1問1答 論文 虫歯

リン酸エッチ後のエナメル質、ユニバーサル接着材はこすり塗りすべき?——牛の歯のエナメル質を使った実験室研究(各条件10本・24時間後の剪断接着強さ)で、リン酸エッチ後は4種中3種でこすり塗りの方がこすらず塗るより有意に低く、G-Premio Bond では有意差を認めなかった(Imai 2017)

1問1答 論文 カリオロジー

カリオロジー|牛の下顎の前歯の唇側エナメル質を平らに研磨し、ユニバーサル接着材4種を「35%リン酸15秒のエッチあり/なし」×「こすり塗り/こすらず塗る」の4条件で塗り、24時間水中保管後の剪断接着強さ(各条件10本)と表面自由エネルギーを比べた実験室研究(Imai・Takamizawa・Miyazaki ほか 2017・European Journal of Oral Sciences)

ユニバーサル接着材は、こすりながら塗る(アクティブ塗布)よう指示する製品が多くあります。では、リン酸でエッチングしたエナメル質にも、こすり塗りは良いのか。Imai らは2017年、牛の歯のエナメル質でこれを確かめました。リン酸エッチありでは、Scotchbond Universal・All-Bond Universal・Adhese Universal の3種で、こすり塗りの剪断接着強さの平均(38.9〜39.6 MPa)が、こすらず塗った場合(41.6〜42.9 MPa)より有意に低く、G-Premio Bond では有意差を認めませんでした。リン酸エッチなしでは、All-Bond Universal だけがこすり塗りで有意に高く、ほかの3種は有意差を認めませんでした。どの接着材・塗り方でも、リン酸エッチありの方が有意に高い値でした。ただし牛の歯を平らに研磨した面で、24時間後に1回測っただけの実験室の結果です。

論文
Influence of application method on surface free-energy and bond strength of universal adhesive systems to enamel
著者
Arisa Imai、Toshiki Takamizawa、Keiichi Sai、Akimasa Tsujimoto、Kie Nojiri、Hajime Endo、Wayne W. Barkmeier、Mark A. Latta、Masashi Miyazaki(日本大学歯学部 Department of Operative Dentistry、米国 Creighton 大学歯学部 Department of General Dentistry)
掲載
European Journal of Oral Sciences 2017;125(5):385-395(オンライン先行公開 2017年7月。図書館の写しはオンライン先行版で頁は1〜11)
種類
実験室研究(in vitro)。牛の下顎の前歯の唇側エナメル質を耐水ペーパー#400まで平らに研磨し、ユニバーサル接着材4種(Scotchbond Universal・All-Bond Universal・Adhese Universal・G-Premio Bond)を、35%リン酸15秒のエッチあり(トータルエッチ)/なし(セルフエッチ)と、マイクロブラシでこすり塗り(アクティブ)/こすらず塗る(インアクティブ)の組み合わせで塗った。塗る時間は製造者の指示どおり。レジン(直径2.4mm)を接着し、37℃の水に24時間置いてから剪断接着強さ(ISO 29022 のノッチ付きせん断試験)を測った(各条件10本)。表面自由エネルギーの測定(各条件10本)と電子顕微鏡の観察も行った。統計は、剪断接着強さが三元配置分散分析、表面自由エネルギーが一元配置分散分析で、多重比較はいずれも Tukey
資金・利益相反
日本学術振興会の科学研究費(26462896・16K11565・16K20465)、佐藤基金、日本大学歯学部 Dental Research Center の研究費。著者らは利益相反なしと記載
PMID
28749015

①リン酸エッチしたエナメル質にも、ユニバーサル接着材は「こすり塗り」?

