1問1答 論文 保存修復

CHXで樹脂含浸層は口の中で保たれる?——抜歯予定の第三大臼歯を口の中で14か月使った研究で、エッチング後に2%クロルヘキシジンを60秒置いた側は微小引張接着強さの平均32.2 MPa で直後からの有意な低下を検出せず、置かなかった側は19.0 MPa に有意に下がり樹脂含浸層も壊れていた(Carrilho 2007)

1問1答 論文 保存修復

保存修復|抜歯予定の第三大臼歯を左右1対もつ12人に、左右でクロルヘキシジン(CHX)前処理あり・なしの1級コンポジットレジン修復(35%リン酸+Single Bond)をして、直後(3人)か口の中で14か月使ったあと(9人)に抜き、微小引張接着強さと電子顕微鏡の所見を比べた研究(Carrilho・Pashley ら 2007・Journal of Dental Research)

樹脂含浸層は、口の中で時間がたつと壊れていく。その一因として、象牙質そのものがもつコラーゲン分解酵素(MMP)が疑われてきました。Carrilho らは2007年、抜歯予定の第三大臼歯に左右でCHXあり・なしの修復をして、口の中で14か月使ってもらってから抜いて調べました。14か月後の微小引張接着強さの平均は、CHXなしの対照で19.0 MPa と直後の29.3 MPa から有意に下がり、エッチング後に2%CHXを60秒置いた側は32.2 MPa で、直後の32.7 MPa からの有意な低下を検出しませんでした。電子顕微鏡でも、14か月後の対照だけ樹脂含浸層のコラーゲンが壊れていました。ただし12人の小さな研究で、統計の単位は試料です。両群とも14か月の観察では修復物が保たれ、症状・二次う蝕の徴候もありませんでした。CHXで修復物が長持ちする・二次う蝕が減ることを示した結果ではなく、14か月を超える経過は調べていません。

論文
In vivo Preservation of the Hybrid Layer by Chlorhexidine
著者
MRO Carrilho、S Geraldeli、F Tay、MF de Goes、RM Carvalho、L Tjäderhane、AF Reis、J Hebling、A Mazzoni、L Breschi、D Pashley(ブラジル・米国・フィンランド・イタリアの大学)
掲載
Journal of Dental Research 2007;86(6):529-533
種類
抜歯予定の歯を口の中で使ってから抜いて調べた研究(左右の歯で比べる設計)。う蝕のない第三大臼歯を左右1対もつ12人に、1級窩洞(3×3×4mm)を作り、35%リン酸15秒+Single Bond(ウェットボンディング)で接着してコンポジットレジンを詰めた。片側はエッチング後に2重量%グルコン酸クロルヘキシジン溶液を60秒置いてから接着した。3人は直後、9人は14か月後に抜歯。抜いた歯から断面0.8mm²の試料を作って微小引張接着強さを測り(試料は直後 対照14・CHX17、14か月 対照34・CHX32。統計の単位は試料)、残りの薄片を透過型電子顕微鏡で観察した。二元配置分散分析と Tukey の検定
資金・利益相反
CAPES・CNPq(ブラジル)、Academy of Finland(フィンランド)の研究助成。利益相反の記載は無い
PMID
17525352

①CHXを塗っておくと、樹脂含浸層は口の中で保たれる?

リン酸でエッチングしてボンディング材を塗る。脱灰した象牙質のコラーゲンにレジンが浸み込んでできるのが樹脂含浸層(ハイブリッド層)です。この層は、口の中で時間がたつと少しずつ壊れていくことが知られてきました。では、エッチングのあとにクロルヘキシジン(CHX)を塗っておくと、その壊れ方は変わるのでしょうか。

これを、抜歯予定の第三大臼歯に実際に詰めて、口の中で14か月使ってもらってから抜いて調べたのが、ブラジル・米国・フィンランド・イタリアの研究者(Carrilho、Pashley ら)が2007年に Journal of Dental Research に出した論文です。

