エンド|ドイツの大学病院1施設で2001〜2006年に直接覆髄をした歯の記録をさかのぼり、108人122本(MTA 69本・非硬化型の水酸化カルシウムペースト 53本)を12〜80か月後に診査して、成功の割合と成績に関わる因子を調べた後ろ向き研究(Mente ら 2010・Journal of Endodontics)
直接覆髄の材料は、MTAと水酸化カルシウムで成績が変わるのか。Mente らは、大学病院の記録から直接覆髄をした歯を呼び戻し、108人122本を診査しました。成功の割合はMTA群78%(69本中54本)、水酸化カルシウム群60%(53本中32本)でした。ただし、最終修復までの日数と術者で調整すると材料の差は有意とは言えない境界になり(MTAを1とした水酸化カルシウムの成功のオッズ比 0.43、95%CI 0.19〜1.02)、最終修復まで2日以上あいた歯は成功のオッズが低いという関連がありました(2日より短い歯を1とした成功のオッズ比 0.24)。材料を無作為に割り付けていない後ろ向きの研究で、受診率は72.5%です。
①直接覆髄、MTAと水酸化カルシウムで成績は変わる?
う蝕を取り切ったら、ピンポイントで露髄した。出血はすぐに止まった。覆髄材は水酸化カルシウムにするか、MTAにするか。そして、その日のうちに最終修復まで進めるか、いったん仮封にするか。直接覆髄のたびに迷う場面です。
この2つの問いに、大学病院の診療記録をさかのぼって答えようとしたのが、Mente らの2010年の研究です。直接覆髄をした歯を1年以上たってから(12〜80か月後に)呼び戻して診査し、MTAと水酸化カルシウムで成功の割合を比べ、成績に関わる因子も調べました。
・ドイツの大学病院1施設の記録をさかのぼった後ろ向き研究。2001〜2006年に直接覆髄をした歯のうち、108人122本を追跡12〜80か月(中央値27か月)で診査した
・成功の割合:MTA群 78%(69本中54本)、水酸化カルシウム群 60%(53本中32本)。ほかの因子で調整する前の解析では、MTAの成功のオッズ比 2.36(水酸化カルシウムを1として。95%CI 1.05〜5.32、p=0.04)
・調整すると:最終修復までの日数と術者で調整した解析では、水酸化カルシウムの成功のオッズ比 0.43(MTAを1として。95%CI 0.19〜1.02、p=0.05)。信頼区間が1をまたぎ、著者らは「有意と非有意の境界」と書いている
・最終修復までの日数:覆髄から最終修復まで2日以上あいた歯は、2日より短い歯より成功のオッズが低かった(オッズ比 0.24、95%CI 0.09〜0.66、p=0.01。2群を合わせ、材料と術者で調整)
・著者らの結論:MTAは水酸化カルシウムより歯髄の生活を長く保つのに有効と思われる。覆髄の後は、材料によらず、すぐに最終修復をめざすべき
・注意:無作為化していない後ろ向きの研究で、どちらの材料を使うかの判断はそろえられていません。受診率は72.5%、2日以上あいた歯は計20本(筆者が表1の9本+11本を合計)と少数です
②なぜこの研究が必要だったか
著者らの整理では、水酸化カルシウムは1930年の Hermann の報告以降、直接覆髄の材料の基準(ゴールドスタンダード)とされてきました。ただ、これまでの臨床研究の成功の割合は13%から96%まで幅があり、著者らはその理由として、追跡期間、露髄の原因(う蝕か機械的か)、最終修復までの時間、患者さんの年齢、成功の定義の違いなどを挙げています(著者らが引用した研究)。
1990年代に開発されたMTAは、硬化の過程で水酸化カルシウムと同じくらいの強いアルカリ性になります。それでも歯髄の反応は違うようで、MTAでできる象牙質の橋は、水酸化カルシウムより均一でトンネル状の欠損が少ないという報告がありました(著者らが引用した研究)。一方、それまでのMTAの臨床研究は症例数が少なく観察期間も短く、1年を超える成績を水酸化カルシウムと比べた臨床研究は、著者らが文献を調べた範囲では見当たりませんでした。
