エンド|米国ウィスコンシン州の歯科保険(Delta Dental of Wisconsin)の2000〜2013年の請求データから、初回の根管治療のあとにコア(またはポストとコア)とクラウンが入った160,040件を拾い、次の段階までの日数と、再根管治療・根尖切除・抜歯との関係を多変量のCox比例ハザードモデルで調べた後ろ向きの観察研究(Yee・Bhagavatula・Stover・Eichmiller・Hashimoto・MacDonald・Barkley 2018・Journal of Endodontics)
根管充填のあと、築造とクラウンまでにどのくらい間があいてよいのか。Yeeらは、米国の歯科保険の請求データから、初回の根管治療のあとにコア・ポストとクラウンが入った160,040件を調べました。0〜14日で次の段階に進んだ歯を基準にすると、根管治療からコア・ポストまでが60日以上の歯は調整ハザード比1.08、コア・ポストからクラウンまでが60日以上の歯は1.14で、再根管治療・根尖切除・抜歯がやや多くなっていました。15〜59日の歯は、原著の本文では有意差なしとされています(表2のP値の1か所は本文と食い違っています)。ただしこれは請求記録だけを使った観察研究で、なぜ遅れたのかも、歯の状態も分かりません。差も小さく、「遅らせると歯がだめになる」とまで言える研究ではない、という読み方になります。
①根管治療のあと、コアとクラウンはいつまでに入れる?
根管充填が終わった歯。「仮封のまま長く置かないで、早めに築造して、早めにクラウンを」と習った方は多いと思います。けれども、患者さんの都合や症状の様子見で、次の予約が1か月、2か月と空いてしまうことは珍しくありません。では、その「空いた期間」は、その後の歯の経過とどのくらい関係しているのでしょうか。
Yeeらは、米国ウィスコンシン州の歯科保険(Delta Dental of Wisconsin)の請求データを使って、根管治療からコア・ポストまで、コア・ポストからクラウンまでの日数と、その後の「望ましくない出来事(再根管治療・根尖切除・抜歯)」との関係を調べました。
・対象は、初回の根管治療のあとにコア(またはポストとコア)とクラウンが入った160,040件
・全体の生存率(生存解析による推定値。再根管治療・根尖切除・抜歯が請求されていない割合)は、1年99.1%、3年96.0%、5年92.3%、10年83.8%
・根管治療からコア・ポストまでが60日以上の歯は、0〜14日の歯に比べて、調整ハザード比1.08(95%信頼区間1.02〜1.15)
・コア・ポストからクラウンまでが60日以上の歯は、0〜14日の歯に比べて、調整ハザード比1.14(95%信頼区間1.08〜1.21)
・15〜59日の歯は、0〜14日の歯と比べて、原著の本文では「統計的に有意な差はない」とされている(表2のP値の1か所は本文と食い違う。終盤の補助線を参照)
・保険の請求記録だけを使った観察研究で、遅れた理由も、歯の状態も分からない。著者ら自身が「成功を多めに見積もっている可能性がある」と書いている
ハザード比は「何倍なりやすいか」をそのまま表す数字ではありません。1.08や1.14は、1(差なし)に近い小さな差です。
②なぜこの研究が必要だったか
著者らは序論で、根管治療の最終段階は永久修復だと考えることができる、と書いています。う蝕、髄腔開拡、破折、以前の修復で歯冠が失われると、歯は咬む力に耐えにくくなります。
序論に引かれた先行研究では、クラウンで修復した根管治療歯の10年生存が81%、直接修復では63%という報告や、歯科保険のデータで抜歯になった根管治療歯の85%に全部被覆の修復が入っていなかったという報告が挙げられています。また、歯学部の診療室のデータでは、根管治療から4か月を超えてクラウンが入った歯は、4か月以内の歯より抜歯されやすかった、という報告もありました。ここまでは、著者らが引いた別の研究の話です。
