エンド|永久歯の根管治療を、1回の来院で終える群と2回以上に分ける群で比べたランダム化比較試験25本(登録3780人)を集め、抜歯・X線での失敗・術後の痛み・鎮痛薬の使用などをメタ分析したコクランの系統的レビュー(Manfredi・Figini・Gagliani・Lodi 2016・Cochrane Database of Systematic Reviews)
根管治療を1回で終えるか、貼薬をはさんで2回以上に分けるか。Manfredi らはコクランの系統的レビュー(2016年の更新版)で、ランダム化比較試験25本・登録3780人の結果をまとめました。1年以上後のX線での失敗はリスク比0.91(95%信頼区間0.68〜1.21)、根管充填後72時間以内の痛みはリスク比0.99(0.84〜1.17)で、どちらも差を示す根拠は見つかりませんでした。一方、鎮痛薬の使用は1回法で多く(リスク比2.35、1.60〜3.45)、1週間後の痛みも1回法で多い方向でした(リスク比1.50、0.99〜2.28・有意な差には届かず)。ただし元の試験の多くはバイアスのリスクが高いか不明で、エビデンスの確実性は「低い〜中等度」です。
①根管治療、1回で終える? 何回かに分ける?
根管治療を1回の来院で根管充填まで終えるか、貼薬をはさんで2回以上に分けるか。来院の回数は、患者さんの負担にも、チェアタイムの組み方にも直結します。「感染根管は貼薬して分けたほうが治りがよいのでは」「1回で終えると術後に痛みが出やすいのでは」と迷う場面は少なくありません。
この問いに、ランダム化比較試験(RCT)を集めて答えようとしたのが、Manfredi らによるコクランの系統的レビュー(2016年の更新版)です。
・永久歯の根管治療を、1回で終える群と2回以上に分ける群で比べたRCT 25本(登録3780人)を集めたコクランの系統的レビュー・メタ分析
・1年以上後のX線での失敗(根尖部の透過像):リスク比 0.91(95%信頼区間 0.68〜1.21・11試験)。差を示す根拠は見つからなかった(エビデンスの確実性は低い)
・根管充填後72時間以内の痛み:リスク比 0.99(0.84〜1.17・9試験)。差を示す根拠は見つからなかった(確実性は中等度)
・1週間後の痛み:リスク比 1.50(0.99〜2.28・8試験)。1回法で多い方向だが信頼区間が1をまたぎ、統計的に有意な差には届いていない(確実性は低い)
・鎮痛薬の使用:リスク比 2.35(1.60〜3.45・4試験)。1回法で多かった(確実性は中等度)
・著者らの結論:どちらかが優れているという根拠はなく、1回法の時間と手間の利点には、術後の遅い時期の痛み(と鎮痛薬の使用)が増える代償がありそう
②なぜこの研究が必要だったか
根管治療の目的は、根管の中の菌・感染した組織を取り除き、再び入らないようにすることです。そのための考え方は2つあると著者らは整理しています。1つは、器具と洗浄で減らしきれなかった菌を、来院の間に根管内に置く薬(現在は水酸化カルシウムが主流)で減らしてから充填する方法。もう1つは、1回で緊密に充填して、残った菌から栄養と増える場所を奪う方法です。
ただ、水酸化カルシウムでも根管が無菌になるとは限らず、充填前の培養が陰性でも治癒が保証されるわけではない、という報告もあります(著者らが引用した研究)。仮封が来院の間に漏れる心配もあります。どちらの進め方がよいかについて、個々の研究の結論は分かれていました。そこで、ランダム化比較試験をまとめて比べたのがこのレビューです(2007年版の更新)。
③何をどう比べたか
・研究の種類:コクランの系統的レビュー・メタ分析(Cochrane Database of Systematic Reviews 2016)。2016年6月14日までのデータベースと試験登録を、言語・年の制限なしで検索
・対象の研究:根管治療が必要な人(10歳以上・根尖が完成した永久歯)を対象にしたRCT・準RCT。外科的歯内療法は除く。採用は25試験・登録3780人
・比べたもの:根管治療を1回の来院で終える(1回法) vs 2回以上に分ける(複数回法)。複数回法の間に貼薬をしたかどうかは問わず、一緒に集計した(25試験のうち、貼薬なしが9試験、水酸化カルシウムが12試験、水酸化カルシウム+クロルヘキシジンが2試験、記載なしが2試験)
・評価したもの:主要な評価項目は、根管治療の問題による抜歯と、1年以上後のX線での失敗(根尖部に透過像があるかどうか)。ほかに、術後の痛み、腫れ・フレアアップ、鎮痛薬の使用、瘻孔、何らかの合併症(1か月以内の痛み・鎮痛薬・腫れのいずれか)
・まとめ方:ランダム効果モデルでリスク比(95%信頼区間)を計算し、エビデンスの確実性をGRADEで評価。失活歯・生活歯に分けた解析もした
痛みは、根管充填の後だけを比べています。複数回法の来院と来院の間の痛みは、1回法に比べる相手がないため含めていません。
