エンド|「バイオセラミック」「水硬性セメント」とうたう市販の根管シーラーについて、製造元の安全データシートと説明書から成分を集めて一覧にし、成分ごとの性質を文献と照らして論じた批判的総説(Cardinali・Camilleri 2023・Clinical Oral Investigations)
「バイオセラミック系」とひとくくりに呼ばれるシーラーは、中身も同じなのか。Cardinali と Camilleri は2023年、2022年1〜6月に市販の製品を探し、製造元の安全データシート(SDS)や説明書に書かれた成分を一覧にして、この問いを論じました。9製品は SDS も説明書も見つからず、4製品は成分の割合が書かれていませんでした。割合が書かれた製品でも、セメントの成分のケイ酸三カルシウムはどれも35%以下で、5〜15%の製品もありました。粉を分散させる液体(ビークル)も、プロピレングリコールやジメチルスルホキシド(DMSO)などと製品で違いました。著者らは「バイオセラミック」を販売のための言葉とし、成分を理解したうえで、臨床でよく研究された製品を使うよう勧めています。製造元の表示と文献を整理した総説で、成分を測った実験でも、製品の臨床成績を比べた研究でもありません。
①「バイオセラミック」シーラーなら、どれも同じ?
シングルコーン法に合わせて「バイオセラミック系」のシーラーを選ぶ。そのとき、製品ごとの中身の違いまで確かめているでしょうか。名前が同じ「バイオセラミック」なら、成分もだいたい同じだと思っていないでしょうか。
この問いに、市販品の成分表示を集めて答えようとしたのが、Cardinali と Camilleri が2023年に Clinical Oral Investigations に出した批判的総説です。著者らは自分で材料を測ってはいません。製造元の安全データシート(SDS)や説明書に書かれた成分を一覧にし、成分ごとの性質を文献と照らして論じました。
・2022年1〜6月に、「バイオセラミック」「水硬性セメント」とうたう根管シーラーを探し、成分を一覧にした(原著の表1。筆者が数えると35製品)
・9製品は SDS も説明書も見つからず、4製品は成分の名前はあっても割合(%)が書かれていなかった
・割合が書かれた製品でも、セメントの成分のケイ酸三カルシウムはどれも35%以下で、5〜15%の製品もあった。造影剤は50%を超える表示の製品もあった
・粉を分散させる液体(ビークル)も、水・プロピレングリコール・ジメチルスルホキシド(DMSO)などと製品で違った
・著者らの結論:「バイオセラミック」は販売のための言葉で、中身の化学はさまざま。成分を理解し、臨床でよく研究された製品を使うことが大切
・製造元の表示と文献を整理した総説で、著者らが材料の成分を測った実験でも、製品の臨床成績を比べた研究でもない
②なぜこの総説が書かれたか
水硬性セメント系のシーラーとシングルコーン法の組み合わせは、手順が簡単で、特に一般歯科医のあいだで広まっている。著者らは、国際的な調査(引用文献)をもとにこう書いています。シングルコーン法は、ガッタパーチャを1本だけ入れて、残りの空間をシーラーで満たす「シーラー主体」の方法です。だからこそ、シーラーの化学と性質が大事になります。
水硬性セメント系のシーラーは、抗菌性があることを理由にシングルコーン法に勧められてきました。一方で、置かれた環境と反応するのもこの種類の特徴で、洗浄液は象牙質の微細な構造を変え、シーラーとも反応して性質を変えます。根管充填の成功が特定の材料や方法と結びつくとは示されていないものの、その系統的レビューのエビデンスの水準は低い、と著者らは指摘しています。
そこで著者らは、今どんなシーラーが手に入るのかを調べ、説明書と SDS から化学を確かめ、その化学がシーラーに必要な性質や臨床の環境との反応にどう関わるかを論じることにしました。
③何をどう調べたか
・対象:「バイオセラミック」とうたう、または水硬性セメントの化学をもつ根管シーラー
・時期と担当:2022年1〜6月に、筆頭著者が製品を探した
・集めた情報:製造元のウェブサイトの組成と SDS。ネットで見つからない時は、製品に付いてくる説明書
・まとめ方:製品ごとに形態(単一シリンジ・オートミックス・粉と液)と成分を一覧にし、成分を「セメント・造影剤・添加物・ビークル・その他」に分けた(著者の一人が以前に提案した水硬性セメントの分け方による)
・論じ方:成分にもとづく性質について文献を探し、論じた
文献をどのデータベースで、どんな基準で選んだかは書かれていません。系統的レビューではなく、著者らの見方で文献を選んで論じた総説(ナラティブな批判的総説)です。
④結果1:成分の表示が足りない製品があった
