1問1答 論文 エンド

歯髄炎の急患、断髄と抜髄で患者の感じ方は違う?——症状のある不可逆性歯髄炎の80人を抜髄か断髄に無作為に分けた試験で、3日までの痛みと3日後の満足度に有意差は検出されなかった(Esteve-Pardo 2023)

1問1答 論文 エンド

エンド|症状のある不可逆性歯髄炎で来院した成人80人を、急患の初回処置として抜髄40人・断髄40人に無作為に割り付け、患者が0〜10で答えた痛み・満足度・不快感を3日まで比べた無作為化比較試験(Esteve-Pardo 2023・Clinics and Practice)

症状のある不可逆性歯髄炎の急患。根管まで取る抜髄まで進めるか、歯冠部の歯髄だけを取る断髄で止めるか。Esteve-Pardo らは、スペインの2つの個人歯科医院で、急患の成人80人をこの2つに無作為に分け、患者自身の評価で比べました。痛みは両群とも処置後6時間で大きく下がり、3日後の痛みの平均はどちらも1.3(0〜10)。3日後の満足度の平均は抜髄9.2・断髄9.1で、痛み・満足度・不快感のどれにも群の間の有意差は検出されませんでした。処置時間は平均で抜髄13.4分・断髄7.4分でした。ただし大きな差を見つける人数の設計で、同等を示した試験ではなく、見たのは3日まで(全例が2回目に根管治療)です。

論文
Pulpectomy vs. Pulpotomy as Alternative Emergency Treatments for Symptomatic Irreversible Pulpitis—A Multicenter Comparative Randomised Clinical Trial on Patient Perceptions
著者
Guillem Esteve-Pardo, Pedro Barreiro-Gabeiras, Lino Esteve-Colomina(Group Aula Dental Avanzada・スペイン アリカンテ)
掲載
Clinics and Practice 2023; 13(4): 898–913
種類
無作為化比較試験(2施設・並行2群・患者を盲検)。症状のある不可逆性歯髄炎で来院した成人80人(19〜81歳)を、急患の初回処置として抜髄40人・断髄40人へ。痛みは処置前・6時間後・24時間後・3日後、満足度は3日後に、患者が0〜10で回答。脱落なし
資金・利益相反
外部資金なし。著者らは利益相反は無いとしている
PMID
37623263

①歯髄炎の急患、断髄と抜髄で患者の感じ方は違う?

予約の合間に、ズキズキする痛みで飛び込んできた急患。症状のある不可逆性歯髄炎で、時間は限られている。根管の奥まで歯髄を取る抜髄まで進めるか、歯冠部の歯髄だけを取る断髄で止めて次回に回すか——迷う場面です。

スペインの Esteve-Pardo らは、この急患の初回処置を、抜髄と断髄に無作為に分けて比べました。見たのは、処置後3日までの痛みと、患者自身が感じた処置の長さ・不快感・満足度です。

結論を先に書きます。
・症状のある不可逆性歯髄炎で来院した成人80人(各群40人)を、急患の初回処置として抜髄か断髄に無作為に割り付けた試験(スペインの2つの個人歯科医院)
・痛み(患者が0〜10で答えた平均):処置前 抜髄6.0・断髄5.6 → 3日後はどちらも1.3。両群とも痛みは大きく下がり、群の間に有意差は検出されなかった
・3日後の満足度(0〜10の平均):抜髄9.2・断髄9.1(p=0.848)。処置中の不快感も有意差は検出されなかった
・処置時間(露髄から終了まで・術者の記録):平均 抜髄13.4分・断髄7.4分
・注意:差が大きければ見つけられる、という人数の設計で、2つが同等だと示した試験ではない。見たのは3日まで。全例が2回目の来院で根管治療を受けている

②なぜこれまでは抜髄が多かったのか

著者らの整理では、症状のある不可逆性歯髄炎の痛みを抑えるには、炎症のある歯髄を取り除く必要があります。その方法として、伝統的に好まれてきたのは根管まで取る抜髄でした。根管の歯髄を取り切り、洗浄と根管充填の場所を作っておけるからです。

