保存修復|可逆性歯髄炎を伴う痛みのあるひびの歯41本のアマルガムを外して直接コンポジットレジン修復に置き換え、咬頭の被覆なし(20本)と被覆あり(21本)を症例ごとに交互に割り付けて7年追った、歯科医院1か所の臨床研究(Opdam・Roeters・Loomans・Bronkhorst 2008・Journal of Endodontics)
冷たいものに一瞬しみて、噛むとズキッとするひびの歯。根管治療して冠にするか、歯髄を残すか迷う場面です。Opdam らは2008年、この歯を直接コンポジットレジン(CR)修復で治して7年追いました。7年で評価できた40本のうち37本は生活歯のままでした。咬頭を覆った群は修復物の失敗が0、覆わなかった群は年間失敗率(平均)6.0%で有意な差でしたが、歯の生存と歯髄の生存には有意差を検出しませんでした。ただし歯科医院1か所・術者1人の41本の研究で、群は症例ごとの交互の割り付けです。全部被覆冠や根管治療とは比べていません。
①痛むひびの歯、直接CRで残せる?
冷たいものがしみて、硬いものを噛むと一瞬ズキッとする。古いアマルガムを外すと、咬頭の付け根の象牙質にひびの線が見える――いわゆるクラックトゥース(ひびの入った歯)です。根管治療をしてクラウンにするか、歯髄を残して修復でしのぐか、迷う場面です。
この歯を直接コンポジットレジン(CR)修復で治し、7年後まで追ったのが、オランダ・ナイメーヘンの Opdam・Roeters・Loomans・Bronkhorst が2008年に Journal of Endodontics に出した論文です。咬頭を覆う形にするか、覆わない形にするかでも比べています。
・歯科医院1か所で、痛みのあるひびの歯41本をアマルガムから直接CR修復に置き換え、7年追った臨床研究(咬頭の被覆なし20本・被覆あり21本。群は症例ごとに交互に割り付け)
・7年で40本を評価でき、37本は生活歯のままだった。根管治療が必要になったのは3本(いずれも被覆なしの群)で、そのうち2本は歯根の垂直破折で抜歯またはヘミセクションになった
・歯の生存と歯髄の生存は、2群の間に有意差を検出しなかった(ログランク検定 P=0.147・P=0.065)
・補修の必要な修復物の失敗3本も合わせると、被覆ありの群は失敗0、被覆なしの群は年間失敗率(平均)6.0%で、有意な差だった(P=0.008)
②なぜこの研究が必要だったか
著者らは序論で、ひびの歯の治療として次のようなものが挙げられてきたと整理しています。米国歯内療法学会(AAE)は根管治療のあと全部被覆冠を勧めていること。歯髄を残したい時は、矯正用のバンドで固定してから全部被覆冠にする方法があること。咬頭を覆う接着性の鋳造・セラミック修復を勧める総説もあるが、それは臨床経験と意見にとどまること。
一方、長期の臨床データは乏しく、間接法のコンポジットレジンのアンレーで6年生存93%という報告や、全部被覆冠にした可逆性歯髄炎のひびの歯127本のうち20%が半年以内に根管治療になったという報告がある程度でした。直接CR修復で治したひびの歯の長期の成績は、それまで報告が無かった、と著者らは書いています。
そこで著者らは、同じ研究計画の6か月の報告に続けて、7年の成績をまとめました。立てた仮説は「咬頭を覆っても覆わなくても、臨床の成績は同じ」というものです。
③何をどう調べたか
・場:歯科医院1か所(一般の開業の場での研究。著者らの所属はオランダの大学)。治療は1999年8月〜2001年1月。修復は1人の術者
・対象:歯痛で来院し、可逆性歯髄炎を伴うクラックトゥースと診断された患者(男性14人・24〜68歳、女性27人・20〜56歳と記載)。どの歯にも、目に見える不備の無いアマルガム修復が入っていた
・選んだ条件(3つすべて):(1) 塩化エチルの綿球を当てると、隣の歯より強い痛みが出て数秒で消える (2) Tooth Slooth で1つ以上の咬頭に荷重すると痛む (3) アマルガムを外すと、(2) で痛んだ咬頭の象牙質に、窩洞の中からひびの線が見える
・群:同意を得たあと、新しい症例ごとに交互に2つの方法に割り付けた(原著はこれを無作為化と呼んでいる)。咬頭を覆わない直接CR修復20本と、ひびのある咬頭を削って覆う直接CR修復21本
・材料:どちらも3ステップのエッチ&リンス接着材(Clearfil SA primer/PhotoBond)と直接用のコンポジットレジン(Clearfil PhotoPosterior)。いずれもクラレ
・評価:定期健診のたびに歯を診て、行った処置をすべて記録した。6か月と観察の終わりに、痛みが残っているかを患者に問診し、冷刺激と Tooth Slooth でその歯と両隣の歯を順不同に検査した(患者はどの歯が対象か分からない)。隣の歯よりしみた時に「しみる」とした
・解析:カプラン・マイヤー法で、歯の生存・歯髄の生存・修復物の生存の3段階を求め、ログランク検定で2群を比べた(有意水準 P<0.05)
④結果1:被覆ありの群は失敗0、歯と歯髄の生存は有意差を検出せず
41本のうち40本(97%)を7年で評価できました(被覆なしの群の1本は追跡できず)。
・歯髄:不可逆性歯髄炎で根管治療が必要になったのは3本で、治療から2週間後、5週間後、7年5か月後でした。3本とも被覆なしの群でしたが、歯髄の生存に2群の有意差は検出されませんでした(P=0.065)