まず目立ったのは、表示の不足です。著者らによると、市販の水硬性セメント系シーラーには、製造元も独立した研究者も裏付けの文献を出していないものがいくつもありました。
・SDS も説明書も見つからなかった9製品:BioSerra、Bright Endo MTA、Ceramoseal、nRoot、One Fill、ReMTA One、Sendoseal MTA、Smart Bioceramic RCS、MTApex
・成分の名前はあっても割合が書かれていなかった4製品:Bio-C Sealer、Advance RCS、Bioceramic Root Canal Sealer(SS White)、Bioceramic Root Canal Sealer(Bio-Phil)
・GuttaFlow Bioseal は SDS に酸化亜鉛しか書かれておらず、水硬性セメント系とは見なせないとして、以後の検討から外した
形態では、単一シリンジの製品が多く、オートミックス(2つの成分を混ぜながら押し出す)の製品は少なめでした(表1では35製品のうち単一シリンジ25、オートミックス8、粉と液2。筆者が数えた)。
著者らは、単一シリンジの製品が「プレミックス(練り済み)」と呼ばれるのは誤った呼び名だと指摘します。固まるには、臨床の環境(周りの組織や象牙質の液)から来る水分が必要だからです。一方、オートミックスの製品はすべてレジンを含み、主な反応がレジンの反応になるので水硬性セメントとは分類できない、と著者らは書いています。表1ではレジンを含む製品が赤字で示され、以後の検討から外されました(赤字は6製品で、MTA Fillapex もこの中に入っています。表1から筆者が数えた)。ただし、表1でオートミックスとされた8製品のうち、GuttaFlow Bioseal と Smart-Bioceramic RCS は赤字になっていません(GuttaFlow Bioseal は上の理由で除外、Smart-Bioceramic RCS は SDS も説明書も見つからなかった製品)。本文の「すべて」と表1の赤字の数は、原著の中で一致していません。
⑤結果2:中身は製品ごとにかなり違う
成分を5つに分けて見ると(図1)、「バイオセラミック」という同じ呼び名の下で、中身がかなり違うことが分かります。
セメント:割合が書かれた製品では、ケイ酸三カルシウムはどれも35%を超えず、5%と低いものもありました(図2)。ケイ酸二カルシウムも含む製品があり、ケイ酸三カルシウムは初めの水和を、ケイ酸二カルシウムは後の水和と強さを担います。ケイ酸三カルシウムを含まず、アルミン酸カルシウムと造影剤からなる製品(Dia-Root Bio Sealer)や、リン酸カルシウム、アルミン酸カルシウムを含む製品もありました。
造影剤:酸化ジルコニウム、酸化タンタル、フッ化イッテルビウム、酸化ビスマス、タングステン酸カルシウムなどで、50%を超える表示の製品もありました。著者らは、これほど多いと、そのぶんセメントや添加物の量が削られると指摘しています。Endoseal MTA に含まれる酸化ビスマスは、次亜塩素酸ナトリウムなどの洗浄液や歯のコラーゲンとの接触で、歯の変色と関係するという研究が引かれています。
ビークル(粉を分散させる液体):単一シリンジの製品では、何を使っているか書かれていないこともありました。Bio-C Sealer と BioRoot Flow はプロピレングリコール、AH Plus Bioceramic と VDW.1.Seal Bioceramic は DMSO(10〜30%)です。BioRoot RCS(粉と液)は水を使います。プロピレングリコールは水に溶け、周りの組織や象牙質の液と入れ替わって固まりますが、液の移り方が当てにならず、固まるのが遅れる・固まらないおそれがある、と著者らは書いています。DMSO については、レジン系の研究が3つ引かれています。疎水性のレジン系に10%を超えて加えると水になじみやすくなるという研究、レジン系に加えると吸水と溶解が増え、曲げ強さと弾性率が下がるという研究、生体親和性は損なわれなかったという研究です。そのうえで著者らは、水硬性の系で DMSO を使った研究は無く、AH Plus Bioceramic と VDW.1.Seal Bioceramic の10〜30%は、レジン系で調べられた量よりずっと多いと指摘しています。
添加物・その他:炭酸カルシウム、酸化ケイ素、酸化カルシウム、硫酸カルシウムなどが入っていました。ほかに、炭酸リチウム(AH Plus Bioceramic と VDW.1.Seal Bioceramic。使う理由ははっきりしない、と著者ら)、酸化鉄、水酸化カルシウム、二酸化チタン、増粘剤もありました。SDS に化学物質として「pure cement」や「MTA」と書かれたものもありました(MTA は酸化ビスマスとポルトランドセメントの混合物で、pure cement はどんな化学でもありうる、と著者ら)。また、Endoseal MTA では増粘剤が24.91%と多いのに、その中身は書かれていませんでした。