著者らによれば、開業医で診るような患者さんの集団で、この「期間」を調べた最近の研究はありませんでした。そこで、民間の歯科保険に入っている人たちの、長期で大規模な請求データを使った、というのがこの研究の位置づけです。
③研究の組み立て:保険の請求記録から16万件を拾った
・Delta Dental of Wisconsin の請求記録と加入記録。2000年1月1日〜2013年12月31日の13,329,249件の受診
・このうち初回の根管治療は476,479件
・そこから、根管治療・コア(またはポストとコア)・クラウンの3つがそろっている160,040件にしぼった(保険に続けて加入している期間が終わるまで、または望ましくない出来事が起きるまでに、3つがそろったもの)
・望ましくない出来事=再根管治療・根尖切除・抜歯。保険請求の処置コードで拾っている
・出来事が請求されるか、保険の加入が途切れるまでは「うまくいっている」と数える
・期間は、根管治療→コア・ポスト、コア・ポスト→クラウンのそれぞれを、0〜14日/15〜59日/60日以上の3つに分けた
・多変量のCox比例ハザードモデルで、歯種、コア・ポストの材料、クラウンの材料、根管治療をした術者、コア・ポストを入れた術者、年齢、2つの期間を一緒に入れて、調整ハザード比を出した
抄録によると、生存は「クラウンを入れた時点から、望ましくない出来事まで」で数えています。X線写真や診査の記録は使っていません。分かるのは、「保険に続けて加入している間、その歯に再根管治療・根尖切除・抜歯の請求が出ていない」ことまでです。
対象の内訳は、大臼歯55.4%、小臼歯31.4%、前歯13.2%。根管治療時の年齢は平均44.6歳(標準偏差13.4)。根管治療をしたのは、歯内療法専門医が29.4%、それ以外の歯科医師が70.6%でした。
④結果(1):遅れた歯は「やや」多く、15〜59日では差が見えない
まず、実際にどのくらいの期間が空いていたかです。
・根管治療→コア・ポスト:0〜14日 51.7%(82,780件)、15〜59日 30.2%(48,387件)、60日以上 18.0%(28,873件)。平均66.6日、中央値14.0日
・コア・ポスト→クラウン:0〜14日 50.9%(81,474件)、15〜59日 21.7%(34,658件)、60日以上 27.4%(43,908件)。平均160.5日、中央値14.0日
・根管治療→クラウンの通算:平均227.1日、中央値49.0日
半分は2週間以内に次の段階へ進んでいます。一方で、クラウンが60日以上あとになった歯が4件に1件以上ありました。平均が中央値よりずっと大きいのは、何年も空いた歯が含まれているためです(最大は4,000日を超えています)。
・根管治療→コア・ポスト
15〜59日:0.96(95%信頼区間0.91〜1.01)
60日以上:1.08(95%信頼区間1.02〜1.15、P=.010)
・コア・ポスト→クラウン
15〜59日:0.98(95%信頼区間0.92〜1.04、P=.463)
60日以上:1.14(95%信頼区間1.08〜1.21、P<.001)
60日以上あいた歯では、どちらの期間でも、望ましくない出来事がやや多くなっていました。15〜59日の歯については、著者らは本文で「0〜14日と統計的に有意な差はなかった」と書いています。
ただし、差の大きさには注意が要ります。調整ハザード比は1.08と1.14。信頼区間の下の端は1.02と1.08で、1に近いところにあります。原著には、期間の区分ごとの生存率や出来事の件数は書かれていません。そのため、「60日以上あくと10年後に何%下がるのか」という数字は、この論文からは出せません。生存曲線の図(調整前)では、3つの区分の線はかなり近いところを走っています。
⑤結果(2):全体の生存率と、期間のほかの要因
