1問1答 論文 保存修復

象牙質の水は、割れ方を変える?——抜去歯の切片の圧縮試験で、72時間部分的に乾かした象牙質は破折時の応力の平均が高かった(157.8 対 53.1 MPa)が、破折時のひずみは小さく(3.7 対 9.6%)、根管に沿って縦に一気に割れた(Kishen 2007)

1問1答 論文 保存修復

保存修復|抜去した単根歯12本の切片の圧縮試験(水を含ませたまま6本・72時間部分的に乾かした6本)と、象牙質の一部を細管ごと再現した有限要素モデル、赤外分光を組み合わせた実験室研究(Kishen・Vedantam 2007・Dental Materials)

根管治療した歯は割れやすい。論文の序論によれば、かつては「水分が減ってもろくなる」と説明され、その後は歯質の喪失が主因と考えられるようになりました。では、象牙質の中の水は力の受け方に関係ないのか。Kishen らは2007年、細管の水と歯髄側の水圧に注目して調べました。21℃・湿度60%で72時間部分的に乾かした切片は、破折時の応力の平均が157.8 MPa と、水を含む切片の53.1 MPa より高かった一方、破折時のひずみの平均は3.7% と小さく(水を含む切片は9.6%)、根管に沿って縦に一気に割れました。ただし抜去歯の切片12本(各群6本)と計算モデルの研究で、根管治療した歯そのものは調べていません。

論文
Hydromechanics in dentine: Role of dentinal tubules and hydrostatic pressure on mechanical stress–strain distribution
著者
A Kishen、S Vedantam(シンガポール国立大学 歯学部・工学部)
掲載
Dental Materials 2007;23(10):1296-1306
種類
抜去歯の切片と計算モデルを使った実験室研究。実験1:歯頸部の象牙質の一部を、根管と細管ごと再現した3次元の有限要素モデルで、歯髄側の水圧(水柱15cm)の有無と弾性率の勾配の有無の4通りに、15・50・100Nの圧縮荷重を加えて応力とひずみの分布を計算した。実験2:抜去したばかりの単根歯12本の頬舌方向の切片(厚さ2.5mm)を、水を含ませたまま6本と、21℃・湿度60%で72時間部分的に乾かした6本に分け、1mm/分で圧縮して破折時の応力・ひずみと壊れ方を比べた。実験3:水を含む象牙質と72時間乾かした象牙質の赤外分光(FTIR)
資金・利益相反
記載なし(謝辞で協力者2名に謝意)
PMID
17212969

①象牙質の「水」は、割れ方を変える?

根管治療した歯は割れやすい――臨床ではよく知られたことです。この論文の著者らは序論で、かつては「歯髄を失った象牙質は水分が減ってもろくなる」と説明されていたが、その後の研究で、割れやすさの主な原因は歯質が失われることだと考えられるようになり、根管治療歯と生活歯の象牙質の水分量にも有意な差は無いとされた、と整理しています(2007年時点の整理)。

では、象牙質の中の水は、力の受け方に関係ないのでしょうか。象牙細管を満たす水と、歯髄の側からかかる水圧に注目して調べたのが、シンガポール国立大学の Kishen と Vedantam が2007年に Dental Materials に出した論文です。

結論を先に書きます。
・抜去した単根歯12本の切片を使った圧縮試験と、象牙質の一部を細管ごと再現した有限要素モデルの計算を組み合わせた実験室研究
・21℃・湿度60%で72時間かけて部分的に乾かした切片(6本)は、水を含ませたままの切片(6本)より、破折時の応力の平均が高かった(157.8 MPa 対 53.1 MPa、p=0.014)
・一方、破折時のひずみの平均は水を含む切片のほうが大きく(9.6% 対 3.7%、p=0.037)、粘り強さ(toughness)も有意に高かった
・乾かした切片は根管に沿って縦に一気に割れ、水を含む切片は横向きの微小な亀裂を作りながら壊れ、完全には割れなかった
・モデルでは、歯髄側の水圧を入れると、荷重をかける前から根管寄りの内側に引っ張りの応力が残り、(硬さの勾配ありのモデルで)圧縮荷重を加えるとその引っ張りが減った

②なぜこの研究が必要だったか

著者らは序論で、根管治療歯の割れやすさについて、水分の影響を調べた先行研究の結論が食い違っていると書いています。その一因は、試料の水分の状態をそろえて保つことが見落とされてきたことだ、という指摘です。

象牙質には内側から外側へ直径0.5〜4.0µmの細管が走り、細管の中の水は歯髄側の圧力(引用された文献で10〜28mmHg)で外へ押し出されています。噛む力で細管の液が動くことを示した先行研究もありました。それでも、細管・自由水・水圧が象牙質全体の力学的な振る舞いにどう関わるかを調べた研究は、ほとんど無かったとされます。また、それまでの有限要素解析の多くは、象牙質を均一な材料として扱い、細管や歯髄側の水圧を考えていませんでした。