ユニバーサル接着材の説明書には、「こすりながら塗る(アクティブ塗布)」と書かれた製品が多くあります。セレクティブエッチで、エナメル質にリン酸を当てたあと、そのまま象牙質と一緒にゴシゴシ塗っている——という場面も多いのではないでしょうか。では、リン酸でエッチングしたエナメル質にとって、こすり塗りは良いのか。

これを牛の歯のエナメル質で確かめたのが、日本大学の Imai・Takamizawa・Miyazaki らが2017年に European Journal of Oral Sciences に出した実験室研究です。

結論を先に書きます。
・牛の歯のエナメル質を平らに研磨し、ユニバーサル接着材4種を4つの条件で塗って、24時間後の剪断接着強さを比べた実験室研究(各条件10本)
・リン酸エッチあり:Scotchbond Universal・All-Bond Universal・Adhese Universal の3種で、こすり塗りの方がこすらず塗るより有意に低かった(平均38.9〜39.6 MPa 対 41.6〜42.9 MPa)。G-Premio Bond は有意差を認めなかった
・リン酸エッチなし:All-Bond Universal だけがこすり塗りで有意に高く、ほかの3種は有意差を認めなかった
・どの接着材・塗り方でも、リン酸エッチありの方が有意に高かった

②なぜこの研究が必要だったか

ユニバーサル接着材は、リン酸エッチあり(トータルエッチ)、エナメル質だけのエッチ(セレクティブエッチ)、エッチなし(セルフエッチ)のどれでも使えるのが特長です。ただ、セルフエッチで使うと酸が弱いためエナメル質への接着が劣るという報告があり、エナメル質にはリン酸エッチを併用することがすすめられてきた、と著者らは引用文献をもとに書いています。

一方、セルフエッチの接着材をこすり塗りすると、エッチングの模様がはっきりし、エナメル質への接着強さが上がったという報告もあります(引用された研究)。多くの製造者は、エナメル質にも象牙質にもこすり塗りを指示しています。ところが、リン酸エッチをした後のこすり塗りの影響については、情報が少なかった。そこで、エッチの有無と塗り方を組み合わせて比べたのが今回の研究です。

③何をどう比べたか

・歯:牛の下顎の前歯(抜去後、冷凍で2週間以内)。唇側のエナメル質を耐水ペーパーで平らにし、#400まで研磨した
・接着材:Scotchbond Universal(SU)、All-Bond Universal(AB)、Adhese Universal(AU)、G-Premio Bond(GP)の4種
・エッチ:35%リン酸を15秒当てて15秒水洗・乾燥(トータルエッチ)/リン酸なし(セルフエッチ)
・塗り方:マイクロブラシでこすりながら塗る(アクティブ)/こすらずに塗る(インアクティブ)。塗る時間は製造者の指示どおりで、SU と AU は20秒、AB は1層あたり10〜15秒、GP は10秒。そのあとエアーと光照射(10秒)
・測定:直径2.4mmのレジン(Clearfil AP-X)を接着し、37℃の水に24時間置いてから、剪断接着強さを測った(ISO 29022 のノッチ付きせん断試験)。各条件10本
・そのほか:はがれ方の分類、表面自由エネルギー(3種類の液の接触角から計算・各条件10本)、走査電子顕微鏡の観察
・統計:剪断接着強さは三元配置分散分析、表面自由エネルギーは一元配置分散分析で、多重比較はいずれも Tukey(有意水準5%)

なお、方法にこする力の強さの記載は無く、「こする動作で(with a rubbing motion)」とだけ書かれています。また原典の表2では、AU と GP の「こすらず塗る」の欄にも「こする動作で」と書かれていて、方法の本文と食い違います。この記事は方法の本文の群の定義(こすらず塗る=こする動作なし)に従いました。

④結果1:リン酸エッチ後は、3種でこすり塗りの方が有意に低かった

リン酸エッチありの8条件の剪断接着強さの平均を、接着材ごとに並べました(原著の表4。エッチなしの8条件は次の節の図)。

0 10 20 30 40 50 剪断接着強さの平均(MPa) 38.9 42.6 39.6 42.9 39.3 41.6 37.9 38.7 Scotchbond Universal All-Bond Universal Adhese Universal G-Premio Bond リン酸エッチあり・こすり塗り リン酸エッチあり・こすらず塗る 35%リン酸15秒のエッチあり。牛の歯のエナメル質を平らに研磨した面・各条件10本・24時間水中保管後。こすり塗りが有意に低かったのは Scotchbond・All-Bond・Adhese の3種で、G-Premio Bond は有意差を認めず
図1:リン酸エッチありの剪断接着強さの平均(MPa)。濃い棒=こすり塗り、淡い棒=こすらず塗る。牛の歯のエナメル質を平らに研磨した面・各条件10本・24時間水中保管後。