結論を先に書きます。
・抜歯予定の第三大臼歯を左右1対もつ12人に、左右でCHXあり・なしの1級のコンポジットレジン修復をして、直後(3人)か口の中で14か月使ったあと(9人)に抜き、接着強さと樹脂含浸層を調べた研究
・14か月後の微小引張接着強さの平均は、対照(CHXなし)19.0 MPa、CHX処理 32.2 MPa。対照は接着直後の29.3 MPa から有意に下がり、CHX処理は直後の32.7 MPa からの有意な低下を検出しなかった
・電子顕微鏡では、14か月後の対照の樹脂含浸層はコラーゲン線維が壊れていたのに対し、14か月後のCHX処理群の層は保たれていた
・ただし修復物は14か月後もすべて保たれ、症状も二次う蝕もなかった。違いは抜いた歯を調べて初めて見えたもの

②なぜこの研究が必要だったか

著者らは序論で、接着の劣化には、水を吸ってレジンがふやけ溶け出すといった外からの要因に加えて、歯そのものがもつ酵素が関わっている可能性を挙げています。象牙質には、コラーゲンを分解する酵素の仲間であるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)が含まれています。

先行研究では、エッチ&リンスの接着材で処理した象牙質にコラーゲンやゼラチンを分解する働きが確かめられていました。さらに、原著が引用した小学生の口の中の研究(Hebling 2005)では、う蝕影響象牙質に接着して6か月の時点でコラーゲンの劣化が認められ、接着前にCHXを塗った歯では少なくとも6か月、コラーゲンの構造が保たれていたと報告されていました。ただしその研究は、接着強さを測っていませんでした。

そこで著者らは、う蝕のない象牙質で、CHXを前処理したエッチ&リンスの接着を口の中で使い、接着強さと樹脂含浸層の形の両方を調べました。

③何をどう調べたか

・対象:う蝕のない第三大臼歯を左右1対もち(少なくとも一部は咬合している)、抜歯の予定がある12人。大学の倫理委員会の承認を得て、同意のうえで参加した
・修復:局所麻酔・ラバーダム下で、エナメル質に囲まれた1級窩洞(3×3×4mm)を作った。対照側は35%リン酸で15秒エッチングし、Single Bond(3M ESPE)をウェットボンディングで塗り、微小充填型のレジン(Clearfil Protect Liner)を1.5mm、その上にハイブリッド型のレジン(Z250)を2回に分けて詰めた
・CHX処理:反対側の歯は、エッチング後の象牙質に2重量%のグルコン酸クロルヘキシジン溶液を60秒置き、余分を吸い取ってから同じ手順で接着・充填した
・抜歯:3人(3対)は数日以内に矯正の装置を付ける予定だったため直後に抜歯。残る9人(9対)は経過を見て14か月後に抜歯
・接着強さ:抜いた歯を3枚の薄片に切り、うち1枚から断面0.8mm²の棒状の試料を作って微小引張接着強さを測った。統計の単位は試料(歯ではない)で、二元配置分散分析と Tukey の検定
・電子顕微鏡:残り2枚の薄片を脱灰・染色し、透過型電子顕微鏡で樹脂含浸層を観察した

④結果1:14か月後、対照は接着強さが下がり、CHX処理では有意な低下を検出しなかった

0 10 20 30 40 微小引張接着強さの平均(MPa) 29.3 32.7 19.0 32.2 接着直後に抜歯(3人) 口の中で14か月後に抜歯(9人) 対照(CHXなし) CHX処理 濃い棒=対照(CHXなし)、淡い棒=CHX処理。試料の数は直後 14・17、14か月 34・32(統計の単位は試料)
図1:抜いた時期別・処理別の微小引張接着強さの平均(原著の表の値から筆者が作図)。抜歯予定の第三大臼歯12人の左右1対で、直後に抜いた3人と14か月後に抜いた9人。統計の単位は試料。

接着直後に抜いた歯では、対照 29.3 MPa(標準偏差9.2・試料14)、CHX処理 32.7 MPa(7.6・試料17)で、直後の接着強さに、CHX処理による有意差は検出されませんでした(p>0.05)。

