測っていません。「髄腔の接着は洗浄の前に」という順番の考え方を、続く研究と合わせて見ていきたい1本です。

De Rose L, Krejci I, Bortolotto T. Immediate endodontic access cavity sealing: fundamentals of a new restorative technique. Odontology. 2015;103(3):280-285. doi: 10.1007/s10266-014-0174-1. PMID: 25183493
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。