③何をどう調べたか

3つの実験を組み合わせています。

・実験1 有限要素モデル:歯頸部の象牙質の一部(長さ3.5mm)を、直径1.00mmの根管と、内側から外側へ細くなる細管ごと再現した3次元モデル。歯髄側の水圧(水柱15cm)を入れるかと、内側から外側へ弾性率が変わる「硬さの勾配」を入れるかの組み合わせで4通りのモデルを作り、上面に15・50・100Nの圧縮荷重を加えて、応力とひずみの分布を計算した。水圧は一定とし、液の流れと組織の相互作用は考えていない
・実験2 圧縮試験:抜去したばかりの単根歯12本から、頬舌方向の中央で厚さ2.5mmの板状の切片を作った。6本は水を含ませたまま、6本は21℃・湿度60%で72時間置いて部分的に乾かした。試験機で1mm/分の速さで圧縮し、破折時の応力・ひずみと壊れ方を調べた
・実験3 赤外分光(FTIR):水を含む象牙質と、72時間乾かした象牙質を粉にして、成分の変化をスペクトルで比べた

④結果1:乾かした切片は「強い」が、小さな変形で一気に割れた

部分的に乾かした切片は、水を含む切片より高い荷重で壊れました。破折時の応力の平均は、水を含む切片53.1 MPa、乾かした切片157.8 MPaで、乾かした切片が有意に高かった(p=0.014)。

0 60 120 180 破折時の応力の平均(MPa) 53.1 157.8 水を含ませたままの切片(6本) 72時間 部分的に乾かした切片(6本) 抜去した単根歯の頬舌方向の切片(厚さ2.5mm)の圧縮試験。乾燥は21℃・湿度60%で72時間。p=0.014。ばらつきと検定の方法の記載なし
図1:破折時の応力の平均(原著の結果の本文の値から筆者が作図。各群6本)。抜去歯の切片の実験室の値。

ところが、壊れるまでにどれだけ変形できたかは逆でした。破折時のひずみの平均は、水を含む切片9.6%、乾かした切片3.7%で、水を含む切片が有意に大きかった(p=0.037)。粘り強さ(toughness)も水を含む切片で有意に高かったと書かれています(値は示されていません)。

0 4% 8% 12% 破折時のひずみの平均(%) 9.6% 3.7% 水を含ませたままの切片(6本) 72時間 部分的に乾かした切片(6本) 同じ12本の切片の圧縮試験。p=0.037。ばらつきと検定の方法の記載なし
図2:破折時のひずみの平均(原著の結果の本文の値から筆者が作図。各群6本)。

壊れ方もはっきり違いました。

・乾かした切片:壊れ方は一気で、根管を通る完全な縦の破折だった
・水を含む切片:比較的低い荷重で壊れ始めたが、横向きの微小な亀裂や亀裂のそれが見られ、壊れ方はゆっくりで、完全には割れなかった
・どちらも、ひずみ2〜3%のあたりで微小な亀裂が始まった。乾かした切片はそこで縦に割れたが、水を含む切片はさらに約6%のひずみを受けた(原著はこの箇所で「完全に割れる前に」と書く一方、ほかの箇所では水を含む切片はどれも完全には割れなかったとしており、記載が食い違っている)
・水を含む切片の壊れたあとのX線像では、根管の拡がりと、根管寄りの内側の象牙質の微小な亀裂が見られた。乾かした切片には見られなかった

なお、原著は平均とp値だけを示し、ばらつき(標準偏差など)と検定の方法は書いていません。

⑤結果2:モデルでは、歯髄側の水圧が内側に引っ張りの応力を残した

有限要素モデルの結果を、表1にまとめました。

表1 有限要素モデルで見た応力とひずみの分布(歯頸部の象牙質の一部を細管ごと再現したモデル) モデル 荷重をかける前 圧縮荷重(15・50・100N)を加えると 水圧あり・勾配あり 内側に引っ張りが残った 残っていた引っ張りが、荷重とともに減った 水圧なし・勾配あり (水圧を入れていない) 全体にほぼ一定の圧縮応力。荷重とともに増えた 水圧あり・勾配なし 原著は示していない 15Nのみ:応力分布は1行目に似て、内側ひずみは1行目より小さい 「内側」は根管寄りの象牙質、「引っ張り」は引っ張りの応力とひずみ。「勾配」は内側から外側へ弾性率(硬さ)が変わ る設定。水圧は歯髄側の圧力を想定した水柱15cmで、一定として与えた。著者らは、この計算は値の大きさではなく分布の 傾向を見るためのものとしている。 表は、内側から外側への分布が図示された3つのモデルを整理した(水圧なし・勾配なしのモデルは省いた)。著者らは、 応力とひずみの分布には硬さの勾配より水圧の影響が大きかったとしている。筆者が原著の結果の本文と図2〜10から整理 した。
表1:有限要素モデルの結果(筆者が原著の結果の本文と図2〜10から整理)。計算モデルの結果で、実際の歯で測ったものではありません。