一方で、低侵襲のエンドの考え方が広がり、歯冠部の歯髄だけを取る断髄を、根管治療の代わりとして見直す臨床家も出てきました。断髄は抜髄より手技が簡単で時間もかからないとされます(著者が引用した研究)。急患は予定外に入るので、術者の負担も大きい場面です。

術後の痛みを減らす点では、これまでの比較試験でどちらも同じように有効とみられた、と著者らはまとめています(著者が引用した研究)。ただ、方法がまちまちで、どちらがよいかの合意は無く、患者が処置をどう感じたかを比べたデータは少なかった、というのが著者らの問題意識です。

③今回の試験:急患の初回処置を、抜髄か断髄に無作為に分けた

対象は、2020年12月〜2022年7月に、スペインの2つの個人歯科医院へ症状のある不可逆性歯髄炎の痛みで来院した患者です。80人(男女40人ずつ・19〜81歳・平均50.7歳)を、抜髄群40人と断髄群40人に分けました。

  • 診断:強い自発痛・放散痛があり、刺激を除いても30秒以上続く痛み(AAEとESEの合意に沿った定義)。冷刺激試験(Endo-Frost)で歯髄の反応を確かめ、露髄したときに出血があることを組み入れの条件にした
  • 組み入れと除外:全身状態はASA I・IIの成人。18歳未満、NSAIDsや局所麻酔薬のアレルギー、妊娠・授乳中、痛みの感じ方を変える薬(15日以内)、協力が得られない人などは除外。冷刺激試験に反応しない歯、露髄しても出血が無い歯
  • 割り付け:処置の直前に、研究に加わらない事務担当者へ電話で群を尋ねる方式(術者・施設ごとのブロック無作為化)。患者には処置の種類を知らせず、データの取りまとめ役も処置を知らない。術者は処置を知っている
  • 共通の手順:4%アルチカイン(1/10万エピネフリン)で麻酔、ラバーダム、髄腔を開けて出血を確認し、歯冠部の歯髄を除去。髄床にテフロンテープを詰めて仮封し、咬合面を落として咬合接触を外した
  • 断髄群:5.25%次亜塩素酸ナトリウムの綿球で止血を待ってから、テフロンテープと仮封
  • 抜髄群:電気的根管長測定のうえ、往復運動の回転切削器具で作業長まで、根尖の径が少なくとも#25になるまで拡大。次亜塩素酸ナトリウムで洗浄。水酸化カルシウムは貼薬しなかった(抗炎症作用で群の条件がずれないように)
  • 測ったもの:患者が0〜10の数値評価で口頭で答えた値。処置前(痛み・不安・咀嚼時の痛み)、処置直後(処置の長さの感じ方・不快感)、6時間後・24時間後・3日後(痛み)、3日後(満足度)。術後は電話かメッセージで聞いた

主要評価項目は3日後の痛み、副次評価項目は3日後の満足度と、処置の長さの感じ方・不快感です。80人全員が3日後まで答え、脱落はありませんでした。2群の年齢・性別・歯種・原因・処置前のNSAIDs服用に有意差は検出されず、歯は大臼歯が多数でした(抜髄70%・断髄62.5%)。

④結果:痛みも満足度も、両群で有意差は検出されなかった

0 3 6 9 痛みの平均(0〜10の数値評価) 6.0 2.2 1.8 1.3 5.6 2.0 1.3 1.3 抜髄(40人) 断髄(40人) 処置前 6時間後 24時間後 3日後 各群の棒は左から処置前・6時間後・24時間後・3日後(原典の表3の平均)
図1 患者が答えた痛み(0〜10の数値評価)の平均。各群の棒は左から処置前・6時間後・24時間後・3日後(原典の表3)。無作為化比較試験・各群40人。痛みの解析(Brunner-Langer モデルのANOVA型統計量・ATS)では p=0.522 と報告されている(何を比べた検定かの詳細は原典に書かれていない)。著者らは、痛みに群の間の差は無かったと書いている。