なお原典の中には、記載の食い違いが少しあります。解析した人数は、抄録では3751人、結果の本文では3571人。抜歯の比 0.44 は、抄録と結果の本文では「オッズ比」、解析表と結果の要約表では「リスク比」と書かれています。生活歯のX線での失敗も、本文はリスク比 0.80(0.59〜1.07)、解析表の該当試験(Gesi 2006)は 1.19(0.40〜3.55)です。この記事では、食い違いのある値は主な主張に使っていません。
④結果:主な評価項目の全体像
結果の要約表(Summary of findings)の8項目を、すべて並べます。リスク比は「1回法 ÷ 複数回法」で、1より大きければ1回法で多い、1より小さければ1回法で少ない、という向きです。
・抜歯:調べたのは1試験だけで、1回法117人中1人・複数回法103人中2人。確実性は非常に低く、ここから何かを言うのは難しい
・X線での失敗:11試験・1493(本文では1467人の1493歯)。リスク比 0.91(0.68〜1.21)、異質性 I²=18%。追跡は1年〜5年。失活歯だけの8試験でもリスク比 0.82(0.55〜1.21)で、差を示す根拠は見つからなかった。2007年版で示唆された「失活歯では1回法が有利かもしれない」という結果は、試験が増えたこの更新では確かめられなかった、と著者らは書いています
・腫れ・フレアアップ(4試験・281人)、続く瘻孔(失活歯だけを対象にした2試験・345人)、何らかの合併症(1か月以内の痛み・鎮痛薬の使用・腫れのいずれか。10試験・1686人)も、差を示す根拠は見つからなかった
次の図は、同じ要約表の「1000人あたりの推定人数」です。複数回法の値は表が想定した発生数(想定リスク)、1回法の値はそれにリスク比を掛けた推定値で、どちらも原典の表の値です。
⑤痛みと鎮痛薬は、時期で見え方が変わる
術後の痛みは、時期によって結果が違いました。
・根管充填後72時間以内:9試験・1560人でリスク比 0.99(0.84〜1.17)。差を示す根拠は見つからなかった。痛みの強さを目盛(VAS)で測った4試験(414人)でも、差を示す根拠は見つからなかった
・1週間後:8試験・1383人でリスク比 1.50(0.99〜2.28)。1回法で多い方向ですが、信頼区間の下限が0.99で1をまたいでおり、統計的に有意な差には届いていません。試験の間のばらつきも大きく(I²=54%)、確実性は低いと評価されています
・鎮痛薬の使用:4試験・648人でリスク比 2.35(1.60〜3.45)。1回法で多く、試験の間のばらつきはありません(I²=0%)。確実性は中等度
・1か月後:調べた2試験では、どちらの群にも痛みが続いた人はいませんでした
著者らは、1回法では1回の処置時間が長くなって急性の炎症が強くなる可能性や、複数回法では来院の間の貼薬がよく働いた可能性を挙げています。ただし、これはこのレビューで確かめたことではなく、考察の中の推測です。
⑥明日の臨床へ
このレビューの範囲で言えるのは、「1回で終えても2回以上に分けても、X線での治り方や術後すぐの痛みに、差を示す根拠は見つからなかった」ということです。つまり、来院の回数は、治りやすさを理由に一律に決めるより、歯の状態・処置にかかる時間・患者さんの通いやすさなど、ほかの条件で選べる余地がある、という読み方になります。
一方で、1回法では鎮痛薬を使った人が多く、1週間後の痛みも多い方向でした(痛みの差は有意には届いていません)。1回法を選ぶ時は、「数日〜1週間ほど痛むことがあり、鎮痛薬を使うことがある」と前もって伝えておくと、患者さんとの行き違いを減らせそうです(ここは筆者の読みです)。どちらの進め方でも、術後の合併症をすべて防げるわけではない、と著者らも書いています。
⑦ここだけ補助線
・元の試験の質:25試験のうち、バイアスのリスクが低いと判定されたのは3試験だけで、14試験は高い、8試験は不明。ほとんどの項目で確実性は「低い〜中等度」です
・まとめ方の幅:複数回法の中に、貼薬あり・なしの試験が一緒に入っています。失活歯と生活歯の両方を含み、フレアアップの定義や痛みの測り方も試験ごとに違います。鎮痛薬の結果は、重みの約65%が1978年の1試験(Soltanoff)によるものです
・当てはめられる範囲:多くは大学病院・大学の診療室で行われ、開業医で行われたのは1試験。対象は10歳以上の健康な人で、免疫の落ちた人・持病のある人・高齢者は入っていません。ラバーダムの使用を記載していない試験も11本ありました
著者らは、ニッケルチタンの回転器具を使った質の高いRCTと、抜歯(歯を失うこと)を主要な評価項目にした研究を今後に求めています。「1回か複数回か」を考えるときの土台として、続く研究とあわせて読みたい1本です。
今日のひとこと
このコクランの系統的レビューでは、根管治療を1回で終えても2回以上に分けても、X線での失敗と充填後72時間以内の痛みに差を示す根拠は見つからず、鎮痛薬の使用は1回法で多かった(1週間後の痛みも1回法で多い方向だが、有意な差には届かない)。元の試験の多くはバイアスのリスクが高いか不明で、確実性は「低い〜中等度」です。「治りやすさで来院回数を決める根拠は乏しい。1回法では術後の痛みと鎮痛薬について前もって伝える」というのが、この論文に合った読み方です。