③何をどう比べたか
・研究の種類:ドイツ・ハイデルベルク大学病院の保存科1施設の記録をさかのぼった後ろ向き研究(Journal of Endodontics 2010)。治療はすべて研究を計画する前に終わっており、材料は無作為に割り付けていない
・対象:2001〜2006年に直接覆髄を受け、覆髄から1年以上たった歯。条件を満たした149人167本に手紙と電話で来院を依頼し、108人122本を診査した(受診率72.5%)。免疫が低下している人、診査時に妊娠中の人、参加を断った人、治療前・治療中の記録が不完全な人は除いた
・比べた材料:MTA(ProRoot MTA。前歯は白色、臼歯は灰色)69本と、非硬化型の水酸化カルシウムペースト(Hypocal SN)53本
・処置の手順(科の取り決め):全例ラバーダム。う蝕は低速のラウンドバーで除去し、窩洞を0.12%クロルヘキシジンで消毒。露髄したら同じ液を含ませた綿球を置き、出血が5分未満で止まれば可逆的な炎症と考えて覆髄した。5分以上止まらない歯や不可逆性歯髄炎の症状がある歯は抜髄し、対象から外した。覆髄材の上はレジン添加型グラスアイオノマー(Vitrebond)で覆い、原則としてすぐにコンポジットレジンで修復。例外的に数日だけ仮封材(IRM)を使った歯もある。最終修復はコンポジットレジンか全部被覆冠
・術者:指導下の学生が72%、歯科医師が28%
・成功の定義:冷刺激(CO2)にはっきり反応し、症状が無く、X線で根尖性歯周炎の所見が無く(PAI 1)、内部吸収が無く、機能を失っていないこと。1つでも外れれば失敗(根管治療や抜歯をされた歯も失敗)。X線は較正した2人の評価者が独立に読んだ
・統計:1人で複数の歯を数えたことを考慮するGEEモデル。まず因子を1つずつ調べ(単変量)、p≦0.05だった因子を同時に入れて調整した(多変量)
④結果:成功の割合は MTA 78%、水酸化カルシウム 60%
・全体:122本のうち成功86本(70%、95%CI 62〜78%)、失敗36本(30%)
・材料別:MTA群 69本中54本(78%、95%CI 67〜87%)、水酸化カルシウム群 53本中32本(60%、95%CI 46〜74%)。失敗の割合はそれぞれ22%と40%
・ほかの因子で調整する前の解析(GEE):MTAの成功のオッズ比 2.36(水酸化カルシウムを1として。95%CI 1.05〜5.32、p=0.04)
失敗36本の内訳は、根管治療を受けていた歯22本、抜歯されていた歯5本(すべて水酸化カルシウム群)、歯髄の壊死5本、根尖部の透過像4本でした。なお、原典に書かれた群ごとの内訳を足すとMTA群14本・水酸化カルシウム群22本になり、群ごとの失敗の数(15本・21本)と1本ずつ合いません。
追跡期間別に見ると、水酸化カルシウム群の成功の割合は1〜2年 75%(20本)、2〜3年 55%(20本)、3年超 46%(13本)と、追跡が長いほど低く、MTA群は 83%(29本)、69%(26本)、86%(14本)でした。著者らはこの傾向を「目立つ」としつつ、追跡期間の違いに有意差は検出されなかったと書いています(各区分は13〜29本)。この比較は、同じ歯を時間を追って見たものではなく、診査までの期間が違う歯どうしを並べたものです。
⑤ほかの因子で調整すると、材料の差は「境界」
著者らはまず、年齢・性別・歯の位置・歯の種類・露髄の部位と原因・修復の種類と大きさ・診査時の修復の質・術者・追跡期間・最終修復までの日数を、材料ごとに1つずつ調べました。水酸化カルシウム群で p≦0.05 だったのは、最終修復までの日数(p=0.02)と術者(p=0.05)の2つで、MTA群では該当する因子はありませんでした。この2つと材料を同時に入れた解析が次の表です。
材料のオッズ比は 0.43 で、信頼区間の上端は 1.02 です。つまり「調整しても水酸化カルシウムのほうが成功のオッズは低めだが、有意とは言い切れない」という結果で、著者らは「有意と非有意の境界」と表現しています。著者らはこれを症例数の不足によるかもしれないとし、事後の計算では、この差(オッズ比 0.43)を検出力80%で示すには211人(1人1本として)が必要だったと書いています。