痛みは両群とも処置後6時間でいちばん大きく下がりました(処置前と6時間後の比較は両群とも p<0.001)。3日後の痛みの平均はどちらも1.3。処置前から3日後までに下がった量は、抜髄4.7・断髄4.3で、群の間に統計的な差は検出されませんでした。

3日後の満足度の平均は抜髄9.2・断髄9.1(中央値はどちらも10)で、p=0.848。処置中の不快感の平均も 抜髄1.5・断髄1.6(p=0.453)でした。術後に鎮痛薬を必要としなかった人は各群28人で、群による差は検出されていません(p=0.099)。追加の麻酔は各群24人に必要でした。

表3 患者が0〜10で答えた評価(原典の表3の全行) 項目 抜髄 平均(SD)・中央値 断髄 平均(SD)・中央値 p値 処置前の痛み 6.0(2.6)・7.0 5.6(3.1)・6.0 0.763 処置前の不安 3.2(3.2)・2.0 3.3(3.5)・2.5 0.908 処置前の咀嚼時の痛み 7.2(2.7)・8.0 5.8(3.6)・6.5 0.147 処置の長さの感じ方 3.1(1.9)・3.0 2.0(1.6)・3.0 0.021 処置中の不快感 1.5(2.0)・0.0 1.6(1.8)・1.0 0.453 6時間後の痛み 2.2(2.6)・2.0 2.0(2.3)・1.0 ― 24時間後の痛み 1.8(2.3)・1.0 1.3(2.0)・0.0 ― 3日後の痛み 1.3(2.1)・0.0 1.3(2.0)・0.5 0.522 3日後の満足度 9.2(1.7)・10.0 9.1(2.0)・10.0 0.848 抜髄40人・断髄40人。0〜10の数値評価(痛み・不安・不快感は0が無し、満足度は10が最も満足) p値は、Mann-Whitney検定の行は群の比較。原典は3日後の痛みの行に、痛みの解析(Brunner-Langer モデルのANOVA 型統計量・ATS)の p=0.522 を置き、6時間後・24時間後の行にはp値が無い。何を比べた検定かの詳細は原典に書かれ ていない。それ以外はMann-Whitney検定 処置の長さの感じ方は、表3と結果の本文では p=0.021 だが、抄録と考察には群の差は無いと書かれ、原典の中で食い 違う。表3の注は * を p<0.001 としている
図2 原典の表3の全行。p値は、Mann-Whitney検定の行は群の比較で、3日後の痛みの行の p=0.522 は痛みの解析(ATS)の値。処置の長さの感じ方(p=0.021)は、原典の中で記載が食い違う(下の本文と注記を参照)。

処置時間(露髄から終了まで・術者が記録)は、平均で抜髄13.4分(SD 6.1)、断髄7.4分(SD 3.0)でした。原典はこの時間の群の検定結果を載せていません。

一方、患者が答えた「処置の長さの感じ方」には、原典の中で食い違いがあります。表3は抜髄3.1・断髄2.0で p=0.021、結果の本文も「抜髄群のほうが長く感じた」と書きます。ところが抄録と考察では、長さの感じ方に群の差は無かったと書かれています。どちらとも決めかねるので、この記事では長さの感じ方を結論には使いません。

満足度と最も強く結びついていたのは、3日目の痛みでした。満足度を説明する回帰モデルに残ったのは3日後の痛みだけで、係数は −0.50(95%CI −0.67〜−0.33)。3日後の痛みが1点高いと、満足度が平均で0.5点低い関係です。

⑤結果の読み方

この試験が示したのは、「症状のある不可逆性歯髄炎の急患の初回処置で、断髄でも抜髄でも、3日までの痛みは大きく下がり、満足度も高く、群の間に有意差は検出されなかった」ということです。著者らは、だから手早く簡単な断髄は、急患の実用的な選択肢になりうると結論しています。