14か月後に抜いた歯では、対照が19.0 MPa(5.2・試料34)と、ほかの3つの群より有意に低くなりました。CHX処理は32.2 MPa(7.2・試料32)で、直後の値からの有意な低下を検出しませんでした。分散分析では、処理・抜いた時期・その交互作用のいずれも有意でした(p<0.05)。

対照の低下を原著の考察は「38%」と書いています(表の平均 29.3→19.0 MPa から筆者が計算すると約35%)。

破壊の様式は、どの群でも混合破壊が最も多く、著者らは14か月後には樹脂含浸層の中での破壊が対照で多かったと書いています(表1。検定の結果は書かれていません)。

表1 破壊の様式(原著の表の全行。%) 抜いた時期 処理 破壊の様式の内訳(%) 接着直後 対照(CHXなし) ボンド内 20・樹脂含浸層内 15・混合 65 接着直後 CHX処理 ボンド内 15・樹脂含浸層内 30・混合 55 14か月後 対照(CHXなし) ボンド内 5・樹脂含浸層内 30・象牙質内 10・混合 55 14か月後 CHX処理 ボンド内 10・レジン内 30・樹脂含浸層内 20・混合 40 ボンド内=ボンディングレジン内の凝集破壊、樹脂含浸層内=樹脂含浸層内の凝集破壊、象牙質内・レジン内=象 牙質・コンポジットレジン内の凝集破壊、混合=混合破壊。原著の表の2か所の「CBR」は略語の説明に無く、筆者 がボンド内(CRB)として読んだ。 破壊の様式の検定結果は原著に書かれていない。抜いた歯から切り出した試料の破断面を走査型電子顕微鏡で分類 した。
表1:破壊の様式(原著の表の全行。%)。

⑤結果2:14か月後の対照では、樹脂含浸層のコラーゲンが壊れていた

透過型電子顕微鏡では、接着直後の2群と、14か月後のCHX処理群の樹脂含浸層は保たれていました。CHX処理群のコラーゲン線維には、構造が保たれていることを示す約67nm間隔の縞模様が見えたと、著者らは考察で書いています。

一方、14か月後の対照の樹脂含浸層は壊れており、次の4つの帯が見られました。

表2 電子顕微鏡で見た樹脂含浸層(原著の結果の本文と図から筆者が整理) 抜いた時期 処理 樹脂含浸層の見え方(電子顕微鏡) 接着直後 対照(CHXなし) 保たれていた 接着直後 CHX処理 保たれていた 14か月後 CHX処理 保たれていた(原著の図A) 14か月後 対照(CHXなし) 壊れていた:4つの帯(下の注) 4つの帯:①層の上部と細管のまわりは保たれた帯 ②縞模様のあるコラーゲン線維がまばらに残る帯 ③線維がほぐれ て細い微細線維(ゼラチン)になった帯 ④線維の形が見えない無構造の領域(層の中央に点在)。 抜歯予定の第三大臼歯で接着し、抜いた歯の薄片を脱灰・染色して透過型電子顕微鏡で見た質的な観察。観察した 切片の数や、帯の広さの割合は原著に書かれていない。
表2:電子顕微鏡で見た樹脂含浸層(原著の結果の本文と図から筆者が整理)。質的な観察で、帯の広さの割合などは原著に報告されていない。

層の上部と象牙細管のまわりは保たれていた一方で、中に入るほど線維がまばらになり、ほぐれて細い線維になり、層の中央には線維の形が見えない領域が点在していました。

⑥著者らの考察:歯の中の酵素が関わる、という仮説

著者らは、口の中で問題なく機能していた修復でも樹脂含浸層は壊れ得ること、そしてCHXの前処理でそれを遅らせられる可能性があると結論しています。

考察では次のように説明しています。いずれも著者らの解釈で、この研究で直接確かめたものではありません。

・う蝕のない歯で、電子顕微鏡でも細菌が見られなかったことから、コラーゲンを壊したのは唾液や細菌の酵素ではなく、象牙質の中のMMPではないか
・エッチングと接着の操作がMMPを露出させて働かせ、レジンが浸み込みきらなかったコラーゲンを分解したのではないか
・CHXはごく低い濃度でMMP-2・8・9の働きを抑えることが別の研究で示されており、コラーゲンに結びついたCHXがレジンの下に閉じ込められて、長く酵素を抑えたのではないか

