1問1答 論文 エンド

深い窩洞、象牙質までエッチングしていい?——ヒトの小臼歯18本の組織学的研究で、残存象牙質が300μmより薄い窩洞をトータルエッチングしてボンディング材を塗った2本に、30日後の観察で中等度の歯髄炎症があり、窩底を裏装した群は6本とも正常だった(de Souza Costa 2002)

1問1答 論文 エンド

エンド|矯正で抜く予定の12〜17歳の健全な小臼歯に深いV級窩洞をつくり、トータルエッチング・エナメル質だけのエッチング・水酸化カルシウム裏装の3群(各6本)で1ボトル型ボンディング材を使い、30日後の歯髄の組織像を比べたヒトの組織学的研究(de Souza Costa・Nascimento・Teixeira 2002・Dental Materials)

深い窩洞で、象牙質までエッチングしてボンディング材を塗ってよいのか。de Souza Costa らは、矯正で抜く予定のヒトの小臼歯に深いV級窩洞をつくり、30日後の歯髄を顕微鏡で調べました。象牙質までエッチングした群では6本中5本に炎症(軽度3本・中等度2本)があり、中等度の2本は残存象牙質が228μmと288μmの歯でした。象牙質をエッチングしなかった群は軽度の炎症が1本(162μm)、窩底を水酸化カルシウム裏装材で覆った群は6本とも正常な組織像でした。各群6本で統計的検定の記載は無く、「300μmより薄いと中等度の炎症」は2本の歯にもとづく所見です。

論文
Response of human pulps following acid conditioning and application of a bonding agent in deep cavities
著者
Carlos Alberto de Souza Costa、Alexandre Batista Lopes do Nascimento、Hilcia Mezzalira Teixeira(ブラジル サンパウロ州立大学 アララクアラ歯学部、ペルナンブコ大学 歯学部)
掲載
Dental Materials 2002;18(7):543–551
種類
ヒトの小臼歯を使った組織学的研究。矯正治療で抜く予定のむし歯の無い小臼歯20本(12〜17歳・平均14歳)。深さ2.5mmのV級窩洞をつくり、1群:トータルエッチング、2群:エナメル質だけエッチング、3群:水酸化カルシウム裏装材(Dycal)で窩底を覆ってからエナメル質と側壁をエッチング(各6本)。どれも Single Bond を2回塗布し Z-100 で充填。健全歯2本を対照にした。30日後に抜歯し、炎症・組織の乱れ・細菌・反応性象牙質を0〜3の4段階で群を伏せて判定。統計的検定の記載は無い
資金・利益相反
ブラジルの研究助成機関 CNPq・FAPESP の一部支援と記載(謝辞)。利益相反の記載は無い
PMID
12191668

①深い窩洞、象牙質までエッチングしていい?

歯髄に近い深い窩洞をコンポジットレジンで詰めるとき、象牙質までリン酸でエッチングしてボンディング材を塗るか、窩底に裏装材を置いてから接着するか。トータルエッチングが広まった頃から、臨床で迷い続けてきた場面です。

この問いを、ヒトの歯の歯髄の組織像で確かめたのが、de Souza Costa らの2002年の研究(Dental Materials)です。矯正治療で抜く予定の健全な小臼歯に深いV級窩洞をつくり、30日後に抜歯して、歯髄の反応を顕微鏡で調べました。

結論を先に書きます。
・研究の種類:ヒトの小臼歯を使った組織学的研究。矯正で抜く予定の12〜17歳の健全な小臼歯に深いV級窩洞(深さ2.5mm)をつくり、3群×6本(計18本)+健全歯2本を30日後に抜歯して観察。統計的検定の記載は無い
・象牙質までエッチング(トータルエッチング)してボンディング材:6本中5本に炎症(軽度3本・中等度2本)。中等度の2本は、窩底から歯髄までの残存象牙質の厚さが228μmと288μm
・エナメル質だけエッチング(象牙質はエッチングせずボンディング材):6本中1本に軽度の炎症(残存象牙質162μmの歯)
・窩底を水酸化カルシウム裏装材(Dycal)で覆ってから接着:6本とも、健全歯と同じ正常な組織像(本文の記載)
・著者らの結論:残存象牙質が300μmより薄い深い窩洞をエッチングしてボンディング材を塗ると、エッチングしない場合より強い歯髄反応が出た。深い象牙質には、エッチングとボンディングの前に生体親和性のある裏装材を置くことを勧める
・注意:各群6本の小さな研究で、「300μmより薄い歯で中等度の炎症」という所見は2本の歯にもとづきます

②なぜこの研究が必要だったか

当時、「歯髄を傷つけるのは材料そのものより、すき間から入る細菌とその産物だ」とする研究がありました。ボンディング材がすき間を封鎖できるなら、深い象牙質にも直接使ってよい、という流れです。