コアとクラウンまで入った歯の全体では、クラウンを入れてから10年の時点の推定生存率は83.8%でした。全員を10年追って数えた割合ではなく、保険の加入が途切れた人を途中で打ち切りとして扱う、生存解析による推定値です。
・歯種:小臼歯 対 大臼歯 0.70(0.66〜0.74)、前歯 対 大臼歯 0.90(0.84〜0.96)
・コア・ポストの材料(いずれもアマルガム・金属インレーのコアが基準):コアの築造 0.99(0.90〜1.09)、レジンの直接築造 1.16(1.03〜1.29)、間接法のポストとコア 1.14(1.00〜1.29)、既製のポストとコア 1.02(0.92〜1.13)
・クラウンの材料:非金属 対 金属 1.16(1.09〜1.24)、既製ステンレス冠 対 金属 2.44(1.90〜3.14。ステンレス冠は634本・0.4%だけ)
・根管治療の術者:歯内療法専門医以外 対 専門医 1.43(1.35〜1.51)
・コア・ポストを入れた術者:歯内療法専門医以外 対 専門医 1.00(0.81〜1.24)
・年齢(0〜17歳が基準):18〜35歳 1.08(0.91〜1.29)、36〜53歳 1.41(1.20〜1.67)、54〜71歳 1.81(1.52〜2.14)、71歳以上 2.14(1.70〜2.68)
信頼区間が1をまたいでいる行(コアの築造、既製のポストとコア、コア・ポストを入れた術者、18〜35歳)もあります。数字の大きさだけを並べると、この研究の中では、期間(1.08と1.14)よりも、根管治療の術者(1.43)や36歳以上の年齢の方が、出来事との関係は大きく出ています。ここでいう「金属」のクラウンには陶材焼付金属冠も含まれます。これらも請求データ上の関連で、原因を確かめたものではありません。
⑥遅れた歯で出来事が多かった理由を、著者らはどう考えたか
・コア・ポストが遅れた歯で出来事が多いのは、仮封からの細菌の漏れで説明できるかもしれない。先行研究では、リポ多糖が3週間以内に仮封を通り抜け、強化型酸化亜鉛ユージノールセメントは10日以内、水硬性の仮封材(キャビット)は2週間以内に漏れた、と報告されている
・一方で、きちんと形成・充填された根管は3か月まで細菌の侵入に耐える、という報告もある
・クラウンが遅れた歯で出来事が多いのは、咬頭を覆っていない間に、咬む力・ブラキシズムなどの習癖・外傷で、修復できない形の破折が起きやすくなるためかもしれない
漏洩の話は、実験室の研究や組織学の報告を引いたものです。この研究のデータには、仮封の材料も、破折の有無も、抜歯の理由も入っていません。「漏洩で悪くなった」「破折で抜歯になった」と、このデータで確かめられたわけではありません。
⑦明日の臨床へ
・初回の根管治療の長期の生存率は、コア・ポストとクラウンを入れる時期に影響される(本文の結論)
・コア・ポストは根管治療から60日以内、クラウンはコア・ポストから60日以内に入れた方が、長期の生存率は有意に高い(冒頭の「この研究の意義」の欄)
・ただし請求データに頼っているので、成功を多めに見積もっている可能性がある
・「根管治療から築造までを2か月以内に、築造からクラウンまでも2か月以内に」と、それぞれの期間を予約の目安にする段取りは、この研究の数字とは矛盾しません。原著が調べたのは、この2つの別々の期間です。通算で2か月という意味ではありません
・ただ、差は小さく(1.08と1.14)、遅れた理由も分かりません。症状が残って様子を見た歯や、もともと予後に迷いがあった歯ほど、遅れやすかったのかもしれません。「遅らせたから悪くなった」とまでは、この研究からは言えません
・「2週間以内でないといけない」とも言えません。15〜59日の歯は、0〜14日の歯と差が見えていません
・この研究に入っているのは、最終的にコアもクラウンも入った歯だけです。クラウンを入れる前に失われた歯や、クラウンを入れなかった歯のことは、この研究からは分かりません
