エンド|新品のガッタパーチャポイント72本(ISO 80号)を9つの条件に8本ずつ分け、次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)に1分浸けたあとの表面を走査型電子顕微鏡と元素分析装置で観察した実験室研究(Short・Dorn・Kuttler 2003・Journal of Endodontics)。歯や患者は使っていない。統計解析は行われていない
ガッタパーチャポイントを次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)に浸けたあと、「結晶が付くからアルコールですすぐ」と教わった方は多いと思います。Shortらは2003年、新品のポイント72本を使って、これを走査型電子顕微鏡と元素分析装置で確かめました。箱から出したままの8本に結晶は見られず、5.25%または2.5%のNaOClに1分浸けて30分自然乾燥させたポイントは各8本すべてに結晶が見られました。浸けたあとに96%エチルアルコール、70%イソプロピルアルコール、蒸留水のどれかですすぎ、自然乾燥(アルコールは15分、蒸留水は30分)させたポイントでは、各8本とも結晶は見られませんでした。材料だけを観察した実験室研究で、統計解析は行われていません。結晶が根管充填の封鎖や治療の成績に影響するかは、この論文では調べていません。
①NaOClに1分浸けたガッタパーチャポイント、結晶は付く? すすげば落ちる?
根管充填の直前、ガッタパーチャポイントを次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)に浸けてから使う。そのあと、アルコールでひと拭きするか、そのまま使うか。「結晶が付くからアルコールですすぐ」と教わったけれど、本当に結晶は付くのか、アルコールでなければ落ちないのか、と思ったことはないでしょうか。
Shortらは2003年、新品のガッタパーチャポイント72本を使い、NaOClに1分浸けたあとの表面を走査型電子顕微鏡(SEM)と元素分析装置(EAM)で観察しました。歯や患者を使わない、材料だけの実験室研究です。
・箱から出したままのポイント8本には、結晶は見られなかった
・5.25%または2.5%のNaOClに1分浸け、すすがずに30分自然乾燥させたポイントは、各8本すべてに結晶が見られた
・浸けたあと、96%エチルアルコール、70%イソプロピルアルコール、蒸留水のどれかですすぎ、自然乾燥(アルコールは15分、蒸留水は30分)させたポイントは、各8本とも結晶が見られなかった(5.25%と2.5%のどちらに1分浸けた場合も)
・統計解析は行われていない
・著者らの結論は「これらの液で結晶を取り除けたので、迅速滅菌法のあとに使うことは有益」。結晶が臨床的に意味をもつか、根管充填の封鎖に影響するかは、今後の研究が必要としている
②なぜこの実験が必要だったか
著者らは序論で次のように整理しています。ガッタパーチャポイントは、密封された包装から取り出したものでも、診療室の環境にさらされると、さまざまな微生物で汚染されていたと報告されている。一方で、この材料は湿熱でも乾熱でも滅菌できない。そこで臨床では薬液による方法が使われてきた、という流れです。
なかでも著者らが取り上げたのが、Seniaらが提案した「迅速滅菌法(rapid-sterilization technique)」です。希釈しない5.25%のNaOClにポイントを1分浸ける方法で、著者らはこれを、効率がよく、信頼でき、手軽で安価な方法として紹介しています。
ただ、気になる記述がありました。著者らが引いた成書(Pathways of the Pulp 第7版のSpångbergの章)は、この方法のあと、結晶化した次亜塩素酸ナトリウムを取り除くためにエチルアルコールですすぐことを勧めていました。あわせて、ポイント上の結晶は根管充填の封鎖を損なう、という指摘もあったと著者らは書いています。ところが著者らによれば、ポイントに本当に結晶ができることを裏づける対照実験のデータは乏しく、アルコールで結晶が取り除けることも、対照実験では示されていませんでした。ここまでは、著者らが序論で述べた先行文献の整理です。