一方で、光重合しても反応しきらないモノマーが残り、象牙細管を通って歯髄側へ拡散しうること、培養細胞ではレジンの成分に毒性があることも、実験室の研究で報告されていました。窩底から歯髄までの残存象牙質の厚さ(RDT)は、その拡散を防ぐ壁になると考えられています。

そこで著者らは、1ボトル型のボンディング材を、エッチングした深い象牙質とエッチングしていない深い象牙質に塗ったとき、ヒトの歯髄がどう反応するかを比べました。

③何をどう比べたか

・研究の種類:ヒトの小臼歯を使った組織学的研究(Dental Materials 2002)。群の割り付けの方法は書かれていない
・対象:矯正治療で抜く予定の、むし歯の無い小臼歯20本(12〜17歳・平均14歳)。実験群18本(各群6本)と、何もしない健全歯2本
・窩洞:ラバーダム防湿のうえ、頬側に長さ3.0mm・深さ2.5mm・幅1.5mmのV級窩洞を注水下でつくった。窩洞の形成中に露髄した2本は除外し、別の2本で補った
・3つの群(どれもボンディング材 Single Bond を2回塗布・光照射し、コンポジットレジン Z-100 で充填)
 1群:エナメル質と象牙質を35%リン酸で15秒エッチング(トータルエッチング)
 2群:エナメル質だけをエッチング(象牙質はエッチングしない)
 3群:窩底を水酸化カルシウム裏装材(Dycal)で覆ってから、エナメル質と側壁の象牙質をエッチング
・評価:30日後に抜歯し、切片を染めて光学顕微鏡で観察。炎症細胞の反応・組織の乱れ・細菌の有無・反応性象牙質の形成を、それぞれ0〜3の4段階で、群を伏せて判定した。残存象牙質の厚さは切片で1本ずつ測った
・解析:各段階の本数を示しただけで、群の間の統計的検定の記載は無い

④結果:中等度の炎症は、トータルエッチングの2本

まず、4つの評価項目の本数を原典の表6からすべて転記します。

表1 30日後の歯髄の組織像:各段階の歯の本数(原典の表6の全行・各群6本) 評価項目 群 0点 1点 2点 3点 炎症細胞の反応 1群 トータルエッチング 1 3 2 0 2群 エナメル質だけエッチング 5 1 0 0 3群 窩底を裏装してから接着 6※ 0 0 0 組織の乱れ 1群 トータルエッチング 1 4 1 0 2群 エナメル質だけエッチング 5 1 0 0 3群 窩底を裏装してから接着 6 0 0 0 細菌(染色で検出) 1群 トータルエッチング 5 1 0 0 2群 エナメル質だけエッチング 6 0 0 0 3群 窩底を裏装してから接着 4 2 0 0 反応性象牙質の形成 1群 トータルエッチング 4 2 0 0 2群 エナメル質だけエッチング 6 0 0 0 3群 窩底を裏装してから接着 6 0 0 0 炎症:0点=無いか散在のみ、1点=軽度、2点=中等度、3点=重度・膿瘍。組織の乱れ:1点=象牙芽細胞層だけ乱れ る、2点=歯髄全体が乱れる、3点=壊死。細菌:1点=側壁だけ、2点=側壁と窩底、3点=さらに象牙細管の中。反応 性象牙質:1点=わずか、2点=中等度、3点=多量(原典の表2〜5) ※原典の表6では3群の炎症の行の「6」が1点の欄に印刷されているが、抄録と本文は3群の6本を「健全歯と同じ正常な 組織像」と記載しているため、本文に従って0点の欄に置いた ヒトの小臼歯の組織学的研究(矯正で抜く12〜17歳の健全歯・深さ2.5mmのV級窩洞・30日後に抜歯)。統計的検定の 記載は無い

1群(トータルエッチング)では、炎症の無い歯は1本だけで、軽度が3本、中等度が2本でした。2群(象牙質はエッチングしない)は、軽度の炎症が1本だけ。3群(裏装あり)は、本文では6本とも健全歯と同じ正常な組織像とされています。どの群にも重度の炎症や歯髄の壊死は無く、患者さんの自覚症状は無く、温度診でも群の間の違いは見られず、根尖部のX線での異常もありませんでした。

次に、18本それぞれの残存象牙質の厚さと炎症の程度を並べます(原典の表7と本文から)。

図2 18本それぞれの残存象牙質の厚さと炎症の程度(原典の表7と本文) 0 100 200 300 400 500 600 700 窩底から歯髄までの残存象牙質の厚さ(μm・抜歯後の切片で測定) 300μm 1群 トータルエッチング 228 288 341 422 532 631 2群 エナメル質だけエッチング 162 290 392 405 519 531 3群 窩底を裏装してから接着 218 254 373 391 433 659 炎症なし(0点) 軽度(1点) 中等度(2点) 点1つが歯1本。色は炎症細胞の反応の判定(原典の表6の段階)。1群の各歯の段階は、表6の本数と本文の記載 (中等度=228・288μm、炎症なし=631μm、残り3本=軽度)から筆者が対応させた。2群で炎症があったのは 162μmの1本、3群は本文で6本とも正常な組織像 群ごとの平均の厚さ:1群406.8μm、2群383.1μm、3群388.0μm(原典の表7の報告値。表7の個別値から筆者が計 算すると1群407.0μm、2群383.2μmで小差がある)。統計的検定の記載は無い