ただし、「有意差が検出されなかった」ことは、「2つが同じだと証明された」こととは違います。この試験の人数は、痛みの減り方に 2点対4.5点ほどの大きな差があれば見つけられるように計算されたもので、著者ら自身も、結果は大きな差についてしか言えないと限界に書いています。小さな差まで否定できる設計ではありません。

満足度と3日目の痛みの関係も、群を比べた結果ではなく、満足度と痛みの関連を見た回帰の結果です。著者らは、満足のいちばんの理由は処置の結果=痛みが消えることだと考えています。

⑥明日の臨床へ

時間の無い急患で、症状のある不可逆性歯髄炎の痛みを取るのが目的なら、歯冠部の歯髄を取る断髄で止めるという選択肢が見えてきます。この試験では、断髄の処置時間は平均で約6分短く(13.4分と7.4分の差・筆者の計算。原典に検定の記載なし)、3日までの痛み・不快感・満足度に有意差は検出されませんでした。この試験の断髄は、ラバーダム下で歯冠部の歯髄を除去し、次亜塩素酸ナトリウムの綿球で止血してテフロンテープと仮封、咬合接触を外す、という手順です。

ただ、これは「その場の痛みを取る初回処置」の比較です。この試験では、どちらの群も2回目の来院で全例が根管治療を受けていて、断髄で歯髄を残せるか、長期にどうなるかは見ていません。断髄群の1人は炎症が続き、4日後に改めて根管の処置が必要になりました。急患で断髄にした場合も、次の来院で根管治療か、歯髄を残す処置かを改めて決める前提で考えておきたいところです(ここまで筆者の読み)。

患者さんへの説明では、3日後の痛みが満足度と最も強く結びついていた、という結果が参考になります。術後の痛みの見通しと、痛みが残ったときの対処を伝えておくことが大事そうです(筆者の読み)。

⑦ここだけ補助線

急患の現場に響く、患者目線の1本です。ただし読むときは次の点だけ押さえておきたいところです。
・設計:著者らは同等性の試験と呼んでいるが、原典に同等とみなす幅の記載は無く、人数は大きな差(痛みの減り方で2点対4.5点)を見つける計算。有意差が検出されなかったことは「同等」の証明ではない
・期間:3日まで。全例が2回目の来院で根管治療を受けており、断髄の長期の成績や歯髄の保存は見ていない
・盲検:患者は処置を知らないが、術者は知っている。痛み・満足度・処置の長さの感じ方・不快感はすべて患者の自己申告(0〜10)で、術後は電話かメッセージで聞いた(処置時間だけは術者の記録)
・診断:問診と冷刺激試験による臨床診断で、組織は見ていない。著者らは、歯髄の状態が比較的軽い歯も含まれた可能性に触れている
・記載の食い違い:処置の長さの感じ方は、表3・結果(p=0.021)と、抄録・考察(差なし)で記載が合わない
・規模と場:スペインの2つの個人歯科医院・80人。外部資金なし・利益相反なしと記載
急患の初回処置を選ぶうえで、患者の感じ方まで比べた貴重な試験です。長期の成績まで比べた続報が楽しみです。

今日のひとこと

症状のある不可逆性歯髄炎の急患の初回処置では、断髄でも抜髄でも3日までの痛みは大きく下がり、満足度も高く、群の間に有意差は検出されませんでした。処置時間は断髄が平均で約6分短く(筆者の計算)、時間の無い急患で断髄で止める選択肢が見えてきます。ただし大きな差を見つける設計で、同等の証明ではなく、見たのは3日まで(全例が次回に根管治療)です。

Esteve-Pardo G, Barreiro-Gabeiras P, Esteve-Colomina L. Pulpectomy vs. Pulpotomy as Alternative Emergency Treatments for Symptomatic Irreversible Pulpitis—A Multicenter Comparative Randomised Clinical Trial on Patient Perceptions. Clin Pract. 2023;13(4):898-913. doi: 10.3390/clinpract13040082. PMID: 37623263
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。