リン酸エッチありで、こすらず塗った場合の平均は38.7〜42.9 MPa、こすり塗りでは37.9〜39.6 MPaでした。SU(38.9 対 42.6)、AB(39.6 対 42.9)、AU(39.3 対 41.6)の3種は、こすり塗りの方が有意に低い値でした。GP は37.9 対 38.7で、わずかに低いものの有意差を認めませんでした。差の大きさ(こすらず塗る平均−こすり塗りの平均)は、有意差が出た3種で2.3〜3.7 MPaです(表4の平均から筆者が計算:SU 3.7、AB 3.3、AU 2.3)。

はがれ方は、どの条件でも接着界面ではがれる「接着破壊」がいちばん多く、混合破壊は、リン酸エッチありの SU・AB・AU でだけ見られました。

⑤結果2:リン酸エッチなしでは、有意差は1種だけ

0 10 20 30 40 50 剪断接着強さの平均(MPa) 28.9 28.3 29.9 26.5 28.1 27.7 28.5 28.6 Scotchbond Universal All-Bond Universal Adhese Universal G-Premio Bond リン酸エッチなし・こすり塗り リン酸エッチなし・こすらず塗る リン酸エッチなし(セルフエッチ)。条件は図1と同じ(各条件10本・24時間水中保管後)。こすり塗りで有意に高かったのは All-Bond Universal だけで、ほかの3種は有意差を認めず
図2:リン酸エッチなしの剪断接着強さの平均(MPa)。濃い棒=こすり塗り、淡い棒=こすらず塗る。牛の歯のエナメル質を平らに研磨した面・各条件10本・24時間水中保管後。

リン酸エッチなし(セルフエッチ)では、こすらず塗った場合の平均が26.5〜28.6 MPa、こすり塗りでは28.1〜29.9 MPaでした。こすり塗りで有意に高かったのは AB(29.9 対 26.5)だけで、ほかの3種では有意差を認めませんでした。

そして、どの接着材・塗り方でも、リン酸エッチありの方が有意に高い値でした(各8条件の平均の範囲で 37.9〜42.9 MPa 対 26.5〜29.9 MPa)。数字を表にまとめます。

表:エッチの有無と塗り方ごとの剪断接着強さ(MPa・平均±標準偏差) 接着材 あり・こすり あり・こすらず こすり塗りは なし・こすり なし・こすらず こすり塗りは SU 38.9±2.7 42.6±1.6 有意に低い 28.9±2.0 28.3±2.3 有意差を認めず AB 39.6±2.1 42.9±2.8 有意に低い 29.9±2.7 26.5±2.0 有意に高い AU 39.3±1.1 41.6±1.6 有意に低い 28.1±2.8 27.7±1.8 有意差を認めず GP 37.9±1.3 38.7±2.5 有意差を認めず 28.5±2.9 28.6±2.1 有意差を認めず あり/なし=35%リン酸15秒のエッチの有無。こすり=こすり塗り、こすらず=こすらず塗る。SU=Scotchbond Universal、AB=All-Bond Universal、AU=Adhese Universal、GP=G-Premio Bond。牛の歯のエナメル質を 平らに研磨した面・各条件10本・24時間水中保管後 「こすり塗りは」の列は、同じ接着材・同じエッチの条件での、こすり塗りをこすらず塗ると比べた結果(原著の 表4の大文字の記号から)。どの接着材・塗り方でも、エッチありの方がエッチなしより有意に高い エッチあり・こすらずでは、SU と AB が GP より有意に高い。それ以外の同じ列の接着材どうしには有意差を認め ない(表4の小文字の記号から)
表:エッチの有無と塗り方ごとの剪断接着強さ(MPa・平均±標準偏差)と、塗り方の比較の結果。原著の表4から。

統計の読み方を一つ補足します。三元配置分散分析では、エッチの有無は有意(P<0.001)でしたが、塗り方そのもの(P=0.083)と接着材の種類(P=0.107)は有意ではありませんでした。2つの因子の組み合わせ(交互作用)では、エッチの有無×塗り方と、エッチの有無×接着材が有意でした(接着材×塗り方と3因子の交互作用は有意ではない)。塗り方の影響はリン酸エッチをした時に強く出た、というのが著者らのまとめです。