・水圧あり(硬さの勾配あり)のモデルでは、荷重をかける前から、根管寄りの内側の象牙質に引っ張りの応力とひずみが残っていた。圧縮荷重を加えると、この残っていた引っ張りは荷重とともに減った
・水圧なし(硬さの勾配あり)のモデルでは、象牙質全体に比較的一定の圧縮応力がかかり、荷重とともに増えた
・内側の細管のまわりでは、水圧あり(硬さの勾配あり)のモデルは荷重の方向に圧縮、直交する方向に引っ張りが分布した。水圧なし(硬さの勾配あり)のモデルでは、荷重と直交する方向の細管のそばに応力が集中した(原著の本文は、細管のまわりの相当応力〈von Mises 応力〉は水圧ありのモデルのほうが小さく均一だったとするが、図7の目盛の値とは合わないため、大小はここでは書かない)

著者らは、この計算は値の大きさではなく分布の傾向を見るためのものとしています。また、応力とひずみの分布には、硬さの勾配より水圧の影響のほうが大きかったと書いています。

⑥成分は変わっていなかった:著者らの考察

赤外分光では、水を含む象牙質と72時間乾かした象牙質のスペクトルに明らかな違いはありませんでした(水に由来する吸収は水を含む象牙質で強かった)。著者らはこれを、72時間の乾燥で象牙質の鉱物や有機物に変化は起きていない、と読んでいます。

そのうえで著者らは、細管と根管を満たす自由水が歯髄側の水圧とともに働き、噛む力による圧縮を打ち消す方向の引っ張りの応力とひずみを前もって作っているのではないか、そしてこの働きは72時間の乾燥で大きく失われる、と考えています。圧縮試験で見られた違いは、成分の変化ではなく自由水によるものだという解釈です。骨の液体成分が動的な負荷での応力を和らげる「hydraulic strengthening(水による強化)」に似た仕組みとしても論じています。

なお、「72時間の乾燥で象牙質が失う水は5%で、象牙質の水全体の30%にあたり、主に細管と根管の自由水だった」「水に戻すと、乾燥によるひずみと水分量は元に戻る」という点は、著者らが過去の実験の結果として引用したもので、この研究で測ったものではありません。

⑦明日の臨床へ

この研究から持ち帰れるのは、次のような読み方です(筆者の読み)。

・「壊れるときの応力が高い」と「割れにくい」は別の物差し:乾かした切片は破折時の応力の平均が約3倍(157.8÷53.1・筆者の計算)高かったのに、破折時の圧縮ひずみは小さく、根管に沿って一気に縦に割れた
・象牙質の強さを調べた実験を読むときは、試料の水分の状態を確かめたい:同じ抜去歯の切片でも、72時間の乾燥で破折時の応力の平均が53.1 MPa から157.8 MPa へと大きく違った
・細管の中の水と歯髄側の水圧は、象牙質が力を受け止める仕組みの一部かもしれない:ただし、この考えは計算モデルと著者らの解釈によるもの

ただし、この研究は根管治療した歯そのものを調べていません。室温で72時間乾かした切片の結果を、そのまま「根管治療歯は乾いているから割れる」と読むことはできません。根管治療歯の破折を考えるときの一つの視点として、持ち帰りたい一本です。

ここだけ、冷静に補助線(1)抜去歯の切片を使った実験室研究と、計算モデルの組み合わせです。根管治療した歯や、口の中での破折は調べていません。
(2)圧縮試験は12本(各群6本)で、原著は平均とp値だけを示し、ばらつき(標準偏差など)と検定の方法を書いていません。粘り強さの値も示されていません。
(3)乾燥は21℃・湿度60%で72時間という条件で、口の中の歯の状態とは違います。荷重は一方向からの1回の圧縮で、噛む力のような繰り返しの負荷ではありません。
(4)有限要素モデルは歯頸部の象牙質のごく一部を、細管をそろった円すい形とするなど単純化し、水圧は一定として液の流れを考えていません。
(5)資金と利益相反の記載はありません。
「水を含む象牙質は、壊れるときの応力は低いのに粘り強い」という結果は、象牙質を均一な固い材料として見る見方に一石を投じるもので面白いところです。根管治療歯で確かめた続報と合わせて読みたい研究です。

今日のひとこと

抜去歯の切片で調べると、72時間部分的に乾かした象牙質は、壊れるときの応力の平均は高いのに、破折時のひずみが小さいまま根管に沿って一気に縦に割れ、水を含む象牙質は、壊れるときの応力は低いものの、大きく変形して粘り強く、完全には割れませんでした。計算モデルでは、歯髄側の水圧が象牙質の内側の力の分布を変えました。根管治療した歯そのものは調べていないので、「象牙質の中の水は、強さだけでなく壊れ方に関わる。強さの実験を読むときは試料の水分の状態も見る」という程度に受け取るのが、この論文に合った読み方です。

Kishen A, Vedantam S. Hydromechanics in dentine: role of dentinal tubules and hydrostatic pressure on mechanical stress-strain distribution. Dent Mater. 2007;23(10):1296-1306. doi: 10.1016/j.dental.2006.11.018. PMID: 17212969
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。