Plasmans 1996|絶対湿度と接着強さ
歯面を整えても、周囲の空気まで同じとは限りません。1種類の接着材を調べた実験室研究から、接着時の「絶対湿度」という視点を読み解きます。
歯面の水分だけ見ていませんか?
象牙質接着では、歯面をどう乾燥させるかが気になります。一方、接着操作を行う空気にも水蒸気があります。歯面の水分と、空気中の水分は同じ指標ではありません。
Plasmansらは、同じ接着材・同じ手順で行った7つの実験をまとめ、空気の絶対湿度と象牙質の接着強さを検討しました。高い絶対湿度の条件では、接着強さが低いという関係が見られました。
湿度%だけでは、空気の水分量が分からない
相対湿度は、その温度で空気が含める最大の水蒸気量に対する割合です。温度が変われば、同じ湿度%でも実際の水蒸気量は変わります。絶対湿度は、空気1m³に含まれる水蒸気の質量で、単位はg/m³です。
この論文は、温度と相対湿度から絶対湿度を計算し、比較の軸にしています。接着強さの違いを考えるとき、実験環境まで記録する必要がある、というのが中心の問いです。
1接着材・7実験を、同じ方法で比較
修復されていないヒト大臼歯を使い、咬合面を削って浅層〜中層の象牙質を露出しました。各実験は10試料。材料は3M Scotchbond Multi-Purposeの2バッチと、コンポジットレジンZ100です。
温度23〜37℃、相対湿度30〜95%の条件で接着しました。実験1・2は室内環境、実験3〜7は温湿度を調節したチャンバー内です。接着後は37℃の水中で23時間保存し、その後1時間かけて試験環境に合わせ、ワイヤーループ法でせん断接着強さを測定しました。
全7実験の結果を見る
| 実験 | 温度℃ | 相対湿度% | 絶対湿度g/m³ | 平均接着強さ±SD(MPa) | バッチ |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 23 | 30 | 6.17 | 27.8±8.5 | 2AC |
| 2 | 25 | 40 | 9.22 | 23.6±8.5 | 2AB |
| 3 | 25 | 76 | 17.52 | 19.6±5.4 | 2AC |
| 4 | 27 | 95 | 24.49 | 19.7±3.3 | 2AC |
| 5 | 35 | 95 | 37.65 | 13.7±3.0 | 2AC |
| 6 | 35 | 95 | 37.65 | 12.1±4.3 | 2AB |
| 7 | 37 | 95 | 41.76 | 12.8±1.4 | 2AC |
絶対湿度6.17g/m³の条件では平均27.8MPa、41.76g/m³では12.8MPaでした。ただし、これは温度と湿度が異なる実験条件の比較です。「口腔内の湿気だけで、すべての接着材が半分になる」ことを示す数字ではありません。
著者の回帰式は「接着強さ=28.4−0.398×絶対湿度」です。本文は相関係数をr=0.97と記載していますが、図1と式が示す関係の方向は負です。この式は今回の接着材・実験条件を記述したもので、現在の製品や個々の患者の接着強さを予測する道具ではありません。
何が起きたかは、まだ切り分けていない
著者は、空気中の水分が増えると象牙質表面へ吸着する水が増え、接着を妨げた可能性を挙げています。ただしこれは著者の仮説です。象牙質とプライマー、プライマーと接着材など、どの段階に影響したかを調べた実験ではありません。
段階的重回帰では温度の有意な影響を検出せず、絶対湿度だけを用いた関係を示しました。これは温度が一般に無関係という証明ではありません。
明日の臨床へ:環境も接着操作の一部として考える
この研究が与える視点は、歯面の乾燥だけでなく、接着操作を行う環境も意識することです。製品ごとに適した歯面の状態や使用手順を守り、研究結果を読むときは温湿度条件も確認すると、数値を比較しやすくなります。
著者は考察でラバーダムについて論じていますが、今回の7実験でラバーダム装着の有無を直接比較したわけではありません。したがって、この論文からラバーダムの具体的な効果量や修復物の寿命は出せません。
1996年の1種類の象牙質接着材を扱った実験室研究です。著者も、市販製品全般を代表しないと明記しています。著者の所属には3M関連施設も含まれます。現在の接着材、エナメル質、患者での長期予後へはそのまま広げず、環境条件を考えるための基礎研究として読むと役立ちます。
今日のひとこと
接着材の評価では、歯面の状態だけでなく、操作した空気の温度と水分量も確認する。