・手間や費用の面では、新しい道具は要りません。変えるとすれば、根管充填の日に次の2回分の予約まで決めてしまう、といった段取りの話になります
(1)保険の請求記録だけを使った後ろ向きの観察研究です。X線写真も診査の記録もなく、成功(治っている)と生存(歯が残っている)を分けられません。著者らも、コードの付け間違い、請求の出し忘れ、保険の外での処置は拾えないので、「成功を多めに見積もっている可能性が高い」と書いています。
(2)遅れた理由が分かりません。術前の診断、根尖病変の有無、残った歯質、症状、費用の事情などは、モデルに入っていません。期間と出来事の関連は、因果関係とは限りません。
(3)対象は、コアとクラウンの両方が入った歯だけです。抄録によれば、生存はクラウンを入れた時点から数えています。クラウンの前に失われた歯は、はじめから入っていません(この点の読みは筆者によるものです)。
(4)差は小さめです。調整ハザード比は1.08と1.14。期間の区分ごとの生存率や出来事の件数は、原著に載っていません。
(5)原著の中に、数字や書き方の食い違いがあります。
・表2で、根管治療→コア・ポストの15〜59日は0.96(95%信頼区間0.91〜1.01)ですが、P値は「<.001」と書かれています。信頼区間は1をまたいでいて、本文も「有意差なし」としているので、P値の欄の誤記と思われます(筆者の推測)。この記事ではP値を載せず、本文の書き方を採りました。
・区切りは、表では「60日以上」、本文と抄録では「60日を超えて」と書かれています。
・本文には「間接法のポストは既製ポストより失敗の危険が高い(調整ハザード比1.11)」とあります。表2にあるのは、アマルガム・金属インレーのコアを基準にした、間接法のポストとコア1.14、既製のポストとコア1.02で、比べる相手が違います。間接法と既製を直接比べた1.11は、信頼区間もP値も表2に載っておらず、表からは確かめられません。
・考察には「前歯の失敗率が最も高く、次いで大臼歯、小臼歯」とあります。一方、ほかの条件を調整した表2では、前歯 対 大臼歯が0.90で、向きが逆です。調整する前の歯種ごとの失敗率は原著に示されていないので、この違いは説明できません。
・36〜53歳の件数は、本文では73,965、表1では73,975です。
(6)民間の歯科保険に入っている米国の人たちのデータです。著者らも、この集団についてだけ読むべきだと書いています。日本の保険診療にそのまま当てはまるとは限りません。
著者らは「この研究に関する利益相反はない」と書いています。資金の提供元についての記載は、入手した原著PDFの中に見当たりません。データを提供したのはDelta Dental of Wisconsinで、著者の1人はその所属です。
それでも、「根管治療が終わったあとの段取り」を16万件の規模で数字にした研究は多くありません。遅れた理由まで記録した前向きの研究が続けば、「いつまでに」がもっとはっきりするはずです。続報が楽しみな1本です。
今日のひとこと
この研究が示したのは、コアとクラウンまで入った根管治療歯160,040件の請求データで、次の段階までが60日以上あいた歯は、0〜14日の歯に比べて、再根管治療・根尖切除・抜歯がやや多かった(調整ハザード比は、コア・ポストまでが1.08、クラウンまでが1.14)ということです。15〜59日の歯は、原著の本文では有意差なしとされています(表2のP値の1か所は本文と食い違っています)。全体の推定生存率は、クラウンを入れてから10年で83.8%でした。ただし請求記録だけの観察研究で、遅れた理由や歯の状態は分からず、期間ごとの生存率も示されていません。著者ら自身、成功を多めに見積もっている可能性があると書いています。言えるのは、「根管治療から築造まで、築造からクラウンまでを、それぞれ2か月以内に」という段取りが、この数字とは矛盾しない、というところまでです。