そこでこの研究は、(a)結晶があるかどうか、(b)ポイントの上で結晶化が起きるか、(c)アルコールで取り除けるか、の3つを確かめようとしました。
③実験の組み立て:72本を9つの条件に8本ずつ
使われたのは、新しい箱から無作為に選んだ規格のガッタパーチャポイント72本(ISO 80号)です。これを8本ずつ、9つの条件に分けました。
・対照:箱から出したまま観察
・浸けるだけ(2条件):5.25%または2.5%のNaOClに1分浸け、滅菌ガーゼに移して30分自然乾燥
・96%エチルアルコールですすぐ(2条件):5.25%または2.5%に1分浸けたあと、滅菌ガーゼの上で1本ずつ1mLですすぎ、15分自然乾燥
・70%イソプロピルアルコールですすぐ(2条件):同じく1本ずつ1mLですすぎ、15分自然乾燥
・蒸留水ですすぐ(2条件):5.25%または2.5%に1分浸けたあと、滅菌ガーゼの上で1本ずつすすぎ、30分自然乾燥(蒸留水の量は書かれていない)
NaOClに浸けたポイントは、1本ずつアルミニウムの台に載せ、パラジウムでコーティングしてから、SEMで表面を観察し、EAMで元素を調べています。対照の8本も、SEMとEAMで調べています。結果は、1本ごとに「結晶あり」か「結晶なし」かで記録されました(原著の表1)。
ポイントとは別に、著者らは5.25%と2.5%のNaOClを1mLずつろ紙にたらし、30分自然乾燥させたものも観察しています。この2つの濃度のNaOClから結晶ができるかを見るためです。
④結果:浸けて乾かしただけの16本すべてに結晶、すすいで乾かした48本には見られなかった
・ろ紙:5.25%でも2.5%でも、立方体の形をした塩化物の結晶が見られ、EAMでも塩化物が高く記録された。結晶の大きさ・位置・量はさまざまだった
・箱から出したままのポイント(8本):結晶は見られなかった。EAMでは亜鉛とバリウムが記録された
・5.25%に1分浸け、すすがずに30分自然乾燥させたポイント(8本):8本すべてに結晶
・2.5%に1分浸け、すすがずに30分自然乾燥させたポイント(8本):8本すべてに結晶
・1分浸けたあと96%エチルアルコールですすぎ、15分自然乾燥させたポイント(各濃度8本):結晶なし
・1分浸けたあと70%イソプロピルアルコールですすぎ、15分自然乾燥させたポイント(各濃度8本):結晶なし
・1分浸けたあと蒸留水ですすぎ、30分自然乾燥させたポイント(各濃度8本):結晶なし
・すべての結果はEAMでも確かめられた、と書かれている
浸けて乾かしただけのポイントでは、結晶の大きさ・位置・量はポイントによってさまざまでした。著者らは、2.5%のほうが5.25%より結晶が小さく、数も少ないように見えた、と書いています。ただしこれは観察したときの印象で、大きさや数を測った結果ではありません。
この論文では、結晶の向き・位置・大きさがばらばらだったため、統計解析はできなかったと著者ら自身が述べています。つまり、示されているのは「各条件8本のうち何本に結晶が見られたか」という記述的な結果です。
なお、結晶の呼び方は原著の中でそろっていません。表題と抄録では「次亜塩素酸ナトリウムの結晶」「塩化ナトリウムの結晶」、本文と表では「塩化物の結晶(chloride crystals)」と書かれています。この記事では、本文と表の表記に合わせて「結晶」「塩化物の結晶」と書きます。
⑤結果の読み方(著者らの考察)
・ガッタパーチャの滅菌後にできる塩化物の結晶については懸念があったが、実際に結晶ができるかを示した研究データはなかった
・この研究は、5.25%と2.5%のNaOClを使ったあとに結晶があることの根拠を示した