・歯:2週間後に根管治療した大臼歯は、1年9か月後に歯根の近遠心方向の垂直破折で抜歯。5週間後に根管治療した大臼歯は、6年7か月後に近心根の垂直破折でヘミセクション。40本中2本(5%)が、少なくとも丸ごとは残りませんでした。歯の生存も2群の有意差は検出されませんでした(P=0.147)
・修復物:ほかに、辺縁隆線の破折(7年1か月後)、二次う蝕(6年9か月後)、修復物の隣の酸蝕による摩耗で象牙質が露出してしみた(6年1か月後)の3本が補修を要しました。3段階の失敗を合わせると、被覆ありの群は7年で失敗0、被覆なしの群は年間失敗率(平均)6.0%で、有意な差でした(P=0.008。抄録では P=0.009 と書かれています)
⑤結果2:しみる症状は長く残ることがあった
治療前は41本すべてが「しみる」状態でした。6か月の時点では生活歯39本を評価し、問診で訴えの無い歯が31本だった一方、冷刺激と咬合の検査で無症状だったのは21本でした(原著の表2の6か月の内訳は、被覆なしの群の合計が22本になり、登録数・生活歯の数と合いません。表の数は原著のまま写しています)。
観察の終わりには40本を評価でき、生活歯37本のうち、問診で「時々冷たいものに少ししみる」と答えたのは1本でした。検査では生活歯37本のうち30本(評価できた40本に対して75%)が無症状で、7本は隣の歯よりしみると判定されました(被覆なし3本・被覆あり4本)。著者らは、患者から自発的な訴えが無いことから、これらを失敗には数えていません。
ひびの位置は、上顎の18本のうち15本が頬側咬頭、下顎の23本のうち18本が舌側咬頭でした。対合の咬頭が当たる中心窩の摩耗面やくぼみがよく見られ、著者らはこれらの患者にブラキシズムがあると読んでいます。
⑥著者らの考察
著者らは、歯と歯髄の段階では2群に有意差を検出せず仮説は棄却されなかったが、3段階の失敗を合わせると棄却されたと書いています。そのうえで「直接接着のCR修復は、痛みのあるひびの歯の治療として成功し得る」と結論しています。
咬頭の被覆については、次のように慎重に述べています。いずれも著者らの解釈で、この研究で直接確かめたものではありません。
・歯根が垂直破折した2本はどちらも被覆なしの群だったが、2本とも根管治療で開けた時に歯髄腔の壁にひびの線が認められた。ひびの位置は割り付けの条件に入っておらず、根管治療も早い時期だったので、被覆が無かったことだけが原因とは言いにくい
・例数が少なく検出力が低いことも、有意差が出なかった一因かもしれない
・被覆が無いと、残った咬頭や修復物にかかる力が接着層に負担をかけるのかもしれない。ブラキシズムのある患者では、その力が大きいのかもしれない。被覆すると弱った咬頭への負担が減り、レジンが衝撃を和らげるのかもしれない(被覆したCRの小臼歯のほうが破折に強かったという実験室の研究も引用している)
・ほかの研究と比べるのは難しいが、全部被覆冠は歯髄を残す点で劣るように見える。根管治療したひびの歯の2年生存が85.5%という報告もあり、歯髄を残すことが長い目で見て歯の予後を良くするかもしれない
・直接法と間接法、咬頭を覆う必要性を比べる臨床研究がさらに必要で、この研究は被覆の必要性について完全には結論を出せていない
⑦明日の臨床へ
この研究から持ち帰れるのは、次のような読み方です(筆者の読み)。
・咬頭を覆った群では、7年で修復物の失敗が1本も無かった:ただし歯と歯髄の生存は有意差を検出しておらず、例数も少ないので、「覆えば根管治療や破折を防げる」とまでは言えない
・処置のあとも、しみる感じが長く残ることがある:6か月の検査で無症状は生活歯39本中21本、7年でも生活歯37本中7本は隣の歯よりしみた。説明と経過観察を前提にしたい
なお、この研究は全部被覆冠や根管治療と直接比べたものではありません。「冠より良い」とは言えず、歯科医院1か所・1人の術者の41本の成績です。ひびの歯を前にした時に、歯髄を残す直接CR修復という選択肢と、その時の咬頭の扱いを考える材料として持ち帰りたい一本です。
(2)群は症例ごとの交互の割り付けで、原著は無作為化と呼んでいますが、厳密な意味の無作為化とは異なります。ひびの位置や歯の種類は割り付けの条件に入っていません(歯種の内訳は2群で大きな偏りは無かったと著者らは書いています)。
(3)しみるかどうかは「ある・ない」で記録し、一部は電話の聞き取りでした。
(4)全部被覆冠・間接修復・根管治療と直接比べた研究ではありません。
(5)原著の中に小さな食い違いがあります(被覆の有無による失敗の P値が、抄録では0.009、結果では0.008。患者数は41人で、そのうち1人が2本と書かれていますが、歯の数は41本)。資金・利益相反の記載はありません。
「痛みのあるひびの歯でも、歯髄を残して直接CRで7年もたせられた例が多かった」という点で、臨床の選択肢を広げてくれる結果です。咬頭を覆うかどうかは、もっと大きな比較研究で確かめたいところです。
今日のひとこと
痛みのあるひびの歯を直接CR修復で治すと、7年で評価できた40本中37本が生活歯のままでした。咬頭を覆った群は修復物の失敗が0で、覆わなかった群(年間失敗率〈平均〉6.0%)と有意な差がありましたが、歯と歯髄の生存は有意差を検出していません。歯科医院1か所・41本の研究なので、「選んだ条件に合うひびの歯では、歯髄を残す直接CR修復が選択肢になり得る。咬頭を覆うかどうかは、まだ大きな研究で確かめたい」という程度に受け取るのが、この論文に合った読み方です。