中等度の炎症が出た2本は、どちらも1群で、残存象牙質が300μmより薄い歯(228μmと288μm)でした。この2本では象牙芽細胞層が乱れ、窩底の下に薄い反応性象牙質の沈着も見られ、1本では歯髄角の広い範囲で組織が乱れ、窩底の下に内部吸収もありました。窩底には、はっきりした樹脂含浸層と長いレジンタグがありました。

一方、残存象牙質が300μmより薄い歯は2群・3群にもあり(表7の該当6本のうち4本)、2群の162μmの歯は軽度の炎症、290μmの歯は炎症なし、3群の218μmと254μmの歯は正常な組織像でした。1群でも、残存象牙質が341〜631μmの4本は、炎症なし(631μm)か軽度でした。

細菌は、1群の1本(軽度の炎症)と3群の2本(炎症なし)で、窩洞の側壁に沿って見つかりました。著者らは、細菌の有無と炎症の強さは対応していなかったと書いています。反応性象牙質の沈着は1群の中等度の2本だけで、2群・3群には見られませんでした。

⑤結果の読み方:なぜエッチングで差が出たのか

著者らは、エッチングでスメア層が除かれ、広がった象牙細管の入口からボンディング材の成分が歯髄側へ入り込んだことが、炎症の原因だった可能性が高いと考えています。中等度の2本では細菌が染まらず、長いレジンタグとボンディング材の拡散が見られたことが、その根拠です。

ただし、これは組織像からの著者らの推測です。成分の移動そのものを測ったわけではありません。著者らは、湿った象牙質に水を含むボンディング材を塗ったことが、成分の入り込みを助けたのではないかとも述べていますが、これも仮説として書かれています。

また、ここからは筆者の読みですが、3群は「裏装材を置いた」と「窩底の象牙質をエッチングしていない」が同時に起きている群です。3群が正常だった理由を、裏装材の効果だけに分けて言うことは、この研究のつくりではできません。

⑥明日の臨床へ

この研究から言えるのは、残存象牙質が薄そうな深い窩洞では、象牙質までエッチングしてボンディング材を直接塗ると、30日の時点で歯髄に炎症が見られることがある、ということです。著者らは、深い象牙質には、エッチングとボンディングの前に生体親和性のある裏装材を置くことを勧めています。

現場で使うなら、筆者は次のように整理します。

・窩底が歯髄に近そうなときは、象牙質のエッチングを避けるか、窩底の最も深い部分を裏装材で覆ってから接着する、という選択肢を検討する
・300μmは、窩底から歯髄までの残存象牙質の厚さについて著者らが用いた区切りで、実際に中等度の炎症が出た歯は228μmと288μm。厚さは抜歯した歯の切片で測った値で、安全な境界として確かめられた数字ではなく、診療中にこの厚さを直接測れるわけでもない
・使われたのは、2002年当時の1ボトル型ボンディング材(トータルエッチング・ウェットボンディング)1種類だけ。いまのセルフエッチングの製品にそのまま当てはまるかは、この研究では調べていない

ここだけ、冷静に補助線
各群6本の小さな研究で、統計的検定の記載はありません。「300μmより薄いと中等度の炎症」という見立ては、1群の2本にもとづいています。対象は矯正で抜く12〜17歳の健全な小臼歯で、むし歯で深くなった窩洞ではありません。観察は30日の1時点だけで、その後に炎症が治まるのか続くのかは分かりません。また、原典の表6では3群の炎症の行の「6」が0点ではなく1点の欄に印刷されていますが、本文は3群を正常な組織像と記載しているため、この記事では本文に従いました。とはいえ、ヒトの歯髄の組織像で「深い窩洞のトータルエッチング」を直接確かめた貴重なデータです。裏装をするかどうかを考えるときの一つの手がかりになります。

今日のひとこと

この研究では、残存象牙質が300μmより薄い深い窩洞を象牙質までエッチングしてボンディング材を塗った2本に、30日後の観察で中等度の歯髄炎症があり、窩底を水酸化カルシウム裏装材で覆った群は6本とも正常な組織像だった。各群6本・統計的検定の記載なし・健全な若い小臼歯の30日だけの観察で、裏装の効果と窩底をエッチングしない効果も分けられていません。「歯髄に近い深い窩洞では、象牙質へのトータルエッチングを避けるか、窩底を裏装してから接着することを検討する」というのが、この論文に合った読み方です。

de Souza Costa CA, do Nascimento AB, Teixeira HM. Response of human pulps following acid conditioning and application of a bonding agent in deep cavities. Dent Mater. 2002;18(7):543-551. doi: 10.1016/s0109-5641(01)00089-6. PMID: 12191668
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。