⑥著者らの結論と、結果の読み方
著者らの結論はこうです。「バイオセラミック」とうたう材料は急に増えたが、化学はさまざまで、表示されていない成分もある。これは臨床での性能に影響しうる。抄録では、臨床で使われている材料は最適化されておらず、化学や形態が臨床の手技を助けるという根拠も少ない、とまとめています。
・呼び名:「バイオセラミック」は中身を特定しない、販売のための言葉で、水と反応して固まることと、固まった後も性質を発揮するのに水が要ることを表す「水硬性」の方が適切(著者ら)
・表示:製造元は、ケイ酸カルシウムが入っているかどうかより、溶け出す活性なカルシウムを表示すべき(著者ら)
・当てはめの範囲:これまでの研究はケイ酸カルシウム系の水硬性セメントのもので、別の化学の材料には当てはめられない(著者ら)
著者らは、ほかにも次のような整理をしています。いずれも著者らの論述や引いた研究の内容で、この総説で新たに測ったものではありません。
・ケイ酸三カルシウムが固まるときにできる水酸化カルシウムが pH を上げ、シーラーの抗菌性と結びつけられてきた。カルシウムの放出も抗菌性と関連づけられている
・「生物活性(bioactivity)」は使われすぎた言葉で、表面にリン酸カルシウムが沈着するのは化学的な反応。水硬性セメントでは、表面の沈着物は炭酸塩だったとする研究がある
・溶解性は高いとされるが、水を使う ISO 6876 の試験には限界がある
・アルミン酸カルシウムを使えば酸に強く溶けにくくなるという主張は、生体の環境では裏付けられない
・著者らは、ケイ酸三カルシウムとケイ酸二カルシウムの表示の上限を足した値で、20%未満を「低」、20%を超え40%未満を「中」、40%以上を「高」とする分け方を提案している(20%ちょうどの扱いは原著にも書かれていない。著者らの提案で、臨床成績との関係を調べたものではない)
⑦明日の臨床へ
この総説から臨床に持ち帰れるのは、「バイオセラミック」という名前だけで材料を選ばない、という姿勢です。
・研究のある製品を選ぶ:臨床で十分に研究された、信頼できる材料を使う(著者らの結論)
・洗浄と充填を組み合わせて考える:単一シリンジの製品は象牙質の液で固まるので、スメア層の除去が必要(著者らが引いた研究)。リン酸緩衝生理食塩水はシーラーの抗菌性を損なうという研究も引かれている。クロルヘキシジンについては、シーラーの抗菌性を高める一方でエポキシレジン系・水硬性セメント系・酸化亜鉛ユージノール系のシーラーの物性を変えるという研究と、粉と液の BioRoot RCS では抗菌性に影響せず溶解性が下がったという研究が引かれており、影響は製品によって違う
・血液の無い清潔な根管で使う:血液や組織液は固まり方を邪魔し、血液は抗菌性も損なう(引用された研究)。根管を乾かしてよいかの研究は少なく、乾かして充填した臨床研究(成功率90%)と、抜去歯100本の実験室研究(全てで硬化)が、乾燥を勧める間接的な手がかりとして挙げられている
ただし、どの製品が臨床で優れているかを、この総説は比べていません。成分の違いが根尖性歯周炎の治りにどう影響するかも、まだ分かっていません。
(2)製品を探したのは2022年前半です。その後に組成や表示が変わった製品があるかもしれません。最新の SDS を確かめてください。
(3)文献の探し方と選び方(データベース・検索語・採否の基準)は書かれていません。系統的レビューではないので、引かれた研究の選び方に著者らの見方が入りえます。引用文献には、著者の一人(Camilleri)が加わった研究が多く含まれます。
(4)「低・中・高」の分け方は著者らの提案で、臨床成績との関係は確かめられていません。
(5)本文では「アルミン酸三カルシウム」とされる Dia-Root Bio Sealer の成分が、表1では「アルミン酸カルシウム 20〜50%」と書かれています(本記事は表1の表記に合わせた)。
(6)著者らは利益相反なしと記載しています。資金の記載は見当たりませんでした(オープンアクセスの論文)。
今日のひとこと
「バイオセラミック」という名前は、中身を約束しません。2022年前半の製造元の表示を集めたこの総説では、成分の割合が書かれていない製品や、ケイ酸三カルシウムが5〜15%の製品、液体の成分が違う製品が並んでいました。名前ではなく、SDS に書かれた中身と、臨床での研究の有無で選ぶ。ただし、どの製品が臨床で優れているかを比べた研究ではないので、成分の違いが治りにどう響くかは、これからの研究を待つ必要があります。