著者ら自身も、この研究の設計では、CHXの効果が酵素を抑えたことだけによるとは証明できないと書いています。CHXが層の中にどれくらい残るか、最適な濃度はどれくらいかは、今後の研究課題としています。

⑦明日の臨床へ

この研究から持ち帰れるのは、次のような読み方です(筆者の読み)。

・臨床で問題のなかった接着修復でも、14か月で樹脂含浸層が壊れ、接着強さが下がり得る:対照の修復物はすべて保たれていたのに、抜いて測ると平均29.3→19.0 MPa だった
・エッチング後に2%CHXを60秒置く一手で、14か月後の接着強さの有意な低下を検出せず、層も保たれていた:手順はエッチングとボンディングの間に1工程を足すだけ
・ただしCHXで修復物が長持ちするとは示していない:14か月の観察では、CHXの有無にかかわらず修復物は保たれ、症状・二次う蝕の徴候もなかった。14か月を超える経過は調べていない

この研究は、14か月の観察で両群とも修復物が保たれていたことを報告していますが、CHXで修復物が長持ちする、二次う蝕が減るといった差を示したものではありません。「CHXを塗れば修復が長持ちする」とまでは言えませんが、「接着の劣化には歯の中の酵素が関わっていそうで、CHXはそれを抑える候補になる」という考え方の出発点になった一本として読みたい論文です。

ここだけ、冷静に補助線(1)12人の小さな研究で、直後に抜いたのは3人だけです。統計の単位は試料(直後14・17、14か月34・32)で、同じ歯・同じ人から取った試料の似かよりは解析で考慮されていません。
(2)差が出たのは抜いた歯の接着強さと電子顕微鏡の所見です。14か月の観察では両群とも修復物が保たれ、症状・二次う蝕の徴候も無く、14か月を超える経過は調べていません。電子顕微鏡は質的な観察です。
(3)う蝕のない第三大臼歯の1級窩洞、接着材は研究当時の Single Bond(エッチ&リンス)1つだけです。う蝕のある象牙質やセルフエッチの接着材、ほかの製品に同じ結果が出るとは限りません。
(4)左右どちらにCHXを使ったかの決め方や、評価する人に処理が伏せられていたかは書かれていません。
(5)CHXの効果が酵素を抑えたためかどうかは、著者ら自身が証明できていないと書いています。資金はブラジル・フィンランドの公的な研究助成で、利益相反の記載はありません。
「臨床で問題のなかった修復の内側で起きていることを、口の中で使った歯で確かめた」という点でとても面白い結果です。CHXの有無で修復物の経過を14か月より長く追った続報と合わせて読みたいところです。

今日のひとこと

抜歯予定の第三大臼歯を口の中で14か月使ってから抜いて調べると、エッチング後に2%クロルヘキシジンを60秒置いた側は接着強さの有意な低下を検出せず樹脂含浸層も保たれていた一方、置かなかった側は接着強さが有意に下がり、層のコラーゲンが壊れていました。著者らは、象牙質の中の酵素(MMP)をCHXが抑えたのではないかと考えていますが、この研究では証明されていません。修復物はどちらも14か月間保たれていたので、「臨床で問題のなかった修復の内側でも樹脂含浸層は壊れ得る。CHXの前処理はそれを遅らせる候補」という程度に受け取るのが、この論文に合った読み方です。

Carrilho MRO, Geraldeli S, Tay F, de Goes MF, Carvalho RM, Tjäderhane L, Reis AF, Hebling J, Mazzoni A, Breschi L, Pashley D. In vivo preservation of the hybrid layer by chlorhexidine. J Dent Res. 2007;86(6):529-533. doi: 10.1177/154405910708600608. PMID: 17525352
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。