術者(学生か歯科医師か)は、調整後は有意ではありませんでした(オッズ比 0.68、p=0.37)。露髄の原因(う蝕か機械的か)や年齢でも、成功の割合に有意差は検出されませんでした。
⑥最終修復まで2日以上あいた歯は、成功が少なかった
覆髄から最終修復まで2日以上あいた歯は、MTA群 9本、水酸化カルシウム群 11本でした。成功の割合は、MTA群が 82%(2日より短い)と 56%(2日以上)、水酸化カルシウム群が 69% と 27% です。2群を合わせ、材料と術者で調整した解析では、2日以上の歯の成功のオッズ比は 0.24(95%CI 0.09〜0.66、p=0.01)でした。材料ごとに調整前に見ると、有意だったのは水酸化カルシウム群(p=0.02)で、MTA群は p=0.09 でした。
著者らは、MTA群で下がり方が小さかった理由として、MTAの細菌の漏れを防ぐ封鎖性と仮封材の保護を挙げ、最終修復が遅れると、仮封は最終修復より微小漏洩を防ぎにくいことや、仮封を外して詰め替える時の細菌汚染・機械的な刺激が影響するのではないかと考察しています。これらは著者らの推測で、この研究で確かめたものではありません。最終修復が遅れた理由も原典には書かれていません。
⑦明日の臨床へ
この研究の範囲で言えるのは、「出血が5分未満で止まった露髄に直接覆髄をした歯では、MTAの成功の割合が水酸化カルシウムより高かったが、最終修復までの日数と術者で調整すると差は有意とは言えない境界だった」「最終修復まで2日以上あいた歯は、成功の割合が低かった」ということです。どちらも後ろ向きに記録を見た比較なので、関連であって、因果まで示したものではありません。
読み方としては、材料選びではMTAに傾く根拠の1つになりつつも、それ以上に「覆髄した日に最終修復まで進められる段取りを組む」ことのほうが、材料を問わず関わってきそうです(ここは筆者の読みです)。ただし、この研究の手順は、ラバーダム下でう蝕を取り切り、クロルヘキシジンで消毒し、出血が5分未満で止まった歯に限っています。不可逆性歯髄炎が疑われる歯や、ほかのMTA製品・新しいケイ酸カルシウム系の材料は、この研究の対象ではありません。
⑧ここだけ補助線
・比べ方:後ろ向きの研究で、材料は無作為に割り付けておらず、著者らも、どちらの覆髄材を使うかといった臨床判断はそろえられなかったと書いています。年齢の中央値もMTA群37.1歳・水酸化カルシウム群44.4歳と少し違います(著者らは分布はほぼ同じと記載)。調整は材料・日数・術者の3つだけです
・規模と追跡:受診率は72.5%で、著者らも高い水準の目安とされる80%に届かないと書いています。術者の7割は指導下の学生、追跡は12〜80か月と歯ごとに違います。2日以上あいた歯は計20本(筆者が表1から合計)と少数です
・材料:MTAは ProRoot MTA、水酸化カルシウムは非硬化型のペースト1種類(Hypocal SN)で、どちらもレジン添加型グラスアイオノマーで覆っています。資金や利益相反の記載はありません
「材料」と「封鎖までの時間」の両方を考えるきっかけになる1本です。著者らは前向きに症例を増やして再評価すると書いており、その続きにも注目したいところです。
今日のひとこと
大学病院1施設の後ろ向き研究(108人122本)では、直接覆髄の成功の割合はMTA 78%・水酸化カルシウム 60%で、調整すると材料の差は有意とは言えない境界、最終修復まで2日以上あいた歯は成功が少なかったと報告されています。著者らは、MTAは歯髄の生活を長く保つのに有効と思われ、覆髄の後は材料によらずすぐに最終修復をめざすべきとまとめました。材料は無作為に選ばれておらず関連の研究なので、「材料選びと同じくらい、覆髄した日に封鎖まで進める段取りを考える」という読み方が、この論文に合っています。