・96%エチルアルコール、70%イソプロピルアルコール、そして蒸留水でも、結晶は取り除かれた
・EAMは、ポイント上の元素を見るうえで役に立った。箱から出したままのポイントで目立ったのは亜鉛とバリウムだった
なぜ結晶ができるのか、なぜ水でも落ちるのか、という仕組みについて、原著は説明していません。この記事でも、そこは補いません。
⑥明日の臨床へ
・96%エチルアルコール、70%イソプロピルアルコール、蒸留水は、ガッタパーチャ上にできた塩化物の結晶を取り除けたので、迅速滅菌法のあとにこれらを使うことは有益
・結晶が臨床的に意味をもつか、根管充填の封鎖に影響するかは、さらに研究が必要
・NaOClに浸けたポイントをそのまま乾かすと、この実験の条件では表面に結晶が見られました。浸けたあとにひとすすぎを入れるかどうかを考える材料になります
・すすぎの液は、96%エチルアルコールと70%イソプロピルアルコールだけでなく蒸留水でも、すすいで自然乾燥させたあとのポイントに、この実験では結晶が見られませんでした。「アルコールでなければ落ちない」という結果ではありません
・この実験のすすぎは「滅菌ガーゼの上で、1本ずつ」行われています。アルコールは1mLですが、蒸留水の量は書かれていません
・結晶が観察されたのは、浸けたあと30分自然乾燥させたポイントです。浸けてすぐ、乾かさずに使った場合に結晶があるかどうかは、この論文では調べていません。すすいだ直後の表面も観察していません(観察は、アルコールが15分、蒸留水が30分の自然乾燥のあと)
・すすいだあとのポイントが無菌のままかどうか、NaOClに1分浸けることでどれだけ殺菌できたかは、この論文では調べていません。殺菌の効果は、著者らが引いた先行研究の話です
・結晶が根管充填の封鎖や治療の成績に影響するかは、この論文では調べていません。「すすげば封鎖がよくなる」「すすがないと成績が落ちる」と読むことはできません
(1)材料だけを観察した実験室研究です。歯も根管も患者も使っていません。封鎖性、殺菌の効果、治療の成績は測っていません。
(2)各条件8本で、統計解析は行われていません。記録は「結晶あり・なし」の判定で、結晶の量は測っていません。2.5%のほうが小さく少なく見えた、というのも著者らの印象です。
(3)ポイントは1社の製品のISO 80号だけです。ほかの製品やほかのサイズで同じになるかは、この論文からは分かりません。
(4)結晶が観察されたのは30分自然乾燥させたあとです。すすいだ条件の乾燥時間は、アルコールが15分、蒸留水が30分で、そろっていません。
(5)抄録には「各ポイントを迅速滅菌の前後で観察した」とありますが、方法の本文では、箱から出したままの8本を対照として別に観察しています。この記事は方法の本文と表1に合わせました。
(6)資金と利益相反についての記載は、入手した原著PDFにはありません。
それでも、日常の何気ない一手間に、顕微鏡で見える根拠を1つ足してくれた研究です。結晶が封鎖に影響するのかどうか、著者らが課題として残した続きの研究も読んでみたくなる1本です。
今日のひとこと
この実験が示したのは、新品のガッタパーチャポイント(ISO 80号)を5.25%または2.5%の次亜塩素酸ナトリウムに1分浸けて30分自然乾燥させたものでは、各8本すべての表面に結晶が見られ、浸けたあとに96%エチルアルコール・70%イソプロピルアルコール・蒸留水のどれかですすいで自然乾燥(アルコールは15分、蒸留水は30分)させたポイントでは、各8本とも結晶が見られなかったということです。走査型電子顕微鏡と元素分析装置による、材料だけの観察で、統計解析は行われていません。著者らは、これらの液ですすぐことは有益だと述べつつ、結晶が臨床的に意味をもつか、根管充填の封鎖に影響するかは今後の研究が必要としています。封鎖、殺菌の効果、治療の成績は、この論文では調べていません。