⑥著者らの結論と、なぜ下がったのか(著者らの考察)

著者らは、リン酸エッチ後のこすり塗りは、調べたユニバーサル接着材のエナメル質への接着に悪い影響を与えた、と結論しています。

電子顕微鏡では、リン酸エッチ後にこすり塗りをすると、エナメル質のエッチングの凹凸(針状の構造)がつぶれたように見え、こすらず塗った方がレジンがよく入り込んでいる像でした。著者らは、マイクロブラシの力でエッチングの凹凸がつぶれたことが、接着強さが下がった原因かもしれないと推測しています。GP で有意差を認めなかった理由については、指示どおりの塗布が10秒と短く、こすっても凹凸を乱しにくかった可能性を挙げています。

表面自由エネルギーは、GP 以外の3種で、エッチの有無によらず、こすり塗りの方が有意に低い値でした。著者らは、こすり塗りが接着材の機能性モノマーと歯の成分(ハイドロキシアパタイト)の化学的な反応を促した結果と解釈していますが、化学反応そのものは測っていません。測った接着強さは24時間後だけで、セルフエッチでのこすり塗りが長期の耐久性に役立つかは、今後の研究が必要だと書いています。

⑦明日の臨床へ

この研究から持ち帰れるのは、次のような読み方です(筆者の読み)。

・リン酸エッチしたエナメル質では、強くこすらない塗り方も選択肢:この実験では、リン酸エッチ後に4種中3種でこすり塗りの方が有意に低かった(平均の差は2.3〜3.7 MPa・表4から筆者の計算)。ただし、その差が臨床で外れやすさにつながるかは調べていない
・エッチの有無による差は、塗り方による差より大きかった:どの接着材・塗り方でも、エッチありの方がエッチなしより有意に高かった(約38〜43 MPa 対 約27〜30 MPa)
・象牙質の話ではない:この研究はエナメル質だけを測った。象牙質でのこすり塗りや、セレクティブエッチで歯面全体をどう塗るかは、この研究からは決められない

使う製品ごとに塗る時間や手順が違うので、まずは手元の接着材の指示を確かめたうえで、エッチ後のエナメル質の部分を強くこすらないようにする、という程度の工夫から考えるのが無難です。

ここだけ、冷静に補助線(1)牛の歯のエナメル質を平らに研磨した面の実験です。人の歯の窩洞の、削った面や切縁のエナメル質とは条件が違います。
(2)24時間水中保管後に1回測っただけです。熱サイクルなどの長期の負荷はかけていません。
(3)こする力の強さは記載が無く、塗る時間も接着材ごとに違います。GP だけ有意差が出なかったのが、材料の性質によるのか、塗る時間が短いためかは分けられていません。
(4)各条件10本で、測ったのは剪断接着強さです。
(5)研究費は日本学術振興会の科学研究費などで、著者らは利益相反なしと記載しています。
製品の説明書どおりの「こすり塗り」が、エッチ後のエナメル質には逆効果かもしれない、という気づきをくれる面白い研究です。人の歯や長期の耐久性での続報と合わせて読みたいところです。

今日のひとこと

牛の歯のエナメル質を使ったこの実験では、リン酸エッチ後のエナメル質に、ユニバーサル接着材をこすり塗りすると、4種中3種でこすらず塗るより剪断接着強さの平均が有意に低く(差は2.3〜3.7 MPa・表4から筆者の計算)、G-Premio Bond では有意差を認めませんでした。リン酸エッチなしでは、こすり塗りで有意に高かったのは All-Bond Universal だけでした。平らに研磨した牛の歯で、24時間後に1回測った結果なので、「リン酸エッチしたエナメル質では、強くこすらない塗り方も選択肢になる」という程度に受け取り、象牙質や長期の耐久性は別の研究で確かめる、というのがこの論文に合った読み方です。

Imai A, Takamizawa T, Sai K, Tsujimoto A, Nojiri K, Endo H, Barkmeier WW, Latta MA, Miyazaki M. Influence of application method on surface free-energy and bond strength of universal adhesive systems to enamel. Eur J Oral Sci. 2017;125(5):385-395. doi: 10.1111/eos.12361. PMID: 28749015
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。